上 下
129 / 386

第129話

しおりを挟む
 「時間がない。 ユウヤが追い付いてくる前に仕留める」

 フィアーバは周囲の味方を一瞥して力強く言い放つ。
 キマイラ五、エンジェル三、そして自分と相棒の機体。
 行ける。 いかに最強のSランクだろうがプレイヤーである以上、無敵ではない。

 彼の機体である『レジリエンス』は防御に比重を置いた機体だ。 
 両腕、両肩にマウントされたエネルギーシールド発生装置は円形の小楯としても扱えるが、中心に巨大なエネルギーの大盾を展開する事で堅牢な防御を誇る。 その為、攻撃力にやや欠けるが、堅牢さならAランクでも上位に位置すると自負していた。 防御に偏っているお陰でランク戦での勝率はあまり高くはないが、こういった集団戦では実力以上の力を発揮する。

 そしてこの戦いの要――彼の相棒であるプレイヤー『ウィル』とその愛機である『ライトハーテッド』。
 極限までの軽量化による高機動に収束する際の形状を変える事によりブレードだけでなく、ナイフや鞭といった間合いを変幻自在に変える武器を持つ近接戦のスペシャリストだ。

 最も確実な手としてはウィル以外の全機でどうにかラーガストの動きを止めて仕留める。
 この環境、地形、全ての状況から導き出される最も勝率の高い手だ。
 
 「頼むぜ相棒」
 「まっかせなさい! 打倒Sランク、やってやろうじゃない!」

 そう返したのは快活な印象を与える女の声。 いつもの彼女だ。
 ラーガスト相手に気負いもない。 充分に勝てるチームだ。
 レーダー表示と目視で位置関係を確認。 ラーガストの間合いに入るまで三、二、一――

 「来るぞ」

 見た目では距離があるのように見えるがエイコサテトラの突進力は常軌を逸している。
 普通なら銃を用いなければ届かないような距離ですら彼にとっては間合いの内なのだ。
 エイコサテトラの背面ウイングが発光。 次の瞬間、機体が視界から消える。
 
 ――ここだ。

 フィアーバは両腕のシールドを重ねて展開。 ウィルを狙った刺突を際どい所で受け止める。
 凄まじい突進で勢いこそ止めたがブレードがエネルギーシールドを貫通してウィルに触れそうになっていた。 知ってはいたが、心臓に悪い攻撃だ。

 反応が僅かに遅れていたらその瞬間に落とされていただろう。
 ウィルはラーガストを認識すると自機の武器――エネルギーブレードを展開し一閃。
 エイコサテトラは二枚のウイングを噴かして凄まじい速さで後退。 フィアーバは咄嗟にシールドを切って拘束を解く。 そうしないと機体ごと持って行かれるからだ。

 エイコサテトラ最大の強みは急加速、急旋回。 
 尋常ではないプレイヤースキルから繰り出されるそれらは物理法則すら無視しているのではないかとさえ言われている。 実際、意味不明な軌道を描いて飛んでいるエイコサテトラの姿を見ればそう言いたくなるのも無理はない。 捉えるのは至難だ。

 だが、至難であって不可能ではない。 加速から旋回に入るまでの間は必ず直線になる瞬間がある。
 狙うのはそこだ。 左右からキマイラパンテラがエイコサテトラを挟むように移動。
 両肩に搭載されている散弾砲を発射。 撃ち出された砲弾が空中で弾けて散弾を撒き散らす。

 点でも線でもなく面。 とにかく回避の余地を減らす攻撃を繰り返す。
 左右からの攻撃にどう対処するか? 想定されるパターンは三つ。
 加速で突き抜けるか上に抜けるか、後は意表をついて防ぐのどれか。

 三つ目は考えにくいのでどちらかになるだろう。 
 フィアーバの勘ではラーガストはそのまま突き抜ける。 何故なら彼はSランク。
 最強のプレイヤーなのだから。 その自負があるなら真っすぐに突き抜けるだずだ。

 「ほらな」

 彼の予想通りエイコサテトラは散弾が到達する前に攻撃圏を突き抜ける。
 想定通り。 残ったノーマルのキマイラタイプが戦闘機形態でエイコサテトラを追いかけるように背後に張り付く。 直線加速ならどうにか食い下がれるが旋回性能で天と地ほどの開きがあるので近寄れるのは僅かな時間。 背後から内蔵された散弾砲を連射する。
 
 本来は機銃なのだが、対ラーガスト対策に散弾砲に変えた。 キマイラタイプに内蔵できるサイズなので口径も落ちる上、重く、何より高い。 だが、Sランクを仕留めるのであればこれぐらいの犠牲は払うべきだ。 真後ろから撃たれたら地形的に左右には躱し辛い。

 なら上しかない。 そこで待ち受けているのがエンジェルタイプだ。
 全機エネルギーショットガン――拡散したエネルギーの弾丸を吐き出す武器を構える。
 今回の戦いに臨むにあたって全員が射程を犠牲にして攻撃範囲の広い武器を選んだ。
 
 意地でもラーガストを叩き落とす為だ。 表には出さないがフィアーバは少しだけ不快だった。
 この戦いは十人一組だ。 つまり星座盤は後、七人分の枠があったのに使っていない。
 要するに奴はこの戦いを舐めているのだ。 三人――Aランクのユウヤは分かるが、残りはよく分からないぽっと出のFランク。 ふざけるなと声を大にして言ってやりたいが、ここで叩き潰す事でその慢心から来る高いプライドを圧し折ってやる。 そんな気持ちで彼等は全力で殺しに行っていた。

 エンジェルタイプ三機は攻撃範囲が被らないように配置。 
 範囲を極限まで広げた攻撃を躱す選択肢はそう多くない。 
 防御して強引に突っ切るなら後ろからキマイラタイプが背後から追撃。
 
 エネルギーウイングを一基でも破壊できればかなり楽になる。 
 そんな事は当然、想定しているだろうから躱すなら急旋回。 当然のようにフェイントも交えてくる可能性もあるのでエンジェルタイプを扱っているプレイヤー達にはとにかく撃ちまくれと言っておいた。

 ユウヤが来るまでまだ十数秒ある。 時間は充分に残っているんだ。
 
 ――さぁ、どっちに躱す?
 
 左右か? それとも上下? 強引に突っ込む?
 選択の時間は一秒もないぞ。 さぁ、Sランクの判断は?
 エイコサテトラは一瞬、制止して急上昇。 上! 想定した中で最高の選択肢。
 
 「貰ったぁぁぁ!」

 太陽を背負ってウィルの機体が急降下。 彼女は他が追い込んでいる間に急上昇し、奇襲をかけるべく上空で待機していたのだ。 エイコサテトラの急上昇に合わせての急降下。
 ラーガストはその加速故に敵の接近を許すのだ。 得意の急旋回で躱すのはタイミング的には難しい。 仕留められるかは怪しいが足を止めるぐらいは行けるはずだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

終末の運命に抗う者達

ブレイブ
SF
人類のほとんどは突然現れた地球外生命体アースによって、消滅し、地球の人口は数百人になってしまった、だが、希望はあり、地球外生命体に抗う為に、最終兵器。ドゥームズギアを扱う少年少女が居た

サクラ・アンダーソンの不思議な体験

廣瀬純一
SF
女性のサクラ・アンダーソンが男性のコウイチ・アンダーソンに変わるまでの不思議な話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派
SF
『科学の魔女は、空色の髪をなびかせて宙を舞う』 高校を卒業後、亡くなった両親の後を継いで工場長となったニ十歳の女性――空鳥 隼《そらとり じゅん》 彼女は両親との思い出が詰まった工場を守るため、単身で経営を続けてはいたものの、その運営状況は火の車。残された借金さえも返せない。 それでも持ち前の知識で独自の商品開発を進め、なんとかこの状況からの脱出を図っていた。 そんなある日、隼は自身の開発物の影響で、スーパーパワーに目覚めてしまう。 その力は、隼にさらなる可能性を見出させ、その運命さえも大きく変えていく。 持ち前の科学知識を応用することで、世に魔法を再現することをも可能とした力。 その力をもってして、隼は日々空を駆け巡り、世のため人のためのヒーロー活動を始めることにした。 そしていつしか、彼女はこう呼ばれるようになる。 魔法の杖に腰かけて、大空を鳥のように舞う【空色の魔女】と。 ※この作品の科学知識云々はフィクションです。参考にしないでください。 ※ノベルアッププラス様での連載分を後追いで公開いたします。 ※2022/10/25 完結まで投稿しました。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

処理中です...