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第77話
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データを纏め、作戦を立案したプレイヤーは一見、完璧にデザインされた悪辣なエネミーではあるが、無敵の存在ではないので撃破自体は可能。 次回こそ我々の結束で乗り越え、運営の鼻を明かしてやろうではないかと綴っていた。
大人数を擁しているユニオンは特に対策に力を入れており、この巨大エネミーを何としても仕留めてやろうと大金を投じて準備を行ったのだ。
「よし、射程内に捉えた。 貴重なものだから外れてくれるなよ……」
ソルジャータイプの両肩に乗っている四角い発射機構からミサイルが飛び出す。
ミサイルはカタツムリ型エネミーに到達する前に爆発。
その結果だけを見るなら失敗に見えるかもしれない。 だが、これで良かった。
その爆発は破壊ではなく光を周囲に撒き散らし、それに触れた一部のエネミーがコントロールを失って墜落していく。 そして最も大きな効果はカタツムリの周囲を覆っていたエネルギー兵器を無効化するフィールドが消滅していた事だ。
「っしゃあ! フィールド消えたぞ。 今の内に撃ちまくれ!」
「全弾持って行けやこのくそったれがぁぁぁ!」
「撃って撃って撃ちまくれ!」
「大サービスだ。 腹いっぱいになるまで食え! 食ってくたばれ!」
EMPミサイル。
発射後、設定した位置で自爆して周囲に電子機器を破壊する電磁波を撒き散らす兵器だ。
トルーパーにも割と効果があるので短い期間ではあるが、対戦でも多用されていた。
早々に廃れたのは対EMP用のコーティング素材が安価で販売されていたからだ。
要は性能的に微妙と使う者がいない武装だった。 だが、多種多様な防御機構を無効化するにはこれしかないといった結論を出したプレイヤーは多い。 一応、効果が出なかった時はEMPアンカーといった直接打ち込んで内部から電磁波で焼くといった手段も用意されていたので意地でもこの作戦を成功させようと彼等は準備していたのだ。
トルーパーは全機、対EMP用のコーティングを施しているので何の問題もない。
効果範囲に居た蟻型エネミーは完全停止して墜落、カタツムリは機能停止にこそ至っていないが、エネルギー兵器を無効化するフィールドを始め衝撃波を放つ為の装置も沈黙。 完全に動く的と化していた。
こうなれば巨大エネミーは大きいだけの的になり下がる。
「いやぁ、EMP効くかどうかかなり怪しかったが、まさかここまで効果があるとは思わなかったぜ」
「表面の発射機構は内部に繋がっているだろうから、最悪あれだけでも無効化できれば御の字って考えだったみたいだ」
そう、効かなかった場合も踏まえ、様々なパターンが想定されていた。
第一段階。 コーティングされていた場合、効果がない可能性が高いミサイルで有効かの判断を行う。
効果がなかった場合、剥き出しになっている発射機構が無効化できるかどうかで次以降の流れが変わる。
エネルギー兵器を無効化するフィールドを止められたのならそのまま集中砲火で撃破。
元々、Bランクが参戦している状態を想定していたので、出現が前倒しになった事でややイレギュラーは発生したが概ね予定通りといえる。 仮に通らなかった場合は直接取りついてアンカーを打ち込んで内部から焼くといった犠牲を前提とした無謀な行為が必要となっていた。
先は長い以上、人員の損耗は可能な限り避けたいのでミサイルが通用してくれと祈っている者は多い。
結果としてスムーズに事が運んだので彼らは内心でほっと胸を撫で下ろしながら各々、手持ちの武器を景気よく使用してカタツムリ型エネミーを文字通りハチの巣にしていく。
特にエネルギー兵器はわざわざ無効化するだけあって特に効果が高かった。
高出力のものは貫通すらしている。 最初のミサイルで周囲のエネミーも軒並み沈黙しており、範囲外にいた増援が助けに入るまでに間があったのも大きな追い風となっていた。
Cランクプレイヤー達の猛攻に前回、前々回と基地を壊滅に追いやった巨大エネミーは全身に深い傷を刻まれていく。 やがて内部に深刻な損傷を与えたのかあちこちから煙が上がる。
「よし、よしよしよし。 行ける! こりゃBランク以上の連中が来る前に片が付くな!」
「こいつらさえ仕留めりゃ後は消化試合だ。 一番おいしい所は俺達がいただきだ」
「完全に仕留めるまで油断するな。 俺はこいつがくたばった瞬間に勝利の雄叫びを上げる予定だ」
カタツムリ型エネミーは完全に沈黙し、無防備な姿を晒している。
このままいけば間違いなく勝利できるだろう。 基地が壊滅した直接的な要因はこの巨大エネミーなのだ。 それさえ排除すれば脅威は蟻型エネミーのみとなるので被害を受けたとしても壊滅までは至らないだろう。
だからこそ彼等は勝利を確信していたのだが――
――おかしい。
基地からでも見える半壊したカタツムリ型エネミーを見てヨシナリが思った事だ。
気づかなかったとはいえ、ここまで分かり易い弱点を用意している事に違和感を感じたからだ。
隣のマルメルはいけ、やっちまえと応援しているが、ヨシナリはこれは撃破して大丈夫なのだろうかと少しだけ不安を感じていたのだ。
もちろん根拠はある。 前回と違い、今回は戦力を整え、対策もしっかりと練って参加したプレイヤーが多かっただけあって非常に優勢に事が進んでいた。
その代償なのか敵の出現タイミングが前倒しになっている。 最大の敵であるカタツムリ型エネミーがここまで派手にやられている姿を見れば充分に許容範囲内のイレギュラーといえた。
だからなんだ? 別にいいじゃないか。 前回、前々回と基地が壊滅した原因を処理するんだ。
あいつ等さえいなくなれば後は消化試合で時間まで雑魚を狩り続けるだけでいい。
どこに不安を感じる必要がある? その通りだ。
俺は何に対して不安を――ヨシナリの思考は視線の先で爆散したカタツムリ型エネミーを見て着地した。
「――あ、ヤバい」
思わずそんな言葉が口から漏れた。 前倒し。
そう前倒しになっているだけなのだ。 このイベントは時間経過だけで推移するわけじゃない。
恐らくは撃破数などプレイヤーが特定の条件を突破した場合に次のギミックが動く仕組みなのだ。
つまり、カタツムリ型エネミーがボスではなかった場合、撃破してしまうと――イベントが進んでしまう。
大人数を擁しているユニオンは特に対策に力を入れており、この巨大エネミーを何としても仕留めてやろうと大金を投じて準備を行ったのだ。
「よし、射程内に捉えた。 貴重なものだから外れてくれるなよ……」
ソルジャータイプの両肩に乗っている四角い発射機構からミサイルが飛び出す。
ミサイルはカタツムリ型エネミーに到達する前に爆発。
その結果だけを見るなら失敗に見えるかもしれない。 だが、これで良かった。
その爆発は破壊ではなく光を周囲に撒き散らし、それに触れた一部のエネミーがコントロールを失って墜落していく。 そして最も大きな効果はカタツムリの周囲を覆っていたエネルギー兵器を無効化するフィールドが消滅していた事だ。
「っしゃあ! フィールド消えたぞ。 今の内に撃ちまくれ!」
「全弾持って行けやこのくそったれがぁぁぁ!」
「撃って撃って撃ちまくれ!」
「大サービスだ。 腹いっぱいになるまで食え! 食ってくたばれ!」
EMPミサイル。
発射後、設定した位置で自爆して周囲に電子機器を破壊する電磁波を撒き散らす兵器だ。
トルーパーにも割と効果があるので短い期間ではあるが、対戦でも多用されていた。
早々に廃れたのは対EMP用のコーティング素材が安価で販売されていたからだ。
要は性能的に微妙と使う者がいない武装だった。 だが、多種多様な防御機構を無効化するにはこれしかないといった結論を出したプレイヤーは多い。 一応、効果が出なかった時はEMPアンカーといった直接打ち込んで内部から電磁波で焼くといった手段も用意されていたので意地でもこの作戦を成功させようと彼等は準備していたのだ。
トルーパーは全機、対EMP用のコーティングを施しているので何の問題もない。
効果範囲に居た蟻型エネミーは完全停止して墜落、カタツムリは機能停止にこそ至っていないが、エネルギー兵器を無効化するフィールドを始め衝撃波を放つ為の装置も沈黙。 完全に動く的と化していた。
こうなれば巨大エネミーは大きいだけの的になり下がる。
「いやぁ、EMP効くかどうかかなり怪しかったが、まさかここまで効果があるとは思わなかったぜ」
「表面の発射機構は内部に繋がっているだろうから、最悪あれだけでも無効化できれば御の字って考えだったみたいだ」
そう、効かなかった場合も踏まえ、様々なパターンが想定されていた。
第一段階。 コーティングされていた場合、効果がない可能性が高いミサイルで有効かの判断を行う。
効果がなかった場合、剥き出しになっている発射機構が無効化できるかどうかで次以降の流れが変わる。
エネルギー兵器を無効化するフィールドを止められたのならそのまま集中砲火で撃破。
元々、Bランクが参戦している状態を想定していたので、出現が前倒しになった事でややイレギュラーは発生したが概ね予定通りといえる。 仮に通らなかった場合は直接取りついてアンカーを打ち込んで内部から焼くといった犠牲を前提とした無謀な行為が必要となっていた。
先は長い以上、人員の損耗は可能な限り避けたいのでミサイルが通用してくれと祈っている者は多い。
結果としてスムーズに事が運んだので彼らは内心でほっと胸を撫で下ろしながら各々、手持ちの武器を景気よく使用してカタツムリ型エネミーを文字通りハチの巣にしていく。
特にエネルギー兵器はわざわざ無効化するだけあって特に効果が高かった。
高出力のものは貫通すらしている。 最初のミサイルで周囲のエネミーも軒並み沈黙しており、範囲外にいた増援が助けに入るまでに間があったのも大きな追い風となっていた。
Cランクプレイヤー達の猛攻に前回、前々回と基地を壊滅に追いやった巨大エネミーは全身に深い傷を刻まれていく。 やがて内部に深刻な損傷を与えたのかあちこちから煙が上がる。
「よし、よしよしよし。 行ける! こりゃBランク以上の連中が来る前に片が付くな!」
「こいつらさえ仕留めりゃ後は消化試合だ。 一番おいしい所は俺達がいただきだ」
「完全に仕留めるまで油断するな。 俺はこいつがくたばった瞬間に勝利の雄叫びを上げる予定だ」
カタツムリ型エネミーは完全に沈黙し、無防備な姿を晒している。
このままいけば間違いなく勝利できるだろう。 基地が壊滅した直接的な要因はこの巨大エネミーなのだ。 それさえ排除すれば脅威は蟻型エネミーのみとなるので被害を受けたとしても壊滅までは至らないだろう。
だからこそ彼等は勝利を確信していたのだが――
――おかしい。
基地からでも見える半壊したカタツムリ型エネミーを見てヨシナリが思った事だ。
気づかなかったとはいえ、ここまで分かり易い弱点を用意している事に違和感を感じたからだ。
隣のマルメルはいけ、やっちまえと応援しているが、ヨシナリはこれは撃破して大丈夫なのだろうかと少しだけ不安を感じていたのだ。
もちろん根拠はある。 前回と違い、今回は戦力を整え、対策もしっかりと練って参加したプレイヤーが多かっただけあって非常に優勢に事が進んでいた。
その代償なのか敵の出現タイミングが前倒しになっている。 最大の敵であるカタツムリ型エネミーがここまで派手にやられている姿を見れば充分に許容範囲内のイレギュラーといえた。
だからなんだ? 別にいいじゃないか。 前回、前々回と基地が壊滅した原因を処理するんだ。
あいつ等さえいなくなれば後は消化試合で時間まで雑魚を狩り続けるだけでいい。
どこに不安を感じる必要がある? その通りだ。
俺は何に対して不安を――ヨシナリの思考は視線の先で爆散したカタツムリ型エネミーを見て着地した。
「――あ、ヤバい」
思わずそんな言葉が口から漏れた。 前倒し。
そう前倒しになっているだけなのだ。 このイベントは時間経過だけで推移するわけじゃない。
恐らくは撃破数などプレイヤーが特定の条件を突破した場合に次のギミックが動く仕組みなのだ。
つまり、カタツムリ型エネミーがボスではなかった場合、撃破してしまうと――イベントが進んでしまう。
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