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第93話

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 脱落した触手の内包する光が最大になった瞬間、周囲に撒き散らされたのは強烈な電撃だ。
 EMPやエネルギーの強制放出を狙った攻撃を警戒していた者は対応しきれず、電撃に射抜かれた機体は全て大破。 周囲に無数の爆発が発生する。

 「やってくれる! やられる前の足掻きか――おいおい、マジかよ……」

 最期の自爆攻撃、そんな印象を持っていたプレイヤーがその光景に思わず呟く。
 イソギンチャク型エネミーのレーザーを吐き出していた穴がせり出したのだが、それが間違いだったと気づくのにそう時間はかからなかった。 筒状の何かだったがそれが本体を覆う装甲だったようで次々と脱落し、その正体が明らかになる。 

 蛇のように長い姿。 魚類に詳しい者であるならばその形状から類似した生物を連想するだろう。
 
 「は、イソギンチャクの中からウツボが出てきやがった」

 早々にその正体を看破したプレイヤーの一人がそう呟いた。
 そう、それはウツボという魚に酷似しており、装甲の一部から次々とドローンをばら撒くように射出している。 

 「クソが! また例の反射兵器か! もう種は割れてるんだ! 片端から撃ち落としてや――」

 そう言って立て直したキマイラタイプの一機が空中で変形し手に持った突撃銃でドローンを破壊しようとしたが、ドローンは無人とは思えない挙動で回避。 その急速な動きの変調にプレイヤーの反応が僅かに遅れる。 そしてその遅れは致命的だった。

 ドローンはそのまま機体に体当たり。 胴体部分に深々とめり込んだ後、光を放ち自爆。
 全く同じ光景が戦場のあちこちで発生する。 

 「畜生、今度はドローンに偽装した機雷かよ! 何でも出てくるなこの野郎!」

 機雷という新しい攻撃手段に加え、イソギンチャク型エネミーの時と違い動き回るウツボ型。
 更に他のドローンの動きも制止状態から動き出し始めた。 そしてその口が大きく開かれる。 

 「例のレーザー攻撃が来るぞ!」

 無数の細い光線が吐き出され、周囲に浮遊しているドローンによって反射。
 また不規則な軌道を取ってプレイヤー達に襲い掛かる。
 生き残った全てのプレイヤーが防御姿勢を取った。 この攻撃は一度見ている。

 躱せないなら防ぐしかない。 そして防ぐ方法はとにかく防御を固める事だ。 
 反射によって正確に当ててくるが、防ぐ事はここまで生き残ってきた者達の技量であれば難しくはあるが不可能ではない。

 ――はずだった。

 ウツボ型エネミーのレーザー攻撃はパンツァータイプのエネルギーシールドを貫通し、キマイラタイプの回避先を正確に狙い撃ち、ソルジャータイプの急所を的確に撃ち抜いた。
 レーダー表示からプレイヤーを示す識別が一気に消滅。 残数が凄まじい勢いで減っていく。
 防御に成功した機体まで大破している点から明らかに威力が上がっていた。 
 
 「ふざけんな! こんなもの躱せる訳ないだろうが!」

 様々な戦闘機動を駆使して回避を試みるプレイヤー達を嘲笑うかのように光線は次々とトルーパーを射抜く。 ウツボ型が出現し、攻撃を開始して一分足らずでその場にいたプレイヤーの七割が脱落。
 ここまで被害が出たのは光線の威力だけでなく精度が段違いに向上したからだ。

 難を逃れた者は運が良かったか、咄嗟の判断で回避に成功した者のみ。
 気づいた者は少なかったが、反射に加え追尾性を備えたレーザー攻撃が回避を困難にした事もあった。
 
 
 「マルメル、生きてるか……」
 
 ヨシナリは穴が開いて使い物にならなくなった盾を投げ捨て、相棒に声をかける。
 彼の機体は大破こそ免れたが、機体の肩に一発、足に二発喰らって穴が開いてしまった。
 裏を返せばそれだけで済んだといえる。 胴体に喰らわなかったのは運もあったが盾のお陰だろう。

 「あー、何とか」

 マルメルの機体も酷い有様で、ヨシナリと違い敵の残骸を使用したので盾としては不十分だったようだ。 大破こそしていないが頭部の半分が消し飛び、片足が吹き飛んでいた。
 起き上がれないのか大地に倒れ伏している。

 「クソ、何が起こったんだ? 防いだと思ったんだがなぁ」
 「イソギンチャクの時は周囲にドローンを展開して結界のように範囲内にレーザーを反射させて敵を撃ち抜く形だったが、ウツボになってから反射を使って積極的に撃ち落としに来たんだ」

 反射するドローンには攻撃能力はないが、一定の割合で見た目が全く同じの機雷が混ざっているので下手に攻撃しようとすると逆に突っ込んで撃墜しに来る。
 空を見ると生き残っているキマイラタイプがフレアやチャフをばら撒きながら飛んでいたが、反射するレーザーが迫り、喰らいつくように射抜かれ撃墜された。

 「うわ」
 
 見ていたマルメルは思わず声を漏らす。
 ヨシナリも同じ気持ちで、それ以上に反射せずに軌道を変えたレーザーに眉を顰めた。
 あれがあったから回避をより困難な物にしていたようだ。
 
 ――殺意が高すぎる。

 明らかにクリアさせずに殺しに来ている攻撃に表情を歪める。
 普通、ゲームって奴は困難ではあってもクリアできる仕様になっているんじゃないのか?
 空を自由自在に泳ぎ回り表面からドローンを撒き散らして支配領域を広げ、口からレーザーを吐き出し変幻自在に軌道を変える光にプレイヤー達は成す術もなく撃墜される。

 Aランクプレイヤーは生き残っているが、結構な数が撃墜されていた。
 そしてAランク以下のプレイヤーはほぼ全滅。 レーダー表示を見ても生き残ってるのは百もいない。
 いくらなんでもこれは無理なのではないのだろうか?
 
 正直、この状態であと二時間近くも耐えろとは運営は本当にクリアさせる気があるのだろうか?
 カタツムリ型、蝦蛄型、クラゲ型とどれも手強い敵であったが、やり方次第で充分に勝てるようにデザインされていた。 移動不可能、死角が存在する、物量こそ脅威だが撃破可能。

 だが、こいつは一体なんだ? 
 イソギンチャクの形態は守勢に長けていると感じていたが、接近を誘う為の布石だったとすら感じる。
 レーザー攻撃に関しても範囲内の敵を撃ち抜く形式から一つ一つ丁寧に撃墜していく攻撃への変調。
 
 間違いなくAIではなく運営による有人操作だ。
 最後の最後でこんな奴を引っ張り出してくるとは本当にこいつらは――

 「ぶっ潰してやりてぇ……」

 絶対に負けないとか思ってプレイヤーの心を折りに来ている運営の鼻を明かしてやりたい。
 その為に俺にできる事はなんだ? 打開する手段はあるのか?
 俺はまだ何もできちゃいない。 別に自分が主役になれるとは思っていないが、何か、何かできる事は――

 そんな彼の意識の外で一つの変化が起こっていた。
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