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第141話
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戦闘が開始されたと同時にカナタは機体をまっずぐにフィールドの中央へ。
そこではユウヤの機体が単機で佇んでいた。 赤黒い機体は無機質にカメラアイによる視線をカナタに向ける。 長かった。 ようやくこの日が来た。 カナタは思う、ようやく収まるべきところに収まると。
「ユウヤ。 約束は覚えてる?」
「あぁ、そっちこそ忘れるんじゃねぇぞ」
今回の勝負、カナタが勝てばユウヤは『栄光』に入り、ユウヤが勝てば今後、このゲーム内でカナタはユウヤを勧誘しない。 本当ならリアルでも干渉しないにしたかったのだが、条件に釣り合わないとしてこうなった。 カナタとユウヤは幼馴染で家が近所、両親の仲が良く家族ぐるみの付き合いだ。
物心ついた時から姉弟のように過ごしてきた二人だったが、カナタはとにかくユウヤの行動に干渉した。
あれは駄目、これも駄目、自分が選んだこれにしろ、あれにしろ。
カナタとしては良かれと思ってやっている事ではあるが、ユウヤからすれば迷惑以外の何物でもない。
彼女はユウヤの事を手のかかる弟のように感じており、自分が居なければ何もできないと無意識に思っているのであれこれと指示を出し、こちらも無自覚だがその事に少しだけいい気分になっていた。
逆にユウヤはその点をよく理解しており、この女は自分を支配して悦に入りたいクソだと認識している。
そんな平行線のような交わる事のない感情を抱えた二人だったのだが、ある日を境にユウヤはこのゲームにのめり込み、現実から距離を置く事にした。 最初こそカナタは止めさせようとしたがユウヤは頑としてそれを拒み、言う事を聞かない。 これまでは不満を漏らしつつも自分の言う事には従ってきたので拒まれたのは意外だった。 だから彼女はやり方を変えたのだ。
自分も同じゲームを遊んでみようと。 ここまで執着する理由にも興味があった事もあり、割と軽い気持ちで始めたゲームではあったが、やってみると思った以上に面白かった。
友人も増え、個人ランクも順調に上がる事もあって気が付けばのめり込んでしまっていたのだ。
ゲームに慣れれば後はユウヤを手元に置けば完了ではあるだが、このゲームには当時プレイヤー間のコミュニティを作る機能がなかったのでユウヤに対してできる事が少なかった。
だが、実装されたユニオン機能が彼女の足踏みしている状態を打開する。 プレイヤーが集結し、組織を形成。 ゲームを有利に進めていくシステムだ。
彼女は即座にユウヤを誘ったが、返事はノー。 ユウヤにとってカナタは目障りな存在ではあったが行動を制限する権利は自分にないと思っていたのでプレイする事に関しては特に口は出さなかったが、自分をユニオンに入れて支配しようとする事だけは許容できなかった。
ユウヤはユニオン機能が実装されてから今日までに起こった出来事を反芻して目を閉じる。
とにかくしつこく自分のユニオンに入れと言って来る。 ゲーム内でメールを送ってくるだけならブロックしているのでまだ我慢は出来た。 だが、リアルでも言って来るのは許容できない。
毎日毎日しつこく言って来るのでいい加減に頭がおかしくなりそうだった。
だからユウヤは条件を出したのだ。 今回のイベントで当たった時、自分のチームに勝てたのなら入ってやる負けたら諦めろと。
個人戦ではなくユニオン戦といった条件を付けたのは寄せ集めのチームに負けるような場所に入る価値はないとカナタに思い知らせる為だ。 結局、一対一の状況に持ち込んでいる時点であまり意味のない前提ではあったが、大勢の前で負かせば後々言い訳もできないのでこの状況を作った意味はあったと思っている。
互いに武器を構える。 ユウヤは大剣、カナタも同様に大剣を抜く。
合図する事なく両者は同時に動き出し手に持つ武器を叩きつけた。
ユウヤはカナタの事は心底から嫌いだがスペックだけは評価している。
リアルでの学業の成績、コミュニケーション能力、運動神経とどれを取っても平均より遥かに優秀な成績を叩きだす。 その一点に関しては大したものだとは思っているが、彼に言わせれば中身が終わっているので好感を持つことは不可能だった。
さて、そんな彼女の操る機体『ヘレボルス・ニゲル』は白を基調とした特徴的なデザインとメイン武装である背の大剣。 性能は機動性に振っているので巨大な武器を持っているにもかかわらず動きは非常に速い。
そんな彼女の振るう大剣『レンテンローズ』は実体剣ではあるが刃部分にエネルギーを纏わせる事で切断力を上げているので物理、エネルギー両面で高い切断力を誇る。
加えて可変――中央が割れる形態に変形させる事で巨大なエネルギーの刃を形成し、地形ごと薙ぎ払うような使い方もできるので近接特化と侮る事は出来ない。
鍔迫り合いになるがユウヤは即座に大剣のギミックを機動。 刃部分から回転刃が出現し火花が散る。
機体の膂力はカナタの方が上なので力比べでは分が悪い。 火花を散らしながらも押し込まれる。
ユウヤはちらりとカナタの武器を見るが傷が付いている様子はない。
武器破壊を早々に諦め蹴りを入れようとするが、カナタはそれを読んでいたかのように後ろに飛んで下がる。 距離が開いたのでユウヤはここぞとばかりに右腕の散弾砲を二連射。
大剣を盾にして防がれるがユウヤの本命は別にあった。 左腕を一閃、仕込んでいた鞭がブレイバーの左足に絡みつく。 思いっきり引いて転倒を狙いつつ電流を流そうとしたが、次の瞬間には切断される。
手の甲辺りに仕込んでいるエネルギー式のダガーで切断したようだ。
ユウヤは鞭を巻き取りながら開いた距離を詰める。 その間に大剣をハンマーに変形させ下から掬い上げるように一撃。 狙いは胴体ではなく大剣だ。
手からすっぽ抜ければ最高だとは思っているが、跳ね上げるだけでも充分と判断しての一撃。
カナタはその一撃に反応し、正面からユウヤの一撃を迎え撃つべく振り下ろした。
凄まじい金属音がしてユウヤのハンマーが地面にめり込み、カナタの大剣が大きく跳ね上がる。
カナタはたたらを踏んで体勢を立て直そうとするのに対してユウヤは武器を手放し、拳を握ってヘレボルス・ニゲルの顔面に叩きつける。 態勢を崩した状態だったので完全に入り、カナタの機体がバランスを崩して転倒。 ここぞばかりにユウヤはハンマーを拾い全力で振り翳して叩きつけるように下ろす。
そこではユウヤの機体が単機で佇んでいた。 赤黒い機体は無機質にカメラアイによる視線をカナタに向ける。 長かった。 ようやくこの日が来た。 カナタは思う、ようやく収まるべきところに収まると。
「ユウヤ。 約束は覚えてる?」
「あぁ、そっちこそ忘れるんじゃねぇぞ」
今回の勝負、カナタが勝てばユウヤは『栄光』に入り、ユウヤが勝てば今後、このゲーム内でカナタはユウヤを勧誘しない。 本当ならリアルでも干渉しないにしたかったのだが、条件に釣り合わないとしてこうなった。 カナタとユウヤは幼馴染で家が近所、両親の仲が良く家族ぐるみの付き合いだ。
物心ついた時から姉弟のように過ごしてきた二人だったが、カナタはとにかくユウヤの行動に干渉した。
あれは駄目、これも駄目、自分が選んだこれにしろ、あれにしろ。
カナタとしては良かれと思ってやっている事ではあるが、ユウヤからすれば迷惑以外の何物でもない。
彼女はユウヤの事を手のかかる弟のように感じており、自分が居なければ何もできないと無意識に思っているのであれこれと指示を出し、こちらも無自覚だがその事に少しだけいい気分になっていた。
逆にユウヤはその点をよく理解しており、この女は自分を支配して悦に入りたいクソだと認識している。
そんな平行線のような交わる事のない感情を抱えた二人だったのだが、ある日を境にユウヤはこのゲームにのめり込み、現実から距離を置く事にした。 最初こそカナタは止めさせようとしたがユウヤは頑としてそれを拒み、言う事を聞かない。 これまでは不満を漏らしつつも自分の言う事には従ってきたので拒まれたのは意外だった。 だから彼女はやり方を変えたのだ。
自分も同じゲームを遊んでみようと。 ここまで執着する理由にも興味があった事もあり、割と軽い気持ちで始めたゲームではあったが、やってみると思った以上に面白かった。
友人も増え、個人ランクも順調に上がる事もあって気が付けばのめり込んでしまっていたのだ。
ゲームに慣れれば後はユウヤを手元に置けば完了ではあるだが、このゲームには当時プレイヤー間のコミュニティを作る機能がなかったのでユウヤに対してできる事が少なかった。
だが、実装されたユニオン機能が彼女の足踏みしている状態を打開する。 プレイヤーが集結し、組織を形成。 ゲームを有利に進めていくシステムだ。
彼女は即座にユウヤを誘ったが、返事はノー。 ユウヤにとってカナタは目障りな存在ではあったが行動を制限する権利は自分にないと思っていたのでプレイする事に関しては特に口は出さなかったが、自分をユニオンに入れて支配しようとする事だけは許容できなかった。
ユウヤはユニオン機能が実装されてから今日までに起こった出来事を反芻して目を閉じる。
とにかくしつこく自分のユニオンに入れと言って来る。 ゲーム内でメールを送ってくるだけならブロックしているのでまだ我慢は出来た。 だが、リアルでも言って来るのは許容できない。
毎日毎日しつこく言って来るのでいい加減に頭がおかしくなりそうだった。
だからユウヤは条件を出したのだ。 今回のイベントで当たった時、自分のチームに勝てたのなら入ってやる負けたら諦めろと。
個人戦ではなくユニオン戦といった条件を付けたのは寄せ集めのチームに負けるような場所に入る価値はないとカナタに思い知らせる為だ。 結局、一対一の状況に持ち込んでいる時点であまり意味のない前提ではあったが、大勢の前で負かせば後々言い訳もできないのでこの状況を作った意味はあったと思っている。
互いに武器を構える。 ユウヤは大剣、カナタも同様に大剣を抜く。
合図する事なく両者は同時に動き出し手に持つ武器を叩きつけた。
ユウヤはカナタの事は心底から嫌いだがスペックだけは評価している。
リアルでの学業の成績、コミュニケーション能力、運動神経とどれを取っても平均より遥かに優秀な成績を叩きだす。 その一点に関しては大したものだとは思っているが、彼に言わせれば中身が終わっているので好感を持つことは不可能だった。
さて、そんな彼女の操る機体『ヘレボルス・ニゲル』は白を基調とした特徴的なデザインとメイン武装である背の大剣。 性能は機動性に振っているので巨大な武器を持っているにもかかわらず動きは非常に速い。
そんな彼女の振るう大剣『レンテンローズ』は実体剣ではあるが刃部分にエネルギーを纏わせる事で切断力を上げているので物理、エネルギー両面で高い切断力を誇る。
加えて可変――中央が割れる形態に変形させる事で巨大なエネルギーの刃を形成し、地形ごと薙ぎ払うような使い方もできるので近接特化と侮る事は出来ない。
鍔迫り合いになるがユウヤは即座に大剣のギミックを機動。 刃部分から回転刃が出現し火花が散る。
機体の膂力はカナタの方が上なので力比べでは分が悪い。 火花を散らしながらも押し込まれる。
ユウヤはちらりとカナタの武器を見るが傷が付いている様子はない。
武器破壊を早々に諦め蹴りを入れようとするが、カナタはそれを読んでいたかのように後ろに飛んで下がる。 距離が開いたのでユウヤはここぞとばかりに右腕の散弾砲を二連射。
大剣を盾にして防がれるがユウヤの本命は別にあった。 左腕を一閃、仕込んでいた鞭がブレイバーの左足に絡みつく。 思いっきり引いて転倒を狙いつつ電流を流そうとしたが、次の瞬間には切断される。
手の甲辺りに仕込んでいるエネルギー式のダガーで切断したようだ。
ユウヤは鞭を巻き取りながら開いた距離を詰める。 その間に大剣をハンマーに変形させ下から掬い上げるように一撃。 狙いは胴体ではなく大剣だ。
手からすっぽ抜ければ最高だとは思っているが、跳ね上げるだけでも充分と判断しての一撃。
カナタはその一撃に反応し、正面からユウヤの一撃を迎え撃つべく振り下ろした。
凄まじい金属音がしてユウヤのハンマーが地面にめり込み、カナタの大剣が大きく跳ね上がる。
カナタはたたらを踏んで体勢を立て直そうとするのに対してユウヤは武器を手放し、拳を握ってヘレボルス・ニゲルの顔面に叩きつける。 態勢を崩した状態だったので完全に入り、カナタの機体がバランスを崩して転倒。 ここぞばかりにユウヤはハンマーを拾い全力で振り翳して叩きつけるように下ろす。
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