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第190話

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 ヨシナリ達がそれに気が付いたのはマルメルと二人で共同ミッションをいくつかこなして一息ついた時だった。 
 運営からのお知らせが届いていたので何だと開いてみると次のイベントについてだったのだが――

 「ここの運営どうなってるんだ? 知らせるの早い時は滅茶苦茶早いな」
 「心臓に良くないサプライズだなぁ……」

 マルメルの言葉にヨシナリは同感だと言いながらお知らせの内容へと目を通す。
 サーバー対抗戦。 文字通りサーバー単位での対抗戦となる。
 今回はこの日本エリアの全員で他所のエリアとぶつかる事になるだろう。

 「そういえば他所のエリアについてあんまり詳しくないんだけどどんな感じなんだ?」
 「どんな感じって?」
 「ほら強さとか、数とか」
 
 マルメルの質問にヨシナリはうーんと首を捻る。 
 実際、外のエリアについてはヨシナリもあまり詳しくなかった。
 この「ICpw」は驚くほどに中身の情報が出回らない。 その為、プレイヤーの累計などの大々的にアナウンスしている情報以外はあまり知らなかった。

 一応ではあるが、始める際に軽くは調べたので少しは知っている。

 「俺も結構前に調べただけだから話半分ぐらいに聞いてくれよ」
 「あぁ、よろしく!」
 「取り敢えずだが、このゲームの総プレイヤー数はこの前にまた更新されて六千万人とかいう馬鹿げた数字になっている」
 「てか、サービス初めて一年かそこらだろ。 とんでもねーな」
 「俺もそう思う」

 明らかに異常な数だ。 人口の多い地区で流行っているのだろうか?
 その辺りはいくら調べても出てこないのでヨシナリからは何も言えない。

 「まぁ、とにかくいくら金のかかったゲームだとしても一つのサーバーでそれだけの人数を賄うなんて真似は不可能だ。 だからいくつもサーバーを分けて運営しているって訳だな。 サーバーが違う以上、ゲームやイベントの内容は同じでもクリアの進捗は違うはずだ」

 付け加えるなら人口の多いエリアはサーバーを複数抱えている可能性が高い。
 日本エリアは一つだが、中国やインドエリアの人口は他と比べて突き抜けているのでサーバーを複数抱えていてもおかしくない。

 「進捗が違うって事は前のイベントをクリアしてる可能性もあるって事か?」
 「逆にあのイソギンチャクを仕留められずに足踏みしている可能性もある」

 見えない以上、想像でしかないが充分にあり得るとヨシナリは思っていた。
 つまりサーバー対抗戦は場合によってはゲームの進捗が自分達よりも進んでおり、総合力に優れている可能性が高い。 

 「てか、人数とかどんな感じなんだ? 人口違うって事はプレイ人口も同じだろ? 戦力差十倍とかだったら話にならねぇか?」
 「それはないみたいだ。 参加人数は多い方が少ない方に合わせるんだとさ」
 「あ、そうなのか。 ならその場合、参加は抽選とか?」
 「いや、低ランクの機体から順番に弾かれるんだってさ」

 要は個人ランクが高ければ優先的に参戦できる事になる。
 
 「へー、ならランク上げ頑張らないとな」
 「いや、焦ってもしょうがないし、俺としては機体の強化に専念したい」
  
 腕を磨くのも必須だが、分かり易く強くなるにはパーツを強化するのが必須と言っていい。
 特に前回のイベントで強化装甲という分かり易く性能を向上させる要因を見てしまったので猶更だろう。

 「あぁ、あれ凄かったからなぁ」
 「開始は来月――一月中旬だからそんなに時間ないな」
 「もうぼちぼち年末だからなぁ。 実質半月ぐらいか」

 相変わらず不規則な予定だなと思ったが、他のエリアとの兼ね合いの結果なのかもしれないと少し腑に落ちたような気持になった。 

 「うはー、時間あんまりねーな。 取り敢えず共同ミッション回して金を稼ぎつつ特訓って感じでいいか?」
 「あぁ、必要なパーツや武器はトレーニングしながら考えるって方向で」
 「よし! どこと当たるか知らねーがやってやろうぜ!」
 
 モチベーションが高い事はいい事だ。 
 ヨシナリは下がる前にトレーニングを始めようと頷きで返した。


 「さて、まずは俺達に何が足りないかからだな」
 
 場所は変わってトレーニングルーム。 二人は機体に乗って話し合っていた。
 まずは自分達の現状の確認だ。 ヨシナリのホロスコープは機動力に振っているので耐弾性能こそ低いが、汎用性は以前と比べて大きく向上している。 狙撃特化から汎用性を重視した結果だ。 
 
 「前に見た時と比べてかなり変わったよな」
 「狙撃特化だとチーム戦だと機能するけど個人戦だと脆さが目立つんで、持ち味を活かしつつやれる事を増やした結果だな」
 「ほえー。 パーツとかは前のイベント報酬で買ったって感じか」
 
 ラーガスト達には随分と稼がせて貰ったので彼等には感謝しかない。
 できれば最後までコバンザメしてキマイラタイプのフレームを取らせてくれれば尚良かったが、贅沢だという事は理解しているので恨んでいるとかはない。 ただ、キマイラタイプのフレームがちょっと、いやかなり欲しかっただけだ。

 それ以上に上位のプレイヤーの動きを近くで観察できたのはかなり大きい。
 特にアルフレッドのセンサーシステムを借りられたのはヨシナリにとってはプレイの根幹を揺るがす程の物だった。 実際、凄まじい景色だったのだ。

 圧倒的な情報量による機体の挙動予測。 まるで未来が見えるみたいだった。
 そして読み切った時の爽快感。 あの風景を、あの感触をもう一度味わいたい。
 ヨシナリは情報を貪り喰う快感に取りつかれてしまったなと自覚していたが、一度見てしまった以上は止められない。 今のヨシナリにとって最大の目的は最高のセンサーシステムの入手だった。

 それほどまでに彼の『ICpw』へのゲーム観を変えるほどの経験だったのだ。
 同時に視る事の重要性を深く理解した。 

 「俺は今はいいよ。 それよりもお前の強化だ」
 
 復帰してそのままイベントへの参戦だったのでマルメルの機体は更新できていない。
 マルメルの機体、プレイスタイルはある程度の完成を見せており、今の段階――要は同ランク帯では安定した強さを誇っていると言っていいが、裏を返すとそれだけとも言える。

 目立った短所はないが同時に長所――強みがないのだ。 
 
 「つまりどういう事だ?」

 マルメルは思わず首を傾げる。 問題は理解したが、何が必要なのかが見えてこないのだ。
 ヨシナリは安心しろと頷きで返す。 そして一つの解を提示する。 

 「うん。 お前に必要なのはズバリ必殺技だ」
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