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第92話

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 理屈は不明だがあのイソギンチャク型エネミーの波動をまともに受けると強制的にエネルギーを放出させられるようで、大半の機体は一時的にではあるがガス欠に陥ったのだ。
 破壊されたわけではないので時間を置けば再起動は可能だが、この状況での機能停止は致命的だ。

 キマイラタイプは高い機動性を確保する為、サブのジェネレーターを積んでいる機体が多く、即座にとは行かないが比較的、早く機能が回復して危機を脱したがそれ以外はそうもいかなかった。
 特に燃費の悪いエンジェルタイプは立て直すのが非常に遅れており、上空で戦闘を繰り広げていた機体は大部分が落下の衝撃で大破している。

 そんな中、無事だった者も多く存在した。 
 Aランクプレイヤー。 彼らの機体は特注品でその大半が敵の攻撃を完全に無効化していた。
 その内の一機であるカナタの機体『ヘレボルス・ニゲル』も例に漏れずに無事に敵の攻撃を耐えて居る。

 彼女達の機体はどういったものなのか? 形状に大きな差異があるがカテゴリーとしては同一となる。
 Aランク以上の特殊機に使用されているのは『ジェネシスフレーム』と呼称される特殊フレームだ。

 プレイヤーランクがAを超えるとある機能が解放される。
 機体のオーダーメイドだ。 莫大なPが必要だが、申請するとシステムがこれまでの戦闘データを参照し、そのプレイヤーの能力を最大限に活かせる設計、性能、固有装備をフレームから提案する。

 それに加えて追加で料金を支払う事でシステムの許容範囲で任意の能力を付加する事が可能だ。 
 お試しで操縦までさせてくれるのでシステムが自分に合わせた最高の機体に対して文句を言う者はいなかった。 少なくともこのサーバー内に存在するAランク以上のプレイヤーで性能に文句を言った者は皆無。

 それほどまでにプレイヤーにとって最高の機体を提供してくるのだ。
 カナタの場合は近~中距離戦が得意なレンジで、高火力の攻撃を好んで使用していた。
 その結果、システムが用意したのは高出力エネルギーブレード『レンテンローズ』だ。

 通常時は実体剣としても扱えるが、中心から縦に割れる事で内蔵されたエネルギー放出口からエネルギー弾を撃ち出す射撃、刃を形成する近接と対応距離が非常に広い。
 加えてどの位置からでも一撃必殺を狙える高機動、高出力、そして腕に備わっているエネルギーシールドと隙の無い構成となっている。 カナタは敵のレーザー攻撃を弾き、躱しながらも肉薄しレンテンローズを一撃。 イソギンチャク型エネミーの重装甲に小さくない傷が刻まれる。

 ――強い。

 カナタが敵に抱いた感想はそれだ。 それともう一点。
 恐らくだが、このイソギンチャク型エネミーはAI操作ではなく中に人が入っている。
 少なくともさっきの攻撃に関しては最初のEMPはただのブラフで本命は出力ダウンによる行動不能だ。

 NPCではなく、プレイヤー特有の駆け引きのようなものを感じる。
 だからこそ、他が狙わないような位置を積極的に攻撃し、意識を分散させる事を念頭に置いた立ち回りをしていた。 斬撃、斬撃、回避、距離を取って射撃。

 彼女の動きは全プレイヤーの中でも高い水準であり、傍から見れば素晴らしいと賞賛されるものだろう。 だが、彼女はその賞賛には何の価値も感じていなかった。
 多少の優越感は得られるだろうが、彼女は知らない人間からの評価は求めておらず欲しいのは幼馴染の少年からのそれだったのだが――

 「……何で来てないのよ……」
 
 同じAランクプレイヤーの少年は何とこのイベントに欠席していた。
 しつこくメッセージを送ったのだが、ついさっき返ってきた返事が「寝てた」の一言。
 戦いながらだったらさっさと入れと催促を送ると「面倒だからいかない。 ウザいから二度と連絡してくるな」と返されてカナタは絶句。 
 
 「っざけんなぁぁぁ!!」

 最大出力のレンテンローズはイソギンチャク型エネミーの装甲を大きく抉る。
 カナタは表にこそ出していなかったが怒り狂っていた。
 今日は準備をしてきたのだ。 ユニオンメンバーともしっかりと話し合って作戦、対策を練ってこのイベント攻略の準備を進めつつ自分が大々的に活躍し、幼馴染の少年を見返し、ユニオンに入らせる為に。

 格好いい自分の背中を見せつけ、カナタがいなければ自分は駄目なんだとその脳裏に刻みつける。
 それこそが彼女のモチベーションを高める最大の要因だったのだが、その気持ちを知ってか知らずか少年は来ずに彼女に残ったのは準備を無駄にされた怒りだけだった。

 こうなってしまった以上、この感情を敵にぶつけて発散する以外に道はない。
 カナタはこの不快なイソギンチャク型エネミーを徹底的に破壊する事で溜飲を下げよう。
 そう思う事でモチベーションを高く保っていた。

 ちらりと触手を一瞥。 他のプレイヤーの猛攻を受けて破壊されそうになっていたが、強く光っていたのでもう一度アレが来るだろう。
 一度、晒した以上はそこまで恐ろしくはない。 低ランクのプレイヤー達がまた止められては敵わないと考えて優先的に狙う者は多いので任せておけば何の問題もないだろう。

 そうこうしている内に数本の触手が根元から破壊され脱落しようとしていた。
 同時にダメージが閾値を超えたのか、エネミーのあちこちで小さな爆発が発生し、何かがショートしたのかあちこちでバチバチと何かが弾ける。

 イソギンチャク型エネミーは足掻きとばかりに球体型のドローンを大量に撒き散らす。
 傍から見れば悪あがきにも見えるが、カナタはそれを見て僅かに眉を顰めた。
 彼女はこのエネミーをプレイヤーと認識している。 そんな相手がこれだけの人数相手に単騎で挑み、何の策もないまま危機に陥る? 考えにくい。

 カナタはかなり怪しいと感じていた。


 ――外装・・の損壊率七十パーセント突破。
 
 イソギンチャク型エネミー「Behemoth」を操る存在は喜んでいた。
 ちゃんと自分を追いつめてくれている事に。 予定通り、次の手を打とう。
 その存在は内心でお互いにもっと楽しもうと喜びを深めた。

 ――『lightning disruptor』『ball mine』アンロック。 外装パージ開始。

 あちこちで爆発が起こり傍から見れば撃破は秒読みに見えたが、一部のプレイヤーは怪しいと疑っていた。 だが、具体的にどう怪しいかは掴みかねている。
 だからこそ最大限の警戒をしていたのだが「Behemoth」とそれを駆る存在はその隙間を縫うようにそれを行った。 
 
 発生源は破壊されて脱落していく触手。 エネルギーをため込んでいたので発光している点は誰も気にしなかったのだが、落下中に放電し始めたのを見て警戒心が持ち上がる。
 
 「おい、アレ――」

 誰かが警戒を促そうとしたが遅かった。 それが起動する。 
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