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第83話

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 「これはヤバいな」

 マルメルはやや引き攣った声を上げながら下に向けて銃撃。
 ヨシナリとマルメルはビルの屋上にいた事もあって奇襲を受ける事はなかったが、下を見ると大量のトルーパーが敵となって攻撃を仕掛け始めていた。 

 「残骸に取り付いて操るタイプの敵か。 後半に出てくる辺り厄介だな」
  
 前回と比べて被害は大きく減ってはいるが、少なくない数が撃破されているので放置された残骸は多い。
 それが一斉に起き上がって襲ってくるのだ。 即座に対応しろというのは無理な話だった。
 
 「特に防壁の上を守っている連中は後ろから襲われているからかなり混乱してるっぽいな」
 「ふわわさんは大丈夫かねぇ」
 「今、連絡があった。 防壁の近くでゾンビ狩りするってさ」

 ヨシナリは敵を狙撃しながら観察を行う。
 クラゲ型エネミー。 カタツムリ、蝦蛄と同様にサイズは数百メートルクラス。
 攻撃能力は皆無。 少なくともヨシナリの見ている限りではまともに攻撃をしたようには見えなかった。

 エネルギー兵器は無効。 恐らくは体内に溜め込む性質がある。
 溜め込んでどうするのかは結局分からなかったが、もしかしたら一定量の蓄積を完了すると吐き出すのかもしれない。 実体弾は有効だが、本当の意味で効いていたのかはやや疑問符が付く。

 ――で、ここからが問題か。

 ヨシナリは基地を襲っている惨状を見て内心で眉を顰める。
 破壊された一部が周囲に飛散し、接触したトルーパーの残骸に寄生して操作。 
 このエネミーの本領はこれなのだろう。 寄生されてエネミーに操作されたトルーパーはゾンビみたいに単純な挙動しかしないのかと思いきや、プレイヤーが操作しているのではないかと言いたくなるほどに的確な動きで攻撃を仕掛けてくる。 物陰から突撃銃を連射し、手榴弾まで投げ込んできた。

 ソルジャーⅠ型ならまだいい。 問題はⅡ型以降の上位機種だ。
 エネルギー系の武器を使ってくるので下手をすれば一撃貰えば終わる。
 そして最も厄介なのはキマイラタイプだ。 空中での変形と戦闘機動によって攪乱などを行ってくる。

 特に空中で見せたバレルロール。 プレイヤーでもあそこまで見事な動きをする者はそういない。
 下手をすれば元の持ち主よりも使いこなしているのではないかと言いたくなるような挙動だ。
 エンジェルタイプも火力面での脅威度は高いが動きが直線的な分、まだマシに見える。

 問題は対処法なのだが、寄生トルーパーは損傷が閾値――要は原型がなくなるまで完全に破壊すれば撃破は可能だ。 どうやらあのエネミーは欠損を埋める事で機能を回復させる事はできるが、限度があるようで損傷が一定を越えると操る事はできなくなる。

 寄生したエネミーの一部は破壊されると別の寄生先を見つけるのかと思いきや、宿主を撃破するとそのまま沈黙するようだ。 その為、このまま撃破し続ければどうにかなると思うのだが――

 「それにしても連中、何であんなに動きが良いんだ?」

 マルメルが寄ってきた寄生トルーパーを突撃銃を連射して行動不能にし、動かなくなるまで銃撃してとどめを刺す。 

 「分からん。 ゾンビものとか制御を乗っ取るタイプだと動きが雑になるはずなんだが、こいつらに関しては逆に良くなっているんだから本当にふざけているよなぁ……」
 
 ヨシナリも空中にいる寄生ソルジャーⅡ型の胴体を撃ち抜いて撃墜し、落下途中に背中のブースターを撃ち抜いて爆散させる。 
 挙動もそうだが、もう一点非常に厄介な点があった。 それは―― 

 「――というより一番厄介なのは識別なんだよなぁ」
 「あぁ、全くだ。 お陰で誘導兵器が使えないから下の連中はやり辛いだろうよ」

 そう、識別だ。 寄生トルーパーは識別は味方なのでマップやレーダーで敵として表示されない。
 お陰でロックオンが必要な誘導系の兵器――要はミサイル全般が使えないのだ。
 通常のエネミーには効果はあるが寄生トルーパーは狙えないので非常にやり難い。

 一部の銃器には敵を認識してオートエイムを行うものもあるのだが、それも機能しないので装備によってはかなり相性の悪い相手となる。
 
 「ヨシナリ。 そろそろヤバいから移動しようぜ」
 「あー、来てるなぁ……」

 ちらりと陣取っているビルの周囲を見下ろすと寄生トルーパーが突撃銃や狙撃銃を構えて景気よく連射してきていた。 

 「この有様でレーダー表示上は味方に囲まれている事になっているんだから性質悪いよなぁ」
 「しかも妙に小賢しく立ち回りやがるから始末に負えねぇよ」

 マルメルの言う通り、寄生トルーパーは散発的に撃ちこんで来るだけではなくヨシナリ達が陣取っているビルをしっかりと包囲してから仕掛けてきていた。
 
 「まさかとは思うがマジでプレイヤーが操作してるんじゃないだろうな。 ほら、敗者復活とかなんとか理由付けて」
 「どうだろうな。 動きが良すぎるから中身があったとしても驚きはないけど、明らかにIとかHランクの機体もいい動きしてるから俺はプレイヤー操作じゃないと思う」
 「……運営が操作してるとか?」
 「俺としてはその方がしっくりくる」

 ヨシナリとしては運営が何かしらのプログラムを仕込んで一斉に操作している説の方があり得ると思っている。 そうでもなければほぼ初期装備のソルジャーⅠ型が慣れた手つきで狙撃銃を操作している事に説明がつかない。 俺がそこそこ当てられるようになるまでどれだけチュートリアルをやり直したと思ってるんだ。 そんな思いもあって中身がないと信じたかったというのもあった。

 「取り合えず本格的に囲まれる前に少し離れよう」
 「あぁ、取り合えず手薄な所を――」

 言いかけた所でアラート。 何だと意識を向けるとロックオンされているといった表示だった。
 エネミーにミサイルを使う奴っていたっけ?と首を捻り、ロックして来た対象を確認すると――
 
 「ふざけんじゃねぇ!」
 「クソが! くたばれ運営!」

 ヨシナリとマルメルは反射的にそう叫んでビルから飛び降りた。
 ロックオンしているのはエネミーではなく寄生トルーパーだったのだ。
 何でこっちはロックできないのに相手はできるんだよ。 ふざけんなと思っていたが、恐らく武器自体にも干渉して一方的に使えるようにしているんだろうと予想はできたが、相手だけが一方的に誘導兵器を使える理不尽に対しては物申したかった。
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