Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第71話

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 その後に感想戦を行い、解散の流れとなった。
 少し休憩した後、元気を取り戻したヨシナリはじゃあ俺はこれでとログアウト。
 その姿が完全に消える。

 「……いやぁ、ヨシナリ君本気で殺しに来てたね」

 いなくなった瞬間、ふわわがそう呟く。
 マルメルは一瞬、惚けようかとも思ったが、察しているようなのでごまかす方が良くないと考えて頷く。
 
 「前にランク戦で負けたのが割と堪えてたみたいで、リベンジの機会を狙ってたっぽいっすよ」
 「あ、そうなんだ。 もしかしてウチ、嫌われたりする?」
 「それはないですね。 どちらかというと尊敬はされてると思いますよ」
 「え~、本当??」
 「マジマジ、あいつちょいちょいふわわさん凄い凄いって言ってましたよ」
 「そう? いやぁ、ウチ照れちゃうなぁ」
 「まぁ、それは置いといてふわわさん的にヨシナリはどうでした?」

 マルメルの質問にふわわはうーんと少しだけ考え込む。

 「動きはかなり良くなってたね。 今までは後方からの援護ばっかりで直接動き回ってる姿は見てなかったから最初は前にランク戦で当たった時とそこまで変わらないかなって思ってたんだけど、思ってた以上に動けてて驚いたわ」
 「Ⅱ型に変えたからって話じゃないですよね」
 「違う違う。 位置取りもそうだけど、動き自体に無駄が少なくなってるから相当練習したんだろうなって」

 結果こそ引き分けだったが、ふわわはヨシナリの事を非常に高く評価していた。
 自分を倒す為に様々な準備をしてきたのは良く分かる。 今まで研究してこの時をずっと待っていたのだろう。 気配のない罠の類が有効である事を確信し、自身を囮とした誘因。

 あの動きは本当に秀逸だった。 
 クレイモアに関しては完全に虚を突かれたので助かったのは運が良かったといえる。
 その後の追撃から決着までは本当にどちらが勝ってもおかしくないギリギリの状況だった。

 勝つか負けるか分からない熱い勝負だった。 ふわわはあのヒリつく感覚を思い出して拳を握る。
 あまり勝負事にこだわらない彼女もアレは引き分けでなく勝っておきたかったと心から思わせる戦いだった。 

 「まぁ、どっちにせよ次に戦る時はウチが勝つけどね」

 だから彼女にしては珍しくそんな好戦的な言葉が口から零れ落ちる。
 マルメルはその様子に内心でこのユニオンは仲がいいのか悪いのかと首を捻るが、それよりも気になる事があった。

 「そういえば、最後に使ったやつ何だったんですか? 飛び道具は使わない印象だったから正直意外でした」
 「あぁ、あれ? 店を見てたらたまたま見かけてなぁ、ちょっと面白そうやったから買っちゃった」

 内蔵型ニードル発射機構。 胸部装甲内部に仕込む鉄製のニードルを射出するギミックだが、短射程、低威力とあまり人気がない。 理由としては外からは分からないようにする関係でニードルが短く、射程が驚くほどに短いのだ。 どれだけ短いのかというとほぼ密着しないとまともに効果を発揮しない。
 
 要は拳よりも射程が短く、懐に入れないとまとも使えないのだ。
 ついでに胴体から発射する関係で照準も碌に付けられないので、狙った位置に当てる事が非常に難しい。 とどめに装弾数は一で六つの開口部から同時発射。 つまり、一度使ったらそれで終わりなのだ。
 
 そんなものを採用するぐらいなら牽制用の小口径機銃を積めと言われてしまう。 
 ならばこれは使えないゴミなのか?と問われるとそうとも言い切れない。
 一応、利点も存在する。 まずは軽い。 この手の発射機構はそこそこ重量があるので若干ではあるが機体のバランスが崩れてしまう。 

 機動性を重視する者ほど半端な重りを積む事を嫌うがこの装備は軽いので機体のバランスに与える影響が少なく、使うかは不明だが取り合えずで積んでおいても損はない代物ではあった。 

 「――って書いてあったからちょっと買ってみた」
 「そ、そうっすか」
 「それにヨシナリ君もウチが飛び道具を使うって考えへんって思ってね」
 「あぁ、そうでしょうね。 明らかに想定外って感じでしたし、お見事でしたよ」
 「ふふん。 ウチも苦手を克服していくつもりやからそう簡単には勝たせてあげないよ~」

 こりゃ借りを返すのは大変そうだ。 
 マルメルは内心でそう考え、ヨシナリに頑張れとエールを送った。


 ログアウトし、ヨシナリから嘉成へ。
 ふらふらとベッドに倒れ込み、枕に顔を埋める。
 しばらくの間、そうしていたが不意にその体が震え、ベッドに腕を叩きつけた。

 柔らかいベッドは衝撃を吸収するが、彼の感情までは吸収できなかったようだ。

 「……畜生」

 思わずそう呟く。 ふわわについて徹底的に研究した。
 動きの癖、弱点、攻撃の傾向。 調べつくした上で入念に作戦を立て、確実に殺せる状況に持って行った。 

 ――はずだった。

 ふわわの最大の長所は近接戦とそれを可能とする高機動。
 つまり足さえ殺せば戦闘能力は大きく落ちる。
 だからと言って簡単にもぎ取れるほど彼女の動きは遅くない。 
 
 今までの経験から嘉成はそれをよく理解していた。
 だから、罠を仕掛け、意識を散らし、誘導し、用意したキルゾーンへと誘い込んだ。
 この勝負はふわわの機動性を殺せるか否かで決すると考えていた。 クレイモアは確実に効いていた。

 ふわわの機体から知覚センサーを奪い、足を傷つけ機動力を大きく削いだ。
 だが、想定よりも浅く、短機関銃で殺せるか怪しかったので最後に温めておいた至近距離での一撃で仕留めるといった策を用いた。 下がって遠くから削り殺す事も視野には入っていたが、様々なものを持ち込む関係で残弾が心もとなかった事が彼に接近戦での決着を決断させた要因だ。

 攻撃部位に関する傾向も掴んでいたので二撃までは防げる。
 際どいがその綱渡りも成功し、後は勝つだけ。 そう確信した瞬間だった。
 想定外のニードルガンが現れたのは。 ふわわが飛び道具を使うといった発想自体がなかった。

 その想定の甘さに嘉成は怒りが止まらない。 

 「畜生、勝てた。 絶対に勝てたのに……」

 いくら後悔を重ねても結果は変わらない。 嘉成はこの失敗を糧に成長するしかないのだ。
 
 「次は絶対に潰す」

 一度目は敗北し、二度目は引き分け。 次で勝利をもぎ取る。
 嘉成はそう決意を固め深く呼吸をして気持ちを落ち着けて起き上がった。
 時計を確認するとそろそろ食事の時間なのでそのまま部屋を後にした。
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