Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

文字の大きさ
上 下
82 / 476

第82話

しおりを挟む
 爆発音。 また一体、蝦蛄型エネミーが空中で爆散する。 
 流石はBランクプレイヤー。 コツを掴んだのか危なげなく、一体ずつ確実に処理していった。
 防壁の向こうから来る敵も押しとどめられており、制空権も蝦蛄型エネミーの排除により取り戻しつつあった。 

 カタツムリも全滅し、蝦蛄も時間の問題だ。
 加えてまだAランク以上の増援も期待できる。 これはクリアできるんじゃないか? 
 そんな考えが戦場に漂うが、このゲームに慣れ切った上位のプレイヤー達はそうは思わない。

 ――この運営がこんなに素直に勝たせてくれる?

 それこそあり得ない。 ボスだと思っていたカタツムリ型の後に蝦蛄型が現れたのだ。
 次もあると考える方が無難。 だからこそ彼等は迅速に蝦蛄型エネミーを処分して次の強敵に備えていたのだ。
 
 彼らの考えは非常に正しく、この『ICpw』の住人としては至極真っ当な意見だった。
 それを肯定するかのように裏側では新しいタスクが進行する。

 Type:fortress mantis shrimpの全滅を確認。 
 PhaseⅣ-Ⅲ『Type:diversity jellyfish』投入(実行中――……完了)
 条件未達成によりPhaseⅣ-Ⅳは破棄。 

 ――新たな絶望がフィールドに出現した。
 
 「しゃあ! 最後の海老撃破ぁ! ざまぁみやがれってんだ!」
 「だから蝦蛄だってば……。 よし、蟻の排除と基地の防衛に――……はぁ、まぁこんな事だろうと思ったぜ」

 最後の蝦蛄型エネミーが爆散し、一息つけるかと思っていたが、そうでもなかったようだ。

 それに気が付いたプレイヤー達は空を見上げるといつの間にか見慣れない存在が出現していた。
 波打つ傘のような形状に推進装置がないにも関わらず泳ぐように空中にいるそれはクラゲに酷似していたが、例によって大きさは数百メートルと桁外れ。 

 「今度はクラゲかよ。 次から次へと訳の分からん奴が出てくるな」
 「だけど、今回のはナマモノっぽいから異星人感はあるんじゃね?」
 「そういえばこのゲームって謎の侵略宇宙人から世界守る話だったな。 ガチで忘れてたわ」
 「取り合えず仕掛けるぞ」
 「なーんかエネルギー兵器効かなさそうじゃね?」
 「それを確認する意味でもだ」

 基地から少し離れた位置に出現している事も彼等を警戒させる要因だった。
 何をしてくるか分からない以上、カタツムリのように遠距離の砲撃は真っ先に警戒するべき事だ。
 足の速いキマイラタイプが真っ先に射程に捉え、エネルギーライフルを撃ち込む。

 収束したエネルギーはクラゲ型エネミーに命中するが体が発光するだけで効果はない。
 
 「駄目だ。 エネルギー兵器は吸収される」
 「だったら、実体弾だな」

 変形したキマイラタイプが持っていた突撃銃を連射。
 命中した部分が抉れ、大きな穴が開く。

 「――何だ? 思ったより脆いな?」
 「油断するな。 カタツムリと蝦蛄の後に出てきた奴だぞ。 絶対にやばい能力を持っている」
 「つってもエネルギー兵器が効かないだけで、実弾は普通に通るしなぁ……」

 実弾の集中砲火を受けてクラゲ型エネミーは瞬く間にあちこちが穴だらけになる。
 その間、反撃もせずにされるがままだ。 プレイヤー達は油断できないと情け容赦なく銃弾を撃ち込み続ける。 撃つ、撃つ、撃ち続ける。

 数百メートルの巨体を誇ろうが、数百機のトルーパーによる一斉射撃を受ければハチの巣になるのは時間の問題だ。 そろそろ原型を留めなくなるのではないかと誰かが思った瞬間にそれは起こった。
 クラゲ型エネミーがはじけ飛んだのだ。 破片は重力を無視し細かく散ってあちこちに広がっていく。

 それはまるでタンポポの綿毛が空に舞うようだった。
 
 「……何だったんだ?」
 「分からん。 他も片付きそうだな」

 そのプレイヤーがぐるりと周囲を見回すと他のクラゲ型エネミーも次々と弾け飛んでいるところだった。 クラゲ型エネミーの破片は風に乗って戦場に広がり、ゆっくりと雪のように地表へと落ちていく。
 その様子をプレイヤー達は訝しみながらも見ていたが、その表情が引き攣るまでそう時間はかからなかった。

 何故なら基地の内部で異変が発生し、あのエネミーが何故こうもあっさりと弾けた理由が分かったからだ。 エネミーの一部は基地内外に転がっている大破したトルーパーの残骸に接触すると増殖し、欠損部分を補うと立ち上がり始める。

 「そういう事かよ! ゾンビ化とか性質悪すぎるだろ!」
 「ここでゾンビゲーする!? これロボゲーだと思ってたの俺だけっすかねぇ!?」
 「早く戻れ! 基地の内部に敵が沸いてる事になってるんだぞ!」
 「あぁ、畜生。 また面倒くさい奴が出て来たなぁ!」

 警戒していただけあってプレイヤー達の反応は早かったが、基地の中に現れた事で混乱は生じる。
 それにトルーパーの残骸は基地内にいくらでも転がっている事もあって非常に厄介だ。
 戻ろうとしたランカー達は背後から聞こえる聞き慣れた駆動音にさっと背筋が冷えた。

 理由は単純で、連中が何に寄生したのかが分かったからだ。
 今も敵の群れが進む中から無数の何かが飛び出してくる。 
 撃破され、残骸に成り果てたキマイラタイプだ。 明らかに飛べる状態ではないのだが、損傷部分にジェル状の何かが埋まっており欠損を補っているようだった。

 「――嘘だろ?」
 「運営……。 お前ら人の心とかないのか??」
 
 寄生されたトルーパー達が次々と敵となって復活していく。
 どうなっているのかキマイラタイプに至っては大破しているにもかかわらず変形機能まで復活していた。 

 「クソ、基地の連中は大丈夫だろうな」
 「そんな事よりこっちの処理だろ。 こいつらを基地に行かせる方がヤベぇ」
 
 武器に至っては蟻型エネミーの持っていた武器など無事だったものをそのまま使用している様でスペック的には元の状態とそこまで変わらないのが更に厄介だった。

 「何でエネミー相手にPVPみたいな真似しなきゃならねーんだよ!」
 「叫んでないで戦え! 戻れる奴は基地に急げ! あっちも残骸が多いぞ!」
 
 寄生キマイラタイプが器用に変形しながら機銃を連射して突撃。 
 エンジェルタイプが回避しながら応射。 寄生キマイラタイプは機体をバレルロール――機首を上げながら横に回転する空中機動マニューバを行って回避しつつ背後を取ろうとしてくる。

 「こいつら動きが――」

 エンジェルタイプは振り向きながらエネルギーブレードを一閃。
 寄生キマイラタイプは人型に変形しながらエネルギーブレードで受けながら空いた手で大型拳銃を構える。 咄嗟にエンジェルタイプは機体を捻って回避。 

 銃弾が掠め、装甲に大きな傷が刻まれた。
 周囲では他のプレイヤーも寄生トルーパーに苦戦しているようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「日本人」最後の花嫁 少女と富豪の二十二世紀

さんかく ひかる
SF
22世紀後半。人類は太陽系に散らばり、人口は90億人を超えた。 畜産は制限され、人々はもっぱら大豆ミートや昆虫からたんぱく質を摂取していた。 日本は前世紀からの課題だった少子化を克服し、人口1億3千万人を維持していた。 しかし日本語を話せる人間、つまり昔ながらの「日本人」は鈴木夫妻と娘のひみこ3人だけ。 鈴木一家以外の日本国民は外国からの移民。公用語は「国際共通語」。政府高官すら日本の文字は読めない。日本語が絶滅するのは時間の問題だった。 温暖化のため首都となった札幌へ、大富豪の息子アレックス・ダヤルが来日した。 彼の母は、この世界を造ったとされる天才技術者であり実業家、ラニカ・ダヤル。 一方、最後の「日本人」鈴木ひみこは、両親に捨てられてしまう。 アレックスは、捨てられた少女の保護者となった。二人は、温暖化のため首都となった札幌のホテルで暮らしはじめる。 ひみこは、自分を捨てた親を見返そうと決意した。 やがて彼女は、アレックスのサポートで国民のアイドルになっていく……。 両親はなぜ、娘を捨てたのか? 富豪と少女の関係は? これは、最後の「日本人」少女が、天才技術者の息子と過ごした五年間の物語。 完結しています。エブリスタ・小説家になろうにも掲載してます。

H.I.S.A.H.I.T.O. みだりにその名を口にしてはならない小説がある。

あめの みかな
ファンタジー
教会は、混沌の種子を手に入れ、神や天使、悪魔を従えるすべを手に入れた。 後に「ラグナロクの日」と呼ばれる日、先端に混沌の種子を埋め込んだ大陸間弾道ミサイルが、極東の島国に撃ち込まれ、種子から孵化した神や天使や悪魔は一夜にして島国を滅亡させた。 その際に発生した混沌の瘴気は、島国を生物の住めない場所へと変えた。 世界地図から抹消されたその島国には、軌道エレベーターが建造され、かつての首都の地下には生き残ったわずかな人々が細々とくらしていた。 王族の少年が反撃ののろしを上げて立ち上がるその日を待ちながら・・・ ※この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門
ファンタジー
宇宙の崩壊と共に、別宇宙の神々によって魂の選別(ドラフト)が行われた。 野球ゲームの育成モードで遊ぶことしか趣味がなかった底辺労働者の男は、野球によって世界の覇権が決定される宇宙へと記憶を保ったまま転生させられる。 その宇宙の神は、自分の趣味を優先して伝説的大リーガーの魂をかき集めた後で、国家間のバランスが完全崩壊する未来しかないことに気づいて焦っていた。野球狂いのその神は、世界の均衡を保つため、ステータスのマニュアル操作などの特典を主人公に与えて送り出したのだが……。 果たして運動不足の野球ゲーマーは、マニュアル育成の力で世界最強のベースボールチームに打ち勝つことができるのか!? ※小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様、ノベルバ様にも掲載しております。

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~

海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。 再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた― これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。 史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。 不定期更新です。 SFとなっていますが、歴史物です。 小説家になろうでも掲載しています。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井
SF
「えっ、クビですか?」 中企業アナハイニム社の事務課に勤める大津修也(おおつしゅうや)は会社の都合によってクビを切られてしまう。 ろくなスキルも身に付けていない修也にとって再転職は絶望的だと思われたが、大企業『メトロポリス』からの使者が現れた。 『メトロポリス』からの使者によれば自身の商品を宇宙の植民星に運ぶ際に宇宙生物に襲われるという事態が幾度も発生しており、そのための護衛役として会社の顧問役である人工頭脳『マリア』が護衛役を務める適任者として選び出したのだという。 宇宙生物との戦いに用いるロトワングというパワードスーツには適性があり、その適性が見出されたのが大津修也だ。 大津にとっては他に就職の選択肢がなかったので『メトロポリス』からの選択肢を受けざるを得なかった。 『メトロポリス』の宇宙船に乗り込み、宇宙生物との戦いに明け暮れる中で、彼は護衛アンドロイドであるシュウジとサヤカと共に過ごし、絆を育んでいくうちに地球上にてアンドロイドが使用人としての扱いしか受けていないことを思い出す。 修也は戦いの中でアンドロイドと人間が対等な関係を築き、共存を行うことができればいいと考えたが、『メトロポリス』では修也とは対照的に人類との共存ではなく支配という名目で動き出そうとしていた。

日本国破産?そんなことはない、財政拡大・ICTを駆使して再生プロジェクトだ!

黄昏人
SF
日本国政府の借金は1010兆円あり、GDP550兆円の約2倍でやばいと言いますね。でも所有している金融性の資産(固定資産控除)を除くとその借金は560兆円です。また、日本国の子会社である日銀が460兆円の国債、すなわち日本政府の借金を背負っています。まあ、言ってみれば奥さんに借りているようなもので、その国債の利子は結局日本政府に返ってきます。え、それなら別にやばくないじゃん、と思うでしょう。 でもやっぱりやばいのよね。政府の予算(2018年度)では98兆円の予算のうち収入は64兆円たらずで、34兆円がまた借金なのです。だから、今はあまりやばくないけど、このままいけばドボンになると思うな。 この物語は、このドツボに嵌まったような日本の財政をどうするか、中身のない頭で考えてみたものです。だから、異世界も超能力も出てきませんし、超天才も出現しません。でも、大変にボジティブなものにするつもりですので、楽しんで頂ければ幸いです。

処理中です...