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第119話

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 こうして見てみるとラーガストの攻撃に関しては一貫性がある。
 前衛、後衛の順に正面から叩き潰すスタイルはなるほど強者の戦い方だ。
 自分であるなら真似は出来ない。 性格面でもそうだが、技量面でもそういった戦い方は難しい。

 二人はまあまあといった様子で自分の戦い方を自己評価すると早々に帰っていった。
 本戦は明日なので今日は解散でいいと思うのだが、こう、もっとないのだろうかとヨシナリは思ったが口にする度胸はなかった。
 慣れ合うのは嫌いなのだろうが、ここまでドライだと眼中にすらないんだろうなと少しだけ卑屈な事を考えてしまう。

 「はぁ、もうちょっと頑張るか」

 分かり切った事だ。 あの二人の視界に入るには相応の戦いを見せなければならない。
 見てくれと頼んだ所だけ無駄。 なら無視できないような動きをすればいいだけの話だ。
 あの二人は戦い方の方向性こそ違うが、プレイヤーである以上はあの機体を使う前にソルジャータイプや他の機体に触れている。 つまり、彼等の動きの基礎にはトルーパーの基本であるソルジャータイプからの積み重ねの果てに完成したものともいえるだろう。

 丸々コピーするのではなく、使える部分を抽出して自分に応用する。
 そんな気持ちでヨシナリは再度リプレイ映像を再生した。
 

 
 時間が許す限りずっとリプレイ映像を眺めていたのだが、凄い以外の感想が出てこない。
 それでも多少ではあるが得る物はあった。 翌日、本戦となるのだが、ヨシナリはもう自分の役目はほぼ終わりだと思っている。 だからこそ予戦で無理にでも活躍しようとしていたのだ。

 栄光と当たるかは運だが、高確率で決勝までは行けるだろう。 
 正直、このチームを潰したいなら本戦に出る前の予戦で処理するべきだからだ。
 本戦のルールはチーム単位での勝負。 他のチームを巻き込んでの共闘が出来ず、自分達だけで対処しなければならない。 予戦で束になってかかっても返り討ちにあった相手を単独で撃破なんて真似を強いられる。 相手をする方からすれば予戦の方がまだマシだった言えるレベルだ。

 予戦を生き残ったのは二百チーム。 その面子でトーナメントだ。
 星座盤は真ん中辺りに名前が見つかったが、栄光は――あった。
 少し離れた位置にあったので順調にいけば四回勝てば当たるか。

 ラーガストは無反応。 ユウヤは小さく「ぶっ殺す」と物騒な事を呟いていた。
 確認は終わったのでヨシナリ達はユニオンホームから選手の待機エリアへと移動。
 移動先では既に他の参加者が集まって各々、開始を待っていた。

 始まるまでやる事もなく、チームメイトの二人もこの様子なのでどうやって時間を潰すかとおもっていると――

 「ユウヤ!」

 背後から鋭い声が響く。 聞き覚えのある声だが、籠っている感情の重さと深さが段違いだ。
 嫌な予感しかしなかったのでヨシナリは内心で巻き込まれたくないなと思いながら振り返るとそこにはカナタとそのチームメイトらしきプレイヤー達がこちらに駆け寄ってきていた。

 ユウヤは心底から嫌そうに振り返る。
 カナタは様々な感情の入り混じった様子でユウヤに詰め寄った。
 ヨシナリはどうすればいいんだろうと迷っている内に動けずにそのまま推移を見守る事となったが、少し怖かったので気持ち数歩だけ下がる。

 そういえばラーガストはどうなったと振り返るといつの間にか少し離れた所にいた。 
 いつの間にと思っていたがもう逃げられない位置になってしまったのでユウヤの近くで見守るしかない。

 「ユニオンに入ったの? ウチに入るって話だったじゃない。 これはどういう事?」
 「入った訳じゃない。 それにお前の下に着くなんて言った覚えもない。 先に言っただろうが、俺に勝てたら入ってやってもいいってな。 ただ、負けた場合、二度とこのゲームで俺に構うな」
 
 ――うわ。

 この短いやり取りでヨシナリは二人の関係性を大雑把にだが把握した。
 恐らくだがカナタはユウヤを欲しがっており、ユウヤはそれを嫌がっている。
 で、そんなユウヤを横から掻っ攫った形になっている奴が隣にいたらどうなるだろうか?

 答えは明白だ。 カナタの怒りの籠った視線がヨシナリに突き刺さる。
 
 「確か星座盤のヨシナリさんだったね。 どういう事? 何であなたがユウヤと一緒にいるの? 何? 模擬戦で負けた腹いせに私に対しての当てつけ?」
 
 ――ひぇ、こ、怖ぇ……。

 量産型のアバターではなくカスタマイズされ表情などがはっきりしている分、迫力が凄まじい。
 ヨシナリは思わず後ろへと下がる。 

 「いや、俺は何も――」
 「まぁまぁ、いいじゃねーか。 こっちは俺で話聞いとくからそっちはそっちでごゆっくり」

 そう言ってヨシナリと肩を組むようにして引っ張っていったのはツガルだ。
 ツガルは小声で行くぞと言って引っ張り、ヨシナリはそれに素直に従った。
 少し離れた所で足を止めるとツガルは小さく溜息。

 「……何つーか、災難だったな」
 「いや、マジで助かりました」
 
 ヨシナリはちらりとカナタの方へと視線を向けるとユウヤ相手に何やら声を荒げている。

 「ウチのボスはあれさえなければ完璧なんだがなぁ」
 「知り合いか何かですか?」
 「……俺としちゃ何でお前があの二人と組んでるのかが気になるがな」

 質問に対して質問で返された。 
 つまりは助けてやったんだから先に言えって事かと解釈したヨシナリは内心で小さく溜息を吐くと当たり障りのない範囲で事情を説明する事にした。

 この大会に出るにあたってエントリーしたのは良いが、ふわわとマルメルがリアルの事情で参加できなくなったので臨時のメンバーを募集したらあの二人が現れた事。
 参加するにあたっての条件はユウヤがカナタを潰す事の手伝いをする事。
 
 「――で、予戦を首尾よく突破して今に至っています」
 「ほー、なんだか苦労してるな」
 「いや、俺としては参加できればなんでもよかったんで、『栄光』と事を構えたいとかは全然思ってないです」
 「そりゃ分かってるよ。 模擬戦やった仲だし、イベントでは肩を並べて戦った。 印象が悪くなる要因がねぇよ」
 「……あー、それであの二人は何かあるんですか?」

 取り合えず質問には一通り答えたので事情を教えて欲しいと遠回しに尋ねる。
 ツガルはどうしたものかなと悩む素振りを見せた。 
 ヨシナリはその反応からあ、これ踏み込んだら不味い奴かなと察する。

 「あ、やっぱりいいで――」
 「実はあの二人ってリアルの知り合いでな」

 話を打ち切ろうとしたが遅かったようだ。
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