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第157話

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 だが、彼の戦術は早々に破綻した。
 充分な距離を確保した上での牽制だったのだが即座に対応され、一射で破壊されたのだ。
 これまでも対応された事は数多くあったがここまで早いのは珍しい。

 ヴルトムのメインウエポンである重機関銃は腰に固定している事もあって安定した射撃が可能だが、固定具の問題で射角が限られる。 つまりは明確な死角が存在するのだ。
 それを悟らせない為にも接近しすぎるのは不味い。 だが、確実に当てる為には近寄らなければならない。

 死角と殺傷圏内の狭間。 その中間にポジショニングする事がヴルトムが勝利する為の鍵だ。
 どうにか間合いに捉える。 それのみに専心する事でヴルトムは高い集中力を維持していた。
 ヨシナリのメインウエポンは狙撃銃。 セミオート、フルオートに対応しているので突撃銃としても扱える汎用性の高い代物だ。 それ以外は持っていたとしてもそれ以上の武器はないだろう。

 相手の武装と間合いの取り方は概ね割れた。
 恐らくヴルトムの戦い方に気が付いたとみていい。 こんな分かり易い戦い方をしている以上、対策はあっさりと練られるのは分かり切っている。 だが、そんな彼をFランクまで押し上げたのは何か?

 着こんだ強化外装にある。 センサーの感度を全開にして周辺にヨシナリが居ない、または見つかっていない事を確認すると彼は切り札を使用。 外装を展開。
 この装備は着こむ形で使用しているので中に彼の機体が収まっている形になっている。

 外装から抜け出し遠隔操作を有効化。 命令を実行すると口を開けた外装が閉じ、傍から見れば目立つヴルトムの機体そのものに見える。 脱いでしまうと移動はできないが、腰にマウントした重機関銃を撃つ事は可能だ。 これまででヴルトムの戦い方を散々見て来た相手は彼を重装甲、高火力特化の機体と勘違いするだろう。 それこそが彼の狙いだ。

 未だに彼の本職は狙撃手でもっとも手に馴染む武器は狙撃銃であると自負している。
 そっと物陰に身を隠し、外装内部に分解して格納していた狙撃銃を組み立ててそっと中身のない外装から距離を取る。 ヨシナリも狙撃が主体のプレイヤーだ。

 狙撃手には明確な隙――弱点と言うものが存在する。 それは何か?
 獲物を狩る瞬間だ。 敵を射抜くその瞬間、必殺の一射を放つその時の狙撃手の意識は全てトリガーとターゲットに注がれている。 ヴルトムはそこを狙う。

 これまでにこの手で何人もの狙撃手を葬ってきた彼には明確な勝算があった。
 そろそろ外装を見つけた頃だろう。 あの外装を撃ち抜きたいのならセンサーの集中している頭部か最大威力のエネルギー弾でのコックピット部分を狙うはずだ。 ヨシナリは組んだ回数が多くないのでどちらのタイプかは読めないが、個人的には一撃で仕留めたいと思ってそうなので後者だと考えている。

 ――わざわざ狙いやすい位置を用意してやったんだ。 有効活用してくれよな。

 同時にそこはヴルトムからも狙いやすい位置である事も意味している。
 一対一であるからこそ生まれる意識の隙間。 伏兵はないといった思い込みを払拭できる者はそう多くない。 ヴルトムなら外装から斜め後ろにあるビルの屋上から後頭部を狙う。

 人体でいううなじの辺りを狙えば首の切断を狙える。
 そこを一発で射抜く。 ヴルトム動き回っている的――特に高機動タイプの敵機を百発百中できるほどの腕はないが、止まっている的であるならそれなり以上の命中率を叩き出せる。

 顔を出し、狙撃の体勢に入った瞬間。 その時がヴルトムの勝利が確定する。
 
 ――さぁ、顔を出せ。 

 この焦らされるような時間はあまり好きにはなれないが解放された瞬間の開放感は凄まじい。
 そして状況に変化が起こる。 不意に外装の肩にエネルギー弾が命中。
 釣れた。 だが、第一候補ではなく、第二候補の場所から飛んできたのはやや予想外だったが、充分に想定内だ。 付け加えるなら狙いを外している所から少し買いかぶり過ぎたかと僅かに失望したぐらいか。 後は飛んできた場所さえ分かれば――

 「流石に釣り針がデカすぎますよ」

 ――!?

 不意に背後から声。 振り返ろうとしたがそれよりも早く背後からコックピット部分を貫くようにダガーが突き刺さる。 刺された? 後ろから? どうやって? 
 無数の疑問が浮かんでは消えるが、完全に致命傷だ。 どうにもならない。

 負けを悟ったと同時に機体が機能停止。 試合終了となった。
 

 狙いたいなら狙いやすい位置に相手を誘導する。
 ヴルトムの戦い方は狙撃手としては中々に理に適ったものだろう。
 少なくともヨシナリはそう思っていたが、今回の試合で言うならお粗末な点も多い。

 まずは重装備を見せびらかして狙撃などの可能性を消すのは良かったが、囮にエネルギーライフルをタレット化したのは良くなかった。 あれで遠隔操作の可能性を疑い始めたからだ。
 加えてヴルトムの狙撃手としての戦いを一度見ている身としてはあの重装甲には違和感しか感じない。
 
 結果、あの外装を囮にして中身による狙撃で仕留めに来るのではないかと読んだのだ。
 相手に倣って遠隔でアノマリーを操作して逆に釣り出す事にしたのだが、思った以上に素直に引っ張り出されたので多分、上手く釣れたとか思ってるんだろうなと考えなら背後に忍び寄ってダガーで一突き。

 ヴルトムが自身の策に溺れた結果でもあるが、読み切った上での勝利は中々に気分がいい。
 さて、次はどうするかなと考えているとメールが届いた。 差出人はヴルトム。
 内容は試合お疲れ様と少し話さないかとの事。 特に断る理由もないので了承し、街で会う事にした。
 
 大丈夫だとは思うが「大渦」のプレイヤーをユニオンホームに入れたくなかったからだ。
 指定された場所に行くとヴルトムが既に待っており、ヨシナリの姿を認めると小さく手を振ってきたので駆け足で近づく。

 「どうもお久しぶりですね」
 「久しぶり。 いやぁ、やられたよ。 完全に不意を突いたと思ったんだけどなぁ」
 「最初に遠隔でエネルギーライフルを使ったでしょ? あれで遠隔を疑いましたよ。 それに前に組んだ時、狙撃銃を使ってたのでなんかおかしいって思ったのもありました」
 「あーマジかぁ。 一回でも組んだ相手だともう一工夫いるなぁ。 そりゃデカい釣り針に見えるか」
 「はは、次当たる時を楽しみにしてますよ」 
 「見てろよ。 次はこっちが勝つからな! ――ところで武器ってどういう基準で選んでるんだ?」
 「あぁ、今使ってるのはアノマリーっていうエネルギーと実弾の撃ち分けができる奴で――」  

 気が付けば話は感想戦になっていた。
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