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第18話

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 強い。 参戦したDランクプレイヤーの力を見てヨシナリは素直にそう思った。
 Eの時点でかなり違うと思ったが、Dはランクを維持する為にプレイヤースキルも求められるので自然と全体的な質が上がるのは理解していたがこれ程とは。

 「うは、すっげぇ。 あれ見ろよ、躱しながらカウンターを喰らわせてるぞ」

 隣のマルメルも少し興奮気味にそう叫ぶ。
 彼の視線の先では慣れた挙動で敵の狙撃を躱しながら逆に狙撃者を攻撃する機体の姿があった。
 機体性能もそうだが、挙動が明らかに今までのプレイヤーとはまるで違う。

 そして何より戦い方に余裕があった。 彼等の参戦により、絶望的かと思われた戦況を巻き返せている。
 これは全体の士気にも良い影響を与え、諦めかけていたプレイヤー達の気持ちが蘇ったのだ。
 レーダーを確認すると防壁に纏わりついていた敵の数も随分と減っている。

 ――凄まじいな。

 高出力のエネルギー砲。 かなりの高額装備だが、Dランクともなると当然のように持っているようだ。
 威力、射程と全ての武器の中でも最高峰だが、発射後の冷却とりチャージ時間という欠点があるので、個人戦ではあまり使いどころがない武装でもある。

 そんな武装をわざわざ用意していると言う事は今回のイベントに備えて買って来たのだろう。
 嬉々として敵機を屠るプレイヤー達の会話には歓喜と憎悪がミックスされており、攻撃には欠片の躊躇がない。 漏れ聞こえる会話から前回のイベント参加者で随分と酷い目に遭ったようだ。

 上位のプレイヤーの戦意が高い事は歓迎するべき事ではあるが、同時に気になるワードも散見された。
 『蟻』と『カタツムリ』だ。 明らかに彼等はそれらを警戒しており、同時に叩き潰したくて仕方がない様子だった。 察するにこれから現れる新しい敵の事だろう。

 このクラスのプレイヤーですら警戒するエネミーがどれほどのものなのか。
 今の段階では想像しかできないが、脅威度が非常に高い事は分かる。
 空を見上げると無数の光が戦場を薙ぎ払い、無数の蛾や蜂を叩き落す。

 視線を下げればパンツァータイプが両腕のガトリング砲で銃弾を景気よくばら撒いており、自分で撃つより弾を配った方が貢献できると判断した低ランクプレイヤーの生き残りが弾薬庫から大量の弾薬を抱えて給弾作業を行っていた。 ヨシナリを含めた全てのプレイヤーは統制の取れていない寄せ集めの集団で、烏合の衆と言える。 

 彼等は一人一人が自らの目的の為に戦う。 
 単純に僅かでも多くの撃破報酬を稼ごうと効果の薄い低ランクの武装で頑張る者。
 全体の勝利に貢献しようと積極的にサポートに回る者。 前回の雪辱を果たす為にイベントのクリアを目指す者。 様々だが、そんな微妙にではあるが方向性の違う目的達が、自然と団結し、強大な敵を打ち払う。 

 中々に混沌としているが、物語であるなら中々に胸の熱くなる展開だ。
 
 ――このまま勝てればの話だが。

 「しゃぁ! 防壁にへばりついてる連中はほぼ片付いたな! このまま押し返す――」
 
 威勢よく叫んでいた機体が空中で爆散する。
 同時にレーザーに新しい反応。 精度の低いヨシナリのレーダーでは赤い点が増えたので新手としか認識できないが、明らかに他と動きが違うので新しいタイプのエネミーだと察しは付いた。

 本当にこのゲームをデザインした運営は意地が悪いとヨシナリは心底からそう思う。
 絶望的な状況で上位のプレイヤーが参戦し、それを押し返す。 
 戦場にはこのまま行けるのではないのだろうか? そんな希望が浮かんだと同時に新しい絶望を叩きつけて来るのだ。 これを意地が悪いと言わずになんというのだろうか?
 
 「あぁ、クソが。 こんなに早かったっけか?」
 「んな事はどうでもいい。 待ってたぜ、二か月ぶりだなクソ共が! あの時の借りを返してやるからなぁ!」
 「あの連中を粉々にするために今日まで引退せずに頑張ってきました」
 「前と同じだと思うなよ!」

 それが現れた瞬間、真っ先に反応したのはDランクプレイヤー達だ。
 彼等は嬉々として新たに出現したエネミーへと向かっていく。 ヨシナリはライフルについているスコープを最大望遠にして敵の姿を確認。 そこに居たのはトルーパーと同じぐらいのサイズの羽の生えた蟻だ。

 彼等は随分と敵視しているようだが、その理由は何となくだが分かった。
 蟻は全てが武装しており、エネルギーを用いた光の刃を出現させる剣や散弾銃や突撃銃などで武装している。 明らかにトルーパーと同等の働きができる機種だ。
 
 蟻の群れがDランクプレイヤー達と空中で交錯し、交戦が開始された。


 「お前等の弱点は前にしっかりと見たからなぁ!」
 「機動力の代わりに装甲が貧弱なんだろこのクソ共がよぉ!」

 蟻は高機動用にカスタムされた機体を上回る機動性と旋回性能を誇り、手に持った武器で攻撃を仕掛けるが、ここまで生き残ってきたプレイヤー達はそう簡単に落とされはしない。
 蟻は機動力と旋回性能に物を言わせ、ターゲットの背後を取ると一撃。 飛行に用いる大型のブースターを破壊されてしまえばトルーパーはそのまま落下して大破する。 その為、彼等にとっての弱点と言える。 

 だが、それは蟻も同様でトルーパー以上の機動性能を誇っている代償に装甲が非常に薄く、当てさえすれば撃墜は容易だ。 その為、撃破自体は当たりさえすれば容易ではある。
 この蟻型エネミーが蛇蝎の如く嫌われているのは、前回のイベントで碌に飛べる機体が少ない状況でぶんぶんと飛び回り上空から一方的に攻撃を仕掛けるといった戦法を執った事にある。

 まともに反撃できず多くのプレイヤー達は一方的かつ理不尽に蹂躙され、その時に刻まれた敗北の屈辱は彼等の中に深く刻まれていた。 引退した者も多かったが、残った者達は報酬以前に同じ土俵でボコボコにしてやろう。 そんな気持ちでこの日の為に準備して来た者達は歓喜と共に敵を迎える。

 蟻の斬撃を急降下で躱し、振り向き際にハンドガンで銃撃。
 とにかく間合いを詰めて来る個体が多い上、対弾性能は低いので火力の高い武装よりは取り回しの利く武器の方が有効だった。 特に蟻を殺す為だけに参加した者達は突撃銃を投げ捨てている者すらいる。

 「おらぁ! おいおい、空から一方的に攻撃してイキる事しかできねぇのかこの雑魚がよぉ!」

 そう叫んだのは武器を捨てて蟻を殴り倒している機体を操っているプレイヤーだ。
 撃ち殺すだけでは気持ちが収まらないのか殴り倒している者も多い。
 戦場は更に混迷を深めていく。
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