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第42話
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無傷で現れたふわわはいつもの調子だったが、マルメルは内心でこの人が味方で心底良かったと思っていた。 彼女の足元に転がっている機体は同格という事もあってかなり動けたはずなのだが、あちこち切り刻まれており戦いと呼んでいいのか疑問に思えるほどに一方的な展開に終始していた事が窺える。
「あー、どうでした?」
『ん~。 まぁまぁかなー。 刀使ってくる相手とは初めてだったからちょっと新鮮だったかも』
そういう彼女の手にはトルーパー用にスケールアップした刀が握られていた。
ふわわが軽く振ると刀身が薄く光り、何かがスパークしているのかバチバチと小さく火花を散らす。
マルメルはそれを見て残骸に視線を落とすと彼女に切り刻まれたであろう機体は損傷部分のあちこちが焦げているので途中で奪い取られたのだろうと察した。
「取り合えず、こっちは片付いたので残りを仕留めるとしましょうか」
彼女は「ほえー」とか「ほうほう」と言いながら刀を眺めていたが、戦いはまだ終わっていないので次へ行くべきとマルメルは行動を促す。
「そうねぇ。 んじゃ、残りもやっちゃいましょうか」
山を一つ挟んで動きの読み合いと狙撃の応酬を行っていたヨシナリだったが、敵の前衛二人が倒れた事でこの戦いも終わりに近づいている事を察していた。
彼の仕事は相手のスナイパーに仕事をさせない事だったので、他を潰した以上はもう見ているだけでいい。
何故なら、もう勝ちは動かない。 その証拠に相手が撃ち返してこないからだ。
今頃、マルメルとふわわに追いかけまわされているだろう。
彼の想像を裏付けるかのように森の一部で木が倒れ、移動に伴う砂埃が上がっている。
移動しながら銃撃しているようだが、早々に途切れた。 同時に戦闘終了という表示が画面に映り、リザルトが表示される。
確認を終えると強制的にフィールドから追い出され、殺風景なホームに戻された。
「おつかれ、おつかれー」
勝って気分がいいのかふわわがバシバシと二人の背を叩いて労いの言葉をかける。
ヨシナリとマルメルは顔を見合わせてお疲れ様と互いの健闘を称え合う。
その後は感想戦だ。 勝ったとはいえ、それに胡坐をかくのはあまり良くない。
今回の勝因は何だったのか、改善点はないのかといった問題の洗い出しだ。
リプレイを再生して動きを確認する。
――とはいっても事前に三人で大雑把にどう動くのかの打ち合わせは済ませており、今回はその通りの動きができたので順当な結果といえた。
「正直、真っすぐ突っ込んで来てくれてかなり助かったぜ。 前衛二機にスナイパー一機。 構成もこっちと同じだったからぶつける相手も悩む必要もなかったしな」
敵は真っ先に動いたゾンが攪乱、残りで奇襲をかけるつもりだったようだ。
「これ、大人しくしてりゃもうちょっと長生きできたんじゃないか?」
「そうでもない。 ゾンの装備がこっちで見えるようになっている事は相手も分かってただろうし、俺がスナイパーだったって事も割れてただろうから手の内がバレてる奴を囮にするのは割と理に適っている」
残念ながらふわわのお陰でその目論見は崩れる事になったが。
敵の前衛のもう一機は近~中距離戦仕様の機体で腰の刀――電磁ブレードというらしい――の脅威度が高かったが、近接戦でふわわに勝てる訳もなくリプレイ映像の中では振るった刀は掠りもせず最初の一撃が躱されたと同時に片手が切り落とされて刀を奪われてしまっていた。
後は目を背けたくなるような相手にとっては気の毒な展開が少しの間、繰り広げられた。
ふわわは刀が珍しかったのか、威力を試すように敵機を切り刻んだ。
「うわ、自分の武器で切り刻まれるとか恥辱の極みっすね」
「えー? そう? いやぁ、小太刀は結構使った事あるんだけど、太刀は久しぶりだったからついついやっちゃった。 あの武器結構いい感じだね。 バチバチーってなる奴」
今度買ってみようかなと悪びれもせずに笑うふわわ。
それを見てヨシナリは表に出さなかったが若干引き、マルメルは乾いた笑いを漏らす。
彼女の言葉とは裏腹にリプレイ映像では刀の試し斬りの為かわざと急所を避けて斬り刻んでいた。
敵機はその隙をついて逃亡。 ゾンに助けを求めに行ったが、既にマルメルにやられた後だったので、万策尽きて硬直。 後はマルメルが見たままで、追いついたふわわに捕まってとどめを刺された。
後はもう見るべきところはなかった。
残った敵のスナイパーは仲間が全滅した事を知って慌てて移動しようとしていたが、その頃には既にマルメルとふわわが近くまで来ており、逃げられる距離ではなかったからだ。
敵のセンサー類を欺瞞する装置を積んでいたが、レーダーや視界からは消えられても物理的に消滅できるわけではないのでマルメルが弾をばら撒いて炙り出し、飛び出した所をふわわに仕留められた。
こうして見直してみると危なげなく勝利できたといえるだろう。
報酬は個人の戦績に応じたものとユニオンで貰える報酬。
特にユニオン報酬は中々に大きく、この調子で溜めて行けば外装ぐらいなら軽く買い換えられるだろう。 流石にそんな横領みたいな真似はしないが、使い道は皆で相談して決めるべきだ。
「ところでうやむやになっていたけどユニオンで稼いだ金どうする?」
ユニオンのランク上げは勝利数なので勝ちを重ねるだけでいい。
それ以外は個人に注ぎ込むのもよし、設備投資を行うのもよしと割と自由度は高い。
「ヨシナリは何に使おうと思ってるんだ?」
「俺としては機体の強化にでも使えればなって思ってる」
「ほー、具体的には?」
「あぁ、まずはお前の機体のコア部分を全換装してソルジャーⅡ型にする」
「え? 俺?」
流石にその返しは想像していなかったのかマルメルが驚いたように固まる。
「うん。 このリプレイ見ても分かると思うけどこのチームで一番被弾率が高いのはお前だ。 一応、言っておくがお前が弱いとかそんな理由じゃないからな。 前線で敵の牽制や場合によっては囮までこなすんだ。 損耗が激しい上に一番しんどいポジションなんだから最初に強化するのは当たり前だろ?」
これは嘘偽りのない本音だった。
ヨシナリはスナイパーなので前に出ない。
ふわわは前衛だが、あの技量があればそうそう貰う事はない。 そうなると必然的にマルメルを真っ先に強化する事がチームの強化に繋がる。 彼の生存はチームが楽に戦う事には必須と言っていい。
「あー、どうでした?」
『ん~。 まぁまぁかなー。 刀使ってくる相手とは初めてだったからちょっと新鮮だったかも』
そういう彼女の手にはトルーパー用にスケールアップした刀が握られていた。
ふわわが軽く振ると刀身が薄く光り、何かがスパークしているのかバチバチと小さく火花を散らす。
マルメルはそれを見て残骸に視線を落とすと彼女に切り刻まれたであろう機体は損傷部分のあちこちが焦げているので途中で奪い取られたのだろうと察した。
「取り合えず、こっちは片付いたので残りを仕留めるとしましょうか」
彼女は「ほえー」とか「ほうほう」と言いながら刀を眺めていたが、戦いはまだ終わっていないので次へ行くべきとマルメルは行動を促す。
「そうねぇ。 んじゃ、残りもやっちゃいましょうか」
山を一つ挟んで動きの読み合いと狙撃の応酬を行っていたヨシナリだったが、敵の前衛二人が倒れた事でこの戦いも終わりに近づいている事を察していた。
彼の仕事は相手のスナイパーに仕事をさせない事だったので、他を潰した以上はもう見ているだけでいい。
何故なら、もう勝ちは動かない。 その証拠に相手が撃ち返してこないからだ。
今頃、マルメルとふわわに追いかけまわされているだろう。
彼の想像を裏付けるかのように森の一部で木が倒れ、移動に伴う砂埃が上がっている。
移動しながら銃撃しているようだが、早々に途切れた。 同時に戦闘終了という表示が画面に映り、リザルトが表示される。
確認を終えると強制的にフィールドから追い出され、殺風景なホームに戻された。
「おつかれ、おつかれー」
勝って気分がいいのかふわわがバシバシと二人の背を叩いて労いの言葉をかける。
ヨシナリとマルメルは顔を見合わせてお疲れ様と互いの健闘を称え合う。
その後は感想戦だ。 勝ったとはいえ、それに胡坐をかくのはあまり良くない。
今回の勝因は何だったのか、改善点はないのかといった問題の洗い出しだ。
リプレイを再生して動きを確認する。
――とはいっても事前に三人で大雑把にどう動くのかの打ち合わせは済ませており、今回はその通りの動きができたので順当な結果といえた。
「正直、真っすぐ突っ込んで来てくれてかなり助かったぜ。 前衛二機にスナイパー一機。 構成もこっちと同じだったからぶつける相手も悩む必要もなかったしな」
敵は真っ先に動いたゾンが攪乱、残りで奇襲をかけるつもりだったようだ。
「これ、大人しくしてりゃもうちょっと長生きできたんじゃないか?」
「そうでもない。 ゾンの装備がこっちで見えるようになっている事は相手も分かってただろうし、俺がスナイパーだったって事も割れてただろうから手の内がバレてる奴を囮にするのは割と理に適っている」
残念ながらふわわのお陰でその目論見は崩れる事になったが。
敵の前衛のもう一機は近~中距離戦仕様の機体で腰の刀――電磁ブレードというらしい――の脅威度が高かったが、近接戦でふわわに勝てる訳もなくリプレイ映像の中では振るった刀は掠りもせず最初の一撃が躱されたと同時に片手が切り落とされて刀を奪われてしまっていた。
後は目を背けたくなるような相手にとっては気の毒な展開が少しの間、繰り広げられた。
ふわわは刀が珍しかったのか、威力を試すように敵機を切り刻んだ。
「うわ、自分の武器で切り刻まれるとか恥辱の極みっすね」
「えー? そう? いやぁ、小太刀は結構使った事あるんだけど、太刀は久しぶりだったからついついやっちゃった。 あの武器結構いい感じだね。 バチバチーってなる奴」
今度買ってみようかなと悪びれもせずに笑うふわわ。
それを見てヨシナリは表に出さなかったが若干引き、マルメルは乾いた笑いを漏らす。
彼女の言葉とは裏腹にリプレイ映像では刀の試し斬りの為かわざと急所を避けて斬り刻んでいた。
敵機はその隙をついて逃亡。 ゾンに助けを求めに行ったが、既にマルメルにやられた後だったので、万策尽きて硬直。 後はマルメルが見たままで、追いついたふわわに捕まってとどめを刺された。
後はもう見るべきところはなかった。
残った敵のスナイパーは仲間が全滅した事を知って慌てて移動しようとしていたが、その頃には既にマルメルとふわわが近くまで来ており、逃げられる距離ではなかったからだ。
敵のセンサー類を欺瞞する装置を積んでいたが、レーダーや視界からは消えられても物理的に消滅できるわけではないのでマルメルが弾をばら撒いて炙り出し、飛び出した所をふわわに仕留められた。
こうして見直してみると危なげなく勝利できたといえるだろう。
報酬は個人の戦績に応じたものとユニオンで貰える報酬。
特にユニオン報酬は中々に大きく、この調子で溜めて行けば外装ぐらいなら軽く買い換えられるだろう。 流石にそんな横領みたいな真似はしないが、使い道は皆で相談して決めるべきだ。
「ところでうやむやになっていたけどユニオンで稼いだ金どうする?」
ユニオンのランク上げは勝利数なので勝ちを重ねるだけでいい。
それ以外は個人に注ぎ込むのもよし、設備投資を行うのもよしと割と自由度は高い。
「ヨシナリは何に使おうと思ってるんだ?」
「俺としては機体の強化にでも使えればなって思ってる」
「ほー、具体的には?」
「あぁ、まずはお前の機体のコア部分を全換装してソルジャーⅡ型にする」
「え? 俺?」
流石にその返しは想像していなかったのかマルメルが驚いたように固まる。
「うん。 このリプレイ見ても分かると思うけどこのチームで一番被弾率が高いのはお前だ。 一応、言っておくがお前が弱いとかそんな理由じゃないからな。 前線で敵の牽制や場合によっては囮までこなすんだ。 損耗が激しい上に一番しんどいポジションなんだから最初に強化するのは当たり前だろ?」
これは嘘偽りのない本音だった。
ヨシナリはスナイパーなので前に出ない。
ふわわは前衛だが、あの技量があればそうそう貰う事はない。 そうなると必然的にマルメルを真っ先に強化する事がチームの強化に繋がる。 彼の生存はチームが楽に戦う事には必須と言っていい。
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