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第148話

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 見るのではなく視る。
 相手の動きに反応するのではなく、相手の装備から何ができるのか、何ができないのかを逆算して何をしてくるのかを読む。 まだまだ未完成ではあるが同ランク帯の相手には充分に通用する。
 
 色々と経験し、自身の進むべき道が見えて来たのは気分がいい。
 そして何より、上手くなっている自覚が出るのでやっていて楽しいのだ。
 次だ。 次の試合をしよう。 ヨシナリは高いテンションに身を任せて次の戦いへ。

 ステージは砂漠。 敵はパンツァータイプ。
 開始と同時に空中へ上がって敵の武装を確認。 
 肩にプラズマキャノンとミサイルポッド、両手にガトリング砲。
 
 砂煙を上げながら敵機は下半身の無限軌道を唸らせ突撃。
 射程に入る前にプラズマキャノンとガトリング砲を連射する。 随分とせっかちな相手だ。
 だが、パンツァータイプとは前のイベント戦でかなり苦しめられたので、攻略法は一通り頭に入っている。 まずはエネルギーライフルの一射でミサイルポッドを撃ち抜いて破壊。

 これでほぼ勝ち筋は見えた。 理由は非常に簡単でパンツァータイプの特徴は重装甲、高火力。 
 欠点は足の遅と動きの鈍さ。 その為、高機動の敵とは相性が非常に悪い。
 当たれば一撃ではあるが、当たらない攻撃は何の意味もない。

 それともう一点、致命的な弱点が存在する。 射角だ。
 パンツァータイプの腕に搭載するタイプのガトリング砲は手数の多さもあって当たりさえすれば大抵の敵を瞬時に粉々にするだろう。 だが肘から先に取り付ける関係で死角が非常に多い。

 死角に入られると武器の大半は使い物にならなくなる。
 それをカバーする為のプラズマキャノンとミサイルポッドだが、ミサイルポッドは既に潰しており、プラズマキャノンも射線が放物線を描く関係で軌道の予測は容易だ。

 それをどうにかしたいなら相手は位置を変えるしかない。
 敵機は急バック。 下がりながら射線を確保しようとするが前後にはそこそこ機敏に動けるが左右は信地旋回の必要があるのでどうしても遅くなる。 つまりは素早く動きたいなら前後に動くしかない。

 そこまで分かれば後は楽な作業だった。 
 フルチャージしたエネルギー弾で頭頂部からコックピット部分を打ち抜き撃破。 
 敵の装備構成から戦い方を逆算して、最適、最善の撃破方法を探る。 
 
 自分の戦い方が徐々に形を成していく気がした。 もっと、もっとだ。
 もっと自分の力を試してみたい。 ヨシナリは勢いに任せて次の対戦に突入した。
 ステージは山岳地帯。 敵機の反応はない。
 
 レーダー表示に移らないという事は範囲外かそもそも映り難いかのどちらか。
 まずは敵の装備や姿を見ないと話にならないので痕跡を出さないように慎重に移動を開始する。
 切り立った岩山が多く、木々はなく山肌が露出している地形で時刻は夕方、逆行が強く視界自体は悪くないが細かい場所が見え辛い。 仮に敵機がどこかに隠れていたのなら見逃してしまうかもしれないので、どうにか先に発見したいと思いながら慎重に近くの山の頂上を目指す。

 取り合えず視界を確保しなければと山の頂上に辿り着くと――

 「あ」

 ――敵の機体と遭遇した。
 どうやら全く同じ事を考えていたようで視界を確保する為に徒歩でここまで来たようだ。
 ヨシナリは咄嗟にアノマリーを構えたが、実行してからしまったと失敗を悟る。

 ホロスコープと敵機は山の反対側から上がってきて頂上で合流した形になっており、距離が近い。
 この距離では長物よりは短機関銃か拳銃の方が早い。 敵機も狙撃メインの機体だったようで背に大きな狙撃銃を背負っていたが、タイミング的に絶対に間に合わないので腰の拳銃を抜く。

 当然ながら重たいアノマリーと拳銃では抜く速度は段違いだ。
 ヨシナリは咄嗟の判断でブースターを噴かして急上昇。 敵機の銃口はヨシナリを追いかけるが、太陽を背負う事で敵機の照準がブレる。 狙いが付け辛くなったはず、狙撃手であるなら狙いをしっかりと付けたがる傾向にあるがこいつはどちらだ?

 判断的に当たらなくてもさっさと撃った方が正解だ。 敵機は当然ながらその正解を選択。
 連射。 何も考えずに急上昇したので読み易い挙動をしてしまった。
 しくじった。 肩と脇腹に一発ずつ被弾。 お返しとばかりにアノマリーを実弾に切り替えて弾をばら撒くが、敵機は既に近くの物陰に飛び込んで狙撃銃を構えている。

 ヨシナリも応じるようにアノマリーのモードを実弾からエネルギーへ。
 落ち着いて照準を合わせて発射。 それと同時に機体を左に振って回避に入る。
 ヨシナリの放った弾は敵機の狙撃銃と背中のブースターを破壊し、敵機の放った弾はさっき一撃貰った肩をもう一度捉えた。 それにより腕が衝撃で千切れ飛ぶ。

 ――あぁ、クソ。

 ヨシナリはさっきまでの興奮は一気に冷め、冷静に今の自分の状況と何故こうなったのかを考えるが、答えは明白だ。 自分が敵の動きを読もうとしているように敵も自分の動きを読もうとしたからだ。
 敵はNPCではなくプレイヤー。 必要なのは読みだけではなく駆け引きもだ。
 
 連勝に浮かれてそこを失念していた。 我ながら調子に乗りすぎていたなとヨシナリは自嘲してアノマリーを投げ捨てる。 片腕では満足に扱えないので持っていても無駄だ。
 短機関銃を抜いて大きく旋回。 斜面に沿って飛ぶ事で山を一周し、相手の射線を切る動きだ。

 敵機は当然読んで振り返るが、ロックオン警告が出たと同時にその裏を突いて急上昇。
 敵機の直上から仕掛ける。 相手も一度喰らってるのでどうにかしたいと思っているだろうが、メインのブースターをやられているので飛び上がる事が出来ない。 再度、太陽を背負って視界を奪うというアドバンテージを得て仕掛けに入った。 連射しながら急降下。

 敵の狙いを絞らせない為、機体を左右に振って攪乱。 動きに緩急を付けて狙いを付けづらくする。
 自分がやられて嫌な機動をこれでもかと行い、ひたすらに照準を定めさせない。
 ばら撒いた弾が被弾した敵機は一発撃つが、掠りもしなかったので無駄と判断したのか狙撃銃を投げ捨てる。 その動きに内心で思い切りが良いと感想を抱きつつ、どうするつもりだと思考を巡らせた。

 ヨシナリのホロスコープは現在、急降下中。 接触まで数秒もない。
 短機関銃が弾を吐き出しつくしたので投げ捨てて拳銃を抜く。 リロードをしている余裕がないので弾がなくなれば余計な荷物でしかなかったからだ。 こうなると敵の取れる手はそう多くない。
 
 ――どうする?

 ヨシナリは敵機の動きをいくつか想定し、どれが最も可能性が高いかを考えていた。
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