88 / 351
第88話
しおりを挟む
Aランクプレイヤーの猛攻を受けてクラゲ型エネミーが部品を脱落させながら沈んでいく。
「基地に落とすな。 空中で完全に破壊しろ!」
誰かがそう叫び、意図を理解している者達は攻撃の手を緩めない。
この戦いはあくまで基地の防衛が主目的なのだ。 敵を撃破したは良いが、肝心の基地が破壊されたのでは意味がない。 残骸に成り果てた巨大なエネミーは空中で完全に破壊され、破片も可能限り破砕される事となった。 細かな破片が基地に降り注ぎ、被害こそ出るが直接墜落する事に比べれば大した事はない。
「うぉぉぉぉ! ざまあみやがれ運営! 見てるか! お前らの用意したボスは残らず始末してやったぜ!」
「イエーイ! 運営君みってるー? お前らの用意した切り札、俺達がぜーんぶ潰してやったからな! どんな気持ち? ねぇ、どんな気持ち?」
「後は雑魚だけだが、こっちにはAランクプレイヤーがいるんだ。 楽勝だぜ!」
「やった! 俺達は勝ったんだ!」
最大の敵とも呼べる巨大エネミーを苦労の末に撃破した事もあって彼らの歓喜は非常に大きい。
加えるならクラゲ型の能力は残骸を取り込む事による強化。
つまり戦場に残骸が溜まっている状態こそがその性能を最大限に発揮できる。
それを考えれば投入は最後にするのが最も合理的な選択だ。
つまり、これ以上の巨大エネミーは出てこない。 それが一部のプレイヤーの見解だった。
後は時間まで粘るだけ。 それにSランクもまだ来ていない状態。
残りは消化試合みたいなもの。 そう考えていたのだが――
「――あれ?」
不意に一人のプレイヤーが疑問の声を上げる。
それはこの場にいるプレイヤーの総意ともいえる疑問だった。
何故なら敵が反転して引き上げていくからだ。 数分もしない内にフィールド内のエネミーは全て消え去った。 残されたプレイヤー達は思わずといった様子で顔を見合わせる。
「これは運営の敗北宣言って事か?」
「分からん。 また何かあるかもしれんから入れる奴は機体をハンガーに入れといた方が良いかもしれん」
突然の出来事に戸惑いながらも警戒は怠らずにプレイヤー達は順番にハンガーに機体を預ける。
ヨシナリ達も機体のメンテナンスを終え、完全に回復した状態でぐるりと基地を見回す。
ステータスを確認すると損傷率は五十五パーセント。 半分を切っているとはいえ、ここまで耐久を残しているのはある意味、驚異的ともいえる。
カタツムリ、蝦蛄、クラゲと圧倒的ともいえる火力や物量を誇るエネミーは瞬く間に基地を瓦礫の山に変え得るスペックだったからだ。
「なぁ、ヨシナリ。 これで終わりだと思うか?」
「いや、俺は終わるまでは信じられないな。 絶対と言い切らないが、クラゲ以上にヤバい相手が出てきても驚かない自信はあるな」
「ウチとしてもこのままぼーっとしてるのもしんどいし、ほどほどに強いのが来てくれると嬉しいかな?」
正直、このまま終わって欲しいと思っているマルメル。
絶対に何かあるだろと疑うヨシナリ。
このまま待っているだけでは退屈なので何か起こらないかなと思っているふわわ。
三人の考えは異なっているが、警戒を怠っていない点だけは共通していた。
そんな彼らの考えを嘲笑うかのように何も起こらず時間だけがただ過ぎていく。
プレイヤー達の機体の修復、補給は進み。 全員に行きわった頃には経過時間はそろそろ十時間を経過しようとしていた。
「おいおい、このままだとマジでSランク来ても待っているだけで終わっちまうぞ」
マルメルが呆れた口調でそんな事を呟く。
それはヨシナリも同感で時間を確認すると経過時間は現在、九時間四十分。
あと二十分でSランクの投入時間だ。
――まさかとは思うが本当にこれで終わりなのか?
一時間以上もこの状態だ。 疑っていたヨシナリも本当にこのまま終わりなのかと思い始めた頃、経過時間が九時間四十五分を超えた瞬間にそれは起こった。
プレイヤー達の画面いっぱいに「Warning!」の文字と警報音。
こんな事は初めてだった。 上位のプレイヤー達は即座に戦闘態勢。
ヨシナリ達も武器を構えて周囲を警戒。
「ま、こうなるよなぁ……。 でも何でこんなに引っ張ったんだ?」
「多分だけど俺達が回復するのを待ってたんだ」
「あー、そうやろうね。 ウチもそう思うわ」
このタイミングで来るという事は間違いなくそうだろう。
プレイヤー達が回復するのを待って万全な状態に持って行く為。
敵は待っていたのだ。 プレイヤー達が全力を出せる状態になるのを。
「今回の敵は随分と優しいじゃん」
「それだけ自信があるって事だろ? 気を付けろよ」
「今度は何が出てくるんやろうね?」
ヨシナリ達は即座に状況を把握できるように無事な建物の上に飛び乗り、周囲を見回す。
探すまでもなく変化は見つかった。 空に巨大な穴が開いているからだ。
大きい。 最大の個体であったクラゲ型で目測だが、五、六百メートルといったところだったが、それと同等以上の規模の穴だ。 それが一つ。
出てくる敵は巨大な個体が一つ? それとも新しい量産エネミーか?
正解は前者だった。 穴から現れたのは巨大な何かだ。
筒状のボディに上部に巨大な穴。 そして穴を取り囲むように配置された触手のようなアーム。
イソギンチャクに似ているが、放つ威圧感は他のエネミーとは明らかに違う。
こいつこそがこのイベントの最終ボス。 そう確信できるほどの存在感だった。
着地地点は基地の遠方。 ヤドカリ型が狙撃に使っていた場所よりも更に遠い。
イソギンチャクは口を空に向けると発光。
プレイヤー達が見ている前で空に向かって極太のレーザーを放つ。
――地面が縦に揺れた。
それは雲を蒸発させ、空に巨大な穴を穿つ。 穴が開いた異様な空の下、イソギンチャク型エネミーはその威容を全てのプレイヤー達に見せつけた。
あまりにも巨大な穴で、恐らく基地に喰らえばその時点で終わる。
カタツムリの砲も凄まじかったが、これはまるで比較にならない。
そして空に向かって放った理由も明らかだった。
今のは威嚇――と言いうよりは予告だろう。
――次は基地に当てるぞと。
それを正確に汲み取ったプレイヤー達は基地の防衛を放り捨てて荒野に飛び出し、イソギンチャクへと突撃していく。 彼等は理解していたのだ。
もう守っても意味がないと。 何故ならあのレーザーの発射を許せば一撃で基地は終わる。
彼らのやる事は一刻も早くあの敵を葬る事だという事を。
「基地に落とすな。 空中で完全に破壊しろ!」
誰かがそう叫び、意図を理解している者達は攻撃の手を緩めない。
この戦いはあくまで基地の防衛が主目的なのだ。 敵を撃破したは良いが、肝心の基地が破壊されたのでは意味がない。 残骸に成り果てた巨大なエネミーは空中で完全に破壊され、破片も可能限り破砕される事となった。 細かな破片が基地に降り注ぎ、被害こそ出るが直接墜落する事に比べれば大した事はない。
「うぉぉぉぉ! ざまあみやがれ運営! 見てるか! お前らの用意したボスは残らず始末してやったぜ!」
「イエーイ! 運営君みってるー? お前らの用意した切り札、俺達がぜーんぶ潰してやったからな! どんな気持ち? ねぇ、どんな気持ち?」
「後は雑魚だけだが、こっちにはAランクプレイヤーがいるんだ。 楽勝だぜ!」
「やった! 俺達は勝ったんだ!」
最大の敵とも呼べる巨大エネミーを苦労の末に撃破した事もあって彼らの歓喜は非常に大きい。
加えるならクラゲ型の能力は残骸を取り込む事による強化。
つまり戦場に残骸が溜まっている状態こそがその性能を最大限に発揮できる。
それを考えれば投入は最後にするのが最も合理的な選択だ。
つまり、これ以上の巨大エネミーは出てこない。 それが一部のプレイヤーの見解だった。
後は時間まで粘るだけ。 それにSランクもまだ来ていない状態。
残りは消化試合みたいなもの。 そう考えていたのだが――
「――あれ?」
不意に一人のプレイヤーが疑問の声を上げる。
それはこの場にいるプレイヤーの総意ともいえる疑問だった。
何故なら敵が反転して引き上げていくからだ。 数分もしない内にフィールド内のエネミーは全て消え去った。 残されたプレイヤー達は思わずといった様子で顔を見合わせる。
「これは運営の敗北宣言って事か?」
「分からん。 また何かあるかもしれんから入れる奴は機体をハンガーに入れといた方が良いかもしれん」
突然の出来事に戸惑いながらも警戒は怠らずにプレイヤー達は順番にハンガーに機体を預ける。
ヨシナリ達も機体のメンテナンスを終え、完全に回復した状態でぐるりと基地を見回す。
ステータスを確認すると損傷率は五十五パーセント。 半分を切っているとはいえ、ここまで耐久を残しているのはある意味、驚異的ともいえる。
カタツムリ、蝦蛄、クラゲと圧倒的ともいえる火力や物量を誇るエネミーは瞬く間に基地を瓦礫の山に変え得るスペックだったからだ。
「なぁ、ヨシナリ。 これで終わりだと思うか?」
「いや、俺は終わるまでは信じられないな。 絶対と言い切らないが、クラゲ以上にヤバい相手が出てきても驚かない自信はあるな」
「ウチとしてもこのままぼーっとしてるのもしんどいし、ほどほどに強いのが来てくれると嬉しいかな?」
正直、このまま終わって欲しいと思っているマルメル。
絶対に何かあるだろと疑うヨシナリ。
このまま待っているだけでは退屈なので何か起こらないかなと思っているふわわ。
三人の考えは異なっているが、警戒を怠っていない点だけは共通していた。
そんな彼らの考えを嘲笑うかのように何も起こらず時間だけがただ過ぎていく。
プレイヤー達の機体の修復、補給は進み。 全員に行きわった頃には経過時間はそろそろ十時間を経過しようとしていた。
「おいおい、このままだとマジでSランク来ても待っているだけで終わっちまうぞ」
マルメルが呆れた口調でそんな事を呟く。
それはヨシナリも同感で時間を確認すると経過時間は現在、九時間四十分。
あと二十分でSランクの投入時間だ。
――まさかとは思うが本当にこれで終わりなのか?
一時間以上もこの状態だ。 疑っていたヨシナリも本当にこのまま終わりなのかと思い始めた頃、経過時間が九時間四十五分を超えた瞬間にそれは起こった。
プレイヤー達の画面いっぱいに「Warning!」の文字と警報音。
こんな事は初めてだった。 上位のプレイヤー達は即座に戦闘態勢。
ヨシナリ達も武器を構えて周囲を警戒。
「ま、こうなるよなぁ……。 でも何でこんなに引っ張ったんだ?」
「多分だけど俺達が回復するのを待ってたんだ」
「あー、そうやろうね。 ウチもそう思うわ」
このタイミングで来るという事は間違いなくそうだろう。
プレイヤー達が回復するのを待って万全な状態に持って行く為。
敵は待っていたのだ。 プレイヤー達が全力を出せる状態になるのを。
「今回の敵は随分と優しいじゃん」
「それだけ自信があるって事だろ? 気を付けろよ」
「今度は何が出てくるんやろうね?」
ヨシナリ達は即座に状況を把握できるように無事な建物の上に飛び乗り、周囲を見回す。
探すまでもなく変化は見つかった。 空に巨大な穴が開いているからだ。
大きい。 最大の個体であったクラゲ型で目測だが、五、六百メートルといったところだったが、それと同等以上の規模の穴だ。 それが一つ。
出てくる敵は巨大な個体が一つ? それとも新しい量産エネミーか?
正解は前者だった。 穴から現れたのは巨大な何かだ。
筒状のボディに上部に巨大な穴。 そして穴を取り囲むように配置された触手のようなアーム。
イソギンチャクに似ているが、放つ威圧感は他のエネミーとは明らかに違う。
こいつこそがこのイベントの最終ボス。 そう確信できるほどの存在感だった。
着地地点は基地の遠方。 ヤドカリ型が狙撃に使っていた場所よりも更に遠い。
イソギンチャクは口を空に向けると発光。
プレイヤー達が見ている前で空に向かって極太のレーザーを放つ。
――地面が縦に揺れた。
それは雲を蒸発させ、空に巨大な穴を穿つ。 穴が開いた異様な空の下、イソギンチャク型エネミーはその威容を全てのプレイヤー達に見せつけた。
あまりにも巨大な穴で、恐らく基地に喰らえばその時点で終わる。
カタツムリの砲も凄まじかったが、これはまるで比較にならない。
そして空に向かって放った理由も明らかだった。
今のは威嚇――と言いうよりは予告だろう。
――次は基地に当てるぞと。
それを正確に汲み取ったプレイヤー達は基地の防衛を放り捨てて荒野に飛び出し、イソギンチャクへと突撃していく。 彼等は理解していたのだ。
もう守っても意味がないと。 何故ならあのレーザーの発射を許せば一撃で基地は終わる。
彼らのやる事は一刻も早くあの敵を葬る事だという事を。
10
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
タイムワープ艦隊2024
山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。
この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる