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第33話
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ふわわの機体――ふわふわが、敵機を文字通りバラバラに解体する。
「うわ、相変わらずえっぐ。 あれってさぁ、やられると精神的なダメージも結構デカいんだよなぁ」
その姿を中空に浮かんだウインドウ越しに眺めてマルメルが呟いた。
隣のヨシナリもそうだなと同意する。
完膚なきまでに叩き潰された場合、次は勝つと奮起する者ばかりではない。
自分はこの程度だったのかと自信を砕かれてモチベーションを喪失する者も少なからず存在する。
当人は無自覚だろうが彼女の戦い方は見方を変えれば心を圧し折りに行っているようにも見えた。
二人が見ているのはふわわのランク戦だ。 ミッションの周回で資金もそれなりに溜まり、懐も潤ったので三人は装備や武器を新調してランク戦に臨んでいた。
Hランク戦でもふわわの実力は突出しており、それを見てあっさりやられた俺は決して弱くないんだと敗北のトラウマで僅かに軋みを上げるメンタルを慰める。
人間、下を見ると安心すると聞いた事があるなとヨシナリは思い出した。
自分より下が居る――この場合は自分よりもあっさりと倒される者になるが、それが居ると自分は劣っているが最も劣っている訳ではないのだと少しだけ救われた気持ちになるのだ。
――だからと言ってやられっぱなしで終わる程、ヨシナリは物分かりが良くなかった。
この悔しさは彼女に勝利する事によって救われるだろう。
その時を楽しみに待ちながらヨシナリはふわわの戦いを眺める。
彼女は機体の強化はあまり重視していなかったと言うよりは、どう強化していいのかが分からなかったので基本的には動きを速くする為に追加の推進装置を取り付けて機動力の強化と刃こぼれしにくい武器に金をかけていた。
それを知ったヨシナリは彼女へ何を買うべきなのかのアドバイスを行ったのだ。
飛び道具は論外なので武装は近接武器に絞るべきなのは彼女と同じ意見だった。
ふわわがメインで扱っているのは機体からのエネルギー供給を受けて刃が赤熱するダガーだ。
機体の強化をおざなりにして資金を集中しただけあって、同ランク帯ではまず使っている者の居ない高級武器だった。 実際、あの重装甲のエネミーに通用している点からもそれが分かる。 それが二本。
たったそれだけで彼女はここまで戦い抜いて来たのだから恐ろしいポテンシャルだ。
偏ってこそいるが、天才的な戦闘センスだった。 だが、裏を返せば戦い方が完成してしまっているので、これ以上の成長が難しいのではないかともヨシナリは考えている。
さて、武器は無理に買い替える必要はないので、手を入れるべきは機体そのものだ。
スラスターも付けられる物を適当に付けただけだったので、他のプレイヤーが発信している情報などを参考にバランスを整える。 安物を大量に取り付けた所で思うように推力も上がらず燃費も悪い。
そこそこの代物を要所に取り付けて重量を抑えつつ、燃費を良くする。
後はセンサー類の強化――彼女は恐ろしい事に攻撃の気配を察知して感覚で躱していたのだ。
何か来ると思ったとは本人談。
そんなあやふやな理由でヨシナリの狙撃を躱したのだから信じられない。
多少なりとも自信があっただけに初めて聞いた時はそれなりにショックを受けたが、今は持ち直している。 加えてマルメルとの模擬戦で見せた地形を利用する動き。
咄嗟の機転も利くが、行動を判断する為の情報は早めに入手しておくべきだと判断して高感度のセンサー類の導入を提案した。 遠くを見るよりは周囲の地形情報をいち早く手に入れる為の強化だ。
狙撃の類は上に行けば行く程、察知する事が難しくなる。 高級パーツの中にはセンサー類を欺瞞する機能を備えたものが多いので探したところで先んじて見つける事は難しい。
それなら割り切って今まで通り狙撃は感覚で躱させて、長所を活かせるビルドにするべきだ。
だからと言って何の対策もしないのはどうかと思ったので、機体表面にコーティングを施してレーダーに映り難くするように勧めた。 どちらにせよスラスターを噴かせばバレるので気休め程度の効果だが、やらないよりはマシだろう。 最後に緊急時の予備の武装を持たせて完了した。
ついでに色も変えた。 クリーム色から淡い水色へ。
当人曰くふわふわっぽい色でしょ?との事。 ヨシナリにはさっぱり理解できなかったが、本人が良いと言うのだから問題はないだろう。
こうしてふわわの機体は大幅なアップグレードを果たしたのだ。
それが齎した結果は目の前で繰り広げられる一方的な試合だった。
ランク戦を行っているのだが、もう彼女は五連勝中で現在六戦目が始まろうとしている。
敵機は背中に弾丸が満載されている巨大なタンクを背負い、両手で重そうにガトリング砲を構えていた。
「あ、ガトリング砲だ。 かっこいいなぁ」
「集団戦ならともかく個人戦では微妙だろあれ」
ばら撒ける弾数と連射速度は携行火器の中でもトップクラスだろう。
あの大きさを携行していると形容するのならばだが。
「でもさ、あれをぶっぱなしたら気持ちいぞ」
「それは分かる」
イベントでも使っている者が景気よく弾丸をばら撒いてエネミーを粉々にしていたので、傍から見ていて少し真似してみたくなる気持ちはヨシナリにもよく分かった。
ただ、あの武器は破壊力こそ優れているが欠点が多い。 第一に弾丸と併せて重量があり過ぎるので機動力が完全に殺されてしまう。 その為、射程で上回られると一方的に攻撃されて沈む。
ライフルを使っているヨシナリからすればガトリング砲を持っている敵と一対一になったらカモが来たとしか思わない。
逆に射程が近いマルメルからすれば少しやり難いと思ってしまうようだ。
それでも当たったら厄介程度の認識だった。 何故ならガトリング砲はその重量故に取り回しも悪く、二脚のソルジャータイプでは旋回性能は劣悪と言っていい。
どうしても扱いたいなら上半身が三百六十度回転するパンツァータイプでの運用が望ましい。
ふわわは近接特化なので相手からすれば一方的に負けないだけマシな相手なのだろうが、もう始まる前から結果が見えていた。 ふわわの機体は鋭角的な機動で敵機に肉薄。
迎え討とうとガトリング砲が派手に火を噴くが振り回せないので射線が限定され、彼女の動きを捉えきれない。
「まぁ、見えてた結果だなぁ」
「そうだな」
ふわわの機体はあっさりと攻撃を掻い潜り、ガトリング砲の長い銃身を切断して使い物にならないようにした後、逃げられない敵機をバラバラに解体して試合は終了となった。
「うわ、相変わらずえっぐ。 あれってさぁ、やられると精神的なダメージも結構デカいんだよなぁ」
その姿を中空に浮かんだウインドウ越しに眺めてマルメルが呟いた。
隣のヨシナリもそうだなと同意する。
完膚なきまでに叩き潰された場合、次は勝つと奮起する者ばかりではない。
自分はこの程度だったのかと自信を砕かれてモチベーションを喪失する者も少なからず存在する。
当人は無自覚だろうが彼女の戦い方は見方を変えれば心を圧し折りに行っているようにも見えた。
二人が見ているのはふわわのランク戦だ。 ミッションの周回で資金もそれなりに溜まり、懐も潤ったので三人は装備や武器を新調してランク戦に臨んでいた。
Hランク戦でもふわわの実力は突出しており、それを見てあっさりやられた俺は決して弱くないんだと敗北のトラウマで僅かに軋みを上げるメンタルを慰める。
人間、下を見ると安心すると聞いた事があるなとヨシナリは思い出した。
自分より下が居る――この場合は自分よりもあっさりと倒される者になるが、それが居ると自分は劣っているが最も劣っている訳ではないのだと少しだけ救われた気持ちになるのだ。
――だからと言ってやられっぱなしで終わる程、ヨシナリは物分かりが良くなかった。
この悔しさは彼女に勝利する事によって救われるだろう。
その時を楽しみに待ちながらヨシナリはふわわの戦いを眺める。
彼女は機体の強化はあまり重視していなかったと言うよりは、どう強化していいのかが分からなかったので基本的には動きを速くする為に追加の推進装置を取り付けて機動力の強化と刃こぼれしにくい武器に金をかけていた。
それを知ったヨシナリは彼女へ何を買うべきなのかのアドバイスを行ったのだ。
飛び道具は論外なので武装は近接武器に絞るべきなのは彼女と同じ意見だった。
ふわわがメインで扱っているのは機体からのエネルギー供給を受けて刃が赤熱するダガーだ。
機体の強化をおざなりにして資金を集中しただけあって、同ランク帯ではまず使っている者の居ない高級武器だった。 実際、あの重装甲のエネミーに通用している点からもそれが分かる。 それが二本。
たったそれだけで彼女はここまで戦い抜いて来たのだから恐ろしいポテンシャルだ。
偏ってこそいるが、天才的な戦闘センスだった。 だが、裏を返せば戦い方が完成してしまっているので、これ以上の成長が難しいのではないかともヨシナリは考えている。
さて、武器は無理に買い替える必要はないので、手を入れるべきは機体そのものだ。
スラスターも付けられる物を適当に付けただけだったので、他のプレイヤーが発信している情報などを参考にバランスを整える。 安物を大量に取り付けた所で思うように推力も上がらず燃費も悪い。
そこそこの代物を要所に取り付けて重量を抑えつつ、燃費を良くする。
後はセンサー類の強化――彼女は恐ろしい事に攻撃の気配を察知して感覚で躱していたのだ。
何か来ると思ったとは本人談。
そんなあやふやな理由でヨシナリの狙撃を躱したのだから信じられない。
多少なりとも自信があっただけに初めて聞いた時はそれなりにショックを受けたが、今は持ち直している。 加えてマルメルとの模擬戦で見せた地形を利用する動き。
咄嗟の機転も利くが、行動を判断する為の情報は早めに入手しておくべきだと判断して高感度のセンサー類の導入を提案した。 遠くを見るよりは周囲の地形情報をいち早く手に入れる為の強化だ。
狙撃の類は上に行けば行く程、察知する事が難しくなる。 高級パーツの中にはセンサー類を欺瞞する機能を備えたものが多いので探したところで先んじて見つける事は難しい。
それなら割り切って今まで通り狙撃は感覚で躱させて、長所を活かせるビルドにするべきだ。
だからと言って何の対策もしないのはどうかと思ったので、機体表面にコーティングを施してレーダーに映り難くするように勧めた。 どちらにせよスラスターを噴かせばバレるので気休め程度の効果だが、やらないよりはマシだろう。 最後に緊急時の予備の武装を持たせて完了した。
ついでに色も変えた。 クリーム色から淡い水色へ。
当人曰くふわふわっぽい色でしょ?との事。 ヨシナリにはさっぱり理解できなかったが、本人が良いと言うのだから問題はないだろう。
こうしてふわわの機体は大幅なアップグレードを果たしたのだ。
それが齎した結果は目の前で繰り広げられる一方的な試合だった。
ランク戦を行っているのだが、もう彼女は五連勝中で現在六戦目が始まろうとしている。
敵機は背中に弾丸が満載されている巨大なタンクを背負い、両手で重そうにガトリング砲を構えていた。
「あ、ガトリング砲だ。 かっこいいなぁ」
「集団戦ならともかく個人戦では微妙だろあれ」
ばら撒ける弾数と連射速度は携行火器の中でもトップクラスだろう。
あの大きさを携行していると形容するのならばだが。
「でもさ、あれをぶっぱなしたら気持ちいぞ」
「それは分かる」
イベントでも使っている者が景気よく弾丸をばら撒いてエネミーを粉々にしていたので、傍から見ていて少し真似してみたくなる気持ちはヨシナリにもよく分かった。
ただ、あの武器は破壊力こそ優れているが欠点が多い。 第一に弾丸と併せて重量があり過ぎるので機動力が完全に殺されてしまう。 その為、射程で上回られると一方的に攻撃されて沈む。
ライフルを使っているヨシナリからすればガトリング砲を持っている敵と一対一になったらカモが来たとしか思わない。
逆に射程が近いマルメルからすれば少しやり難いと思ってしまうようだ。
それでも当たったら厄介程度の認識だった。 何故ならガトリング砲はその重量故に取り回しも悪く、二脚のソルジャータイプでは旋回性能は劣悪と言っていい。
どうしても扱いたいなら上半身が三百六十度回転するパンツァータイプでの運用が望ましい。
ふわわは近接特化なので相手からすれば一方的に負けないだけマシな相手なのだろうが、もう始まる前から結果が見えていた。 ふわわの機体は鋭角的な機動で敵機に肉薄。
迎え討とうとガトリング砲が派手に火を噴くが振り回せないので射線が限定され、彼女の動きを捉えきれない。
「まぁ、見えてた結果だなぁ」
「そうだな」
ふわわの機体はあっさりと攻撃を掻い潜り、ガトリング砲の長い銃身を切断して使い物にならないようにした後、逃げられない敵機をバラバラに解体して試合は終了となった。
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