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第95話

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 発射。 拡散されたレーザー攻撃がカナタの機体に襲い掛かる。
 咄嗟に大剣を盾にして防ぐが、背後から飛んできたもう一本の腕がエネルギーブレードを形成しながら背後から動体を貫く。 

 「――く、そ」

 カナタの機体が爆散。 エネミーは油断なく次の獲物を見定める。
 凄まじい速度で突っ込んでくるラーガストの斬撃を躱しながら腕を遠隔操作し、次々にプレイヤー達を撃破していく。 一切無駄のない挙動、そしてプレイヤー達の意識の間隙を縫う攻撃。

 どれを取ってもこれまでの敵とは一線を画す動きだった。 何せ、攻撃が一切当たらないのだ。
 効果がないなら通るように工夫、または突破の策を練ればいい。
 だが、そもそも当たらないのではどうすればいいのだろうか? Sランクプレイヤーであるラーガスト以上の操作技能。 AI操作特有の理不尽な反応速度かと疑う者は多かったが、対峙した者は逆に違うという確信を深めた。 

 二本の腕での攻撃タイミング、ターゲットの選択、回避などの挙動を見れば明らかに人間のそれだと分かる。 つまり目の前の敵は運営が用意したプレイヤーなのだ。
 それに気づき、運営を直接叩きのめせると喜ぶものも一部ではあるが存在した。

 「ふ、この戦場を用意した黒幕の走狗。 差し詰め戦場の支配者といったところか。 ならば我が闇がそれを凌駕し、深き静寂の底へと沈めよう」
 
 直上からの強襲。 ベリアルの機体だ。
 エネルギーブレードを展開しながらの斬撃をエネミーは降下しながら回避。 それは織り込み済みだったようで手を翳す。

 「闇に呑まれよ!」
 
 手の平から闇を凝縮した衝撃波のようなものが放出されるが、エネミーは残像すら残しそうな凄まじい挙動で回避。 一瞬で背後を取られる。
 
 「っ!? やるな! だが――」

 それが最後だった。 ベリアルの機体は振り返っての斬撃を見舞おうとしていたが、死角から飛んでき腕にコックピット部分を貫かれる。 エネミーが離れると同時に爆散。
 
 「やーっとここまで降りてきてくれた」

 ベリアルの機体の爆発に紛れる形でソルジャーⅡ型が突っ込んで来る。
 ふわわだ。 両手にブレードを握り凄まじい速さでの斬撃を繰り出す。
 これは躱せないと判断したのかエネミーは腕を割り込ませて受けようとする。

 「ほい、頂き」

 彼女の狙いはエネミー本体ではなくその腕だ。 
 一撃を受けさせた後、残ったブレードでエネミーの腕を両断。
 二つに分かれた腕が爆発する。 これで敵の戦闘能力は落ちるだろう。

 どちらにせよ防御、攻撃の選択肢は減る。 このまま追撃を――
 そんな彼女だったが、エネミーの腕部分を見て思わず表情が固まる。
 腕に格子状の光が現れ光は何かを描くように形を変えると瞬く間に新しい腕となった。

 出現した腕は本体から分離。 再度攻撃を仕掛けてくる。

 「なにそれズルやん!?」

 ふわわは思わず声を漏らしながら回避行動入るが、キマイラタイプやSランクプレイヤーですら容易く捉える精度の射撃をソルジャータイプのスペックで凌ぎきれる訳もなく。

 「ごめん。 ウチ、ここまでっぽい」

 拡散されたレーザー攻撃に射抜かれ文字通り、蜂の巣のようになったふわわの機体が爆散。
 
  
  
 洒落になっていなかった。
 ウツボ型エネミーの絶望感も大概だったが、あのエネミーはそれ以上だ。
 これまでのエネミーは性能で圧倒するタイプだったが、今回は性能だけでなく純粋な技量でも上回ってくる。 奇襲をかけたふわわがあっさりと返り討ちに遭ったのを見てヨシナリは絶望感に震えた。

 ついさっき生き残っていたふわわがあのエネミーを仕留めたいから知恵を貸してくれと頼まれたので奇襲を提案したのだが、あっさり返り討ちに遭った。
 ヨシナリなりにエネミーを分析していたのだが、まだ浅かったと言わざるを得ない。

 あのエネミーの攻撃手段は今の所、遠隔操作している両腕だ。
 レーザー攻撃。 至近距離だと拡散、遠距離は高出力、防御時には砲身が展開してシールドを展開。
 はっきりと確認した訳ではないが、その状態だと自身の位置を誤認させるジャミングも使えるようだ。

 最後にブレードを形成しての斬撃。 あの腕だけで近、中、遠の全てをカバーしている。
 そして何より凄まじいのはその機能を十全に使いこなしているあのエネミーの技量だろう。
 様々な事ができる事は単純に便利かもしれないが、多すぎる選択肢は使用者に迷いを齎す。
 
 あれだけの高速戦闘で最適な攻撃手段を選び続けて次々とAランクプレイヤーを撃破して来たのは凄まじいの一言。 だが、裏を返せば攻撃、防御の全てを腕に依存していると言い換えてもいい。
 だからこそ、ふわわに腕の破壊を狙わせたのだが――

 「何なんだアレは? 転送? それとも精製しているのか?」
  
 どちらにしても破壊しても即座に代わりが飛んでくるのは予想外だった。
 結果、ふわわはあっさり返り討ちだ。 見ている先でSランクプレイヤーが凄まじい攻撃を繰り出しているが、エネミーは器用に躱して反撃。 その合間に他のプレイヤーに攻撃を仕掛けて数を減らしていく。

 「……どうするよ?」

 マルメルはやや途方に暮れた様子で空中で繰り広げられている戦闘を眺めていた。
 機体も半壊している状態なので、狙われた時点で終わると覚悟しているからというのもあって諦めの色は濃い。 

 「どうしたものか。 取り合えずあいつはまずプレイヤーを全滅させるつもりのようだから基地の防衛はもう考えなくても良さそうなのはいい知らせだが、このままいくとSランク以外はあっさり皆殺しにされるな」

 現状、有効な打開策は見つからないが、このまま終わってたまるか。 
 せめて運営の用意した切り札に一泡吹かせてやりたい。
 ヨシナリはそう思っていた。 その為にはとにかく情報が足りない。

 何か少しでもいい。 
 あいつの弱点とまではいかなくても動きの癖だけでも掴めればそこからどうにか突破口をこじ開ける。
 今は視る事しかできない。 幸いにもエネミーからは見ているだけのヨシナリ達は脅威度が低いとでも認識されているのか見向きもされない。 その事実に若干、苛立ちを覚える。

 ――見てろ。 絶対に俺を無視した事を後悔させてやる。

 そんな気持ちを胸に押し込め、ヨシナリは未だに激しい空中戦を繰り広げる敵をじっと見つめ続けた。
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