Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第16話

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 今となっては大半が脱落したI、Hランクのプレイヤー達だが、生き残っているのは狙撃やミサイルポッドによる長距離兵装を備えた者達ばかりで徐々に強化されている敵に対して効果のある攻撃を行えていないが、それでも彼等なりにできる事を精一杯行っている。

 無数のミサイルが途切れずに飛び続け、敵を削り続けていた。
 現状でまともに空中戦ができるソルジャーⅡ型を駆るプレイヤー達は腕に自信がない者は基地の上空で防衛に当たり、自信がある者は基地の外で敵の接近を阻んでいる。

 ソルジャーⅠ型を使用している低ランクプレイヤーは前線で戦っていた者は全滅。
 防壁の上で戦闘を行っていた者達も随分と数を減らしており、生き残っている者はパンツァータイプの後ろで火力支援を行うか、ヨシナリのようにライフル片手に敵へと攻撃を続けている。

 Eランクは上から六番目のランクで総合的には中の下のプレイヤーとなるが、ここまで戦ってきた彼等の実力は本物でその戦闘能力は決して低くない。
 パンツァータイプがばら撒く弾丸の雨は敵を容易く粉砕し、ソルジャーⅡ型は敵の狙撃を掻い潜って輸送機や爆撃機の接近を阻む。 奮迅とも言えるその戦い振りは正しく、戦場の救世主と言える。

 だが、敵の増加スピードは彼等の撃破スピードを上回っており、狙撃を行っているヤドカリを減らす事が困難なので時間経過で狙撃手の数がどんどん増えていく。
 増える狙撃を躱しきれずに一機、また一機とその数を減らしていく友軍機。

 増援が来た事による巻き返しは増していく敵の勢いを前に容易く押し込まれる。
 
 「こんなの無理ゲーだろうが! やってられるかよ!」

 そう叫んで戦線を離脱しようとし、戦列から外れた機体が瞬く間に撃破される。
 どんな機体でも一機一機が貴重な戦力だ。 失う事は大きな損失と考えて味方がやられる度に状況が悪くなったと多くの者が表情を歪める。

 数十万単位のプレイヤーが参戦しているにもかかわらず、時間経過で数が減って行く。
 実際、もうI、H、Gランクのプレイヤーはほぼ全滅しており、Fも半数以上が脱落、Eもそろそろ半分を切ろうとしていた。 基地を取り囲む敵を示す反応は減るどころか増え続け、プレイヤーを絶望のどん底に叩き落す。

 完全に勝機が存在しないのであれば勝負を投げるという選択肢もあったのだろうが、このゲームをデザインした運営は悪魔のような手腕でプレイヤー達に蜘蛛の糸を垂らすのだ。
 ほぼほぼ闇に塗り潰されたこの戦いに一筋の希望が差し込む。 タイマーのカウントがゼロになった。

 ――瞬間、空を埋め尽くさんばかりの敵の軍勢が無数の光に切り裂かれた。

 それを成したのは高層ビルの頂上に現れた増援達だ。
 ソルジャーⅡ型、パンツァーⅠ型の二種だが、武装がこれまでの機体と全く違う。
 両者とも巨大なタンクを背負っており、それぞれ長大な砲を構えていた。

 高出力エネルギーランチャー。 
 威力、射程の両面で非常に優れており、当たりさえすれば大抵の相手は蒸発させる威力を誇る。
 代償として背に巨大なコンデンサーを背負わなければならず、重量のお陰で移動にも大きな制限がかかる代物だ。 それだけの制限がかかる武装だけあって攻撃を喰らった敵の爆撃機や重装甲を誇る輸送機まで数秒保たずに溶解して爆散する。

 光が戦場の空を薙ぎ払い千、万単位の敵が瞬く間に消えていく。
 防壁で戦っていた者達はその光を呆然と眺め、歓声を上げる。 まさしく希望の光だったからだ。
 Dランクプレイヤー。 敗北は降格を意味する完全な実力者しかそのランクを冠する事を許されない修羅の巷。 その入り口で戦っている者達だ。

 当然ながら砲兵ばかりではなく高機動戦闘を得意とする者達もおり、彼等の操る機体はこれまで現れた機体の比ではない速度で戦場を駆け抜ける。
 機種はソルジャーⅡ型だが、拡張パーツによって機動性、旋回性能が大幅に向上しており、もはや別の機体としか言えない程の隔たりが存在した。

 「ようやく出番かよ。 三時間も待たせるのは勘弁してほしいぜ」
 「おいおい、俺らが出たら楽勝過ぎてゲームにならねぇからだろ?」
 「基地の被害もデカい。 取りあえず、後ろでチクチク鬱陶しく撃ち込んでくるヤドカリ野郎どもを端から狩るぞ」
 「okだ。 付き合うぜ」

 Dランクプレイヤー達は軽口を叩き合いながらそれぞれの獲物へ向けて飛翔する。
 瞬く間に戦場を飛び越え敵の只中へ飛び込んだ彼等は狙撃を続けるヤドカリの直上へと向かい、銃弾の雨を降らせて片端から撃破。 それにより、一方的に攻撃されるだけだった防壁の負担が大きく軽減された。 
 
 「Cランクの連中が来るまで時間はたっぷりあるんだ。 稼げるときに稼いでおこうぜ」
 「まったくだ。 俺、今回のイベントの為に新しい追加ブースターを買ったんだ。 そいつをペイできるまで稼ぐつもりだからな」
 「ここまではほとんど前回と変わらねぇな。 前の時は俺はこいつに狙撃されて一撃死だ。 このクソ共が、お陰で俺は碌に稼げなかったんだ。 礼はたっぷりしてやるからな」 
 「私怨で草生える」
 「つーか、Dランク以上のプレイヤーでこいつらに恨みねぇ奴とか居ないだろ」
 「それな。 前回は装備も揃ってなかったからマジで地獄だった」 

 サービス開始から二か月足らずで開催された前回の防衛イベント。
 装備も揃っていない状態で難易度はほぼ据え置きという運営の狂気を感じる催しは、初のイベントだと期待に胸を躍らせた全てのプレイヤーを絶望の淵へと叩き込んだ。

 それでも十時間近く保たせた結果を考えれば善戦したと言えるだろう。
 徹底的に蹂躙され、敗北を屈辱と共に刻まれたプレイヤー達は装備を揃え、機体を強化し、牙を研ぎながらこのイベントの復刻を待ち続けていた。 次は俺達がお前等を蹂躙してやると。

 そして勝てないと思っているであろう運営の鼻を明かしてやる。
 前回参加しており、積極的なプレイヤー全ての共通認識だった。
 満を持しての参戦。 入れるようになった同時に飛び込んだ彼等はノータイムで行動を開始したのだ。

 「つーかあのクソったれな蟻やカタツムリはまだ来てないのか」
 「まだみたいだな。 前回はどれぐらいで来たっけか? あいつ等にやられた身としてはダース単位でぶっ殺して気持ちよくなりたいんだが?」

 この状況にもかかわらず、彼等は会話しながら戦闘を行う余裕すらあった。
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