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第43話

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 「ま、マジか。 俺にⅡ型くれんの?」
 「だからそうだってば。 ただ、ふわわさんの同意が要るけどな? どう思います?」

 流石に勝手に決める訳にはいかないのでふわわにヨシナリは同意を求めるべく話を振る。
 
 「ん~? 良いんじゃない? ウチとしては部屋の内装をどうにかしたいなって思ってたから次はそっちにお金を回してくれたら文句ないよ~」
 「あー、まぁ、これは流石殺風景すぎるか。 俺もちょっと気にはなってたし、マルメルの強化が終わった後でもいいですか?」
 「オッケー、オッケーそれが利けたら充分! さっきの相手弱かったから不完全燃焼だし、またユニオン戦やって稼ごっか!」

 ふわわの言葉に二人は大きく頷き、次の戦いへと挑む事となった。
 

 ユニオン戦は基本的にほぼ同条件の相手が対戦相手としてマッチングされる。
 人数、個人ランクの平均、そしてユニオンランク。 この三つが合致する相手が対戦相手として現れるのだが――

 『クソッなんだこの化け物! 冗談じゃね――』

 足をやられた敵機が凡そ対戦相手に向ける表現ではない感想を言いかけて胴体をブレードに貫かれて沈黙。 ふわわの仕業だった。 
 彼女はこと、近接戦では負けなしで間合いに入られた相手はまず成す術もなく倒される。
 
 ヨシナリとマルメルは彼女が敵を片付けるまで他を牽制しつつ可能なら撃破を狙う形をとる事で安定して勝利を収めていた。 ある程度、戦い方が確立すると無駄も減るので必然的に敵の撃破もスムーズになる。 それにより回転数も上がり、ヨシナリ達『星座盤』は五勝、十勝と順調に勝利を収めてきた。

 ユニオン戦は報酬もそれなりに高く、勝てれば美味しい稼ぎ方ではある。
 だが、勝ちすぎると良くも悪くも目立ってしまう事をヨシナリ達は失念していた。
 ユニオンというのはシステム上、数が多ければ多いほどに有利だ。

 ミッションをこなせばこなすほど、金庫には金が勝手に増えていく。
 そしてこのゲームは性質上、プレイする以上は必ず何らかのミッションをこなす。
 つまり普通にプレイするだけでユニオンの資産が増えていく。 その為、ユニオンは少しでも人数を増やそうと躍起になっている訳だ。 加えて、ユニオンメンバー間で使用できる専用通信があればイベント戦でも有利に立ち回れる。 

 特にまた復刻されるであのイベントを突破するには個よりも集団での戦いが重要となる。
 集団としての質を高める事が最も重要だが、優秀な個は替えが利き辛い稀有な存在だ。
 そんな貴重な存在――それも目立つ形で現れた少数のユニオン。 取り込もうと考える者が現れるのは自明の理といえるだろう。

 ある日の事だ。 
 ユニオン戦も順調に勝ち続け、ヨシナリは資金も溜まってきたのでそろそろマルメルの換装用のパーツどれにするかの相談でもするかと考えていた。 暦はそろそろ八月の後半。
 
 夏季休暇が終わって時間が執り辛くなるのでログイン時間が減るなとぼんやり思いながら、ショップにあるソルジャーⅡ型系列のパーツを眺めていると視界の端にメール受信を示すアイコンが点灯。
 一瞬、運営からのお知らせかな?と首を傾げたが、よく見れば個人宛てのメールだったのでヨシナリに用事があるのだろう。 メンバー以外とはそこまで積極的に絡んだ覚えがないのでわざわざ連絡してくる相手に心当たりがなかった。 開いてみると思わず仰け反る。

 びっしりと書かれたレシートのような長い文面だったからだ。
 
 「……なんだこれ……」

 思わず呟きながらスパムメールでも開いちまったかと一瞬思ったが、内容を読み進めていく内に割とまじめな内容だと理解した。 
 送ってきたのはユニオン『五宝剣ノルマン・コンクエスト』リーダー、Cランクプレイヤーの『グリュック』内容は長ったらしい挨拶に始まり、これまでの星座盤の活躍を褒め称え、今後のイベントを乗り切る為に力を貸して欲しいといった内容だった。 要は解散してこちらに入れという話だ。

 ――入る訳ないだろ。

 そもそもそういったしがらみが嫌で仲のいい面子だけで作ったユニオンなのだ。
 大きい所に入って行動を制限されるなんて窮屈な真似はごめんだった。
 即座に断りを入れようかとも思ったが、勝手に決めるのは良くないので二人に報告してからだ。

 そう考えてメールを閉じようとするとまた新規のメッセージが届いていた。
 開くと今度はユニオン戦で最初に当たった『大渦ヴァッサーファル』のリーダーからだった。
 内容はさっきと同じでウチに入りませんか?といったもの。

 小さく溜息を吐いてふわわとマルメルに連絡をしようとしたが、通知音が連続して響き、次々と未読のメッセージが溜まっていく。 見るまでもないと思っていたが、念の為にと確認すると大小様々なユニオンからの勧誘メッセージばかりだった。

 ――面倒な事になったなぁ……。

 内心でそう呟いてヨシナリは小さく溜息を吐いた。


 「――という訳で勧誘メッセージが死ぬほど来ています」

 場所は変わらず、合流したふわわとマルメルに事情を話すと二人は思わずといった様子で顔を見合わせる。

 「うーん。 ウチらモテモテやねぇ」
 「いやいや、勧誘来すぎだろ――ってか、目当ては俺達っつーよりはふわわさんじゃねぇか?」
 「まぁ、それはあると思う」

 実際、ヨシナリの受け取ったメッセージの中には言葉は選んでいたがふわわだけでいいからこっちに寄越せといった内容のものもあった。 ちなみに一番不快だったのはふわわを説得してくれたら金を払うといった内容で、それに関しては丁重に断った上で通報しておいた。 ルールとしては割と灰色なので罰せられるかは微妙だが、ストレートにふざけんなと言うと面倒事になるのでやや遠回しなやり方に変えておいたのだ。

 「そうなん? そういえばウチの所にも個別にメッセージ来てたなぁ」
 
 ふわわはどうでもよさそうにウインドウを操作するとヨシナリ達にも見えるように表示した。
 そこには勧誘メッセージがずらりと並んでいる。 
 
 「うわ、すっげ。 内容も凄いな。 えっと――『君はそんな小さなユニオンで終わる器ではない。 我々と上を目指そう』うわ、ありきたり。 『気づいていないかもしれないけど君は寄生されている。 そんな利用されるだけの関係でいいのか!? 目を覚ませ! 我々なら力になれる!』これひっでぇな」
 「俺達、ふわわさんに寄生してるらしいぞ」

 ヨシナリが半笑いでそういうとマルメルも小さく鼻を鳴らした。
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