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第113話

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 推進力を全開にしたユウヤのプルガトリオがハンマーを一閃。
 ベリアルは受けずに後退する事で回避。 ハンマーの先端がフィールドを掠め――

 「クッ、障壁破りの戦槌――厄介な!」

 ――粉々に砕け散り、エネルギーが霧散する。

 そう、ハンマー形態であるスペルビアの機能はエネルギーの霧散。
 正確にはヘッド部分なのだが、触れれば実体のないエネルギー系統の防御フィールドは一撃で破壊される。
 その特性故に遠距離攻撃に対しては盾としても利用でき、鈍重な印象こそ与えるが使い方次第では応用範囲が非常に広い。

 それでもフィールドを展開したのは接触から無効化されるまで僅かなタイムラグがあるので自身に対して接触されるまでの時間を僅かではあるが稼げるからだ。
 ベリアルというプレイヤーは言動や態度こそ変わってはいるが、このゲームに対する姿勢は真摯といえる。

 戦い方、敵への姿勢、その全てに自分なりのリスペクトを行っているからだ。
 ユウヤと戦うのは当然ながら初めてではない。 Aランク以上のプレイヤーは数が少ないので基本的にほぼ全員が顔見知りなのだ。 その為、相手の戦い方などは互いに熟知している。

 ユウヤ。 Aランクプレイヤーの中でもベリアルから見れば相性は割といい方だった。
 高速戦闘に軸を置いているベリアルからすれば比較的、動きの重たいプルガトリオはまだ戦い易い相手だからだ。 だからと言って簡単に勝てるかと言えば答えは『NO』。

 そもそもAランクプレイヤーで簡単に勝てる相手はそういない。
 事実として比較的、相性の良いユウヤですらベリアルとの戦績は六割。
 つまりは四割は負けているのだ。 侮っていい相手ではない。

 ベリアルは自らの機体の速度と周囲の環境を利用する。 
 木々を縫うように飛び回り、敵の武器の強みを殺す。 
 確かにプルガトリオの武器は強力だが、実体のある武器なので木々が密集している森の中では運用に適さない。 反面、実体のないエネルギー系の武装しか積んでいないプセウドテイは制約を一切受けずに攻撃が可能。 現状は自分が優勢、このままいけば勝てると判断しているが慢心はしない。

 勝ちを確信した直後、油断して敗北するなんて話はこのゲームをやっているといくらでも転がっている。 確実にそして華やかに勝利を飾るのだ。 

 ――勝利こそが我が覇道!

 「さぁ、煉獄の化身よ。 ここは我が影と闇が支配する領域。 貴様にとっては死地――いや、試練と言い換えてもいいだろう。 数多の困難を乗り越えて我がかいなが貴様の生を抱く前に打開できるか否か、見せて貰おう!」

 要は地形的にこちらが有利なのでどう戦うのかと煽っているのだ。
 ベリアルの意図を正確に理解したユウヤは内心で鬱陶しいと思い、アバターの奥で表情を歪めた。
 木々の間を縫うように移動しているので捉える事が難しい。 さっきから馬鹿正直に散弾を受け止めていたのは使い切らせるためだったのだろうと気づいたのは今更になってからだった。

 厄介な武器が使えなくなった事で攪乱しつつ、ジェネレーターの出力の回復を待っているのだ。
 プセウドテイという機体は武装、移動を一つのシステムに頼る事で高機動、高火力を実現できてはいるが一つ大きな欠点があった。 持久力だ。

 とにかく燃費が悪い。 攻防を両立しつつ全開で動くと早々に息切れを起こして強制冷却だ。
 そうなれば回避すらままならずにあっさりと撃墜される。 ベリアルがランク戦で負ける理由の大半がこれだったりするのだが、追いつめないとその展開まで持って行けないので難易度は高い。

 彼はとにかくペースの配分に気を使っているのでノリでやっているように見える行動や言動の裏には常に機体への配慮が含まれている。 その欠点をカバーする為、ベリアルは基本的に速攻をかけて勝負を決めに行く傾向にあったので、ユウヤからすればこのようなイベント戦に参加している事が意外だった。

 「お前みたいな香ばしい奴が、よくもまぁユニオンに入れたな。 一応はAランクだから行く先には困らなかったのか?」

 言いながらユウヤは移動。 立ち止まると的になるのでとにかく動きまわる必要がある。
 途中、大破した機体から武器を回収して使用する。 落ちている突撃銃を連射し、弾が切れたら投げ捨て、手榴弾は即座に投擲。 とにかく隙を見せない立ち回りを意識する。

 対するベリアルは一定の距離を付かず離れずでユウヤを追いかけていた。

 「笑止。 我が力は深淵を司る深き闇。 闇を御せる者など存在はしない。 この儀式に参加したのは贄によって我が召喚されただけの事」
 「――つまりは雇われたって事か」

 明らかに集団行動に向いている性格ではないのにこのイベントに参加している事が不自然だったが、どうやらどこかのユニオンに声をかけられて臨時で入って参加したようだ。
 ユニオンに入りたくはないがイベントには参加したいと考えている者にとっては臨時参加は渡りに船といえるだろう。 特に今回は賞品にフレームまでくれる大盤振る舞いだ。

 仮に持っていても売ればそこそこの金額にはなるので欲しがらない奴はいないだろう。
 ユウヤとしてはカナタを始末できればそれでいいので商品には興味がなかったが、予戦で当たらなかった以上は本戦まで意地でも残らなければならなかった。 

 「ふ、そんな俗な話ではない。 奴らは供物を捧げ俺はそれに見合った結果をくれてやるだけだ」
 「それを世の中ではギブアンドテイクっていうんだよ」

 ユウヤは落ちていた拳銃を連射し、弾が切れたら投げ捨てる。

 「ところで遠くからチクチクやるだけで仕掛けてこないな? どうした? 怖くなったか?」
 「挑発は無駄だ。 感じるぞ、貴様の眷属が放つ濃密な殺気を。 煉獄に住まう番犬、その力を侮る程俺は慢心していない」

 ベリアルは隙を窺うように攻撃こそしてくるが、勝負にでない。
 それには大きな理由があった。 アルフレッドの存在だ。
 ユウヤは必ずアルフレッドを連れており、高度な連携を用いる。
 
 仕様上、AI搭載機は学習型なので基本的には大した事はない。
 強化したいなら学習――つまりは場数を踏ませなければならないのだが、それに対するリスクを考えるなら育てようといった気持ちは起こらない。 要は割に合わないのだ。

 破壊されても問題のない囮用のドローンに毛が生えた程度の物なら使うプレイヤーは一定数いるかもしれないが、ここまで力を入れて育てる事の出来るプレイヤーはユウヤぐらいのものだろう。
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