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第134話

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 最初の博打には勝った。 相手は防御フィールドの発生装置を積んでいない。
 前の試合を見た時点で多少はそんな気がしていたので分の悪い賭けではなかった。
 根拠としては隊長機を残して全滅していた事。 イベントでも散々見て来たパンツァータイプの頑強さは相当の物だ。 無敵ではないが仕留めるのに時間がかかるとヨシナリは認識していた。

 そんなパンツァータイプが半数を占めているこのチームが全滅するのは防御を捨てている事に他ならない。
 チームのコンセプトは前のめりに相手を叩き潰すといった所だろう。
 とにかく火力でゴリ押す事に念頭を置いた戦い方だ。

 何とも偏った連中だと思いつつもそう言ったこだわりは割と大事だとは思っているので特に否定するような事は考えずにありがたく突かせて貰おうと狙ったのだ。
 そして次の博打だ。 さて、このアノマリーは実弾、エネルギー弾の撃ち分けが可能という優れものだが、同ランクの武器――要はエネルギー特化の武装に比べると実弾の発射機構を積んでいる分、出力が弱い。
 
 有り体に言うと同カテゴリーの武器の中でも威力がないのだ。 それでもトルーパーを撃ち抜くぐらいは楽勝なのだが、この水中というエネルギー系の兵装が著しく減衰する環境でその差は大きい。
 幸いにも水中で使用しても壊れたりはしないので撃つだけなら問題はない。 ただ、パンツァータイプの装甲を抜きたいのなら銃口は水面から出す必要がある。 

 ――このミサイルやら砲弾の雨の中でか……。

 はらはらするなぁと思いながらすっと水面から銃口を出して発射。
 ある程度近づけばあれだけ撃ちまくっている相手なので探すまでもない。
 ついでにパンツァータイプは旋回にやや時間がかかるのでそう躱される心配もなかった。

 狙うのは人間で言う鳩尾の上――要はコックピット部分だ。
 一撃で仕留めないと不味い。 実は仕留めても不味いのだが、やるしかないのが辛い所だ。
 発射。 エネルギー弾は思い描いた軌跡を描き、吸い込まれるようにコックピットに直撃。

 仕留めた手ごたえがある。 思わず拳を握りかけたが、ヨシナリは急いで水中に潜った。
 潜行したと同時にさっき銃口を出した辺りに攻撃が集中。 

 「……ですよねー……」

 あっという間に湖底に辿り着いたヨシナリは思わずそう呟く。 底に着いたからと言って安心はできない。 急いで湖から出ないと不味い。
 センサー越しに居場所を大雑把に把握してそこ目掛けてミサイルや砲弾をばら撒くのが彼等の戦闘ス方針だ。 見えてないからそうしているのだが、あの一発で居場所が完全に割れてしまった。
 
 そうなれば攻撃が集中するのも当然だ。 砲弾は水が防いでくれるがミサイルはそうはいかない。
 水中で爆発して容赦なく衝撃波を叩きつけてくる。 離れていてもビリビリと衝撃が機体に伝わりダメージを知らせる警告ウインドウが視界の端にポップアップ。

 今の所はセンサー系にダメージを受けてパフォーマンスの低下程度で済んでいるが、このままだと深刻なダメージが入るだろう。 

 「それにしても――」

 さっきからどれだけ撃ち込んでるんだ? ミサイルだけでも数十発。
 明らかにトルーパーに詰めるキャパシティーを超えている。
 
 ――あれだろうなぁ。

 防御兵装を積んでいない最大の理由だろう。 本当なら適正ランク以上の装備だが、大きなユニオンなら人数分用意できてもおかしくはない。 具体的に何かというとミサイルの精製装置だ。
 ミサイルをその場で作り出して給弾するシステム。 所謂、3Dプリンターだ。
 
 前のイベントの終盤に現れた恐らく運営の用意したであろうトルーパーが使っていた物の下位互換。
 アレは即座に腕を生み出すといったふざけたスペックだったが、本来の使い方は銃弾やミサイルを生み出して弾残を増やしたりする用途で使われる。

 攻撃が途切れない最大の理由がこれだ。 即座に作り出せる訳ではないので、三機がローテーションを組んで攻撃をばら撒いていたのだろうが一角を崩したので間隔に穴ができるか、回転が遅くなるはず。
 ヨシナリは大きく深呼吸。 奇襲は一回しか通用しない。 
 
 次は覚悟を決める必要がある。 このまま水中にいると嬲り殺しにされるので飛び出していかなければならない。 逃げて態勢を整える事も選択肢としてはありではあるが、このチームで消極的な行動は悪手だ。 チームメイトからの評価はお世辞に高くはないが、これまでの戦いを通してそこそこ使える奴程度の認識はされていると信じたいので日和って折角上がった(と思われる)株を落とすような真似はしたくない。 というよりはできない。

 理由としては逃げると敵は深追いせずにユウヤの戦いに混ざりに行くだろう。
 一機やられた事でヨシナリの評価を格下から厄介な獲物に変えたはずだ。 
 そんな相手に深追いするか? 仲間がやられて頭に血が上っているのならやるだろうが、こんな大会に選ばれるようなプレイヤーがそんな真似をするとは思えない。 放置は厄介であると思っているだろうが、見つからない相手を探して時間を浪費するよりは人数をかけて居場所が割れている敵を処理する方が合理的だ。 ヨシナリは自分ならそうすると思っていた。

 付け加えるなら自分なら下がると見せかけて敵を焦らせて釣り出す所まで視野に入れる。
 その為、ヨシナリはここで逃げる訳にはいかなかった。 動きをイメージする。
 敵はこちらの位置を掴めているが、見えていない以上は完全ではない。
 
 ――まぁ、湖から出た時点で完全に捕捉されるが。

 付け入るならここだろう。
 初手で一機撃破すれば残りを仕留められる可能性が大きく上がるが、しくじれば確実にやられる。
 迷うが選択肢がないので行くしかない。

 「よし、行くか」

 覚悟を決める。 飛び出すのはは攻撃が僅かに途切れるタイミング。
 そこまで大きな切れ目ではないが、一機潰したのは大きい。 
 配置は二機が間隔を空けての横並び。 移動ルートは飛び出して側面を突く形。
 
 要は片方を盾にする位置取り。 使っていないが恐らく積んでいるであろうガトリング砲があるので効果はあまり期待できないがやらないよりはマシだ。
 ミサイルの爆発を頭の中で数える。 大きな爆発が一回、中程度の爆発が四回、小さな爆発が四回で僅かに途切れる。 装備は背中にデカいミサイル発射管、両肩に六連発のランチャー。 腰辺りに小型のミサイルポッド恐らく四連発が二基。 半分撃って給弾、その間に片方がばら撒いて時間を稼ぎつつ攻撃を途切れさせないといった所だろう。
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