Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第174話

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 「正直、腕自体は大した事ないと思うんだがスペックがなぁ……」

 ヴルトムはエネミーへ銃撃しながら困ったように呟く。
 ヨシナリも重機関銃で敵トルーパーを破壊しながら同意する。
 実際、灰色は重装甲、高火力でごまかしてはいるが、立ち回りは明らかに慣れている動きではない機体が多い。 一定割合でヨシナリを追いかけ回した機体のようにそこそこ慣れた動きをする機体もいるがあまり多くはないのが救いといえる。

 問題はツートンカラーの機体だ。 技量面ではそう変わらないのに異様な反応を見せる。
 チートを疑ってじっくりと観察したのだが、確信を深めるだけだった。

 一機や二機がそうだったらふわわのような超反応を見せていると納得できなくもないがツートンカラーの機体はほぼ全てが似た挙動をしている点を見れば黒で確定だろう。
 チートを使うとか運営は恥を知れと思いながらツートンカラーの機体を偏差射撃で撃破する。

 どれだけ凄まじいスペックもとんでもないチートも使いこなさなければ宝の持ち腐れ。
 プレイヤーとしては大した事がないので対抗できているが、Dランク相当の操作技術を持っていたのなら被害は跳ね上がっていただろう。 

 「いや、こうなると小細工が通用しないんできついっすね」

 敵味方入り乱れての乱戦。 前情報が皆無の状況で戦闘に突入したので対処しろというのは酷な話ではあるが、知っていればやれる事はあっただろうなと思ってしまう。
 
 ――あまり良くない考えだ。

 前回の防衛イベントで入念な前準備を行えた事を当然と思ってしまっている。
 未知のマップに未知のエネミー。 理不尽な初見殺し。
 既知が欠片もないこの状況こそがこのゲームの本質といえる。 運営が何を考えているのかはヨシナリには分からない。 もしかしたらクオリティで殴る事だけで、プレイヤーを理不尽に引きずり回してイベントを何度も復刻する事しか考えていないのかもしれない。

 ヨシナリとしてはどちらでもいいが、勝てないと思われている状況を引っ繰り返して運営の鼻を明かしてやりたいと強く思っていた。 不利な状況ではあるが負ける気は毛頭ない。
 個人レベルでできる事は限られてはいるが、全力で勝ちに行く。 その為にできる努力を全力で行う。
 
 差し当たっては目の前の敵を全て撃破する事なのだが……。
 ヨシナリはさっと視線を周囲に走らせて戦況を確認。 さっきからヴルトムが敵の銃を奪った方が早いとユニオンメンバーを中心に拡散しているので敵トルーパーの出現で崩れた味方は立て直しつつあった。

 撃破効率が上がった事で士気も上がる。 
 頑丈だったトカゲハダカ型エネミーを楽に仕留められるようになったので猶更だろう。 
 味方に関してはこれでいいが問題は敵だ。 どこから湧いでくるのか施設の中から次々と出てくる。
 
 幸いなのは減った分だけ補充している感じなので数で圧し潰されるような事になっていない事だろう。
 だが、このままだとじりじりと追いつめられる。 恐らくだが、施設の制圧が成れば止まるとは思うのでここは突入組を信じるしかないのが中々に歯痒い。 ヨシナリはあまり他人を当てにし過ぎる事を良しとはしな傾向にある。 自分で決めたい欲もあるが、知らない所で事態が進む事が嫌いなのだ。

 無知は罪とまでは言わないが、自分が何も知らない事を許容できない。
 だから、施設の制圧状況も不明、敵の詳細も分かってきてはいるが不明な点が多いこの状況に気持ちが悪いと思ってしまっている。 だから意識の一部は建物の上部――恐らくは中枢があるであろう場所に囚われていた。

 ――俺もあそこで暴れたいと。

 そんな彼の気持ちを知ってか知らずか、状況に変化が起こった。 
 ズンと重たい衝撃が襲う。 地面ではなく建物が揺れたのだ。
 何だと視線を向けると建物の最上階付近から巨大な光の剣が飛び出す。 光の剣が斜めに動き、建物の上部を切り裂いた。 一部がズレて落下、口を開けた内部から何かが飛び出す。

 トルーパーだがデザインが敵機と似た傾向にあり、識別もエネミーなので間違いなく敵だ。
 色は銀。 背面には四枚のエネルギーウイング。 
 腕には巨大なエネルギークローと空いた手にはエネルギー式の短機関銃でマガジン部分からはコードが伸びており機体の腰に連結されている。 恐らくはジェネレーターから直接、エネルギーを引っ張ってきているのだろう。 それを追うように白い機体が飛び出す。 

 カナタのヘレボルス・ニゲルだ。 推進力を全開にして敵のエネミーと凄まじい空中戦を繰り広げる。
 恐らくボス的なエネミーなのだろう。 他の機体と動きがまるで違う。
 エネルギー式ウイングの最大の強みは急制動、急加速とそれによって成立する旋回性能だ。 空中のような三次元的な空間であれをやられると即座に死角に入られて見失う。 そうなったら致命的だ。

 対するカナタもその点は充分に理解している様で常に死角を潰す立ち回りで、敵エネミーと正面から打ち合っている。 メイン武装が大剣にもかかわらずあの速力に対応できているのは機体の基本スペックもあるが、自身の武器の特性を最大限に活かし懐に入れないようにしているからだ。

 長物の弱点は懐に入られる事ではあるが、裏を返せば入れさえしなければある程度の優位は確保できる。 敵もそれは分かっている様で、回避と同時にエネルギー式の短機関銃を連射。
 反動も小さく連射速度も早い。 良い武器だ。 コンパクトで取り回しが良く、リロードの必要がない点が羨ましい。 

 ――俺もあれ欲しいな。

 カナタは大剣を盾にしながら回避。 それを狙って敵機は間合いを詰めに行く。
 大剣の懐に入る直前にカナタが迎撃し、敵機が離れる。 その繰り返しだ。
 ヨシナリはちらりとカナタが飛び出した建物を一瞥。 カナタが健在なのはいい知らせだが、他のメンバーはどうなったのだろうか? 防御重視のイワモトとツガルは残っていてもおかしくないが、まさかやられたのだろうか? 疑問に応えるように一機のキマイラタイプが飛び出してきた。

 センドウの機体だ。 彼女が目立つ位置に姿を晒すのは珍しい。
 元々、狙撃手の彼女はこの手の侵攻戦にあまり向いていない事もあるが、少しらしくないと思ってしまった。 センドウは大型の狙撃銃を建物の中に向けて連射。
 
 発射間隔から碌に狙っていない事が分かる。 その様子でヨシナリは凡その事情を察した。
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