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第52話

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 「あぁ、だからイベントの時、飛んでる連中があんなにヒラヒラ躱してたんだな」
 「それも理由ではあるだろうが、見えているからと言って反応できるかはまた別の話だ。 後ろや視界の端からの攻撃に対応できているのは紛れもなく腕だよ」

 そう言いながらヨシナリはリストをスクロールさせる。
 ソルジャーⅡ型に機種転換する場合に最低限必要なものは三つ。
 頭部センサー、背部の推進装置ブースター、最後にエンジンとなるジェネレーターだ。
 
 ちなみにお値段は安い順で、レラナイトもジェネレーターは一つしか持っていなかった。
 
 「センサーシステム二種、ブースター三種、ジェネレーター一種。 絶対に必要なパーツはこれだけだ。 後は互換性のある追加装甲やスラスター、エネルギーライフルなどの武器がいくつか。 どれもこれもかなりいい値段するから一式手に入ったのはデカいな」
 「まぁ、馬鹿にされた甲斐はあったって事かねぇ」
 「できればウチはこういう勝っても気分の良くないのはもういややわぁ」

 マルメルは気楽にふわわは少し嫌そうに呟くのを聞いてヨシナリは取り合えずパーツを割り振る事にした。
 
 「予定とはかなり違ってしまったけどパーツはマルメルが使ってくれ。 センサーはゼブラとホークアイのどっちがいい?」
 「……あー、いや、約束だったのは分かるけど、本当にいいのか?」
 
 マルメルがちらりとふわわを見ると彼女は頷いて見せる。

 「どうぞどうぞ。 使って使って」
 「……そういう事なら遠慮なく」
 
 少し迷っていたようだが、マルメルはゼブラを選択。 
 ヨシナリは必要なパーツを全てマルメルに送り、受け取った彼は届いたパーツに興奮気味に声を上げた。 

 「まぁ、予想外ではあったが、当初の予定であるマルメルの強化は完了したので次はふわわさんの強化をと思ってます」
 「ウチ? 別に今のままでもええけど?」
 「ふわわさんとマルメルは前に出る必要があるので強化は必須ですよ。 優先順位で言うなら遠くからチクチクやる俺が最後になるって話です。 終わったら俺の機体の強化に入ります」

 前衛が強化されれば後衛であるヨシナリが楽になる。
 各々のポジションと得意分野を考えれば当然の流れだ。 本音を言えば真っ先にⅡ型を試してみたい気持ちは当然あったが、そこはぐっと我慢してリーダーとして合理的な選択を取ったのだ。

 ――それに――

 「ついさっき、運営からメールが来たんだけど見た?」
 「何だ? また不意打ちのお知らせか? ユニオン機能みたいに即時実装とか心臓に悪いサプライズは勘弁して欲しいんだけど――」
 「んー? 何かな……うわ」

 メールを開いた瞬間、マルメルは固まり、ふわわは少しだけ嫌そうな声を上げた。
 それもその筈で内容はイベント復刻のお知らせ。 内容は先日の防衛戦とまったく同じ。
 せめてもの救いは開催が一か月と少し後、要は前回から二ヶ月後の開催となる。

 「クリアされるまで擦り倒すんじゃないかって言われてたけどマジだとは思わなかったぜ」
 「この様子だとクリアされるまで二ヶ月周期で復刻されそうだな」
 「うへ、あれを毎回やるのかよ。 まぁ、それはそれとして今回はユニオン機能の実装で戦いやすくなてるし、流石に行けるだろ」
 「あぁ、前回は残り三十分でイベント失敗だったみたいだし、前回からの二か月で他のプレイヤーも対策を練っているはずだ」

 ヨシナリは次は勝てるだろうと付け加えた。
 次回で三度目で敵の戦力構成はほぼ掴んでいる状態だ。 
 特にハイランカー達がこのまま黙ってやられているとは思えないので、意地でも次回は勝ちに行くだろう。 ヨシナリとしても前回、途中で脱落したのは苦い思い出だったので次回はどうにか最後まで生き残ってやろうと意気込んでいた。

 「それやったらしばらくはまた頑張って稼がないとね!」
 「そうですね。 ――と言いたいんですが、もうちょっとしたら夏休みが終わるのでログイン時間は減りそうです」
 「あー、そう言えば二人は学生さんやったね。 勉強せぇとかうるさく言うつもりはないけど、親御さんをあんまり心配させたら駄目だよー」 

 時期的にヨシナリとマルメルは夏休みが終わるので、本分である学業に時間を割かなけれなならない。
 折角、面白くなってきているのにという気持ちはあったが、やりすぎて両親の機嫌を損ねる事だけは避けたかったのでそこは真面目にやるつもりだった。

 「取り合えず、学業を優先しつつ次のイベントに備えるって感じで!」

 目先の目標としてはイベントまでにふわわのⅡ型へのバージョンアップを終わらせておきたい。
 ふわわとマルメルはおー!と拳を振り上げる。 ヨシナリは何だかんだとノリの良い二人だなと少しだけ嬉しくなった。
 

 色々やっていたらいい時間になったので解散となった。
 ふわわはそのままログアウト。 
 マルメルはⅡ型を試したいからトレーニングルームに籠ると言って去っていった。

 ヨシナリも付き合いたかったが結構な時間飲まず食わずなので食事の為に諦めてログアウト。
 意識がアバターから生身の肉体――ヨシナリから嘉成へ。
 部屋から出てリビングに行くと父親がカップ麺を啜っていた。 母さんは?と尋ねると寝てると簡単な返事が返ってきた。

 もう遅い時間だったので当然かと思いながら嘉成は冷蔵庫から夕食を取り出して温める。
 待っている時間、暇だったのでウインドウを操作してニュースサイトを開く。
 トップに上がっているのは三つ。 一つは国が宇宙開発に追加の予算を投入する事を決め、反対派が金を使いすぎている。 何に使っているのか具体的な説明をしろと喚き散らしていた。

 二つ目は自立型AIの開発についてといった内容で、人間と同じように思考、成長するAI開発に付いての記事で割と何度も擦られた内容だったのでヨシナリは特に気にせずに次の記事へ。
 三つ目は大規模停電とネットワーク障害によっての死亡事故についてだ。

 内容は電脳空間内で作業を行う会社のエンジニアが、停電事故によって脳とアバターの接続を断ち切られた事によって死亡したとの事。 
 要は会社のサーバー内かゲーム内かの違いはあるが、意識を電脳の世界に送り込んでいる状態で強引に接続を断たれれるとこのような危険な事故に繋がりかねないという話だった。
 
 ゲームの世界にダイブしている身としてはあまり他人事ではないと思っていたヨシナリは怖い話だなと思ったが、食事が温まったのでそのまま記事を閉じて内容を意識の端へと追いやった。
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