上 下
18 / 386

第18話

しおりを挟む
 強い。 参戦したDランクプレイヤーの力を見てヨシナリは素直にそう思った。
 Eの時点でかなり違うと思ったが、Dはランクを維持する為にプレイヤースキルも求められるので自然と全体的な質が上がるのは理解していたがこれ程とは。

 「うは、すっげぇ。 あれ見ろよ、躱しながらカウンターを喰らわせてるぞ」

 隣のマルメルも少し興奮気味にそう叫ぶ。
 彼の視線の先では慣れた挙動で敵の狙撃を躱しながら逆に狙撃者を攻撃する機体の姿があった。
 機体性能もそうだが、挙動が明らかに今までのプレイヤーとはまるで違う。

 そして何より戦い方に余裕があった。 彼等の参戦により、絶望的かと思われた戦況を巻き返せている。
 これは全体の士気にも良い影響を与え、諦めかけていたプレイヤー達の気持ちが蘇ったのだ。
 レーダーを確認すると防壁に纏わりついていた敵の数も随分と減っている。

 ――凄まじいな。

 高出力のエネルギー砲。 かなりの高額装備だが、Dランクともなると当然のように持っているようだ。
 威力、射程と全ての武器の中でも最高峰だが、発射後の冷却とりチャージ時間という欠点があるので、個人戦ではあまり使いどころがない武装でもある。

 そんな武装をわざわざ用意していると言う事は今回のイベントに備えて買って来たのだろう。
 嬉々として敵機を屠るプレイヤー達の会話には歓喜と憎悪がミックスされており、攻撃には欠片の躊躇がない。 漏れ聞こえる会話から前回のイベント参加者で随分と酷い目に遭ったようだ。

 上位のプレイヤーの戦意が高い事は歓迎するべき事ではあるが、同時に気になるワードも散見された。
 『蟻』と『カタツムリ』だ。 明らかに彼等はそれらを警戒しており、同時に叩き潰したくて仕方がない様子だった。 察するにこれから現れる新しい敵の事だろう。

 このクラスのプレイヤーですら警戒するエネミーがどれほどのものなのか。
 今の段階では想像しかできないが、脅威度が非常に高い事は分かる。
 空を見上げると無数の光が戦場を薙ぎ払い、無数の蛾や蜂を叩き落す。

 視線を下げればパンツァータイプが両腕のガトリング砲で銃弾を景気よくばら撒いており、自分で撃つより弾を配った方が貢献できると判断した低ランクプレイヤーの生き残りが弾薬庫から大量の弾薬を抱えて給弾作業を行っていた。 ヨシナリを含めた全てのプレイヤーは統制の取れていない寄せ集めの集団で、烏合の衆と言える。 

 彼等は一人一人が自らの目的の為に戦う。 
 単純に僅かでも多くの撃破報酬を稼ごうと効果の薄い低ランクの武装で頑張る者。
 全体の勝利に貢献しようと積極的にサポートに回る者。 前回の雪辱を果たす為にイベントのクリアを目指す者。 様々だが、そんな微妙にではあるが方向性の違う目的達が、自然と団結し、強大な敵を打ち払う。 

 中々に混沌としているが、物語であるなら中々に胸の熱くなる展開だ。
 
 ――このまま勝てればの話だが。

 「しゃぁ! 防壁にへばりついてる連中はほぼ片付いたな! このまま押し返す――」
 
 威勢よく叫んでいた機体が空中で爆散する。
 同時にレーザーに新しい反応。 精度の低いヨシナリのレーダーでは赤い点が増えたので新手としか認識できないが、明らかに他と動きが違うので新しいタイプのエネミーだと察しは付いた。

 本当にこのゲームをデザインした運営は意地が悪いとヨシナリは心底からそう思う。
 絶望的な状況で上位のプレイヤーが参戦し、それを押し返す。 
 戦場にはこのまま行けるのではないのだろうか? そんな希望が浮かんだと同時に新しい絶望を叩きつけて来るのだ。 これを意地が悪いと言わずになんというのだろうか?
 
 「あぁ、クソが。 こんなに早かったっけか?」
 「んな事はどうでもいい。 待ってたぜ、二か月ぶりだなクソ共が! あの時の借りを返してやるからなぁ!」
 「あの連中を粉々にするために今日まで引退せずに頑張ってきました」
 「前と同じだと思うなよ!」

 それが現れた瞬間、真っ先に反応したのはDランクプレイヤー達だ。
 彼等は嬉々として新たに出現したエネミーへと向かっていく。 ヨシナリはライフルについているスコープを最大望遠にして敵の姿を確認。 そこに居たのはトルーパーと同じぐらいのサイズの羽の生えた蟻だ。

 彼等は随分と敵視しているようだが、その理由は何となくだが分かった。
 蟻は全てが武装しており、エネルギーを用いた光の刃を出現させる剣や散弾銃や突撃銃などで武装している。 明らかにトルーパーと同等の働きができる機種だ。
 
 蟻の群れがDランクプレイヤー達と空中で交錯し、交戦が開始された。


 「お前等の弱点は前にしっかりと見たからなぁ!」
 「機動力の代わりに装甲が貧弱なんだろこのクソ共がよぉ!」

 蟻は高機動用にカスタムされた機体を上回る機動性と旋回性能を誇り、手に持った武器で攻撃を仕掛けるが、ここまで生き残ってきたプレイヤー達はそう簡単に落とされはしない。
 蟻は機動力と旋回性能に物を言わせ、ターゲットの背後を取ると一撃。 飛行に用いる大型のブースターを破壊されてしまえばトルーパーはそのまま落下して大破する。 その為、彼等にとっての弱点と言える。 

 だが、それは蟻も同様でトルーパー以上の機動性能を誇っている代償に装甲が非常に薄く、当てさえすれば撃墜は容易だ。 その為、撃破自体は当たりさえすれば容易ではある。
 この蟻型エネミーが蛇蝎の如く嫌われているのは、前回のイベントで碌に飛べる機体が少ない状況でぶんぶんと飛び回り上空から一方的に攻撃を仕掛けるといった戦法を執った事にある。

 まともに反撃できず多くのプレイヤー達は一方的かつ理不尽に蹂躙され、その時に刻まれた敗北の屈辱は彼等の中に深く刻まれていた。 引退した者も多かったが、残った者達は報酬以前に同じ土俵でボコボコにしてやろう。 そんな気持ちでこの日の為に準備して来た者達は歓喜と共に敵を迎える。

 蟻の斬撃を急降下で躱し、振り向き際にハンドガンで銃撃。
 とにかく間合いを詰めて来る個体が多い上、対弾性能は低いので火力の高い武装よりは取り回しの利く武器の方が有効だった。 特に蟻を殺す為だけに参加した者達は突撃銃を投げ捨てている者すらいる。

 「おらぁ! おいおい、空から一方的に攻撃してイキる事しかできねぇのかこの雑魚がよぉ!」

 そう叫んだのは武器を捨てて蟻を殴り倒している機体を操っているプレイヤーだ。
 撃ち殺すだけでは気持ちが収まらないのか殴り倒している者も多い。
 戦場は更に混迷を深めていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

終末の運命に抗う者達

ブレイブ
SF
人類のほとんどは突然現れた地球外生命体アースによって、消滅し、地球の人口は数百人になってしまった、だが、希望はあり、地球外生命体に抗う為に、最終兵器。ドゥームズギアを扱う少年少女が居た

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派
SF
『科学の魔女は、空色の髪をなびかせて宙を舞う』 高校を卒業後、亡くなった両親の後を継いで工場長となったニ十歳の女性――空鳥 隼《そらとり じゅん》 彼女は両親との思い出が詰まった工場を守るため、単身で経営を続けてはいたものの、その運営状況は火の車。残された借金さえも返せない。 それでも持ち前の知識で独自の商品開発を進め、なんとかこの状況からの脱出を図っていた。 そんなある日、隼は自身の開発物の影響で、スーパーパワーに目覚めてしまう。 その力は、隼にさらなる可能性を見出させ、その運命さえも大きく変えていく。 持ち前の科学知識を応用することで、世に魔法を再現することをも可能とした力。 その力をもってして、隼は日々空を駆け巡り、世のため人のためのヒーロー活動を始めることにした。 そしていつしか、彼女はこう呼ばれるようになる。 魔法の杖に腰かけて、大空を鳥のように舞う【空色の魔女】と。 ※この作品の科学知識云々はフィクションです。参考にしないでください。 ※ノベルアッププラス様での連載分を後追いで公開いたします。 ※2022/10/25 完結まで投稿しました。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】

一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。 しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。 ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。 以前投稿した短編 【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて の連載版です。 連載するにあたり、短編は削除しました。

処理中です...