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第127話

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 ツガル達と別れたヨシナリは面倒な事になったなと思いつつどうしたものかと考える。
 元々、ユウヤとカナタの二人に問題があったのは条件を出された時点で察してはいた。
 正直な話、どの程度深刻なのかの判断もつかなかったので安請け合いした事は否めない。

 ――このイベントに参加したいのであれば選択肢はあってないような物ではあったが。

 流石に本人に聞くのは憚られたので尋ねる相手はラーガストだ。
 幸いにも二人は友人ではあるが、ある程度の距離感があるので常に一緒にはいない。
 ちらりとウインドウで試合の状況を確認すると他の試合がいくつか継続中だ。

 軽く覗いてみると膠着状態なのでまだ少し猶予はあるだろう。
 その間にダメ元ではあるが話をしておきたい。 時間もあまりない状況なので話を聞きたいなら急ぐべきだ。
 軽く視線を巡らせると――いた。 少し離れた位置でユウヤはウインドウを開いてぼんやりと他の試合を眺めており、ラーガストは腕を組んで壁に寄りかかっている。

 「ちょっといいですか?」
 「どうした?」
 「実はですね。 さっき『栄光』の人達に声をかけられまして……」
 「……まさかとは思うが負けてくれとでも頼まれたか?」
 「それこそまさかですよ。 向こうの話としてはどうにかこの話を丸く収めたいから協力して欲しいとの事でして」

 それを聞いたラーガストは鼻を鳴らす。 

 「無理だと思うがな。 ユウヤのあの女へのアレルギーは筋金入りだ。 リアルは知らないが、こっちにいる間、干渉を完全にカットできるチャンスをみすみす逃すとは思えない。 意地でも仕留めに行くだろう」
 「いや、俺としてもそうなったらそうなったで構わないんですが、『栄光』さんには模擬戦やらでお世話になったんでなるべくどちらにとってもいい形で決着を着けたい――というよりは今回に限って言うなら俺の関与を離れる段階まで何も起こらずにいて欲しい感じですね」

 ヨシナリからすればカナタもユウヤも知人止まりの関係だ。
 積極的にはいい顔をしたい訳ではないが、関係が悪くなる事は可能な限り避けたかった。
 折角、ハイランカー様とお知り合いになれたのだ。 機会があれば貸しを作っていざという時に何かを要求できるようにしておきたい。 具体的には今回のような助っ人とか。

 「……話は分かった。 要はお前は今回の一件をうやむやにしてやり過ごしたいと」
 「有り体に言えばそうです。 大した付き合いではありませんが、あの二人の関係ってもうどうにもならないレベルでしょ? ツガルさん――『栄光』の人達はもっと丸く収めたいみたいですけど、俺の見立てじゃ無理ですね。 どっちかが泣かないと終わらない。 違いますか?」
 
 ラーガストは少し悩むような素振りを見せるが、ややあって小さく頷く。

 「お前の言う通りだ。 あの二人の関係はどこまで言っても平行線だ。 『栄光』の連中の魂胆も見えてる。 大方、ユウヤにどうにか妥協させようって腹だろ」
 「……そこは否定しません」

 ツガルもイワモトもカナタの仲間である以上、彼女寄りに物事を考えている。
 口ではああは言っていたが、内心ではユウヤを引き入れる事で丸く収めたいといった考えが透けて見えていたからだ。 それが悪い事とは思わない。
 
 人間である以上、碌に知らない相手よりも見知った相手に寄り添うのは当然だ。
 ヨシナリもマルメルやふわわと知らない他人が対立しているなら内容次第ではあるが大抵の場合は前者に味方するだろう。 
 
 「――で? わざわざ俺に話を持ってきてどうして欲しいんだ?」
 「いや、実を言うといくつか案がありまして、聞いた上で協力してもいいって気持ちになってくれるなら手を貸して貰えればと思って……」

 ラーガストは無言。 ヨシナリは内心で冷や汗をかきながら少し図々しすぎたか?
 いや、今回の目的の大部分はユウヤ絡みの話なのだ。 ここで日和ると碌な事にならない。
 ヨシナリの意図をどこまで察しているのかラーガストは小さく溜息を吐く。

 「俺がカナタを仕留めろって話だろ?」
 「…………はい」

 一番分かり易く手っ取り早い解消法だ。 
 少なくともそれをやれば問題は改善はしないが悪化もしない。
 やり過ごす事を念頭に置くのなら最善の手段といえる。

 「それをやると俺があいつにどう思われるかは考えているのか?」 
 「だからこうして相談させて貰ったんです」
 
 ラーガストがそれをやれば間違いなくユウヤからの顰蹙を買うだろう。
 ヨシナリは理解して提案した。 理由としてはどっちの方がマシなのかの判断が付かなかったからだ。 ラーガストが同意すればこのイベントでの状況は悪化しないだろう。

 先の事は知らないが。 ユウヤが個人戦ではなくわざわざイベントで今回の賭けを持ち出した理由に関しては理解している。 彼が誘われているのはあくまでユニオンにだ。
 本音はユウヤを手元に置きたいカナタの思惑が強く反映された結果なのも理解しているが、このユニオン対抗戦で勝利する事でユニオンに参加するメリットを感じないと周囲にも見せる事ができる。

 そうなればカナタも手を出し辛くなる。 彼女は要求こそストレートだが、本音は頑なに表に出さないのでこのやり方は効果があるとみていい。 そもそもカナタとそれなり以上に付き合いの長いユウヤがそう判断したのなら十中八九間違いないとみていいだろう。 

 「お前の話は理解した。 どうにかしたいと思っている理由も納得している。 その上でいうが、俺とあいつは慣れ合う関係ではないがダチではある。 言ってる意味は分かるか」
 
 つまり協力はできないという事だ。 特に失望はない。
 逆の立場ならヨシナリも高確率で断っていたからだ。 

 「まぁ、しょうがないですね」
 「……ここはお前が自分で仕留めるとか息巻くところだと思ったぞ」
 「いやぁ、やるだけやってもいいんですけどカナタさんの取り巻きってツガルさん達でしょ? 実は俺、ユニオン戦であの人達に手も足も出ずにボコボコにされまして。 情けない話ではあるんですが、ラーガストさんやユウヤさんがいるなら充分に勝てる事もあって形だけでも借りを返しておきたいんですよ」

 やられっぱなしは性に合わない。 
 カナタ達の事は気にはなっているし、可能であれば何とかしてやりたいと思っているのも本音だ。
 だが、それはそれ、これはこれ。 また別の話だ。
  
 ヨシナリとしてはセンドウ、ツガル、フカヤの三人は将来、叩きのめすリストに入っているのでリベンジの機会は逃せない。 
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