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第177話

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 操作する為の人員が調達できなくて大した腕のない奴をバイトで雇った?
 そうとしか考えられないレベルのお粗末さだ。 特に灰色は見れば見るほど酷い。
 白黒ツートンはブーストしているだけあって結構な強さだが、操作技能自体は灰色とそこまで変わらないので脅威度は見た目よりも高くない。

 ――理解できないな。

 前回の大規模イベントを見ればAI操作で充分賄う事は可能なはずなのだが、わざわざレベルの低いプレイヤーもどきを送り込んで来る理由はなんだ? 
 何かしらの意図があるのは明白だが、少なくともプレイヤーに対するハンデではない事だけは確かだろう。

 「はは、流石は拠点内部、いくらでも出てきやがるぜ!」

 ヴルトムが吠えながら重機関銃を乱射。 彼の引き連れているプレイヤー達もテンションに引っ張られたのか笑ったり叫んだりしながら目の前の敵を滅ぼすべく手に持つ武器を派手に撃ちまくる。
 ヨシナリは叫んだりこそしなかったが、目の前の敵を屠る事に意識を持って行かれてはいた。

 シールドを展開していない機体が要れば真っ先に胴体に銃弾を集中して浴びせて撃破し、展開している機体は他の味方機が攻撃しているのに便乗して畳みかけ、オーバーヒートを狙う。
 敵はとにかく命中精度があまり良くないので性能差があっても充分に戦う事は可能だった。

 敵が勝っているのは性能だけで技量、連携、立ち回りの全てがヨシナリ達の方が上だったので思った以上に順調に数を減らせている。 白黒ツートンの機体が出てこない事も追い風だった。
 しばらくの間、撃ち合っていると敵の背後から無数の銃撃。 挟撃される形になった敵は混乱し始めたのでその隙に乗じて全滅させる。 敵の残骸を乗り越えるように味方機が複数姿を現した。

 「正直、どうしたものかと途方に暮れていたので助かりました」

 彼等も当然のように敵から奪った装備を使用しており、機体の損傷から激闘の跡が窺える。 
 元々、マルメルだけでなく他の味方との合流も狙っていたのでこの状況は想定通りとも言えるが肝心のマルメルがまだ来ていない。 通信すると戦闘の音は聞こえたからもうちょっとで合流できそうと言っていたので少し待てば来るだろう。

 「いえ、合流できてよかった。 ところで色々と聞きたい事があるのですが……」
 「あ、あぁ、我々で答えられる事であるなら何でも聞いてくれ」
 
 マルメルが来るまでこの地下について色々尋ねる事にした。
 

 結論から先に言うと良く分からなかった。 質問に答えてくれたのは「栄光」所属の「アティメスタリア」というプレイヤーだ。
 全てのエリアを見た訳ではないので何もないとは言い切れないが、彼等の見た限り何かの生産工場のように見えるが具体的に何を作っているのかは不明。 何故なら作ったであろう物が何処にも見当たらないからだ。
 
 「何らかの手段で隠してあるとか?」
 「ベルトコンベアのような物がどこかに繋がっていたようだからもしかしたら集積する場所があるのかもしれない」

 生産工場。 作った物が見当たらない。
 唐突に現れた敵エネミー。 そして奪える味方側と同規格の装備。
 並べてみるとある推論が組み上がる。 

 ――これは予定を変更した方が良いのではないだろうか?

 「ヴルトムさん。 俺、ここで何を作ってるのかすっげー気になるんですけど」
 「奇遇だな。 俺もだ。 これ、上手くするとこの後、かなり楽になるんじゃないか?」

 ヴルトムも同じ結論に至ったのか通路の奥を見ていた。
 
 「何を言っているんだ? 話が見えてこないんだが……」
 
 話を理解できていないアティメスタリアだけが首を傾げていた。

 「恐らくなんですけど、ここって敵トルーパーの生産工場って設定なんですよ。 だから連中が無限湧きする。 で、地下には生産施設らしきものがあるって事と敵の装備――俺が今使っているスパルトイって強化装甲なんですけど、御覧の通り互換性があるんですよ。 つまり――」
 「――ここは装備品と機体の生産プラント」
 「元々、このイベントって侵攻戦だから補給はどうなるんだろうなって思ってたんですけどそういう事みたいですね」

 当たっているかは不明だ。 だが、可能性は充分に存在する。
 明らかにシャトルだけでプレイヤーの機体全てのメンテナンス作業を賄うのは無理だ。
 そうなるとどこかに調達できるトルーパーのメンテナンス設備があるのはあり得る話だった。

 「アティメスタリアさん。 このフロアで見ていない所ってどの辺ですかね?」
 
 ヨシナリの質問にアティメスタリアは少し悩む素振りを見せたが、ややあって思い当たったので小さく振り返る。

 「このフロアなんだが基本的に降りてすぐにあるこの巨大な通路から様々な場所にアクセスできるように無数の細い通路が枝分かれしている。 で、奥に行けば行くほどに敵の攻勢――いや、出現頻度が上がるので最奥はまだ見れていないんだ。 もしかしたらそこに何かあるかもしれないが……」

 現状の戦力はヴルトム率いる「大渦」のメンバーがさっき減ったので合計で四機。
 合流したアティメスタリアが引き連れている「栄光」のメンバーが合計で八機。
 それにヨシナリを合わせて十三機。 突破するには割と厳しい数だが、補給と整備ができるのであればリターンとしては大きい。 調べてみる価値は充分にある。

 「奥にメンテナンス用の設備があるなら先々の事を考えると押さえておくべきです。 折角、合流したのに申し訳ないんですが……」
 「いや、我々も行こう。 このまま地上に出ても乱戦に巻き込まれるだけだ。 なら敵の補給を断ちつつ味方の支援ができるならここは踏ん張る所だな」

 ヨシナリはお前はどうするとヴルトムを振り返ると聞くなよと言わんばかりに肩をポンと叩く。
 彼の仲間達も大きく頷いている。 どうやら付き合ってくれるようだ。
 方針は決まったので追加の敵が来る前に行こうと口にしようとしたところで通路の奥から駆動音。

 全員が銃を向けるとそこから――

 「おお~い! 味方! 味方だから撃たないでくれ~!」

 見慣れた機体。 アウグスト、マルメルの機体が現れた。
 マルメルはヨシナリのホロスコープを見ると手を振りながら近づいてくる。

 「ヨシナリ~。 マジで助かったぜぇ。 ってかその装備どうしたんだ?」
 「まぁ、事情は移動しながら説明するとして、取り合えず行くぞ」
 
 事情が呑み込めていないマルメルはヨシナリの言葉に首を傾げる事しかできなかった。
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