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第22話

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 それは光だった。 
 今までに使用された光学兵器も凄まじい威力を誇っていたが、今回は毛色が違う。
 無数の細い光が戦場の空をさっと薙ぐように振るわれ――空中に居り、基地から一定の距離内に存在した全てのエネミーが細切れになって爆散した。

 現れたのはBランクプレイヤー。 上から三番目に高いランクの者達だ。
 Cランクの一つ上だと侮る者は彼等の前に立つ事すら許されない。
 現れたのは人型の機体。 シルエットだけなら既存のトルーパーと大きな差異は認められない。
 
 だが、決定的に違う点が一つあった。 背中に生えている光の羽だ。
 彼等が使用しているのは特殊フレームでしか使用する事ができない装備で、名称は『エンジェル』。
 この世界で神に近づき、外敵を滅ぼす為に生み出された力だ。

 設定上では謎のオーバーテクノロジーで生み出された超小型ジェネレーターとコンデンサーで、ソルジャータイプとそう変わらない見た目をしているにもかかわらず使用している武器の出力はパンツァータイプを遥かに超える。 特殊な技術を用いている機体だけあって運用には特殊フレームを用いなければならない。

 Bランクプレイヤーの大半はこの機体を使用している。
 高額ではあるがCランクプレイヤーでも購入できなくはない装備なのだが、エンジェルタイプに限っては購入にランク制限がかかっておりB以上でなければ手に入れる事ができないのだ。

 加えて使用制限までかかるので、ランクが落ちれば使えなくなる。
 そんな厳しすぎる条件を強いて来るだけあってエンジェルタイプの性能は群を抜いていた。
 背の羽から無数の細い光線が放たれ、ロックした敵を細切れにする。 加えて敵味方を識別する機能が付いているので友軍は避けて通る。 スラスターなどは排除されており、推力と飛行は背の羽で行う。

 機能の大半を背の羽に頼る形にはなっているが、それだけの価値がある機体だ。
 エンジェルタイプは重力を完全に無視しているとしか思えない挙動で、前線へと向かい背の羽から無数の光線を放ってエネミーの数を凄まじい勢いで削って行く。

 それを見たCランク以下のプレイヤー達は小さくひゅうと口笛を吹く。

 「さっすがはエンジェルタイプ。 洒落にならねえ強さだなぁ」
 「いいよなぁ……。 俺もあれ使って無双してぇよ」
 「俺、BからCランクに落ちた口だけどスペックが段違いなんだよなぁ。 あぁ、ランク戦頑張ってまた使えるようになりてぇぜ!」
 「やっぱり結構違うのか?」
 「違う違う。 エンジェルタイプに比べたらソルジャーは亀か何かと思えるほどの遅さだし、キマイラでもかなり物足りなく感じちまう」
 「……ってか『エンジェル』であれだろ? その上はどんなんだよ……」
 「ランク戦で当たった事あるけどマジでヤバい。 ほれ、見てみろ」

 指差した先ではエンジェルタイプではあるが少し違う機体が凄まじい戦果を上げている。
 基本的なデザインは『エンジェル』と共通だが、一点違う所があった。
 それは頭の上に浮かんでいる光の輪だ。 『エンジェル』の上位機種である『アークエンジェル』だ。

 見た目は輪っかが付いているだけと思うかもしれないが、あの輪は周囲の大気や塵を分解してエネルギーに変換する装置なので『エンジェル』に比べるとエネルギーの効率が段違いとなる。
 ただでさえ強い、エンジェルタイプの上位機種は敵を文字通り蹂躙していく。

 『エンジェル』『アークエンジェル』この二種類だけでも充分な強さを誇るが、Bランクで購入できるエンジェルタイプはもう一段階上が存在する。
 それは――

 小さく何かが風を切る音が響く。 それは知っていなければ聞き取れない程に小さなものだった。
 音の発生源は小さな光の球で、敵の只中へと飛んで行く。 ほんの小さな光の球は大地を埋め尽くさんばかりのエネミーの群れに消え――同時に巨大なドーム状の爆発へと変わった。

 敵陣に文字通りの穴が開く。 その破壊を行ったのはエンジェルタイプの中でも形状が違う機体だった。 光の羽に光輪が存在するが、違いは両肩に大型のランチャーを搭載しており背にも光輪が存在する事だ。 エンジェルタイプの更に上位機種『プリンシパリティ』。

 Bランクで購入できるエンジェルタイプでは最高位の機体となる。
 『エンジェル』『アークエンジェル』との違いは固定武装を搭載できる事だ。
 たった今、敵陣に穴を開けたエネルギーランチャーだけでなく、無線、有線誘導式の多目的ランチャーや近接用の大型ブレード等を搭載できる。 どれも強力な兵器であるが、燃費の問題で下位の機体では搭載できない難物だ。

 戦場に現れた天使達はこれまで待たされた鬱憤と前回の敗北で味わった屈辱を吐き出すかのように無慈悲かつ徹底的に敵を消し去り始める。
 
 「はは、すっげぇ! すっげぇ!」

 圧倒的な力に下位のプレイヤー達は手を叩いて笑う者、呆然と見つめる者、高性能な装備に羨望と嫉妬の視線を送る者と様々だったが、この戦場では立ち止まる事は許されない。
 ある程度の敵の掃討を済ませたタイミングでそれは起こった。

 地面が小刻みに揺れ、遠くから低く大きな音が響く。 
 それは巨大な何かが移動する事によって発生する音だ。 
 
 「は、やっと出やがったな」
 「待ってたぜクソが、テメエを粉々にするために今まで生き残ってきたぜ!」
 「殺す。 ぶっ殺す」

 全てのプレイヤー達は何が来たのかを正確に理解し、その到来を形はどうあれ歓迎していた。
 前回のイベントで基地を壊滅に追いやり、プレイヤー達を絶望のどん底に叩き落し、運営にクソゲーと文句を言わせた悪魔のエネミーだ。 形状はカタツムリに似ており、渦巻き状のパターンが刻まれた外殻は見間違えようがない。 ただ、正面からは巨大な砲が突き出ている点に目を瞑ればだが。

 移動には無限軌道を利用しており、機敏ではないが高い走破性を有している。
 そして最大の特徴はその巨大さだろう。 全長は五百メートルに届くのだ。
 視界に入れば嫌でも目に入るその威容が合計で八体。 基地を取り囲むように現れた。

 「絶対に撃たせるな! 発射前に撃破しろ!」
 「テメエ、この野郎同じ手が通用すると思うなよ!?」
 「瞬殺だ。 瞬殺してやる」
 「この手でぶち殺せる日を二か月待ったぜ!」
 「カタツムリ君じゃないか! 久しぶり! 会いたかったよ! 俺にぶち殺されるために来てくれたんだね!」
  
 プレイヤー達は巨大エネミーの出現と同時に目の色を変えて突撃していった。
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