Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第156話

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 開始と同時にエネルギーの弾丸がビルを貫通して飛んできた。
 ヨシナリは咄嗟に上に飛んで躱すが、高度は取りすぎない。
 恐らく今のは射線が通る位置に移動させる為の物だ。

 街の反対側ぐらいの位置関係だったはずだが、この距離で狙ってくるとは思っていなかった。
 恐らく大型狙撃銃の仕業だろうがこの距離まで届くのは出力がかなり大きい代物だ。
 ただ、かなりの数の障害物を貫通した事により威力の減衰は起こっているので当たったとしても即死はしないはずだ。 

 ――にもかかわらずぶっ放したのは相手の動揺を誘う為か。

 狙い自体はかなり正確だったので一方的に狙うという圧をかける事もできるので相手を焦らせる事も可能だろう。 ヨシナリはそこまで考えた所でビルの陰に隠れ、次の発射を待つ。
 次弾が飛んでくる。 精度自体はあまり良くないのでよほど運が悪くなければ少し動くだけで充分に回避は可能だ。 大雑把ではあるが正確にこちらの居場所を把握しているのは良いセンサーを積んでいる証拠だろう。 使ってる武器の詳細までは見れていないのでこれほどの代物だとは思わなかった。
 
 戦闘前に閲覧できるデータでは銃の名称と形状、後は属性――要は実体、エネルギー系の武器かの判別は付くが、射程などはその武器についての知識がないと分からない。
 発射間隔からエネルギーのチャージまで十秒から十五秒。 これで仕留めるとは考えていないのならマガジン式で本体のジェネレーターは使っていない可能性は高い。 連射が利かない事ははっきりしている。

 なら脅威度はそこまで高くない。 この手の敵は精度で勝負だ。
 ヨシナリは素早くビルの屋上へと登るとアノマリーを構える。 最大望遠にして敵機を捉えようとして――

 「ははぁ、なるほど」
 
 思わずそう呟く。 
 ホロスコープのセンサーとカメラが捉えたのは三脚に乗った巨大な狙撃銃だった。
 銃身が動いているところを見ると遠隔か自動で射線を調節できるタイプだ。
 
 自分がふわわに対して行った事をそのままされたのでその間抜けさに少し笑ってしまった。
 ケーブルのような物が伸びているので外付けのジェネレーターでエネルギーは賄っている様だ。
 取り合えず放置は面倒なので撃つと同時にビルから飛び降りる。

 遠くで響く爆発音を聞きながらさっきまでいた位置を見ていると無数の銃弾が通り過ぎた。
 
 「あっぶねぇ……」

 呟きながら着地しつつアノマリーのモードを連射に切り替える。
 噴かさずに走って移動。 ビルの陰を利用し、常に遮蔽物で身を隠しながら銃弾が飛んできた方へと向かう。 感じから重機関銃。 飛んでくるまで気配がなかったところを見るとステルスにも力を入れているようだ。

 どうやらヴルトムは狙撃から重火器で相手を粉々にするスタイルに方針転換をしたようだ。
 気持ちは分からなくはない。 圧倒的な火力で敵をバラバラにするのは気持ちいいからだ。
 ただ、失敗した場合、高確率で相手のサンドバッグになるというリスクがある事を身を以て教えてやる。 ヨシナリはそんな事を考えながらヴルトムの機体を捉えた。

 事前に見たデータにあった通り、全身を覆うような追加装甲のお陰で同じⅡ型にもかかわらず見た目が全く違う機体に見える。
 背中には弾丸が詰まっていると思われるタンク。 両腕には弾帯に繋がったロングバレルの機関銃。
 ヴルトムがヨシナリに気付くよりも早く、ヨシナリは銃撃を開始。

 ヨシナリはセンサーの集中している頭部を狙って弾をばら撒いたがどれだけ盛っているのか弾を弾いており、あまり効果はなさそうだ。 

 ――固いな。

 センサーだけでもと思ったが難しそうだったので連射からエネルギーの単発に切り替えて発射。
 流石にこれは受けたくなかったのかヴルトムは片手を銃から放して頭部を庇う。
 腰に固定具が付いているらしく手放した銃は落ちずにそのままで、握ったままの機関銃で応射。

 ビルを盾にするのはよくないと判断して射線から離れる。 
 弾丸は廃ビルをあっさりと貫通。 ヨシナリは再度連射に切り替えて牽制の為に弾をばら撒く。
 
 ――行けそう。

 取り合えず欲しい情報は集まった。 まずヴルトムの武装は二挺の重機関銃。
 両腕は完全に塞がっているのでそれ以外の携行武器は見当たらない。 
 加えて腰で固定しているので射角が限定されているので死角が多く、特に背後は分かり易い弱点といえる――のだが、どうにも怪しい。

 そもそも一対一であんな重武装はⅡ型の使用者が多いこのランクではあまり推奨されない。
 何故なら完全飛行が可能なⅡ型は機関銃で捉えるのが難しいからだ。
 弾切れまで逃げ回れば後は鈍重な的が出来上がる。 ヨシナリよりも経験が長いヴルトムがそんな事を理解していない訳がない。 なら別の目的がある可能性が高い。

 ――そいつを読み切る事が出来たのならこの勝負は俺の物だ。

 ヨシナリは銃撃しながらヴルトムの観察を開始した。
 
 

 ――強い。 やり難い。

 それがヨシナリに抱いたヴルトムの感想だった。
 以前に組んだ時は始めたばかりの初心者だったが、射撃精度や立ち回り、味方へのフォローなど光る物は見えていたのでモチベーション次第ではあるが順当に上がっていくだろうなとは思っていた。
 
 流石にここまで早いとは予想できなかったが。
 気が付けば自分と同ランクで機体も同格――いや、パーツ構成を考えるなら自分の機体よりもランクは上。 立ち回りも以前とは完全に別物だ。 

 こちらの意図に気が付いているような気配さえもある。 特にエネルギーライフルを囮にした事を早々に看破され、あの距離を一発で当てて破壊しに行ったのは凄まじい。
 あれは当てる為ではなく圧を欠ける為の代物なので常に撃てる状況にある事に意味がある。

 それにより相手の集中力を大きく削ぐ事ができるので見せつけた上で健在である事こそが存在理由だった。 だからこそ相手から狙い辛い位置に配置したのだが、ほぼノータイムで撃ち抜かれたのはヴルトムにとって大きな誤算といえる。 エネルギーライフルが破壊された事は大きな誤算ではあるが、まだ策は残されている。 彼の機体はⅡ型ではあるが、重装甲と引き換えに飛行能力を喪失していた。

 代わりにその推力全てを使ってのホバー移動で見た目からは想像もつかない静音性を確保した。
 彼の基本戦術はエネルギーライフルでの牽制を行いつつ気配を消して接近。 射程に入ったと同時に重機関銃の斉射だ。 気づかれなければ大抵はこれで終わる。
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