上 下
89 / 386

第89話

しおりを挟む
 「守っても無駄だ。 全員で突っ込め!」

 あの馬鹿げた威力の砲を見てしまった以上、次を撃たせただけで終わるので突っ込む以外の選択肢はなかった。 他のエネミーが引っ込んでいるので敵はイソギンチャクのみだった事もその選択を後押しした。
 もしかするとイソギンチャクは囮でプレイヤー達を釣りだした後、リポップして基地を襲うかもしれない。

 可能性としては有り得る話ではあるが、ランカーの大半はそれはないと考えていた。
 何故なら、そんな手段を使うぐらいなら回復を待つなんて真似はしないからだ。
 目の前のイソギンチャク型エネミーはプレイヤーとの正面からの対決を望んでいる。

 だからこそそれを理解した者達は真っ先に突っ込んでいったのだ。
 空中はAランクプレイヤーの特殊機を筆頭にエンジェルタイプやキマイラタイプ。
 陸上はそれ以外の機体がエネミーのいなくなった無人の荒野を突き進む。
 
 障害物のない空間をトルーパー達は瞬く間に踏破し、後僅かで敵を射程内へ捉える。
 その時だった。 イソギンチャク型エネミーに動きがあったのは。
 口が大きく開き、大量の何かを吐き出した。 

 「何だ? 鉄球?」
 
 戦闘を行くプレイヤーの一人が目を凝らして吐き出した物を注視する。
 それは確かに鉄の玉に見える。 高速でぶつければトルーパーを破壊できるだろう。
 だが、そう言った用途に使用される訳ではなさそうだ。

 何故ならばら撒かれた鉄球はイソギンチャク型エネミーの周囲を浮遊しているからだ。
 防御? それともEMPのような電磁パルスを発するタイプの兵装?
 判断に迷うが迂闊に突っ込む訳にも行かないので即座に攻撃を選択。

 一番足の速いキマイラタイプが射程内に入ったと同時に変形し、武器を構えるが敵の動きの方が僅かに早かった。 口を上に向けたまま発光。
 さっきの高出力のレーザー砲なのは察しがつく。 だが、上を向いたままなのは何故だ?

 歴戦のプレイヤー達は嫌な予感を覚え、攻撃ではなく回避行動を取る。
 そしてその判断は正しくはあったが、事態は彼等の想像を超えてもいた。
 イソギンチャク型エネミーから放たれたのは無数の細い光線。 真上に放たれたそれは空中に散らばっている鉄球に触れた瞬間、空一面に星座のような光のパターンが刻まれ――光の雨が大地に降り注いだ。

 「そんなのアリかよ!?」
 
 それはほぼ運だった。 嫌な予感を感じて早めに回避行動を取っていた者の大半は躱せたが、反応が遅れた者、判断が遅れた者は全て射抜かれ爆散。 レーダー表示からごっそりと味方の反応が消え失せる。
 
 「反射兵器。 また、厄介な代物が出てきやがったな。」

 攻撃の正体は即座に判明した。 
 あのイソギンチャク型エネミーは周囲にばら撒いた鉄球に光線を当てて反射させているのだ。
 
 「クソ、先にあの球を――」

 プレイヤー達が対応を決めるよりも早く、イソギンチャク型エネミーは次の行動に移る。
 胴体部分のあちこちが開き無数のミサイルが発射された。
 
 「今度はミサイルかよしゃらくせえ!」

 光線はともかくミサイル程度で簡単に撃墜される彼等ではない。
 慣れた挙動で引き付けて手持ちの武器でミサイルを叩き落とすが、爆発したミサイルは内部に溜め込んでいたであろう何かを撒き散らした。 キラキラと輝いているそれは金属の板にも見える。

 「チャフ?」
 
 電波などを反射する使い捨てのパッシプ・デコイが一番近かったのだが、このエネミーがそんな事をする必要はない。 ならば、別の用途があるはずなのだが、今しがた光線を反射させるのを見たばかりだ。
 これから何が起こるかは考えるまでもない。 光線を発射。
 
 空には星座のような幾何学模様。 そして空域には光でできた迷路のようなパターンが刻まれ。
 先陣を切った機体の八割が光に射抜かれて撃墜された。
 空域にばら撒かれたチャフを無数の光が反射し、想像もできない角度から襲い掛かった光線が彼らの機体を射抜いたからだ。 まるで花火のように空中で無数の爆発が連続して発生し、残骸は何もできずに墜落していく。 イソギンチャク型エネミーは油断なく、そして無慈悲に再度ミサイルを発射した。

 
 「うわ、冗談だろ? 瞬殺されたぞ」
 「あぁ、見てた」
 
 マルメルがやや引き攣った声を上げ、ヨシナリも動揺しているのか声が微かに震える。
 流石にソルジャーⅡ型でキマイラタイプに付いていけないので、敵の出方を見る意味でも少し後方から進んでいたのだがそれによって命拾いした。

 ヨシナリは改めてイソギンチャク型エネミーを観察する。
 重装甲にほぼ移動していない点からも動けないか動きが遅いかのどちらかだろう。
 
 ――いや、動く必要がないのか。

 コンセプトとしては拠点防衛用の兵器といった感じだが、問題はその武装だ。
 見えている範囲では光学兵器と周囲に展開した鉄球。 恐らくアレはドローンの類だろう。
 光線を任意の方向に反射する機能を備えており、本体が放った攻撃を拡散させている。

 空から降ってきた攻撃の正体だ。 
 ただ、狙いが正確すぎるので即座に回避行動を取れば回避は難しいが不可能ではない。
 そして最も厄介なのは周囲にばら撒かれたチャフだ。 空から放たれた光線を乱反射させて、空域を光線で埋め尽くす飽和攻撃。 こちらはドローンと違って規則性のない反射なので軌道はランダムなのだが、空から放った光線をそのまま利用しているので文字通りの二の矢だ。

 あのイソギンチャクの攻撃パターンとしては第一にドローンの展開、チャフの散布でフィールドを整え、上空からドローンの反射による精密射撃、躱されても散布されたチャフによる乱反射で敵を射抜く。
 非常に無駄のない合理的な攻撃だった。 躱されても攻撃は生きる点はかなり厄介だ。

 ――打開するにはまずはこの状況を崩す事が必要だ。

 ヨシナリは狙撃銃を空に向かって構える。
 撃ち込む前に周囲から無数の銃声。 ヨシナリと同じ結論に至ったプレイヤー達が遠距離武器を用いて上空のドローンを潰しにかかったのだ。

 そうこのイソギンチャク型エネミーの攻撃はドローンを介して成立しているので、裏を返せばドローンさえいなければ最初の精密射撃は来ない。 
 火力に自身のない者達は本体への攻撃よりもドローンの排除を優先。 生き残ったキマイラタイプや戦闘空域に入ったエンジェルタイプも役割を分担し、本体を狙う者はそのまま直進し、残りは急上昇。

 判断の早さは流石だなと思いながらヨシナリは空に向かって狙撃を開始した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

終末の運命に抗う者達

ブレイブ
SF
人類のほとんどは突然現れた地球外生命体アースによって、消滅し、地球の人口は数百人になってしまった、だが、希望はあり、地球外生命体に抗う為に、最終兵器。ドゥームズギアを扱う少年少女が居た

サクラ・アンダーソンの不思議な体験

廣瀬純一
SF
女性のサクラ・アンダーソンが男性のコウイチ・アンダーソンに変わるまでの不思議な話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派
SF
『科学の魔女は、空色の髪をなびかせて宙を舞う』 高校を卒業後、亡くなった両親の後を継いで工場長となったニ十歳の女性――空鳥 隼《そらとり じゅん》 彼女は両親との思い出が詰まった工場を守るため、単身で経営を続けてはいたものの、その運営状況は火の車。残された借金さえも返せない。 それでも持ち前の知識で独自の商品開発を進め、なんとかこの状況からの脱出を図っていた。 そんなある日、隼は自身の開発物の影響で、スーパーパワーに目覚めてしまう。 その力は、隼にさらなる可能性を見出させ、その運命さえも大きく変えていく。 持ち前の科学知識を応用することで、世に魔法を再現することをも可能とした力。 その力をもってして、隼は日々空を駆け巡り、世のため人のためのヒーロー活動を始めることにした。 そしていつしか、彼女はこう呼ばれるようになる。 魔法の杖に腰かけて、大空を鳥のように舞う【空色の魔女】と。 ※この作品の科学知識云々はフィクションです。参考にしないでください。 ※ノベルアッププラス様での連載分を後追いで公開いたします。 ※2022/10/25 完結まで投稿しました。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

処理中です...