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第106話

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 戦闘が始まって三十分程が経過したが、チームメイトの二人が撃破した総数はもう十や二十で効かない。
 圧倒的な戦闘能力だ。 ラーガストは単騎で制空権を握っており、ユウヤは地上で次々と目についた敵を片端から刈り取っている。 あの二人からはこの戦いを切り抜けるというつもりは一切なく、全員倒せばそれでいいといった考えが透けて見えた。

 まさに強者の思考だ。 同時に危うい考えでもある。
 強者は良くも悪くも注目を集めるのは必然だ。 それに本戦になれば個別に対処せざるを得なくなる以上、ここで潰しておきたいと考えるのは自然すぎる流れだろう。

 ――結果、周囲に展開している大半のチームが手を組んで襲い掛かってくるといった地獄が始まる。

 レーダー表示を見ると地上も空中も凄まじい事になっていた。
 味方二人の反応に群がる敵の反応。 目視でも空中、地上と派手に爆発と銃声が響く。
 何より恐ろしいのがそんな状況にもかかわらず二人とも当然のように生き残っている事だ。

 あんな数に群がられたらヨシナリなら一分保たずに死ぬ自信がある。
 そんな敵をばっさばっさと薙ぎ払う様は見ていればちょっとした爽快感を得られたかもしれない。

 ――他人事だったら。

 これはチーム戦であの二人は自分と同じチームだ。
 それが意味する所はつまり――

 「はは、ですよねー」

 ヨシナリも狙われる事になる。 薄々こうなると察していたので一応、心構えだけはしておいた。
 だからこそ隠れるようにコソコソと狙撃していたのだが、本気で探せば見つかるのは時間の問題だ。
 上手に隠れている機体も多いがそうでない機体の配置から包囲されつつあるのは分かっている。

 ならヨシナリの取れる行動は一つ。 逃げるしかない。
 ホロスコープの推力を最大にして山から飛び出し、斜面を滑り落ちるように下る。 
 あちこちから銃弾や砲弾が飛んでくるが構わずに無視し、進路上に現れた敵機だけ障害物として捌く。

 『SランクとAランクは無理だが、こいつなら何とかなりそうだ! やっちまえ!』
 「情けない事言ってるなぁ!?」

 ヨシナリはもう狙撃は無理だと悟って長い銃身を切り離し、単発から連射に切り替えて応射。
 ラーガスト達のように次々と撃破できれば格好もつくが今のヨシナリの技量では無理だ。
 とにかく生き残る事に全てを傾けるべきとヨシナリは山を下りきって森へと飛び込む。

 森でどうにか撒きたいところではあるが高感度のセンサーを積んでいる機体も多いだろうから逃げ切るのは無理だ。 わざわざヨシナリを狙ってくるような挙動をするだけあって、追ってきている機体は大半がソルジャータイプだ。 割合としてはⅠ型六、Ⅱ型四ぐらいだろうか?

 キマイラやエンジェルはいない。 ただ、数はとんでもなく多かった。
 ホロスコープのレーダーで識別できるだけで三十機以上が追ってきている。
 ただ、幸いなのは寄せ集めなので散発的に追いかけてきているだけなので待ち伏せの類がない事ぐらいだろう。 振り返ってばら撒くように射撃。 
 
 胴体ではなく足を狙う。 
 固まって追ってきているので一機でも転倒させると運が良ければ他を巻き添えにできる。 
 一機の足を打ち抜き巻き込み事故を発生させて内心で拳を握ろうとしたが、上から銃弾と榴弾とエネルギー弾が降り注いであちこち爆発し、余波でホロスコープのあちこちに損傷が入る。

 「ちょ、マジか。 勘弁してくれよ!」

 思わず頭を抱えたくなるがそんな事をしたら即座に死ぬのでとにかく撃ちまくる。
 イベント戦も大概だったが、今回はそれとは訳が違う。 狙ってくる連中が全てプレイヤーでヨシナリだけに狙いを定めて追ってきているのだ。 生き残る為のハードルは今回の方が高い。

 『足! 足狙え!』

 律義に何処を狙うか教えてくれる親切な敵の声にヨシナリは森から出ない程度に跳躍。
 振り返りながら煙幕手榴弾を放り投げて目を晦ませる。 乱戦になるのは想定していたので持ってきた手榴弾は閃光と煙幕の二種類だけだ。 正直、使うような場面にならなければいいと思いたかったが、そうもいかなかった。 ちらりと上を見るとラーガストが光の尾を引いて飛び回っており、光に触れた機体は次々と爆散していく。 あいつらは放っておいても生き残るだろうが、助けを期待する事も出来なさそうだった。 

 今回のイベントは折角、上位のプレイヤーと組めたのだ。
 その状況を最大限に活かし、自身の成長に繋がる何かを得ようと考えていたのだが少しだけ考えが甘かったらしい。 今はとにかく逃げ回って生き残る事だけを考えるんだ。

 ヨシナリは思ってたのと違うと思いながら森の中を全力で逃げ回る。


 エンジェルタイプが三機纏めて両断されて爆散。
 周囲に敵影が完全にいなくなった所でラーガストは動きを止めた。
 二百機を撃墜した所で数えるのは止めたのでどれだけ仕留めたのかは思い出せない。

 やる事がなくなったので次の獲物をと考えていたが機体を僅かにスライドさせる。
 一瞬、遅れてラーガストのいた位置を真っ赤な光が通り過ぎた。
 その攻撃には見覚えがあったので特に動揺はしない。

 「ツェツィーリエか」

 そう呟くと同時に地上から真っ赤な機体が上がってくる。
 細身でフレームに最低限の装甲が付いているというほどにスリムな機体で片手にはレイピア。
 もう片手には円形の盾、背部にはラーガストのエイコサテトラと同様のエネルギーウイング。

 Aランクプレイヤー『ツェツィーリエ』とその愛機『ハウラス』だ。
 Sランク、Aランクプレイヤーは数が少ない上、ランク戦で必ず当たる相手なのでほぼ全員が知り合いになる。 その為、攻撃を仕掛けられた時点で大体誰かが分かってしまうのだ。

 「こんにちは。 ラーガスト、相変わらず強いわね?」

 聞こえたのは女の声。 
 彼女もハイランカーだけあってラーガストの前であっても畏怖の感情は浮かんでおらず堂々としている。

 「そっちも相変わらずだな。 このタイミングで現れたって事は今なら消耗してるから勝てるとか舐めた事でも考えてるのか?」 
 「は? 舐めてるのはそっちでしょ。 あたし達を格下って思ってるのが見え見えよ」
 「そりゃ隠してねーからな。 少なくとも俺に言わせればお前は弱った相手を狙うハイエナ女で相手との実力差も見極められないただの雑魚だ」

 それを聞いたツェツィーリエの声から怒りが漏れる。

 「上等よ。 ここであんたを潰せば次のSランクはあたしって事でいいわよねぇ!」
 
 ハウラスのレイピアが真っ赤に輝き、背のエネルギーウイングが爆発するように展開される。
 ラーガストはつまらなさそうにその様子を一瞥した後、応じるようにブレードを構える。
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