Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

文字の大きさ
上 下
106 / 476

第106話

しおりを挟む
 戦闘が始まって三十分程が経過したが、チームメイトの二人が撃破した総数はもう十や二十で効かない。
 圧倒的な戦闘能力だ。 ラーガストは単騎で制空権を握っており、ユウヤは地上で次々と目についた敵を片端から刈り取っている。 あの二人からはこの戦いを切り抜けるというつもりは一切なく、全員倒せばそれでいいといった考えが透けて見えた。

 まさに強者の思考だ。 同時に危うい考えでもある。
 強者は良くも悪くも注目を集めるのは必然だ。 それに本戦になれば個別に対処せざるを得なくなる以上、ここで潰しておきたいと考えるのは自然すぎる流れだろう。

 ――結果、周囲に展開している大半のチームが手を組んで襲い掛かってくるといった地獄が始まる。

 レーダー表示を見ると地上も空中も凄まじい事になっていた。
 味方二人の反応に群がる敵の反応。 目視でも空中、地上と派手に爆発と銃声が響く。
 何より恐ろしいのがそんな状況にもかかわらず二人とも当然のように生き残っている事だ。

 あんな数に群がられたらヨシナリなら一分保たずに死ぬ自信がある。
 そんな敵をばっさばっさと薙ぎ払う様は見ていればちょっとした爽快感を得られたかもしれない。

 ――他人事だったら。

 これはチーム戦であの二人は自分と同じチームだ。
 それが意味する所はつまり――

 「はは、ですよねー」

 ヨシナリも狙われる事になる。 薄々こうなると察していたので一応、心構えだけはしておいた。
 だからこそ隠れるようにコソコソと狙撃していたのだが、本気で探せば見つかるのは時間の問題だ。
 上手に隠れている機体も多いがそうでない機体の配置から包囲されつつあるのは分かっている。

 ならヨシナリの取れる行動は一つ。 逃げるしかない。
 ホロスコープの推力を最大にして山から飛び出し、斜面を滑り落ちるように下る。 
 あちこちから銃弾や砲弾が飛んでくるが構わずに無視し、進路上に現れた敵機だけ障害物として捌く。

 『SランクとAランクは無理だが、こいつなら何とかなりそうだ! やっちまえ!』
 「情けない事言ってるなぁ!?」

 ヨシナリはもう狙撃は無理だと悟って長い銃身を切り離し、単発から連射に切り替えて応射。
 ラーガスト達のように次々と撃破できれば格好もつくが今のヨシナリの技量では無理だ。
 とにかく生き残る事に全てを傾けるべきとヨシナリは山を下りきって森へと飛び込む。

 森でどうにか撒きたいところではあるが高感度のセンサーを積んでいる機体も多いだろうから逃げ切るのは無理だ。 わざわざヨシナリを狙ってくるような挙動をするだけあって、追ってきている機体は大半がソルジャータイプだ。 割合としてはⅠ型六、Ⅱ型四ぐらいだろうか?

 キマイラやエンジェルはいない。 ただ、数はとんでもなく多かった。
 ホロスコープのレーダーで識別できるだけで三十機以上が追ってきている。
 ただ、幸いなのは寄せ集めなので散発的に追いかけてきているだけなので待ち伏せの類がない事ぐらいだろう。 振り返ってばら撒くように射撃。 
 
 胴体ではなく足を狙う。 
 固まって追ってきているので一機でも転倒させると運が良ければ他を巻き添えにできる。 
 一機の足を打ち抜き巻き込み事故を発生させて内心で拳を握ろうとしたが、上から銃弾と榴弾とエネルギー弾が降り注いであちこち爆発し、余波でホロスコープのあちこちに損傷が入る。

 「ちょ、マジか。 勘弁してくれよ!」

 思わず頭を抱えたくなるがそんな事をしたら即座に死ぬのでとにかく撃ちまくる。
 イベント戦も大概だったが、今回はそれとは訳が違う。 狙ってくる連中が全てプレイヤーでヨシナリだけに狙いを定めて追ってきているのだ。 生き残る為のハードルは今回の方が高い。

 『足! 足狙え!』

 律義に何処を狙うか教えてくれる親切な敵の声にヨシナリは森から出ない程度に跳躍。
 振り返りながら煙幕手榴弾を放り投げて目を晦ませる。 乱戦になるのは想定していたので持ってきた手榴弾は閃光と煙幕の二種類だけだ。 正直、使うような場面にならなければいいと思いたかったが、そうもいかなかった。 ちらりと上を見るとラーガストが光の尾を引いて飛び回っており、光に触れた機体は次々と爆散していく。 あいつらは放っておいても生き残るだろうが、助けを期待する事も出来なさそうだった。 

 今回のイベントは折角、上位のプレイヤーと組めたのだ。
 その状況を最大限に活かし、自身の成長に繋がる何かを得ようと考えていたのだが少しだけ考えが甘かったらしい。 今はとにかく逃げ回って生き残る事だけを考えるんだ。

 ヨシナリは思ってたのと違うと思いながら森の中を全力で逃げ回る。


 エンジェルタイプが三機纏めて両断されて爆散。
 周囲に敵影が完全にいなくなった所でラーガストは動きを止めた。
 二百機を撃墜した所で数えるのは止めたのでどれだけ仕留めたのかは思い出せない。

 やる事がなくなったので次の獲物をと考えていたが機体を僅かにスライドさせる。
 一瞬、遅れてラーガストのいた位置を真っ赤な光が通り過ぎた。
 その攻撃には見覚えがあったので特に動揺はしない。

 「ツェツィーリエか」

 そう呟くと同時に地上から真っ赤な機体が上がってくる。
 細身でフレームに最低限の装甲が付いているというほどにスリムな機体で片手にはレイピア。
 もう片手には円形の盾、背部にはラーガストのエイコサテトラと同様のエネルギーウイング。

 Aランクプレイヤー『ツェツィーリエ』とその愛機『ハウラス』だ。
 Sランク、Aランクプレイヤーは数が少ない上、ランク戦で必ず当たる相手なのでほぼ全員が知り合いになる。 その為、攻撃を仕掛けられた時点で大体誰かが分かってしまうのだ。

 「こんにちは。 ラーガスト、相変わらず強いわね?」

 聞こえたのは女の声。 
 彼女もハイランカーだけあってラーガストの前であっても畏怖の感情は浮かんでおらず堂々としている。

 「そっちも相変わらずだな。 このタイミングで現れたって事は今なら消耗してるから勝てるとか舐めた事でも考えてるのか?」 
 「は? 舐めてるのはそっちでしょ。 あたし達を格下って思ってるのが見え見えよ」
 「そりゃ隠してねーからな。 少なくとも俺に言わせればお前は弱った相手を狙うハイエナ女で相手との実力差も見極められないただの雑魚だ」

 それを聞いたツェツィーリエの声から怒りが漏れる。

 「上等よ。 ここであんたを潰せば次のSランクはあたしって事でいいわよねぇ!」
 
 ハウラスのレイピアが真っ赤に輝き、背のエネルギーウイングが爆発するように展開される。
 ラーガストはつまらなさそうにその様子を一瞥した後、応じるようにブレードを構える。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「日本人」最後の花嫁 少女と富豪の二十二世紀

さんかく ひかる
SF
22世紀後半。人類は太陽系に散らばり、人口は90億人を超えた。 畜産は制限され、人々はもっぱら大豆ミートや昆虫からたんぱく質を摂取していた。 日本は前世紀からの課題だった少子化を克服し、人口1億3千万人を維持していた。 しかし日本語を話せる人間、つまり昔ながらの「日本人」は鈴木夫妻と娘のひみこ3人だけ。 鈴木一家以外の日本国民は外国からの移民。公用語は「国際共通語」。政府高官すら日本の文字は読めない。日本語が絶滅するのは時間の問題だった。 温暖化のため首都となった札幌へ、大富豪の息子アレックス・ダヤルが来日した。 彼の母は、この世界を造ったとされる天才技術者であり実業家、ラニカ・ダヤル。 一方、最後の「日本人」鈴木ひみこは、両親に捨てられてしまう。 アレックスは、捨てられた少女の保護者となった。二人は、温暖化のため首都となった札幌のホテルで暮らしはじめる。 ひみこは、自分を捨てた親を見返そうと決意した。 やがて彼女は、アレックスのサポートで国民のアイドルになっていく……。 両親はなぜ、娘を捨てたのか? 富豪と少女の関係は? これは、最後の「日本人」少女が、天才技術者の息子と過ごした五年間の物語。 完結しています。エブリスタ・小説家になろうにも掲載してます。

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~

海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。 再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた― これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。 史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。 不定期更新です。 SFとなっていますが、歴史物です。 小説家になろうでも掲載しています。

第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門
ファンタジー
宇宙の崩壊と共に、別宇宙の神々によって魂の選別(ドラフト)が行われた。 野球ゲームの育成モードで遊ぶことしか趣味がなかった底辺労働者の男は、野球によって世界の覇権が決定される宇宙へと記憶を保ったまま転生させられる。 その宇宙の神は、自分の趣味を優先して伝説的大リーガーの魂をかき集めた後で、国家間のバランスが完全崩壊する未来しかないことに気づいて焦っていた。野球狂いのその神は、世界の均衡を保つため、ステータスのマニュアル操作などの特典を主人公に与えて送り出したのだが……。 果たして運動不足の野球ゲーマーは、マニュアル育成の力で世界最強のベースボールチームに打ち勝つことができるのか!? ※小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様、ノベルバ様にも掲載しております。

メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井
SF
「えっ、クビですか?」 中企業アナハイニム社の事務課に勤める大津修也(おおつしゅうや)は会社の都合によってクビを切られてしまう。 ろくなスキルも身に付けていない修也にとって再転職は絶望的だと思われたが、大企業『メトロポリス』からの使者が現れた。 『メトロポリス』からの使者によれば自身の商品を宇宙の植民星に運ぶ際に宇宙生物に襲われるという事態が幾度も発生しており、そのための護衛役として会社の顧問役である人工頭脳『マリア』が護衛役を務める適任者として選び出したのだという。 宇宙生物との戦いに用いるロトワングというパワードスーツには適性があり、その適性が見出されたのが大津修也だ。 大津にとっては他に就職の選択肢がなかったので『メトロポリス』からの選択肢を受けざるを得なかった。 『メトロポリス』の宇宙船に乗り込み、宇宙生物との戦いに明け暮れる中で、彼は護衛アンドロイドであるシュウジとサヤカと共に過ごし、絆を育んでいくうちに地球上にてアンドロイドが使用人としての扱いしか受けていないことを思い出す。 修也は戦いの中でアンドロイドと人間が対等な関係を築き、共存を行うことができればいいと考えたが、『メトロポリス』では修也とは対照的に人類との共存ではなく支配という名目で動き出そうとしていた。

底辺エンジニア、転生したら敵国側だった上に隠しボスのご令嬢にロックオンされる。~モブ×悪女のドール戦記~

阿澄飛鳥
SF
俺ことグレン・ハワードは転生者だ。 転生した先は俺がやっていたゲームの世界。 前世では機械エンジニアをやっていたので、こっちでも祝福の【情報解析】を駆使してゴーレムの技師をやっているモブである。 だがある日、工房に忍び込んできた女――セレスティアを問い詰めたところ、そいつはなんとゲームの隠しボスだった……! そんなとき、街が魔獣に襲撃される。 迫りくる魔獣、吹き飛ばされるゴーレム、絶体絶命のとき、俺は何とかセレスティアを助けようとする。 だが、俺はセレスティアに誘われ、少女の形をした魔導兵器、ドール【ペルラネラ】に乗ってしまった。 平民で魔法の才能がない俺が乗ったところでドールは動くはずがない。 だが、予想に反して【ペルラネラ】は起動する。 隠しボスとモブ――縁のないはずの男女二人は精神を一つにして【ペルラネラ】での戦いに挑む。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

シーフードミックス

黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。 以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。 ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。 内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。

処理中です...