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第66話
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ヨシナリの機体が銃と呼ぶには角ばった物をビルの壁面に向けて発射。
飛んだのは銃弾ではなく、平たい円盤状の何かだった。
それは狙った位置に張り付き、反対側のビルにワイヤーのような物を伸ばすと小さく小刻みに電子音を発する。
「――とまぁ、この通り設置が面倒くさい代物ではあるけど、上手い事やれば気付き難い」
場所は練習用フィールド。
マルメルとふわわを伴って、最後にセンドウが使ったトラップの実演を行っていた。
「うわ、ワイヤートラップか。 見え辛いし、最初から警戒してないとこりゃ引っかかるな」
「で、ふわわさんが引っ掛かったのが、電流が流れて機体が数秒行動不能になるタイプだな」
ヨシナリがその辺の瓦礫をトラップへと放り投げると起動。
高圧電流が流れて瓦礫の表面が焼ける。
「御覧の通り威力自体は大した事はないけど、トルーパーが喰らったら五秒から十秒は完全に無防備になる」
「マジかよ。 トラップヤベぇな」
「ただ、さっきも言ったけど、設置が面倒なんだよ。 こんな市街地みたいな場所だと対面に建物があるから問題ないけど、森とかだったらズレると変な所にワイヤー飛ぶし、長さが足りなかったりすると巻き戻すんだけど何かに引っかかったら絡まって取れなくなるってケースも多い。 後は都合よく相手が仕掛けた場所に来てくれるかってのもあるから個人的にはあんまり安定しない印象だったんだけど、あのセンドウってプレイヤーは見事に使いこなしていたな」
こうして検証してみるとセンドウというプレイヤーはスナイパーとして十全に活動できる環境を整える事に力を入れていた事が窺える。
恐らくは最初にヨシナリのような直接狙える脅威を探し、その隙を突いて周囲の環境を自分に有利になるように作り替えていた。 罠を仕掛けて接近された時に備え、予備の武器を隠し、破壊された場合の損失に備える。 彼女はとにかく自分が役目を全うできなくなる状況を作らない事を意識しているように思えた。
実際、接近して来たふわわは罠で仕留め、破壊された武器は代わりを隠していたので結局、ふわわは何もできずにやられた事になる。
ふわわはやられた事を思い出したのかがっくりと肩を落とす。
「で? 対処法は?」
「単純に本体を壊せばいい。 後は砂埃を巻き上げたりすると通電中のワイヤーは割とはっきり見えるから怪しい所に銃弾を撃ち込んでも良いかもな。 それかセンサー類の強化ってところだろう」
ヨシナリがマルメルから突撃銃を借りて地面に適当に打ち込むと粉塵が撒き散らされ触れたワイヤーがぼんやりと浮かび上がる。
「じゃあ光学迷彩は?」
フカヤというプレイヤーが使っていた身を隠す光学迷彩。
レーダーもそうだが、センサー類にもほぼ反応しないので気づかなければ無防備な状態で一撃を貰う事になる。 まともに喰らってやられたヨシナリとしては次に備えて対策は練っていた。
「姿を晦ますって点では割と便利なんだが、あれって欠点も多くてな。 まず、エネルギー系の兵器を使うとセンサーに引っかかる。 あのフカヤってプレイヤーはその辺を理解してるから気付かれ難いクロスボウを使ってたんだろうな。 ただ、ふわわさんにはあっさりバレて躱されたけど」
「あれ、ふわわさんだからだろ? 俺じゃ無理だぞ」
「だったら発煙手榴弾だな。 全部じゃないけどちょっと高めの奴は光学迷彩を剥がせるタイプもある。 さっきの罠にも使えるから見切るにはこれが無難かもな」
ヨシナリが持ってきたグレネードを近くに放り投げる。
炸裂したグレネードは煙を撒き散らした。
「ただ、自分の視界もやられるから使いどころには注意ってところか」
「なるほど。 他に光学迷彩の欠点ってあるのか?」
「あるぞ。 姿は消せるけど痕跡までは消せないから歩いたら足跡は残るし、スラスターを噴かしたらセンサーに引っかかる。 ついでに使いっぱなしだとエネルギーを喰うから過度な連続使用を行うと強制冷却だ。 だから、適度に隠れて休まなければならない。 要は持続時間が無限じゃないからその辺に気を配らないといけない」
ヨシナリが調べた限りだが、ステルス戦闘を行いたいなら装備は厳選するべきだとあるサイトで紹介されていた。
移動は足音が発生しないホバー、武器はマズルフラッシュや銃声の発生しないクロスボウやスリングショット。 ブースターやスラスターは邪魔なので排除。 地面を張ってひたすらに獲物を狙う狩人になろう。 ステルスキルは楽しいぞといった一文で締められていた。
「取り合えず、罠とステルスに関しては以上だけど他に質問ある?」
ヨシナリがそう尋ねると二人は沈黙。 特にないようだ。
「よし、感想戦、敵の攻撃手段の検証が終わった後は俺達の改善だ。 まずは何で負けたのかをちゃんと考えよう。 はい、ふわわさんどうぞ!」
「……ウチが突出したから?」
「それはどうやったら防げると思います?」
「うーん。 マルメル君との距離を一定に保つ?」
「取り合えず試してみましょう。 マルメル、いいな」
「おう、んじゃあふわわさんが先行して俺が追っかける形でフォーメーションを組んでみよう。 ターゲットは――」
「いや、取り合えず動きだけで始めようぜ。 取り合えずポジショニングだけでも形にした方がいい」
「オッケー。 始めますか」
本来ならフリーミッションやユニオン戦で稼ぐのだが、前回の負けをそのままにしておくのは危険と判断したヨシナリは二人を誘って反省会兼訓練を行う事にしたのだ。
この先、ユニオン単位で戦う事が増えるだろう。 そうなれば連携は必須といえる。
その為、稼ぐよりも練度を上げておく方が重要だと思ったのだ。
加えて、ふわわが負けをかなり引き摺っているのでそれのケアを行うといった意味もあった。
「よし、先行するから付いてきてねー」
「うっす。 よろしく!」
ふわわの機体がビルの屋上を跳ねるように移動し、マルメルがそれを追いかける。
やはり軽量のふわわと武装を詰んでる分重たいマルメルの機体では速度にかなりの差があった。
見ている間にあっという間に離される。
フィールドを一周する頃には随分と差がついていた。
戻ってきた二人に遠くで見ていたヨシナリが指示を出す。
「ふわわさんは全開じゃなくて六、七割ぐらいを意識して。 マルメルは目で追うんじゃなくてマップを意識して先回りするような移動ルートを考えた方が良いかも」
ふんふんと頷く二人と話をしてもう一周。
その間にヨシナリは自分の改善点を洗い出し、二人とどういった訓練をするかを考えていた。
――次は俺達が勝つ。
その胸には『栄光』へ勝つ事に対する欲求が渦を巻いていた。
飛んだのは銃弾ではなく、平たい円盤状の何かだった。
それは狙った位置に張り付き、反対側のビルにワイヤーのような物を伸ばすと小さく小刻みに電子音を発する。
「――とまぁ、この通り設置が面倒くさい代物ではあるけど、上手い事やれば気付き難い」
場所は練習用フィールド。
マルメルとふわわを伴って、最後にセンドウが使ったトラップの実演を行っていた。
「うわ、ワイヤートラップか。 見え辛いし、最初から警戒してないとこりゃ引っかかるな」
「で、ふわわさんが引っ掛かったのが、電流が流れて機体が数秒行動不能になるタイプだな」
ヨシナリがその辺の瓦礫をトラップへと放り投げると起動。
高圧電流が流れて瓦礫の表面が焼ける。
「御覧の通り威力自体は大した事はないけど、トルーパーが喰らったら五秒から十秒は完全に無防備になる」
「マジかよ。 トラップヤベぇな」
「ただ、さっきも言ったけど、設置が面倒なんだよ。 こんな市街地みたいな場所だと対面に建物があるから問題ないけど、森とかだったらズレると変な所にワイヤー飛ぶし、長さが足りなかったりすると巻き戻すんだけど何かに引っかかったら絡まって取れなくなるってケースも多い。 後は都合よく相手が仕掛けた場所に来てくれるかってのもあるから個人的にはあんまり安定しない印象だったんだけど、あのセンドウってプレイヤーは見事に使いこなしていたな」
こうして検証してみるとセンドウというプレイヤーはスナイパーとして十全に活動できる環境を整える事に力を入れていた事が窺える。
恐らくは最初にヨシナリのような直接狙える脅威を探し、その隙を突いて周囲の環境を自分に有利になるように作り替えていた。 罠を仕掛けて接近された時に備え、予備の武器を隠し、破壊された場合の損失に備える。 彼女はとにかく自分が役目を全うできなくなる状況を作らない事を意識しているように思えた。
実際、接近して来たふわわは罠で仕留め、破壊された武器は代わりを隠していたので結局、ふわわは何もできずにやられた事になる。
ふわわはやられた事を思い出したのかがっくりと肩を落とす。
「で? 対処法は?」
「単純に本体を壊せばいい。 後は砂埃を巻き上げたりすると通電中のワイヤーは割とはっきり見えるから怪しい所に銃弾を撃ち込んでも良いかもな。 それかセンサー類の強化ってところだろう」
ヨシナリがマルメルから突撃銃を借りて地面に適当に打ち込むと粉塵が撒き散らされ触れたワイヤーがぼんやりと浮かび上がる。
「じゃあ光学迷彩は?」
フカヤというプレイヤーが使っていた身を隠す光学迷彩。
レーダーもそうだが、センサー類にもほぼ反応しないので気づかなければ無防備な状態で一撃を貰う事になる。 まともに喰らってやられたヨシナリとしては次に備えて対策は練っていた。
「姿を晦ますって点では割と便利なんだが、あれって欠点も多くてな。 まず、エネルギー系の兵器を使うとセンサーに引っかかる。 あのフカヤってプレイヤーはその辺を理解してるから気付かれ難いクロスボウを使ってたんだろうな。 ただ、ふわわさんにはあっさりバレて躱されたけど」
「あれ、ふわわさんだからだろ? 俺じゃ無理だぞ」
「だったら発煙手榴弾だな。 全部じゃないけどちょっと高めの奴は光学迷彩を剥がせるタイプもある。 さっきの罠にも使えるから見切るにはこれが無難かもな」
ヨシナリが持ってきたグレネードを近くに放り投げる。
炸裂したグレネードは煙を撒き散らした。
「ただ、自分の視界もやられるから使いどころには注意ってところか」
「なるほど。 他に光学迷彩の欠点ってあるのか?」
「あるぞ。 姿は消せるけど痕跡までは消せないから歩いたら足跡は残るし、スラスターを噴かしたらセンサーに引っかかる。 ついでに使いっぱなしだとエネルギーを喰うから過度な連続使用を行うと強制冷却だ。 だから、適度に隠れて休まなければならない。 要は持続時間が無限じゃないからその辺に気を配らないといけない」
ヨシナリが調べた限りだが、ステルス戦闘を行いたいなら装備は厳選するべきだとあるサイトで紹介されていた。
移動は足音が発生しないホバー、武器はマズルフラッシュや銃声の発生しないクロスボウやスリングショット。 ブースターやスラスターは邪魔なので排除。 地面を張ってひたすらに獲物を狙う狩人になろう。 ステルスキルは楽しいぞといった一文で締められていた。
「取り合えず、罠とステルスに関しては以上だけど他に質問ある?」
ヨシナリがそう尋ねると二人は沈黙。 特にないようだ。
「よし、感想戦、敵の攻撃手段の検証が終わった後は俺達の改善だ。 まずは何で負けたのかをちゃんと考えよう。 はい、ふわわさんどうぞ!」
「……ウチが突出したから?」
「それはどうやったら防げると思います?」
「うーん。 マルメル君との距離を一定に保つ?」
「取り合えず試してみましょう。 マルメル、いいな」
「おう、んじゃあふわわさんが先行して俺が追っかける形でフォーメーションを組んでみよう。 ターゲットは――」
「いや、取り合えず動きだけで始めようぜ。 取り合えずポジショニングだけでも形にした方がいい」
「オッケー。 始めますか」
本来ならフリーミッションやユニオン戦で稼ぐのだが、前回の負けをそのままにしておくのは危険と判断したヨシナリは二人を誘って反省会兼訓練を行う事にしたのだ。
この先、ユニオン単位で戦う事が増えるだろう。 そうなれば連携は必須といえる。
その為、稼ぐよりも練度を上げておく方が重要だと思ったのだ。
加えて、ふわわが負けをかなり引き摺っているのでそれのケアを行うといった意味もあった。
「よし、先行するから付いてきてねー」
「うっす。 よろしく!」
ふわわの機体がビルの屋上を跳ねるように移動し、マルメルがそれを追いかける。
やはり軽量のふわわと武装を詰んでる分重たいマルメルの機体では速度にかなりの差があった。
見ている間にあっという間に離される。
フィールドを一周する頃には随分と差がついていた。
戻ってきた二人に遠くで見ていたヨシナリが指示を出す。
「ふわわさんは全開じゃなくて六、七割ぐらいを意識して。 マルメルは目で追うんじゃなくてマップを意識して先回りするような移動ルートを考えた方が良いかも」
ふんふんと頷く二人と話をしてもう一周。
その間にヨシナリは自分の改善点を洗い出し、二人とどういった訓練をするかを考えていた。
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