Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第128話

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 話している内に一回戦が終了したので二回戦の開始となる。
 どうでもいいがそれなりの長丁場になるのに一日で終わらせようとするのはスケジュールが押しているのだろうか? それとも面倒だから一日で済ませる?

 どちらにしても考えても意味のない話ではあるが、こうして時間が空くと割とどうでもいい事を考えてしまう。 ヨシナリ達は自機と共にフィールドへ転送される。
 二回戦のフィールドは渓谷地帯。 高低差があり、身を隠す場所が多いので狙撃には割と適している。
 
 相手の出方次第だが、何も言わないでも突っ込んでいく二人に敵を任せて隠れて狙撃を狙うのもいいかもしれない。 最終的に方針を決める為の目安となるのは敵がどの程度、ヨシナリの事を軽く見ているかで決まる。 多少なりとも重く見ているのなら二機から三機送り込んで先に処理するだろう。

 そうでないのなら完全無視か一機送って終了だ。
 一回戦で当たったカヴァリエーレは前者――軽く見ていたのでキマイラタイプを一機送って処理しようとした。 そのキマイラタイプ使いもヨシナリの事を障害物程度としか認識していなかったのでその隙を突く形で勝利できた。 相手もこちらのリプレイ映像を見ているので、流石に無視はしてこないと思うが今回はどう動くか……。

 そう思いながら真っ先に周辺地形のマップを呼び出し、良さそうな狙撃スポットをピックアップ。
 取り敢えず、身を隠しつつ敵を狙いやすい場所へ行くとしよう。
 この戦場でソルジャータイプを使っているのはヨシナリだけなのだ。

 つまり機体のスペックが一番低い。 今後の試合全てに言える事だが、性能勝負に持って行かれない事を念頭に置いて行動する事が必須となる。 レーダー表示を確認すると敵機の姿は映っていない。
 ――が、遠くから接近してくる光点がいくつか見える。

 恐らくレーダー表示を無効化する装甲か装備、ヨシナリは両方だろうなと思っていたのでレーダーは地形の把握にだけ使用するべきだと即座に割り切った。 さて、ヨシナリ自身の方針は決まったが他はどうだと見てみるとラーガストは即座に敵のいるであろう方へと飛んでいき、ユウヤもアルフレッドを連れてさっさと敵の方へと向かっていった。

 そんな二人に内心で溜息を吐きつつ、まあいいかと谷間へと降りていく。
 中々、良さそうな場所を見つけたのでそこに陣取る事にしたのだ。 最悪、今回は出番ないかもしれないとちょっと危機感を覚えつつヨシナリは味方とは逆方向へと機体を向けた。


 ――二回戦で当たるとは面倒な。

 それが星座盤と当たったユニオン『タヴォラロトンダ』のリーダーであるフィアーバの偽らざる感想だった。 ラーガストの強さはAランク以上のプレイヤーならば嫌というほどに味わっており、辛酸を舐めさせられていない者はまずいない強敵だ。 少なくとも彼はラーガストが負けている所を見た事がない。

 そもそも出てくること自体が想定外だったので彼の参戦は完全に寝耳に水だった。
 予戦で同じブロックではなかったので助かりはしたが、勝ち進めば本戦で当たるのは目に見えているので、慌てて対策を練る必要があった。 トーナメント表が発表されてからは猶更だ。
 
 一応ではあるが付け入る隙は充分にあった。 一回戦、カヴァリエーレとの試合を見ても分かるのだが、星座盤は寄せ集めの急造チームだ。 その為、連携といった概念が存在しない。
 ラーガストもユウヤも各々好き勝手に動くだけ。 つまり一切、連動しないのだ。

 最も分かり易く付け入り易い隙だろう。 負けたコンシャスもその点をよく理解しており、分断して各個撃破を狙ったのだが、返り討ちにあった。 フィアーバもいい手だとは思っており、彼の立場でも同じ事をしていただろう。 ただ、失敗要因としては戦力配分の見積もりの甘さと地形が平坦だった事だ。

 しかし、今回は違う。 地形はやや複雑な渓谷地帯で距離も離れており、敵のチームは三機とも機動性に大きな開きがある。 そこから導き出される展開は――

 「やはり来たか」
 
 ――一番足の速いラーガストが突出する事だ。

 フィアーバの考えた作戦は非常にシンプルだった。
 全員でラーガストを袋叩きにして撃破し、次にユウヤ、最後にヨシナリを仕留めるといったものだ。
 その為に全員で移動速度を揃え、敢えて一気に距離を詰めずにこれ見よがしに接近して見せた。

 すると自身の強さに胡坐をかいたラーガストは何も考えずにイノシシか何かのように突っ込んでくる。
 彼の機体、エイコサテトラの強さは痛いほどに理解していた。 何度も負けて何度も研究を重ねた。
 その上でフィアーバの出した結論は『単騎では厳しい』だ。 アレはプレイヤーではなく、レイドボスかなにかと認識した方がいい。 一対一で戦う相手ではない。

 だが、裏を返せば一対一でなければいくらでもやりようはある。
 
 「全機! 予定通り、キルゾーンに誘い込むぞ!」

 エイコサテトラを完全に目視できる距離まで接近したと同時に飛行可能機体は全て急降下して渓谷へと降りる。 地上を進んでいた者もそれを追う形で斜面を下っていく。
 渓谷なので降ればそれなりに狭くはなるので、比較的ではあるが戦い易い。
 
 エイコサテトラを仕留めたいのならまずは移動に制限のかかる場所に誘い込む事は基本といえる。
 あの機体の最大の持ち味は常軌を逸している加速だ。 当然ながら、そのスピードを完全にコントロールするラーガストの技量もそうだが、とにかく何もない場所でその足の速さを使われたら何もできずに各個撃破されて終わる。 ならば地形を上手に利用してその足を殺すとまでは行かなくても多少なりとも引っ張れれば勝機は見いだせるはずだ。

 フィアーバにとって残念なのはここが峡谷ではなくて渓谷だったからだ。
 峡谷であったならもっと移動を制限できたのだが、ないものねだりをしても仕方がない。
 ここで仕留める。 ラーガストは間違いなく先行して単騎で仕掛けてくるだろう。
 
 後続のユウヤが追い付いてくるまで三十秒もかからないだろうが、裏を返せば追いついてくるまではラーガストはたったの一人。 後続の援護もない。
 ヨシナリの機体は狙撃が主体ではあるがこの地形では射線を取れる位置はそう多くない。

 無視は危険だが、そのリスクを負ってもエイコサテトラを撃墜する事が重要だ。
 
 「速攻で捉えて速攻で撃墜するぞ」

 フィアーバの言葉に他のメンバー達は応と力強く応える。
 良いチームだ。 彼は心の底からそう思う。 

 ――Sランカー、ここで潰す。
 
 彼等は必勝の念を込めて戦いの場へと到着した。
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