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第78話
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「行ける行ける行ける!」
「よしよし、このままくたばっちまえくそったれが!」
プレイヤー達の圧倒的ともいえる集中砲火に晒され、カタツムリ型エネミーは一体、また一体と深い損傷を受けていく。 二度の辛酸を舐めたのは全てこの時、この瞬間の為に。
彼らの大半は固くそう信じていたので、ヨシナリが感じたような違和感を感じる者は少なかった。
いや、違和感自体は感じていたのかもしれないが、彼等は怒りとその対象を滅ぼす事で得られるカタルシスに夢中になっていたのだ。
――そして――
カタツムリ型エネミーに致命的な損傷が与えられたようで、戦場のあちこちで巨大な爆発が発生。
二度に渡ってプレイヤー達を苦しめた巨大エネミーは遂に討伐されたのだ。
「うぉぉぉぉぉぉ!!! ざまぁぁぁぁ!!!」
「は、見たかこのクソ共が! 俺達が本気だせば楽勝だよ楽勝!」
「カタツムリ君、袋叩きにされてどんな気持ち? ねぇどんな気持ち??」
プレイヤー達は撃破した敵にあらん限りの呪詛を吐きながら勝利の美酒に酔いしれる。
Type:fortress snailsの全滅を確認。
PhaseⅣ-Ⅰ:『Type:fortress mantis shrimp』投入(実行中――……完了)
条件未達成によりPhaseⅣ-Ⅱ、Ⅳ-Ⅳは破棄。
――イベント続行。
「――は??」
そんな間抜けな声を漏らしたのは勝利に酔っていた一人のプレイヤーだった。
何の気なしに空を見上げると何かがこちらに向かっている姿が見えたからだ。
味方という事はあり得ない。 ならば敵の増援なのだが、果たして上から来た事などあっただろうか?
そんな疑問は徐々に接近し、その姿が明らかになったと同時に溶けて消えた。
サイズはカタツムリ型エネミーと同様に五百メートルクラス。
空を泳ぐように飛ぶその姿はある生き物に似ていた。
海老に似ているがその特徴的な姿は見た者にはすぐに見分けがつく。
蝦蛄だ。 錆色のボディに軋むような巨大な駆動音。
それがカタツムリの空いた穴を埋めるように同数現れた。
前回、前々回の戦いには影も形も見えなかったその姿に大半のプレイヤーが棒立ちとなる。
「……おい、なんだよあれ……」
「ふざけんじゃねぇぞ! カタツムリで終わりじゃねぇのかよ!?」
「クソ運営! 知らねーやつ連れてくんじゃねーぞ!」
「おいおい冗談だろ? 連中腹いせに追加投入しやがったのか?」
「多分、カタツムリを全滅させると出てくる仕組みになってたんだろうよ!」
「揉めるのは後にしろ、完全初見だ。 何してくるか分からん。 警戒しろ! 来るぞ!」
巨大蝦蛄型エネミーは真っ直ぐ基地に突っ込んで来るかと思われたが、上空で停止。
腹の部分が開き無数の穴が現れる。 このゲームに慣れた者達であるならそれがなにを意味するのかは考えるより先に思い至った。
「ミサイル、来るぞ」
「半端な位置で止まったのはこの為か」
巨体ではあるがどれだけ収まっているんだと言わんばかりの大量のミサイルは雨のように戦場に降り注ぐ。
「撃ち落とせ。 あれだけ降らされたら基地が保たない」
「ったって、こんな数どうすりゃいいんだよ!?」
基地や防壁の防衛を行っていた者達も重たい銃口を何とか上に向けて迎撃に参加。
もう雑魚に構っている場合ではない。 これを放置すればその時点で終わってしまう。
撃墜された無数のミサイルが戦場の空に無数の花を咲かせるように炸裂していく。
誘爆によりかなりの数の撃墜には成功したのだが、空を埋め尽くさんと降り注ぐミサイルを防ぐ事は彼らの火力では難しく撃ち漏らしたミサイルが次々と基地へと命中して施設を破壊し、防衛に当たっていたトルーパーも成す術もなく破壊に呑み込まれる。
「Cランクはまだか! こんなもん無理だ」
「EMPは!? 飛んでるんだ。 喰らわせて落としてやろうぜ!」
「さっき試した奴がいたが効いてない。 コーティングされてやがる。 ただ、ミサイルには効いてたから無駄にはならないのが救いか」
お陰で基地の被害を減らせはしていたが、完全に焼け石に水だった。
蝦蛄型エネミーは弾切れになる気配を一切感じさせずにひたすらミサイルをばら撒き続ける。
その圧倒的な物量に近づく事さえ困難だろう。 だが、その弾幕を掻い潜って、数基のキマイラタイプが戦闘機形態で突破。 そのまま蝦蛄型エネミーの脇をすり抜けて上を取る。
変形しながら持っていたエネルギーライフルを連射。
エネルギー弾はその装甲に当たる前に弾けて消えた。
「クソが、カタツムリと同じタイプか!」
「いや、感じからフィールドと言うよりは装甲に弾く為のコーティングがされてるっぽい」
「だったら実弾兵器ならどうだ!」
そう叫んだプレイヤーが突撃銃を連射。
エネルギー兵器と違って効果がない訳ではないが装甲の表面に弾かれる。
「あぁ、畜生。 あの重装甲相手じゃ無理か」
どうしたものかと考えているとシステムアラート。
何だと詳細を確認するとロックオン警告だった。
「誘導弾まで別で積んでやがるのかよ!」
咄嗟に変形させてその場を離脱。 同時に発射されたミサイルの一部が追いかけて来た。
ミサイルは絶え間なく降り続け、基地の損害は加速していく。
このままでは基地が保たない。 また、負けるのか?
そんな諦めに近い感情がプレイヤー達の間に蔓延しそうになるが、この運営は安易な諦めをプレイヤーに求めない。 絶望には僅かな希望をと彼等に救いの糸を垂らすのだ。
無数の光学兵器によってミサイルが一気に焼き払われる。
「来てくれたのか」
何が起こったのかを悟ったプレイヤーの一人が安堵の息を吐く。
次々と戦場に転送されてくるトルーパー。 気が付けばカウントがゼロになっていた。
Cランクプレイヤーの参戦が始まったのだ。
「おいおい、カタツムリを皆でボコるって話じゃなかったのかよ。 ってかなんだあの海老は?」
「海老じゃねぇ。 蝦蛄だ。 甲殻類最高のボクサーだぜ」
「おい、そのボクサー、得意のパンチじゃなくてミサイルをばら撒いてやがるぞ」
「見た感じ、エネルギー兵器は弾くから効果なし、実弾も背後の装甲は貫けない」
「だったらあの景気よくばら撒いているミサイルの発射口に直接鉛弾をぶち込むか?」
「あの弾幕突破できるんなら試すんだがなぁ……」
Cランクプレイヤー達はミサイルを迎撃しながらどうしたものかと初見の敵に対する対策を練り始める。
「よしよし、このままくたばっちまえくそったれが!」
プレイヤー達の圧倒的ともいえる集中砲火に晒され、カタツムリ型エネミーは一体、また一体と深い損傷を受けていく。 二度の辛酸を舐めたのは全てこの時、この瞬間の為に。
彼らの大半は固くそう信じていたので、ヨシナリが感じたような違和感を感じる者は少なかった。
いや、違和感自体は感じていたのかもしれないが、彼等は怒りとその対象を滅ぼす事で得られるカタルシスに夢中になっていたのだ。
――そして――
カタツムリ型エネミーに致命的な損傷が与えられたようで、戦場のあちこちで巨大な爆発が発生。
二度に渡ってプレイヤー達を苦しめた巨大エネミーは遂に討伐されたのだ。
「うぉぉぉぉぉぉ!!! ざまぁぁぁぁ!!!」
「は、見たかこのクソ共が! 俺達が本気だせば楽勝だよ楽勝!」
「カタツムリ君、袋叩きにされてどんな気持ち? ねぇどんな気持ち??」
プレイヤー達は撃破した敵にあらん限りの呪詛を吐きながら勝利の美酒に酔いしれる。
Type:fortress snailsの全滅を確認。
PhaseⅣ-Ⅰ:『Type:fortress mantis shrimp』投入(実行中――……完了)
条件未達成によりPhaseⅣ-Ⅱ、Ⅳ-Ⅳは破棄。
――イベント続行。
「――は??」
そんな間抜けな声を漏らしたのは勝利に酔っていた一人のプレイヤーだった。
何の気なしに空を見上げると何かがこちらに向かっている姿が見えたからだ。
味方という事はあり得ない。 ならば敵の増援なのだが、果たして上から来た事などあっただろうか?
そんな疑問は徐々に接近し、その姿が明らかになったと同時に溶けて消えた。
サイズはカタツムリ型エネミーと同様に五百メートルクラス。
空を泳ぐように飛ぶその姿はある生き物に似ていた。
海老に似ているがその特徴的な姿は見た者にはすぐに見分けがつく。
蝦蛄だ。 錆色のボディに軋むような巨大な駆動音。
それがカタツムリの空いた穴を埋めるように同数現れた。
前回、前々回の戦いには影も形も見えなかったその姿に大半のプレイヤーが棒立ちとなる。
「……おい、なんだよあれ……」
「ふざけんじゃねぇぞ! カタツムリで終わりじゃねぇのかよ!?」
「クソ運営! 知らねーやつ連れてくんじゃねーぞ!」
「おいおい冗談だろ? 連中腹いせに追加投入しやがったのか?」
「多分、カタツムリを全滅させると出てくる仕組みになってたんだろうよ!」
「揉めるのは後にしろ、完全初見だ。 何してくるか分からん。 警戒しろ! 来るぞ!」
巨大蝦蛄型エネミーは真っ直ぐ基地に突っ込んで来るかと思われたが、上空で停止。
腹の部分が開き無数の穴が現れる。 このゲームに慣れた者達であるならそれがなにを意味するのかは考えるより先に思い至った。
「ミサイル、来るぞ」
「半端な位置で止まったのはこの為か」
巨体ではあるがどれだけ収まっているんだと言わんばかりの大量のミサイルは雨のように戦場に降り注ぐ。
「撃ち落とせ。 あれだけ降らされたら基地が保たない」
「ったって、こんな数どうすりゃいいんだよ!?」
基地や防壁の防衛を行っていた者達も重たい銃口を何とか上に向けて迎撃に参加。
もう雑魚に構っている場合ではない。 これを放置すればその時点で終わってしまう。
撃墜された無数のミサイルが戦場の空に無数の花を咲かせるように炸裂していく。
誘爆によりかなりの数の撃墜には成功したのだが、空を埋め尽くさんと降り注ぐミサイルを防ぐ事は彼らの火力では難しく撃ち漏らしたミサイルが次々と基地へと命中して施設を破壊し、防衛に当たっていたトルーパーも成す術もなく破壊に呑み込まれる。
「Cランクはまだか! こんなもん無理だ」
「EMPは!? 飛んでるんだ。 喰らわせて落としてやろうぜ!」
「さっき試した奴がいたが効いてない。 コーティングされてやがる。 ただ、ミサイルには効いてたから無駄にはならないのが救いか」
お陰で基地の被害を減らせはしていたが、完全に焼け石に水だった。
蝦蛄型エネミーは弾切れになる気配を一切感じさせずにひたすらミサイルをばら撒き続ける。
その圧倒的な物量に近づく事さえ困難だろう。 だが、その弾幕を掻い潜って、数基のキマイラタイプが戦闘機形態で突破。 そのまま蝦蛄型エネミーの脇をすり抜けて上を取る。
変形しながら持っていたエネルギーライフルを連射。
エネルギー弾はその装甲に当たる前に弾けて消えた。
「クソが、カタツムリと同じタイプか!」
「いや、感じからフィールドと言うよりは装甲に弾く為のコーティングがされてるっぽい」
「だったら実弾兵器ならどうだ!」
そう叫んだプレイヤーが突撃銃を連射。
エネルギー兵器と違って効果がない訳ではないが装甲の表面に弾かれる。
「あぁ、畜生。 あの重装甲相手じゃ無理か」
どうしたものかと考えているとシステムアラート。
何だと詳細を確認するとロックオン警告だった。
「誘導弾まで別で積んでやがるのかよ!」
咄嗟に変形させてその場を離脱。 同時に発射されたミサイルの一部が追いかけて来た。
ミサイルは絶え間なく降り続け、基地の損害は加速していく。
このままでは基地が保たない。 また、負けるのか?
そんな諦めに近い感情がプレイヤー達の間に蔓延しそうになるが、この運営は安易な諦めをプレイヤーに求めない。 絶望には僅かな希望をと彼等に救いの糸を垂らすのだ。
無数の光学兵器によってミサイルが一気に焼き払われる。
「来てくれたのか」
何が起こったのかを悟ったプレイヤーの一人が安堵の息を吐く。
次々と戦場に転送されてくるトルーパー。 気が付けばカウントがゼロになっていた。
Cランクプレイヤーの参戦が始まったのだ。
「おいおい、カタツムリを皆でボコるって話じゃなかったのかよ。 ってかなんだあの海老は?」
「海老じゃねぇ。 蝦蛄だ。 甲殻類最高のボクサーだぜ」
「おい、そのボクサー、得意のパンチじゃなくてミサイルをばら撒いてやがるぞ」
「見た感じ、エネルギー兵器は弾くから効果なし、実弾も背後の装甲は貫けない」
「だったらあの景気よくばら撒いているミサイルの発射口に直接鉛弾をぶち込むか?」
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