上 下
36 / 386

第36話

しおりを挟む
 「そろそろ狙撃じゃ厳しい距離になってきたね」
 
 ふわわの言葉通り敵機がヨシナリを間合いに捉え、持っていた突撃銃で銃撃を始める。
 対するヨシナリは間合いに入られる直前に銃身の一部を排除。
 片膝を立てた体勢から機体を起こして応射。 
 
 「あれ? 狙撃銃じゃないの?」
 「多分、セミオート、フルオートに切り替えられる奴ですね。 ついでに銃身を外して振り回し易くしてます」
 
 両者は激しく動き回りながら一定の距離を保って撃ち合う。
 
 「やっぱり色々積んでるだけあってマルメル君より動きが重たいね」
 「元々、狙撃がメインでしたが、ランク戦に合わせて他にも対応できるようにしたみたいです」
 「そうなんだ?」 
 「中距離戦は俺と散々、練習しましたからね」
 「ウチとはやってないけど?」
 「そりゃふわわさんとやったら即座に細切れにされて練習にならないからでしょ」

 特にふわわは加減を知らないので不慣れな間合いでの練習相手としては不適切だった。 
 マルメル程ではないがヨシナリの立ち回りは充分に通用するもので、明らかに中距離戦を得意とする機体と対等以上に渡り合えている。

 「流石だね! 後は接近戦をこなせれば完璧じゃないかな?」
 「……そっすね」

 マルメルは内心でこの人は恐らく自分と同等クラスの近接能力を求めるんだろうなと少しだけ遠い目をした。 両機は激しい撃ち合いの後、ヨシナリの勝利という結果に終わる。
 それを見て二人は小さく首を捻った。

 「どう思います?」
 「うーん。 正直、微妙。 ヨシナリ君って狙撃は凄いけど、それ以外は微妙だね。 後、近接弱いし」
 「あんたに比べりゃ大抵の奴は近接雑魚ですよ。 さらっと毒吐くなぁ。 まぁ、ぶっちゃけできなくはないんでしょうが、突出している訳でもないんで遠距離以外の相手の得意レンジで戦り合うと脆さが出ますね」
 
 ふわわはこう言っているが、マルメルからすればヨシナリは全ての距離を平均的にこなせるオールラウンダーだと認識していた。 狙撃が凄いと言うのもこの三人で比較した上での評価だろう。
 突出したものがない代わりに隙なく、様々な武器を扱えるのは地味ではあるかもしれないが大きな強みと言える。 

 「俺達に合わせて戦い方を変えてくれてるみたいですし、突き抜けてはいないかもしれないですけど頼りにはなりますよ」
 「そこはウチもそう思うな!」
 
 その返しに思考と言動が直結しているのかとマルメルは隣にいる彼女の事を内心で「不思議ちゃん」とカテゴライズした。
 一段落してヨシナリが戻り、それぞれ戦い方に関しての話し合いを行い、そして入れ替わりでふわわ、マルメルの順で潜る。 それにより、欠点の洗い出しと改善できそうな所、後は伸ばすと良さそうな面などを分析していた。 

 もう少し気楽でもいいかもしれないとヨシナリは思ったが、マルメルもふわわも嫌がらずにしっかりと付き合ってくれるのでこれでいいと思って継続し、二巡する頃には三人ともGランクへと昇格。
 
 「やっぱり事前にしっかりと金を稼いだのがデカかったな」
 「はー、気が付いたらあっという間に昇格しちゃったねぇ」
 「取りあえず、Fぐらいまではこの調子で行けると思うけど、上に行けば行く程に支出が半端ないからGランク戦はまた稼いでからにしようと思う。 別に強制はしないから都合があったタイミングでまた周回する感じでどうかな?」

 ヨシナリはこの後、二人で周回できるミッションと三人で集会できるミッションを探すつもりだった。
 ランクが上がった事によって受注できるミッションの種類も増えたのでリサーチを行いつつ、自分とマルメル、自分とふわわ。 後は三人で比較的楽に周回できるものを探すつもりだった。

 難しいようだったら野良に混ぜて貰えばいい。 後は並行して今のランクで買える装備から良さそうな装備を見繕ってそれぞれの強化プランを練ろう。
 
 「取りあえず今日は解散して予定に関してはメールで調整していこう」
 「そうだな。 流石にちょっと疲れたから俺は寝るよ。 あ、ちなみに明日も空いてるからまた遊ぼうぜ!」
 「ウチは明日はやる事あるから夜にならないと無理かなぁ。 ヨシナリ君は?」
 「俺は基本、毎日入るつもりなんで都合の良い時に声をかけてください」
 「うん。 分かったー。 じゃあウチは落ちるねー。 おっつー!」

 ふわわのアバターは小さく手を振ってログアウトした。
 
 「よし、じゃあ俺もぼちぼち落ちるか。 このゲーム、面白いけど疲れるなぁ」
 「確かにランク戦とか結構消耗するよな」
 「脳ミソを休めてまた明日頑張ろうぜ!」
 
 そう言ってマルメルもログアウト。 ヨシナリもやる事はないなと確認しかけて――緊急ミッションが発注されている事に気が付いて慌てて受注した。
 貴重なPを手に入れられるチャンスだったので我ながらツイてるなと思いつつ参加。

 今回もよく分からない場所での荷物運びだ。 他にも数機の作業用の機体が精力的に働いている。
 前回と同じ、空にはユーピテルにそっくりな巨大惑星。 結構近いので二度目だが、凄い迫力だと思ってしまう。
 
 ヨシナリは視界の端に表示された指示に従って黙々と仕事をこなす。
 専ら荷物運びや時折、足元に居る作業員姿のアバターが頼みごとをしてくるので手を貸していく。

 働きながら周囲を見ると不思議なマップだった。
 機体が周囲の音を拾わない所為なのか、マップ的に大気のない惑星だからなのかとても静かだ。
 星の瞬きと遠くに見える巨大惑星は二度目にもかかわらず何度来てもいつまでも見ていられるような視線を吸い込むような魅力があった。 

 ここで空を眺めながら本でも読んだら落ち着いた時間を過ごせるだろう。
 やはり宇宙は良い。 この圧倒的なスケールを前にすればどんな悩みも些細な問題と思えてしまう。
 指示に従い、作業をこなしながら横目で美しい風景を眺める。

 そうこうしている内に作業は終わり、足元に居る作業員アバターがありがとうと言わんばかりに手を振っていたので、ヨシナリは小さく手を振り返してミッションは終了となった。
 報酬の受け取りを確認した後、ヨシナリはログアウトを行い、このゲームを後にした。

 
 ゲームから現実へと戻った嘉成はむくりと身を起こすともう遅い時間になっており、部屋から外に出ると入浴を済ませたらしい母親と出くわした。
 母親は呆れた口調でほどほどにしておきなさいよと言いながら食事は冷蔵庫にあるとだけ告げて寝室へと引っ込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

終末の運命に抗う者達

ブレイブ
SF
人類のほとんどは突然現れた地球外生命体アースによって、消滅し、地球の人口は数百人になってしまった、だが、希望はあり、地球外生命体に抗う為に、最終兵器。ドゥームズギアを扱う少年少女が居た

サクラ・アンダーソンの不思議な体験

廣瀬純一
SF
女性のサクラ・アンダーソンが男性のコウイチ・アンダーソンに変わるまでの不思議な話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派
SF
『科学の魔女は、空色の髪をなびかせて宙を舞う』 高校を卒業後、亡くなった両親の後を継いで工場長となったニ十歳の女性――空鳥 隼《そらとり じゅん》 彼女は両親との思い出が詰まった工場を守るため、単身で経営を続けてはいたものの、その運営状況は火の車。残された借金さえも返せない。 それでも持ち前の知識で独自の商品開発を進め、なんとかこの状況からの脱出を図っていた。 そんなある日、隼は自身の開発物の影響で、スーパーパワーに目覚めてしまう。 その力は、隼にさらなる可能性を見出させ、その運命さえも大きく変えていく。 持ち前の科学知識を応用することで、世に魔法を再現することをも可能とした力。 その力をもってして、隼は日々空を駆け巡り、世のため人のためのヒーロー活動を始めることにした。 そしていつしか、彼女はこう呼ばれるようになる。 魔法の杖に腰かけて、大空を鳥のように舞う【空色の魔女】と。 ※この作品の科学知識云々はフィクションです。参考にしないでください。 ※ノベルアッププラス様での連載分を後追いで公開いたします。 ※2022/10/25 完結まで投稿しました。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

処理中です...