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第105話

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 早速、獲物を見つけたのか僅かに身を低くする。
 ヨシナリはユウヤの視線の先を見るとソルジャーⅡ型が三機固まって森を進んでいたが、まだかなりの距離がある。 あれを捕捉したのか?

 周囲の戦闘や深い木々の所為で索敵の効率はかなり落ちているはずだ。
 
 ――にもかかわらずあっさりと先んじて敵を発見できるのは恐らくさっきから姿を見せないアルフレッドの仕業だろう。

 恐らく索敵に特化した兵装を積んでおり、プルガトリオとデータを共有しているとみて間違いない。
 連れ歩いていない事から連携を軸にした戦い方ではなく、自分一人で切り込んでいくタイプのようだ。
 身軽な動きで姿勢を低くして森を進む。 

 「あの距離で気付かれない?」

 思わず呟く。 
 スペシャル機だけあってステルス性能も高いのかもしれないがそれ以上に気配の消し方が上手い。
 上手に敵の視界に入らないように忍び寄っている。 敵へと徐々に接近。

 トルーパーの歩幅で大体二十から三十歩ぐらいだろうか? 
 噴かせば一、二秒で間合いに入れる距離。 ヨシナリはそろそろ仕掛けに行くと判断し、いざという時には援護に入れるようにアノマリーを構える。 ユウヤの機体は引き絞った弓のように身を縮めると思い切り地面を踏みしめて最初の一歩を踏み出し、同時に推力を最大。 正面から真っすぐに突っ込む。

 流石にこれは気付かれた。 敵機が反応するがもう遅い。
 ユウヤの機体は滑らかな動きで大剣を抜き、間合いに入ったと同時に振り下ろし。
 ふわわとは違う力に任せた豪快な一撃だ。 大剣が手近な一機の肩口から胴体に食い込む。

 それを見てヨシナリはおやと内心で首を傾げる。
 よくよく見てみると奇妙な形の剣だったからだ。 先端が平らになっている。
 あれでは斬る事は出来るが刺突には向かない。 何かあるのだろうか? 

 そんな事を考えながら意識をユウヤに戻すと、食い込んだ大剣が胴体部分で止まる。
 流石にフレームまで両断するのは難しかったようだが、それは特に問題にならないと即座に悟った。
 次の瞬間に大剣は縦に割れて別の刃が飛び出したからだ。 

 「うわ、マジか」

 ヨシナリはそれがどういった用途で展開されたのかを悟る。
 そしてそれは正しく、刃が唸りを上げて回転し始めたのだ。 金属が削り落とされる音が響きトルーパーが両断される。 大剣だと思ったらチェーンソーだったようだ。

 大剣を振り抜いたユウヤは大剣の半ばに付いている持ち手を握って下に引く。
 割れていた刃が閉じて回転刃が引っ込み、先端が大きく開くように割れる。
 その形状はまるで巨大なハンマーだ。 先端が平らだったから何かあると思ったがこんな機能があるのか。

 ユウヤはハンマーを横薙ぎに振るう。 
 それは持っていた突撃銃を持ち上げようとしていたⅡ型の胴体を正確に捉え、くの字に圧し折る。 
 ユウヤの動きはそれだけに留まらず、敵機ごと一回転し残りの一機も巻き込んで叩き潰す。

 衝撃に耐えきれなかった機体はそのまま大破。 たった二つのモーションで三機を仕留めた。 
 あまり積極的な性格に見えなかったので、堅実に攻めるかと思えば随分と豪快な戦い方だ。
 ユウヤは武器を元の大剣に戻して背のジョイントに噛ませて収納し、撃破したトルーパーの腰にある手榴弾を奪うと全てバラ撒くように遠くに放る。 何が目的だと投げた方向を視線で追うとそこでは二つのグループが激しい銃撃戦を繰り広げていた。

 手榴弾はその中心で次々と弾ける。 突如発生した爆発という横槍に戦場が混乱。
 それに乗じてユウヤは突撃を敢行。 手近な機体に大剣を展開して突き刺して串刺しにし、他の機体も同様に貫く。 反応の良い機体が即座に銃撃を行うがユウヤは串刺しにした機体を盾にして構わずに突っ込んだ。

 「イカれてる」

 思わず呟く。 ユウヤの戦い方は豪快を通り越して狂気の域だった。 
 比較的ではあるが細身の機体は対弾性能はそこまで高くないはずだ。 そんなビルドであの戦い方はふわわとは別のベクトルで危うい。
 
 大抵は早々に脱落するが、ユウヤは無傷でこの無謀なプレイを成立させている。
 これをイカれていると評さずにどう表現すればいいのか。
 二機を串刺しにしたのは被弾で破壊される事を見越してだろう。 

 その証拠に両勢力からの集中砲火を喰らって盾にしていた機体の内一機は瞬く間に大破し、大剣から剥がれ落ちる。 残りも穴だらけになるが、もうその頃には片方の集団に飛び込んでいた。
 敵側は構わずに撃ってくるが中に入られたグループは同士討ちを避けて撃てない。

 ユウヤは片手を大剣から離して敵に向けると、前腕部分の装甲が展開。
 砲身のような物が現れ、次の瞬間には発射。 命中した敵機の胴体に向こうが見えるほどの巨大な風穴が開く。 確認するまでもなく大破だ。 
 
 破壊のされ方から察するに散弾銃か何かのようだ。 
 砲口が僅かに放電している所を見ると電磁加速で射出するレールキャノンの類だろう。
 射程はあるのだろうが命中精度は良くなさそうなのである程度は近くで扱う必要がありそうだ。

 敵の只中に飛び込んでいるが別の勢力が居て銃弾に晒されている状態により、対処に迷ったのか一部の機体は迷うような素振りを見せる。
 
 ――上手い。 第三勢力である事を利用して敵の敵の攻撃を上手に利用している。
  
 まだ数機残っているがユウヤは無理に仕留めようとせずに距離を取る。
 当然ながらこれだけ好き勝手されて素直に逃がすはずもなく、生き残った機体はユウヤを狙うが身を低くして大きな樹の陰へと飛び込んだ。 無傷の集団からの銃撃が一瞬、途切れる。

 恐らくはどちらを狙うかで迷っているからだ。
 脅威度の高いユウヤか棒立ちになっている敵。 迷ったのはほんの僅かだが、ユウヤにはそれで十分だったようだ。 半数が敵を残りがユウヤを狙うべく銃口を向けるが判断が遅い。

 ユウヤはさっきの砲を展開したのとは逆の腕を振るう。 
 手首から紐状の何かが飛び出し、敵機の銃身に巻き付く。
 発砲と同時に引く。 銃口が隣の味方に向き、至近距離から突撃銃の斉射を受けた機体はそのまま大破。 動揺に固まる機体に飛び掛かり大剣を突き刺す。

 後はさっきと同じ流れだ。 大剣で串刺しにした機体を盾に敵の真ん中に飛び込み同士討ちを恐れて撃てなくなった敵をチェーンソーとハンマーに変形させた大剣で叩き潰す。
 一分経ったかどうかも怪しい僅かな時間でユウヤは一ダース近くの機体を片付けてしまった。
 
 「いや、やっぱハイランカーってやべぇわ」

 ヨシナリはそう呟きながらユウヤの動きを追うのを止め、銃口を上空に向ける。
 ラーガストが暴れまわっている空では巻き込まれたくない機体が遠巻きに見ているので、ヨシナリは好都合とばかりにそれを狙って順番に撃ち落とす。 ソルジャーⅡ型は背中のメインブースターを破壊すれば勝手に墜落するので楽なものだった。 これがキマイラタイプであったなら人型時なら胴体、飛行形態時は羽を狙えばいいが変形すれば立て直せるので墜落よりは撃墜を狙うべきだ。

 見ているばかりでサボっていると思われたくないのでヨシナリは撃墜スコアを稼ぐ為に狙い撃つべく標的を油断なく探し始めた。
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