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第115話

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 アルフレッドの位置ははっきりした。
 ベリアルの後方、約二、三百メートル。 狙うには難しい位置だが、位置を把握できるのは大きい。
 デコイの可能性もあるがタイミング的に可能性は低いのでアルフレッドと断定。
 
 ――これで戦いに集中できる。

 これまで引き延ばすように戦っていたのは伏兵であるアルフレッドの位置を把握する為だったからだ。
 高ランクの戦いとなると勢いだけでは勝ち残れない。 戦場に存在する全ての情報を正確に把握し、敵の動きを見通さなければ勝利はなかった。

 ベリアルにとって戦場に存在する分かり易い不確定な要素であるアルフレッドを不明なままにしておくのはあり得ない。 最低限、居場所だけでも把握しておかなければ話にならなかった。
 だからこそ付かず離れずの距離を維持し、消極的な攻防を繰り返したのだ。 元々、ユウヤのプルガトリオは近、中距離戦が得意レンジなのである程度の距離から削っていけば追いつめるところまでは問題なく可能。

 後は主人の危機にアルフレッドが反応すれば居場所を特定する事は容易だ。
 一度でも姿を晒せば位置から何をしてくるかは察しがつくので脅威度としてはかなり落ちる。
 何度も戦ってきた相手なのでアルフレッドのスペックも凡そではあるが頭に入っていた。

 アルフレッド。 フレームはキマイラタイプの派生形であるキマイラループスフレーム。
 オオカミや犬に近い四つ足歩行の生物をモチーフにした形状で、走破性に優れており地形を選ばずに機動力を発揮する。 メイン武装は背に大型機関砲と擲弾発射器グレネードランチャーが二門ずつ。
 
 仕様上、人型形態に変形も可能だが、支援に徹する関係とAIが四つ足での戦闘に最適化されているのか少なくともベリアルと戦った時は変形した姿を見た事がない。 その関係で携行武器の類はなし。
 接近戦は不得手なのか基本的には近寄れば離れ、離れすぎると寄って来る印象を受ける。 恐らくは戦闘傾向としては付かず離れずの距離で射撃を繰り返すと見ていた。

 この距離であるなら機関砲はシールドで対処可能でグレネードは飼い主ユウヤを巻き込みかねないので使えない。 つまり今のアルフレッドの位置ではベリアルを仕留める事は難しい。
 
 ――今が好機。

 ユウヤはメインの武器は大剣形態。 この距離ではまともに振れない上、変形させるのは間に合わない。 今なら仕留められる。 片手はアルフレッドの射撃を防ぐ為に使用しているが、残りの手は空いているのでブレードを形成して貫けば勝ちだ。

 ユウヤは刃の半ばに付いている持ち手部分を掴んで大剣をコンパクトに振り下ろす。
 ベリアルは僅かに体を傾けて回避。 この距離ではユウヤに勝ち目はない。
 
 「取ったぞ煉獄の化身よ!」
 「勝ち誇りたいなら勝ってからやれ」
 
 背後からの銃声がポンと何かがすっぽ抜けた音へと変わる。
 グレネード。 ベリアルは迷わずに回避を選択。 ユウヤの脇を抜ける形ですり抜ける。
 着弾するが何も起こらない。 不発? 違う、空砲だ。

 「フェイクとはやるな!」

 言いながら飛び上がる。 ベリアルの機体の真下を何かが薙ぐように通り過ぎた。
 正体はユウヤの機体の手の平から伸びている鞭だ。 高圧電流を纏ったそれはまともに当たれば対策を施してあるベリアルの機体でも一秒は動けなくなってしまう。

 着地せずに樹に取り付き、裏へと回って飛び降りる。
 銃声。 腕に取り付けられた散弾銃だろう。 樹に風穴が空く。
 散弾は使い切ったはずなので他の弾――恐らくは破壊力に優れた一粒弾《スラグ》。

 更に銃声。 もう一つ穴が空く。 樹が自重に耐え切れずにメキメキと折れ始める。
 二発目の着弾と同時にベリアルは樹の陰から飛び出して腕からエネルギー弾を連射。
 プルガトリオの腕に内蔵されている散弾銃は二連発だ。 三発目以降は装填作業が必要なので僅かに間隔が開く、攻めるにはいいタイミングだ。 ユウヤはいつの間にか変形させたハンマーでベリアルの射撃を器用に防ぐ。

 これがあるのでユウヤを仕留めたいなら接近戦を行わなければならない。
 以前に武器の破壊を目論んだ事もあったが、あの無骨なデザインの武器は並の攻撃では碌に傷つける事も出来なかったので早々に諦めた。 位置取りも問題ない、今の回避でアルフレッドはユウヤの背後。

 回り込むにしても時間が要る。 その間に決着を付ければいいだけの話だ。
 今回は個人戦ではなくイベント戦。 ユウヤを倒したとしても後が控えている。 

 「もう少し興じていたいがここで決着を着ける!」
 「そうだな。 俺としてもお前とダラダラやってる場合じゃないから終わりにするか」

 ユウヤのやや投げ遣りな態度に僅かな警戒心が持ち上がったが、この状況で何か仕掛けられるとは思えない。 接近戦で雌雄を決するベリアルは再度肉薄するべく飛び出したのだが――
 
 「なん……だと……」
 
 ズシンと衝撃が走る。
 ベリアルが視線を下げると自らの機体――プセウドテイの胴体に風穴が空いていたのだ。
 狙撃。 損傷から即座に何をされたのかを悟ったが、何故そうなったのかが分からなかった。
 
 「正直、期待していなかったから勘定に入れてなかったんだが、埋まったままは嫌だとさ」

 ユウヤが振り返ると木々の向こうの遥か先にヨシナリのホロスコープが半分土に埋まった状態で狙撃銃を構えている姿が見えた。 
 
 「俺とアルフレッドに集中してくれて助かったぜ。 お陰で楽に仕留められた」

 実際、ユウヤはベリアルの性格などはともかくプレイヤーとしては非常に高く評価していた。
 プセウドテイの武器は非常に応用範囲が広い反面、扱いが難しい物でもある。
 近距離から遠距離まで幅広く対応でき、防御面でも優れており、機動力も高い。

 燃費の悪さはともかく、スペックだけで見るなら穴のない万能選手ともいえる。
 攻撃の全てを全てエネルギー兵器で固めている関係でジェネレーターの出力管理が難しいので扱いが難しく、性能だけでなくプレイヤースキルと直結したランカーに相応しい機体だ。

 確かに優れてはいるが、機能を一極化させている事が欠点にもつながっている。
 何故なら攻撃、防御、機動の全てを依存しているのだ。 考えなしに使えば瞬時にオーバーヒートを起こして強制冷却となる。 そうなれば装甲の薄い機体は瞬く間にやられてしまうだろう。 大きな欠点を抱えたその機体を上手く御している点からもベリアルの技量の高さが窺える。

 プセウドテイの撃破方法は大きく二つ。 
 一つは正面から叩き潰す事。 単純にシールドの出力を上回る攻撃か、無効化武器で貫通すれば機動力重視の薄い装甲のプセウドテイはあっさりと沈む。

 ただ、当てられればの話ではあるが。 
 そしてもう一つが奇襲――知覚の外からの攻撃だ。
 先述の通りプセウドテイの運用の肝はエネルギーの管理だ。 その為、シールドは恒常的に展開せず局所的にしか使用できない。 要は防がれる前に撃ち抜けと言う話だ。
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