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第107話
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Aランクプレイヤー。 Sを除けばこのICpwというゲーム内では最高峰の実力を持つ者の証だ。
ランクによって様々な恩恵が得られるこのゲームにおいてAランクの得られる恩恵は非常に大きい。
機体、武器のオーダーメイド。 Aランクに至るまでの全ての戦闘記録、トレーニング記録を参照したゲームシステムが自動でそのプレイヤーの能力を最大限に活かす機体、兵装を提案、作成するシステム。
支払いはPのみで相当な値段がかかる。
その為、彼等は機体と武装を得る為に全財産に等しい額の金額を吐き出さなければならない。
しかも武器と機体は別なので大抵は二回から三回に分けて製作を依頼する事になる。 強化を施したいのであれば更に追加の投資が必要となるだろう。
これは彼らが二回目のイベント戦で敗北した理由でもあった。
機体はあったがその特性を十全に活かす武器がない。
それ故に彼等はカタツムリ型エネミーの守りを突破できなかったのだ。
三回目はその問題も解決し、完全な状態で臨んだのだが――
ツェツィーリエもイベントに参加した一人であの巨大なイソギンチャク型エネミーとその内部から現れたトルーパーに似たエネミーとも戦った身だ。 結果は文字通りの瞬殺だったが。
ツェツィーリエも理解はしているのだ。 ラーガストやあのエネミーは自身よりも格上だと。
だが、Aランクまで上り詰めた彼女のプライドがそれを許容しない。
ラーガストを倒す。 どんな手を使ってでも、そうすれば他は後から付いてくる。
勝利を得る事で彼女は失ったプライドを取り戻すのだ。
彼女の機体『ハウラス』は高機動、高火力を両立させた高性能機で武装は近接はレイピア『パンテラ・パンサー』液体金属を刃状に形成している武器で突き刺した後、形状を変える事で内部から敵機を破壊する事ができる。
物理攻撃の通り難い相手には実体ではなくエネルギーの刃も形成して対処できる非常に使い勝手の良い武器だ。 背面のエネルギー式ウイングはラーガストのエイコサテトラの物と同様で、搭載数が少ないので総合的な出力は劣るが、やや大型なので個別での出力は上。 そして反対の手には攻防両方に使える多目的盾『レオパルト』を装備。 エネルギーシールドの展開機構と高出力のエネルギーキャノンを内蔵している高性能装備で、特にキャノンは当たりさえすればトルーパーなら一撃で撃墜できる強力な射撃兵装だ。
――当たりさえすれば。
砲口にエネルギーが充填され真っ赤な光がラーガストを射抜かんと迸るがあっさりと躱される。
ツェツィーリエは自分とラーガストの技量差をよく理解していた。
まともにやって勝つ事は難しい。 事実として彼女はラーガストとの戦績は低ランクの時を合わせても全敗。 記憶にある限り、二十以上は戦っているのにただの一度も勝てた事がない。
同じソルジャータイプを使っていた頃も、キマイラタイプを使っていた頃もエンジェルタイプを使っていた頃も専用機を得て戦った時も。 その全ての戦いにおいて敗北。
屈辱だった。 彼女は勝つ事に執着しているが可能であるなら文句のつけようのない形での勝利を望んでおり、その為の努力も欠かさなかった。 それこそが彼女をAランクプレイヤーにまで押し上げた矜持。
本音を言えば今回のように消耗を狙う事も可能であればしたくはなかったのだが、僅かでも勝率が上がっている状況とチーム戦であるといった言い訳が彼女の背を押した。
「えぇ、えぇ、分かっているわ。 仮に今回勝ったとしても本当の意味での勝利ではないと。 でも、形はどうあれあんたを一回ぶっ潰したって事実は残る! 我ながら情けのない話だけど、あたしはそれが欲しいのよ!」
少なくとも自信には繋がる。
同時にラーガストは無敵という心のどこかにある嫌な思い込みも払拭できるだろう。
あまりにも強かったので何かイカサマでもしているんじゃないかと思った時期もあったので、敵もまた自分達と同じプレイヤーだといった実感が欲しいといった意味合いもあったのだ。
「は、そんなにも俺に勝ちたかったのか? 雑魚は必死だな」
「言ってなさいな!」
ハウラスはラーガストのエイコサテトラが回避したと同時に推力を最大にして突撃。
最高速度では敵わないが、瞬間加速――それも動き出してすぐの場合はそこまでの差はない。
ハウラスの本領はその高機動を活かした接近戦だ。 それはエイコサテトラも同様だが、ツェツィーリエは自身の剣技がラーガストに劣っているとは思っていない。
だから、正面から斬り伏せる。 間合いに捉える直前、レイピアを弓のように引く。
捉えた。 同時に肘、肩に内蔵されたスラスターを全開にし、刺突の速度を上乗せ。
放たれた直後に加速する突きは軌道が読めていても速度の変化により躱す事を困難にする。
同格のプレイヤーですら完璧なタイミングで放たれたこの刺突を躱す事は難しい。
――が、相手はSランク。 並の相手ではない。
エイコサテトラは右で放たれた刺突を左のブレードでいなして懐へ入り込む。
エネルギーウイングの加速に緩急を付ける事で簡単に躱せないようにしているが当然のように対処される。 数多の敵を屠ってきた技術が通用しないのは少しショックだが、織り込み済みな展開でもある。 ハウラスと同様にエイコサテトラも最大の長所は速度だ。
密着した今、それはまともに機能しない。
打倒ラーガストの為にツェツィーリエは色々と準備はしてきた。 その一つがこれだ。
右足を一閃。 つま先から脛にかけてエネルギーブレードが形成される。
仕込み武器。 蹴りに斬撃を乗せる事ができる。
不安定な体勢で機体を両断できるようになるまで相当の練習を行ったが、今なら脇腹を正確に狙って上半身と下半身を分断するぐらいは訳ない。
――あたしの練習の成果を喰らえ!
左のブレードはレイピアを防ぐのに使っている。
そうなると右で防ぐ事になるが、そうなれば両手は完全に塞がる。
読み通り、ラーガストは右で足のブレードを受け止めた。 ここだ。
ツェツィーリエ胸部のスラスターを全開にして機体の上半身を後ろに倒す。
地上ならできない曲芸だが、ここは空中だ。 三次元的な挙動が可能な分、攻撃の自由度が跳ね上がる。 僅かに間合いが開いた。
彼女が狙っていたのはこの瞬間。
エイコサテトラの左右の腕は塞がっており、防御手段はない。
そこで残りの左足の出番だ。 刃を展開し、股間から頭頂部まで両断する。
来ると分かっていれば躱せる内容ではあるが奇襲であるなら高確率で通るはずだ。
「ぶった斬れろSランク!」
ツェツィーリエはありったけの感情をこめて左足を蹴り上げた。
ランクによって様々な恩恵が得られるこのゲームにおいてAランクの得られる恩恵は非常に大きい。
機体、武器のオーダーメイド。 Aランクに至るまでの全ての戦闘記録、トレーニング記録を参照したゲームシステムが自動でそのプレイヤーの能力を最大限に活かす機体、兵装を提案、作成するシステム。
支払いはPのみで相当な値段がかかる。
その為、彼等は機体と武装を得る為に全財産に等しい額の金額を吐き出さなければならない。
しかも武器と機体は別なので大抵は二回から三回に分けて製作を依頼する事になる。 強化を施したいのであれば更に追加の投資が必要となるだろう。
これは彼らが二回目のイベント戦で敗北した理由でもあった。
機体はあったがその特性を十全に活かす武器がない。
それ故に彼等はカタツムリ型エネミーの守りを突破できなかったのだ。
三回目はその問題も解決し、完全な状態で臨んだのだが――
ツェツィーリエもイベントに参加した一人であの巨大なイソギンチャク型エネミーとその内部から現れたトルーパーに似たエネミーとも戦った身だ。 結果は文字通りの瞬殺だったが。
ツェツィーリエも理解はしているのだ。 ラーガストやあのエネミーは自身よりも格上だと。
だが、Aランクまで上り詰めた彼女のプライドがそれを許容しない。
ラーガストを倒す。 どんな手を使ってでも、そうすれば他は後から付いてくる。
勝利を得る事で彼女は失ったプライドを取り戻すのだ。
彼女の機体『ハウラス』は高機動、高火力を両立させた高性能機で武装は近接はレイピア『パンテラ・パンサー』液体金属を刃状に形成している武器で突き刺した後、形状を変える事で内部から敵機を破壊する事ができる。
物理攻撃の通り難い相手には実体ではなくエネルギーの刃も形成して対処できる非常に使い勝手の良い武器だ。 背面のエネルギー式ウイングはラーガストのエイコサテトラの物と同様で、搭載数が少ないので総合的な出力は劣るが、やや大型なので個別での出力は上。 そして反対の手には攻防両方に使える多目的盾『レオパルト』を装備。 エネルギーシールドの展開機構と高出力のエネルギーキャノンを内蔵している高性能装備で、特にキャノンは当たりさえすればトルーパーなら一撃で撃墜できる強力な射撃兵装だ。
――当たりさえすれば。
砲口にエネルギーが充填され真っ赤な光がラーガストを射抜かんと迸るがあっさりと躱される。
ツェツィーリエは自分とラーガストの技量差をよく理解していた。
まともにやって勝つ事は難しい。 事実として彼女はラーガストとの戦績は低ランクの時を合わせても全敗。 記憶にある限り、二十以上は戦っているのにただの一度も勝てた事がない。
同じソルジャータイプを使っていた頃も、キマイラタイプを使っていた頃もエンジェルタイプを使っていた頃も専用機を得て戦った時も。 その全ての戦いにおいて敗北。
屈辱だった。 彼女は勝つ事に執着しているが可能であるなら文句のつけようのない形での勝利を望んでおり、その為の努力も欠かさなかった。 それこそが彼女をAランクプレイヤーにまで押し上げた矜持。
本音を言えば今回のように消耗を狙う事も可能であればしたくはなかったのだが、僅かでも勝率が上がっている状況とチーム戦であるといった言い訳が彼女の背を押した。
「えぇ、えぇ、分かっているわ。 仮に今回勝ったとしても本当の意味での勝利ではないと。 でも、形はどうあれあんたを一回ぶっ潰したって事実は残る! 我ながら情けのない話だけど、あたしはそれが欲しいのよ!」
少なくとも自信には繋がる。
同時にラーガストは無敵という心のどこかにある嫌な思い込みも払拭できるだろう。
あまりにも強かったので何かイカサマでもしているんじゃないかと思った時期もあったので、敵もまた自分達と同じプレイヤーだといった実感が欲しいといった意味合いもあったのだ。
「は、そんなにも俺に勝ちたかったのか? 雑魚は必死だな」
「言ってなさいな!」
ハウラスはラーガストのエイコサテトラが回避したと同時に推力を最大にして突撃。
最高速度では敵わないが、瞬間加速――それも動き出してすぐの場合はそこまでの差はない。
ハウラスの本領はその高機動を活かした接近戦だ。 それはエイコサテトラも同様だが、ツェツィーリエは自身の剣技がラーガストに劣っているとは思っていない。
だから、正面から斬り伏せる。 間合いに捉える直前、レイピアを弓のように引く。
捉えた。 同時に肘、肩に内蔵されたスラスターを全開にし、刺突の速度を上乗せ。
放たれた直後に加速する突きは軌道が読めていても速度の変化により躱す事を困難にする。
同格のプレイヤーですら完璧なタイミングで放たれたこの刺突を躱す事は難しい。
――が、相手はSランク。 並の相手ではない。
エイコサテトラは右で放たれた刺突を左のブレードでいなして懐へ入り込む。
エネルギーウイングの加速に緩急を付ける事で簡単に躱せないようにしているが当然のように対処される。 数多の敵を屠ってきた技術が通用しないのは少しショックだが、織り込み済みな展開でもある。 ハウラスと同様にエイコサテトラも最大の長所は速度だ。
密着した今、それはまともに機能しない。
打倒ラーガストの為にツェツィーリエは色々と準備はしてきた。 その一つがこれだ。
右足を一閃。 つま先から脛にかけてエネルギーブレードが形成される。
仕込み武器。 蹴りに斬撃を乗せる事ができる。
不安定な体勢で機体を両断できるようになるまで相当の練習を行ったが、今なら脇腹を正確に狙って上半身と下半身を分断するぐらいは訳ない。
――あたしの練習の成果を喰らえ!
左のブレードはレイピアを防ぐのに使っている。
そうなると右で防ぐ事になるが、そうなれば両手は完全に塞がる。
読み通り、ラーガストは右で足のブレードを受け止めた。 ここだ。
ツェツィーリエ胸部のスラスターを全開にして機体の上半身を後ろに倒す。
地上ならできない曲芸だが、ここは空中だ。 三次元的な挙動が可能な分、攻撃の自由度が跳ね上がる。 僅かに間合いが開いた。
彼女が狙っていたのはこの瞬間。
エイコサテトラの左右の腕は塞がっており、防御手段はない。
そこで残りの左足の出番だ。 刃を展開し、股間から頭頂部まで両断する。
来ると分かっていれば躱せる内容ではあるが奇襲であるなら高確率で通るはずだ。
「ぶった斬れろSランク!」
ツェツィーリエはありったけの感情をこめて左足を蹴り上げた。
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