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第173話

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 答えは簡単だ。 餌を撒いてやればいい。
 敵はヨシナリを殺したがっているのだから思い通りの行動を取ってやる。
 一度、ぐるりと周囲を確認した後手近なトカゲハダカ型のエネミーで射線を切ると即座に銃弾が飛んできた。 味方でもお構いなしなのは散々見て来たので逃げ回りながら敵を減らすのに貢献して貰おう。

 それにそろそろあの戦い方も限界だ。 ガキンとエネミーの銃から弾が出なくなった。
 弾切れだ。 あれだけ豪快にばら撒いていた以上、見えていた結果だった。
 
 ――さぁ、どうする?

 この乱戦の中、味方の残骸から拾う? ヨシナリは内心であり得ないと断じる。
 一刻も早くヨシナリを仕留めたいエネミーからすれば見失うような真似はしたくないはずだ。
 機動力ではホロスコープに分がある。 鬼ごっこでは勝ち目がない。
 
 ヨシナリを仕留める事に絞るのであれば取れる手段は――

 「まぁ、そう来るよな」

 強化装甲を脱ぎ捨てて中身が飛び出してきた。 ツートンカラーの機体と同系統だが、強化装甲を纏っている関係でエネルギーウイングは付いているがブースターは搭載されていない。
 追いつけないなら余計な荷物を捨てて軽量化を狙う。 だが、この乱戦でエネルギーウイング搭載の高機動機を操れるのか? それもノーだ。

 ヨシナリはここまでの鬼ごっこで敵プレイヤーの技量を凡そではあるが把握した。
 性能に頼った戦い方。 甘く見積もっても、Fの下位からGの上位といった所だろう。
 エネルギーウイング搭載のエンジェルタイプを扱うにはBランク以上が必要になる。

 目の前の敵を見ていると何となくだが、見えてくるものがあった。
 何故、エンジェルタイプに購入制限があるのかをだ。 ツートンカラーの機体を見ればそれが顕著でエネルギー式の推進装置は非常にピーキーな性能をしている。 あの加速と旋回性能を使いこなせるというのであれば大きな武器になるが、そうでないなら宝の持ち腐れだ。

 果たしてあの闇雲に突っ込むだけのプレイヤーに扱えるのか? 
 ヨシナリは絶対に無理だと思っていた。 さて、そんなプレイヤーがこの乱戦を縫うような形でヨシナリに肉薄できるか? できる訳がない。
 
 そんな相手がエネルギーウイングの推力を用いてヨシナリを仕留めるにはどうするか?
 ヨシナリはすっとアノマリーを構える。 敵機が推力を全開にしたと同時に銃口を持ち上げて発射。
 エネルギー弾は吸い込まれるように飛び上がった敵機の胴体を射抜き爆散。 撃破となった。 
 
 動かし方は分かっている感じだったからそこそこやり込んでいるようだが、センスが絶望的に足りていない。 恐らく格下か有利な相手としか戦わないタイプだな。 その癖、執念深い。
 変にムキになる辺り典型的な勝負事ではなく、勝つ事が好きな手合いだ。 

 ――?

 一瞬、記憶に引っかかる物があったが思い出せなかったのでスルー。
 試したい事にそちらに意識が向いていたのでどうでもいい思考は早々に脳裏から消えた。 さっきのエネミーが脱ぎ捨てた強化装甲だ。

 中に入るタイプなので内部を露出させた状態でその場で待機している。
 背を向けてホロスコープを中に入れるとウインドウがポップアップ。 
 制御を同期しますかといったものだった。 

 「おいおい、ダメもとで試したけど使えるのかよ」

 呟きながらイエスを押すと装甲が閉じる。 収まったと同時に強化装甲のステータスが表示。 
 強襲装甲アサルト・アーマー『スパルトイ』。 重装甲とエネルギー式の推進装置を用いた機動力補助は重すぎるからだろう。 本来は飛行に用いるレベルの推進装置を姿勢制御と移動に用いている時点で結構な代物だった。 

 「どうでもいいけどこれ異星人の兵器って設定じゃないのかよ」

 規格が一緒とかどうなってるんだ? 細かい疑問は尽きないが、使えるのだから使ってしまおう。
 こんな機会でもないと手に入らないエネミー専用であろう特殊装備だ。
 しっかりと楽しませて貰おう。 武装は前の持ち主が撃ち尽くした重機関銃は残弾がなかったが、弾は拾う機会がありそうなので背中のジョイントに噛ませて固定。 

 「えっと武装、武装は――おぉ、いいのがあるじゃないか」

 手近に居たトカゲハダカ型のエネミーに突っ込みその胴体に拳を叩きこむ。
 
 ――喰らえ。 

 腕に仕込まれたギミックが作動。 杭が飛び出し頑強なエネミーの装甲をあっさりと貫通し破壊する。
 パイルバンカーだ。 炸薬式なのか引っ込むと同時に腕の装甲をが展開して排莢を行う。
 凄まじい威力だ。 銃弾を物ともしなかったあのエネミーの装甲を一撃。

 そしてなにより――

 「気持ちいいな」

 固い敵を一撃で葬るのは爽快感が凄い。 新しく手に入った玩具にはしゃぎながらもヨシナリはさっと戦場に視線を走らせると見つけた。 大破した敵機だ。
 腰のボックスに入っているマガジン――円盤型の変わったデザインのそれを全て頂くと背にマウントしていた重機関銃を手に持ち、代わりにアノマリーをマウント。

 空になったマガジンを捨てて、円盤型のマガジンを二枚差し込むように挿入。
 残弾は百二十。 一個で六十発も入っているらしい。
 敵のトルーパーへと銃口を向けて発射。 重たい銃声が連続して響き、敵機を強化装甲ごと穴だらけにする。 

 「うはは、すっげー威力」

 思わず笑ってしまう。 発射の際、銃口にバチバチと何かがスパークするような感じがしたのでレールガンとかそんな感じの武器かもしれない。
 
 『ヨシナリさんか?』

 そう言って背後から見覚えのあるヴルトムの機体が近寄ってきた。

 「あ、お疲れっす」
 「お疲れ。 その装備どうしたんだ?」
 「敵のをパクりました」
 「マジかよ。 敵の武装ってそのまま使えるのか。 で? それの使い心地どうよ?」
 「流石、エネミー専用装備って感じです。エネルギー式の推進装置を積んでるから実質Bランクで扱うようなスペックですね。 武器の威力も半端ないので、かなりグレードが高いと思います」
 
 実際、通常弾では碌なダメージを与えられなかったにもかかわらずこの重機関銃はトカゲハダカ型の装甲をあっさりと貫通している。
 
 「これは前のイベントと同じで拾って使えって事なのかな?」
 「エネミーの処理はかなり楽になると思います」
 「よし、味方には敵から武器を奪うように触れ回ろう」
 「取り合えず攻撃の通りが悪いエネミーの処理はどうにかなりそうだな」

 エネミーはそれでどうにかなりそうだが――

 「問題はトルーパーですね……」 
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