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第139話

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 ピクリとセンドウの僅かな動揺が機体に伝わる。
 何故ならヨシナリの始末に向かわせたフカヤが返り討ちに遭ったからだ。
 前回は碌な抵抗もないまま撃破に成功したので、味方と完全に切り離した状態なら警戒していたとしてもどうにでもなると判断していたのだが甘かったようだ。

 フカヤがやられた以上はヨシナリを抑えるのは自分の役目となる。
 位置は――掴めていない。 最大望遠でヨシナリが居るであろう場所を見てみると銃しかなかった。
 恐らくは遠隔で引き金を引く仕掛けを施しているのだろう。 居ると見せかけてフカヤを釣り出して逆に仕留めた。 前回の模擬戦からそこまで時間は経っていないにもかかわらずこの対応力。

 どうやら自分はヨシナリの事を過小評価していたようだ。
 センドウは少しだけ反省して意識を集中。 この戦場でこそこそと動き回っているであろう敵機を探す。
 彼女の機体はセンサー類――特に索敵に関してはちょっとしたものだと自負している。
 
 その為、隠れていたとしても何かしらの痕跡さえあれば見つける事は可能だ。
 ちらりと空の戦場へ視線を向けると味方の数が最初の七機から四機にまで減っている。
 ツガルがかなり頑張ってはいるが、完全に時間を稼ぐ事を念頭に置いた戦い方でこれだ。

 全滅は時間の問題と言わざるを得ない。 最初はイワモトが味方を庇いつつといった戦い方を想定していたのだが、そのイワモトが早々に落とされたので破綻したようだ。
 エンジェルタイプは既に全滅。 生き残っているのはキマイラタイプのみ。

 ツガル達も既にBランクに昇格しているので乗り換えは可能ではあったのだが、あえてキマイラタイプで挑んだのには理由があった。 エンジェルタイプは速く、小回りが利くが完全上位互換のエイコサテトラと勝負すれば間違いなく技量だけでなく純粋な性能差で圧倒される。

 それをどうになする為のキマイラタイプでの出撃だ。
 総合的な性能では下位ではあるが、直線加速ではキマイラタイプはエンジェルタイプを凌駕する。
 その強みを以って彼等は最強相手に逃げ回っているという訳だ。

 だからと言ってそれがいつまでも通用する訳がない。
 自分達の役目はカナタが憂いなく戦えるようにする事。 勝てれば最上だが、最悪カナタがユウヤを倒しさえすれば試合自体は負けてもいい。 この大会の目的はAランクプレイヤーユウヤの確保にあるからだ。

 ユウヤ。 プレイヤーとしての実力は非の打ち所がないといえるだろう。
 複雑な機構を積んだ癖のある武器を器用に使いこなし、あらゆる状況に対する柔軟な対応力。
 彼が味方に居る場合、チームとしての総合力は大きく引き上げられるだろう。

 ――ただ、ユウヤが協力的であった場合といった但し書きは付くが。

 センドウの見立てではユウヤは個人主義――要は集団での行動を不得手としているのでチームに組み込んだ所で機能するのかは正直、怪しいと思っていた。
 これは彼女の持論でもあったが突出した個人は士気を上げるのには有用だが、こと集団戦において味方と連動しない場合はチームにとってのノイズでしかない。

 与えられた役割を十全にこなし、役割に徹する事こそが集団戦の鍵だと思っているので本音を言えばユウヤを入れる事に彼女は内心では反対していた。 強い事は認めるが味方にはあまり欲しくない。
 それがセンドウのユウヤに対する考えだった。 表向きの理由はそうだが、表に出さない本音としては密かに妹のように思っているカナタにあそこまで冷たくするユウヤにいい感情を抱けないというのもあったので、二重の意味で彼女はこの戦いにあまり乗り気はしなかったのだ。
 
 だからと言って負けてしまってもいいとも思えない所が悩ましい。
 カナタはどうにもユウヤという人物に酷くご執心だ。 幼馴染が好きなだけなら甘酸っぱい青春の一幕とでも思えばいい。 問題はそれが執着心と呼べるレベルまで拗らせている点だ。

 そう、執着心。 明らかにカナタはユウヤと対等なパートナー関係を築きたいというよりは彼を自分の手元、目の届く範囲に常に入れておきたいといった様子が見て取れる。
 センドウから見てもそれは健全な関係とは言えないが、普段は他人の意見を真面目に聞くカナタがこれに関しては頑なに譲らないのだ。 過去にやんわりと言おうとした事もあったが、反応が読めなさすぎて触れる事を躊躇われて今に至っている。

 ここまで酷くなる前に何か言うべきだっただろうか?
 そんな後悔にも似た疑問はあるが、恐らくは反発されて終わりだろう。
 真に友人、仲間を名乗るなら言うべきだろうといった考えもなくはないが、彼女との関係が拗れる可能性を考えると気軽に実行しようといった気持ちにはなれなかったのだ。
 
 「……はぁ」

 小さく溜息。
 上手く行っても失敗しても一波乱起きるのは確定なので先の事を考えると気持ちが重い。
 嫌な戦いだった。 場合によっては勝った時の方が酷い結果になりかねないのだ。
 あのユウヤが強制的に配下に置かれて笑える訳がない。 そんなストレスを抱えた人間を傍に置く事になるのも気が重い。 だからと言って負けた場合、ユウヤに干渉できなくなったカナタがどんな反応をするのかもあまり想像したくなかった。

 ――どちらにしてもやるしかないのだ。

 不意にセンドウの機体によって拡張された視覚が動く何かを捉えた。
 見つけた。 推進装置を使わずに移動していたので発見が遅れてしまったが、一度見つけてしまえばもう逃がさない。 ヨシナリの機体は目を凝らさないと視認できないようになっていた。

 その理由は全身をすっぽりと覆う布にあった。 周囲の色に合わせている事で視覚的にも見辛いが、様々な探知を妨げる機能を備えた迷彩装備だ。 姿を消すという点では完全ではないが、センサー類から消えるという点においては非常に優れている。 問題としては強度が皆無な点。

 何かに引っ掛けて破ってしまうと途端に効果を失う。
 加えて布越しに何かを見る事は出来ないので主に狙撃手が一歩も動かずに隠れる際には重宝するがそうでないなら邪魔になるというのがセンドウの評価だった。

 罠を仕掛けたりと細かく動き回る彼女のスタイルとは合わないので持ってはいるが使ってはいない装備だった。 ただ、仕様に関しては頭に入っているので何の問題もない。
 待っているだけだと余計な事を考えてしまうので今は戦闘に没頭しよう。

 センドウはそう考え、照準の向こう側に意識を傾けた。
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