Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第102話

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 「別にあのクソ女を寄ってたかって痛めつけようって気はない。 ただ、周りにいる連中を追い払って邪魔が入らないようにしてほしいだけだ」

 ――というのがユウヤの言。 
 要はカナタと一対一の状況を作りたいらしい。 イベント戦で彼女の凄まじい戦いぶりを見たヨシナリとしては単騎で落とせるのかと考えたが、ユニオンに入るに当たってユウヤのステータスを確認すると納得の内容だった。 個人ランクA、カナタと同格だ。 機体のデザインも見れるのだが、そこでおやと首を傾げる。

 イベント戦で見た覚えがないからだ。 どうやら参加していなかったらしい。
 見た感じ集団戦はあんまり好きではない感じなのだろうか?
 初対面なのでどの程度踏み込んでいいか掴みかねているヨシナリからすれば興味はあるが詮索は控えるべきと考え、あまり触れる事はしないようにしていたのだ。

 このユウヤというプレイヤーがカナタの事を心底から忌み嫌っているのは口振りからも良く分かったが、ヨシナリからすれば彼女のようなタイプは人から妬みは買っても恨みは買わないと思っていたのでこのような形で狙われるのは少し意外だった。
 一応、ユウヤに理由を訊ねたら「いい加減、鬱陶しくなってきた」との事。
 
 流石に当事者となる今回のイベントについては尋ねておきたいと考えたのだが、これは大丈夫なのだろうか? 現状、ヨシナリ達『星座盤』は『栄光』とそこまで険悪な関係ではないがそこまで良好ともいえない。
 精々、一回模擬戦をしてイベントで助けて貰った程度の知り合いレベルだ。 そんな相手に義理立てする気はないが、わざわざ恨みを買うような真似もしたくなかったのだがどうにもはっきりしない。

 何かあればSランクのラーガストが居るので最悪、彼に庇って貰おう。 
 話は纏まったので二人は「イベントで」とだけ口にして早々に消えた。
 どうせ開始まで残り一日を切っているので訓練はあまり意味がないとは思っていた問題はない。 本音を言えばちょっとぐらいは付き合って欲しかったと思ったが向こうは必要以上に慣れ合う気はなさそうだ。

 二人が去った後、ユニオンホームでヨシナリはふうと大きく息を吐く。
 体よく利用された形ではあるがそれはお互い様。 できれば決勝まで付き合って欲しいが、コバンザメで優勝しても素直に喜べないので――

 ――あぁ、でもキマイラタイプのフレーム欲しいなぁ……。
 
 意識すると欲望がむくむくと大きくなるが、何とか追い払ってイベントに集中する。
 事情はどうあれハイランカーの戦いを間近で見られるチャンスだ。 

 この状況を最大限に活かすべきだろう。 優勝は無理でも二人の戦い方を分析して少しでも自身の成長の糧にしてやる。 そう前向きに考えたヨシナリはよしと気合を入れて立ち上がった。
 今日の所は特にやる事もないので取り合えずログアウトし、明日に備えるとしよう。

 
 ログアウト。 ヨシナリから嘉成へ。
 むくりと身を起こし、軽く伸びをした後に食事を摂る為にリビングへと向かう。
 用意されていた食事を温めながらニュースサイトをチェック。
 
 惑星ユーピテルの衛星群に新しい基地が完成。 
 それにより本星に送る資源の量が大きく向上したとの事。 
 この星は遥か昔に資源を掘りつくしたとして様々な問題が噴出し、最終的には奪い合いの国家間戦争にまで発展したのだ。 凄まじい数の犠牲者を出した戦争はあちこちの国家を飲み込み、世界戦争にまで発展した。 死者数は確認されているだけでもこの星の歴史上最大といえる。

 戦いである以上、勝者と敗者に分かれるのが常ではあるがこの戦争に限っては勝者は存在しなかった。
 いや、正確には存在したのだが、その時点ではどこの国も自身を維持できない有様だったようだ。
 必要に迫られた結果ではあるが、互いに生き残る為に協力して一つになった。

 それがこの星を支配する統一国家アメイジアの誕生経緯だ。
 果たしてそんな簡単に遺恨を捨てて一つになる事なんて可能なのだろうか?
 ヨシナリは初めて知った時も思わず首を捻ったが、そうなっている以上そうなのだろう。
 
 「まぁ、その資源問題も宇宙開発に成功した事で賄えてるんだがな」

 小さく呟く。 実際、手付かずの惑星は資源の宝庫で瞬く間に赤字を消し去った後、黒字へと変わった。 こうしてこの世界は徐々に版図を広げつつ繁栄への道を歩み続けている。

 ――と少し前に受けた歴史の授業でやっていた。

 今ではあちこちの惑星や衛星に採掘基地を作って次々と人が宇宙へと流れて行っている。 
 ただ、いい事ばかりではない。 次の記事を表示させると太陽系外縁に存在する準惑星ディスパテルで大事故。 死者多数といった見出しが大きく目に飛び込んでくる。

 本星から離れれば離れるほどに開拓の危険は増す。
 地続きでない以上は危険は付き物だが、宇宙では死に直結する。
 膨大な資源によって文明を支え、発展させるというのは聞こえはいいが数多の犠牲の上に成り立っているので嘉成からすれば少しだけ気になってしまうというのが本音だ。

 温まった食事を口に運びながら次の記事を見る。
 「ICpw」の記事だ。 大人気ゲームである『Intrusion Countermeasure:protective wall』のユーザー数が累計で五千万人を突破したとの事。 サービス開始されてから一年も経過していないにもかかわらずこの数は記録的だと報じている。 圧倒的なクオリティは数多のプレイヤーを魅了して離さないと記事には綴られているが、嘉成からすればそれだけじゃないだろといった思いもあった。

 確かにこのゲームは素晴らしいクオリティだ。
 だからと言って万人受けするのかと言われると疑問符が付く。
 このゲームは機体のスペックもそうだが何よりプレイヤーの技量が要求されるので、それがないと必ずどこかで頭打ちになるだろう。 少なくともCランク以上は無理だ。

 早い段階で頭打ちになると理解してしまうと意欲は早々に消えるだろう。
 もしかしたらその辺を緩和する意味合いでユニオン機能を実装したのだろうか?
 嘉成はこのゲームの運営に対してはプレイヤーに厳しい印象を受けていたのでどちらかというとモラルのない人間の排除を優先していると思っていた。

 付け加えるならこのゲームのユーザー数が爆増する理由は単純なクオリティだけではない。
 RMT――リアルマネートレードがあるからだ。 特殊なゲーム内通貨であるPは非常に高額で取引できる。 上手に捌けるのであればこいつを売るだけで生活が成り立つのだ。

 事実として調べれば高ランクのプレイヤーの一部はこのランクを維持する事で得られる報酬で生活できていると豪語する者もおり、それにあやかりたいと始める者も多い。
 緊急ミッションを受ける事で少ないがPの入手は可能なので生活したいとまではいかないが、小遣いを稼ぎたいと考えている者は少なからずいる。 

 ――人をその気にさせるのは利益、か。

 文字通り、現金な話だ。 嘉成はそう呟きながら食事を済ませる。
 食器を片付けるとウインドウを消去してリビングを後にした。
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