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第126話

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 一回戦が終了し、ヨシナリ達は待機場所に戻された。
 他と比べて早く片付いたようで他のプレイヤーの姿はほとんどない。
 取り合えず一回戦が全て片付くまでは待機のようだ。 その間に他の試合を見る事も可能なので待っていのも暇なので次に当たる相手を確認しておくべきだろう。

 ――えーっと相手は――

 ユニオン名は『タヴォラロトンダ』試合は既に終わっているようだ。
 アーカイブされているリプレイ映像の再生が可能なので確認を行う。
 ラーガスト達には声をかけない。 あの二人はあまり興味がなさそうにしていたので取り合えず一人で見て気になる事があったら相談する形が良いだろう。

 リーダーは『フィアーバ』というプレイヤーでAランク。
 ここまで来るようなチームだと大抵はAランクを抱えているなと思いながら次に戦力構成を確認。
 Aランクの特注機が二。 あぁ、もう一人いるのか。

 内心で厄介だなと思いながら他はと確認するとキマイラが五。
 その内、二機が四つ足のキマイラパンテラフレームーーアルフレッドのループスと違ってネコ科を思わせる形態で速度に優れている。 残りはエンジェルタイプ。
 カスタムが進んでいる様でカラーリングもそうだが、装備が特定方向に特化している印象を受けた。

 個人で尖らせているのなら強力な個人の集まりではあるが、そうでなかった場合は厄介だ。
 残念ながら映像を見る限り、そうでないようだ。 このチームは役割を決めて連携を強く意識した立ち回りを行っている。 攻撃、防御、支援とその全てを高い水準でこなし、危なげなく勝利。

 ここの技量も高いが連携の質がそれを更に押し上げている。
 さっき対戦したチームもしっかりとした形にはなっていたが、分断を意識しすぎていたので連携という点では付け入る隙は多かった。 もしかすると物量差による慢心もあったのかもしれない。

 ――まぁ、こっちにはラーガストが居たからなぁ……。

 Sランクの強さは何度も戦ったからこその警戒だったんだろう。 残念ながら結果は伴わなかったが。
 難しい話だなと思いながら映像をもう一度、特にエンジェルタイプとキマイラタイプの連携を意識して見直そうとしたらポンと肩を叩かれた。
 振り返るとそこにはプレイヤーが二人。 ツガルとイワモトだ。

 「よぉ、三人で勝っちまうとは大したものだ」
 「リプレイを見せて貰ったよ。 あの状況で二機撃破とはすばらしい戦果だね」
 「はは、チームメイトのお陰ですよ。 そっちも勝ったみたいですね。 ――ところでどうかしましたか?」

 知り合いではあるがこんな頻繁に声を掛け合うような仲ではないと思っていたので、何か用事があるんだろうなとぼんやりと察していたヨシナリの質問にツガルとイワモトが顔を見合わせる。
 明らかに言い辛い話題のようでヨシナリは内心で面倒だなと思いつつ先を促す。

 「あー、ほら、さっきウチのボスとユウヤの話はしただろ?」
 「はぁ、まぁ聞きました」
 
 話を振ってきたにもかかわらずツガルの言葉はどうにも歯切れが悪い。
 イワモトも不本意と言った様子がアバター越しでも良く分かる。
 その時点で嫌な予感しかしなかったが、聞かなければ始まらない。

 「つまり、なんだ。 あの二人は賭けをしている。 勝った方が負けた方の要求を呑むってな」
 「はぁ」
 「あー、その、だな……」

 そこまで言うとツガルは目を逸らして「あー、そのー」といつまで経っても本題に入らない。
 見かねたのかイワモトが口を開く。

 「我々はカナタ君とユウヤ君の関係が上手く行ってくれるようにと思っている。 理由は単純で、我々のユニオン『栄光』は彼女を中心としている集団なので彼女がまともに機能しないと場合によっては活動に支障が出かねない。 だから話が拗れない程度で我々に何かできないかと思ってね」
 
 二人の主張は理解した。 要は今回の一件をどうにか穏便に着地させたいと思っているようだ。
 特に今回の賭けの代償は拘束力が非常に強い。 勝っても負けても遺恨が残るだろう。

 カナタのユウヤに対する執着を見れば関わる事が出来なくなった場合、ゲームのモチベーションに深刻な影響が出る可能性は極めて高い。 ツガル達としてはそれを強く懸念しているのだろう。
 仮にカナタが勝った場合、丸く収まるのか? そうなった場合、間違いなくユウヤは『栄光』に入る事となるだろう。

 そうなればカナタの機嫌は良くなりモチベーションも間違いなく上がる。
 だからと言って何の問題もないのかと聞かれると疑問符が付く。 
 形としては嫌がるユウヤを無理矢理引き入れるのだ。 カナタはともかく、今度はユウヤのモチベーションが大きく落ち込むだろう。 

 「個人的にはどうにかうやむやにしたいというのが本音でね。 この勝負、どちらに転んでも碌な結果にならない。 我々としてもユウヤ君に嫌な思いをさせるのは本意ではないのだ」
 「……俺としてもボスがゾッコンなのを知ってるから何とかしてやりたいと思ってるけど、あのユウヤって奴の反応を見ると割とガチで嫌がってるんだよなぁ。 単に切っ掛け欲しがってるだけのカップルもどきだったらそんなに難しく考えなくてもいいんだが、どっちもガチなんだよなぁ……」

 そう言って二人は大きく肩を落とす。 それを聞いてヨシナリは内心でこれは無理じゃないかと思っていた。 カナタは本気でユウヤを欲しがっており、ユウヤは本気でカナタを嫌っている。
 この構図を崩さない限り二人の関係はユニオン『栄光』にとっていつ爆発するか分からない爆弾として存在し続けるのだ。 二人にとってはかなり深刻な問題かもしれないが、ヨシナリからすれば知人の人間関係のトラブルなのであまり強い関心を抱けない。 
 
 今回のイベントはラーガストからの依頼でカナタを倒してユウヤの望みを叶える。
 その結果、二人の関係がどうなろうと知った事ではない――と言いたいが、短い期間ではあるがチームメイトとして世話になったので可能であれば何とかしてやりたいとは思っている。

 カナタにも模擬戦で少なくない額のGを貰った事もあって恩義のようなものを感じていたので猶更だ。
 八方丸く収まるならそれに越した事はないが、現状で見えている情報だけでは絶望的だった。
 少なくともヨシナリにはどちらかに泣いてもらう以外の結末が想像できない。

 「お話は分かりました。 要は俺にこの一件が丸く収まるように手を貸して欲しいって事ですよね」
 
 二人は大きく頷く。 
 ヨシナリは内心で面倒な事になったなと思いながらどうしたものかと頭を捻る。

 「取り合えず本人に探り入れつつ考えます。 そっちと当たるのは順当にいけば二戦後ですから、それまでに何か考えましょう」
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