15 / 472
第15話
しおりを挟む
なるほど。 ここからが本番と言う訳だ。
防壁から逃げ出している者達を見てヨシナリはそう思った。
聞こえて来る会話から新種が湧いて出て来たのだろう。 そしてそれにより、防壁の上に陣取る事が難しくなったようだ。 お陰で前線が突破され、現在敵は防壁に取り付いて破壊せんと攻撃を開始。
このまま行けば入られるまで秒読みだろうが、増援として現れたEランクプレイヤーがどうにか支える。
Eともなれば中堅に位置する。 それだけあって現れた戦力は非常に強力だ。
戦車タイプの防衛力は敵の狙撃を防ぎ、それを盾にするように逃げ出した者達が戻って攻撃を再開した。
それでもレーダーには防壁に張り付いている敵の反応はしっかりと残っているので、このままだと突破は時間の問題だろう。 ここは更に上のランカー――Dランク以上のプレイヤーに期待したいが、これから増援までの間隔が一時間になる。 防壁から降りて前線を築く事を試みているようだが、やるにしても押し返す必要があるので現状は上手く行っていない。 加えて防壁から地上戦力を追い払わなければならないので、空中への対処がどうしても難しくなるのだ。 その結果、基地の上空は敵だらけになった。
「はっはっは、ヤッベ、これマジでヤッベーな!」
マルメルは笑いながら突撃銃を乱射して近づく敵を追い払う。
同じIランクなのでそこまでの期待はしていなかったが、彼の動きは同ランク帯のプレイヤーの中でもトップクラスに良かった。 適当に撃ちまくっているように見えるが、こちらに狙いを付けている相手だけに絞り、残弾もしっかりと把握しているようでマガジン交換も非常に滑らかだ。
それに護衛と言う役割をしっかりと念頭に置いているのか、持っている盾でヨシナリを守ってくれる。
ありがたいと思いながらヨシナリは次々と敵機を撃墜する。 主に狙うのは基地の外から近づいて来る爆撃機と輸送機だ。 両者とも基地に入れてしまうと施設の損害が爆発的に上昇する。
一機でも基地内に入れると一気に敗北に近づく事になるだろう。
せめてSランクが来るまでは粘りたい所ではある。 空を見上げると無数の火線が飛び交い、あちこちで建物が破壊される。 言い換えればまだ火線が飛び交っているだけとも言えるだろう。
爆弾を抱えた蛾の侵入を許せばあちこちで爆発が起こるだろう。
それにしても随分と手厳しいイベントだ。 こちらはまだ始めたばかりの初心者だと言うのにもう少し手心を加えてくれてもいいのではないか? この進行具合を見れば欠片の容赦もない事が分かる。
低ランクからの参戦に上位ランカーは一定時間の経過まで参戦不可。
上位のランカーの力がこの戦況を打開できる程のものなのかは不明だが、少なくとも全てのプレイヤーが持てる力を振り絞らなければクリアは非常に難しい。 参加報酬はあまり多くないので大半のプレイヤーは最も美味しい防衛報酬を求めており、手に入れる為に協力し、一丸となって戦う。
こういった他のゲームであったなら確実に足を引っ張ったり愉快犯的な行動を取って基地を破壊する者が一定数現れるだろうが、今の所は一切現れていない。
厳しすぎる利用規約と処分がそれを現実にしているのだろうが、これだけのプレイヤー数にその厳しさを呑み込ませるこのゲームのクオリティは本当に素晴らしいとヨシナリは感じていた。
素晴らしい。 本当に素晴らしいクオリティのゲームだ。
この飛び交う砲火に破壊される基地、ひりひりするような緊張感。
そしてプレイヤーの事を考慮しないイベント。 明らかに簡単に勝たせる気がないのは分かり切っているので、全てのプレイヤーが手に入るか怪しい不確かな勝利を確実なものにする為に本気で戦っている。
所詮はゲームと笑う者もいるだろう。 しかし、遊びであるからこそ本気になる意味がある。
隣で笑いながら突撃銃を乱射しているマルメルもそうだ。 本気で楽しんでいる。
ヨシナリも口にこそ出さないが、無機質なアバターの中にいる嘉成もこの楽しすぎる緊張感に笑顔が止まらない。 楽しい、楽しすぎる。 最高にいい気分だ。
どこかのタイミングで休憩を挟むつもりではあったが、こんなに楽しいのに止めるなんてできる訳がない。 続行に決まっている。
タイマーを見るともう三十分が経過していた。 時間が経つのが驚くほどに早い。
このイベントが始まってもう三時間半も経過しているなんて信じられなかった。
これだけ戦ってもまだ四分の一。 イベントはまだ半分以上残っているのだ。
――絶対に最後まで楽しんでやる。
こんなに楽しい催しで仲間外れにされるなんて生殺しに等しい。
コンティニューができない以上、撃墜されれば終わりで後は傍観する事しかできないのだ。
意地でも生き残って、どうなるのかを見届ける。 ヨシナリにとって楽しむ事が最も大きな目的なので、今の段階でそれは果たされていると言っていい。
それでも彼は貪欲に更なる楽しみを求める。
もっともっとと彼はこのイベントが長く続くようにライフルで狙撃を続けた。
戦況は推移する。 悪い方向へと。
防壁は度重なる攻撃でダメージが重なり、制空権は参戦したEランクプレイヤーの精鋭が取り戻そうと足掻いているが押し留める事しかできていない。
ヤドカリの狙撃で防壁の上で弾幕を張る機体は数を減らす。
パンツァータイプのエネルギーフィールドは確かに遠距離から放たれる砲弾を防いではいる。
だが、強力ではあっても無敵ではないその盾は連続して攻撃を受ければ威力を殺しきれずに貫通された後に撃破されてしまう。
それでも彼等は必死に敵を食い止める。 パンツァータイプは制圧射撃は得意でも精密射撃は難しいのでここでしか活躍できないのだ。 彼等は自身の能力を最大限に活かせるこの場所で踏み止まるしか貢献できる選択肢はない。 特に津波のように押し寄せて来る芋虫は彼等の武装でないと止める事が困難だ。
時折、基地からミサイルによる支援が飛ぶが、焼け石に水でしかない。
特に低ランク帯が使うミサイルポッドは対トルーパー用なので、エネミーに対しては効果はあまり期待できないのだ。 特に重装甲の芋虫相手にはそれが顕著で直撃しても即死せず、外殻を剥がすだけで中身までダメージが通らない。 それでも耐久力を奪うと言う点では無駄ではないが、効果が薄い事も事実だった。
防壁から逃げ出している者達を見てヨシナリはそう思った。
聞こえて来る会話から新種が湧いて出て来たのだろう。 そしてそれにより、防壁の上に陣取る事が難しくなったようだ。 お陰で前線が突破され、現在敵は防壁に取り付いて破壊せんと攻撃を開始。
このまま行けば入られるまで秒読みだろうが、増援として現れたEランクプレイヤーがどうにか支える。
Eともなれば中堅に位置する。 それだけあって現れた戦力は非常に強力だ。
戦車タイプの防衛力は敵の狙撃を防ぎ、それを盾にするように逃げ出した者達が戻って攻撃を再開した。
それでもレーダーには防壁に張り付いている敵の反応はしっかりと残っているので、このままだと突破は時間の問題だろう。 ここは更に上のランカー――Dランク以上のプレイヤーに期待したいが、これから増援までの間隔が一時間になる。 防壁から降りて前線を築く事を試みているようだが、やるにしても押し返す必要があるので現状は上手く行っていない。 加えて防壁から地上戦力を追い払わなければならないので、空中への対処がどうしても難しくなるのだ。 その結果、基地の上空は敵だらけになった。
「はっはっは、ヤッベ、これマジでヤッベーな!」
マルメルは笑いながら突撃銃を乱射して近づく敵を追い払う。
同じIランクなのでそこまでの期待はしていなかったが、彼の動きは同ランク帯のプレイヤーの中でもトップクラスに良かった。 適当に撃ちまくっているように見えるが、こちらに狙いを付けている相手だけに絞り、残弾もしっかりと把握しているようでマガジン交換も非常に滑らかだ。
それに護衛と言う役割をしっかりと念頭に置いているのか、持っている盾でヨシナリを守ってくれる。
ありがたいと思いながらヨシナリは次々と敵機を撃墜する。 主に狙うのは基地の外から近づいて来る爆撃機と輸送機だ。 両者とも基地に入れてしまうと施設の損害が爆発的に上昇する。
一機でも基地内に入れると一気に敗北に近づく事になるだろう。
せめてSランクが来るまでは粘りたい所ではある。 空を見上げると無数の火線が飛び交い、あちこちで建物が破壊される。 言い換えればまだ火線が飛び交っているだけとも言えるだろう。
爆弾を抱えた蛾の侵入を許せばあちこちで爆発が起こるだろう。
それにしても随分と手厳しいイベントだ。 こちらはまだ始めたばかりの初心者だと言うのにもう少し手心を加えてくれてもいいのではないか? この進行具合を見れば欠片の容赦もない事が分かる。
低ランクからの参戦に上位ランカーは一定時間の経過まで参戦不可。
上位のランカーの力がこの戦況を打開できる程のものなのかは不明だが、少なくとも全てのプレイヤーが持てる力を振り絞らなければクリアは非常に難しい。 参加報酬はあまり多くないので大半のプレイヤーは最も美味しい防衛報酬を求めており、手に入れる為に協力し、一丸となって戦う。
こういった他のゲームであったなら確実に足を引っ張ったり愉快犯的な行動を取って基地を破壊する者が一定数現れるだろうが、今の所は一切現れていない。
厳しすぎる利用規約と処分がそれを現実にしているのだろうが、これだけのプレイヤー数にその厳しさを呑み込ませるこのゲームのクオリティは本当に素晴らしいとヨシナリは感じていた。
素晴らしい。 本当に素晴らしいクオリティのゲームだ。
この飛び交う砲火に破壊される基地、ひりひりするような緊張感。
そしてプレイヤーの事を考慮しないイベント。 明らかに簡単に勝たせる気がないのは分かり切っているので、全てのプレイヤーが手に入るか怪しい不確かな勝利を確実なものにする為に本気で戦っている。
所詮はゲームと笑う者もいるだろう。 しかし、遊びであるからこそ本気になる意味がある。
隣で笑いながら突撃銃を乱射しているマルメルもそうだ。 本気で楽しんでいる。
ヨシナリも口にこそ出さないが、無機質なアバターの中にいる嘉成もこの楽しすぎる緊張感に笑顔が止まらない。 楽しい、楽しすぎる。 最高にいい気分だ。
どこかのタイミングで休憩を挟むつもりではあったが、こんなに楽しいのに止めるなんてできる訳がない。 続行に決まっている。
タイマーを見るともう三十分が経過していた。 時間が経つのが驚くほどに早い。
このイベントが始まってもう三時間半も経過しているなんて信じられなかった。
これだけ戦ってもまだ四分の一。 イベントはまだ半分以上残っているのだ。
――絶対に最後まで楽しんでやる。
こんなに楽しい催しで仲間外れにされるなんて生殺しに等しい。
コンティニューができない以上、撃墜されれば終わりで後は傍観する事しかできないのだ。
意地でも生き残って、どうなるのかを見届ける。 ヨシナリにとって楽しむ事が最も大きな目的なので、今の段階でそれは果たされていると言っていい。
それでも彼は貪欲に更なる楽しみを求める。
もっともっとと彼はこのイベントが長く続くようにライフルで狙撃を続けた。
戦況は推移する。 悪い方向へと。
防壁は度重なる攻撃でダメージが重なり、制空権は参戦したEランクプレイヤーの精鋭が取り戻そうと足掻いているが押し留める事しかできていない。
ヤドカリの狙撃で防壁の上で弾幕を張る機体は数を減らす。
パンツァータイプのエネルギーフィールドは確かに遠距離から放たれる砲弾を防いではいる。
だが、強力ではあっても無敵ではないその盾は連続して攻撃を受ければ威力を殺しきれずに貫通された後に撃破されてしまう。
それでも彼等は必死に敵を食い止める。 パンツァータイプは制圧射撃は得意でも精密射撃は難しいのでここでしか活躍できないのだ。 彼等は自身の能力を最大限に活かせるこの場所で踏み止まるしか貢献できる選択肢はない。 特に津波のように押し寄せて来る芋虫は彼等の武装でないと止める事が困難だ。
時折、基地からミサイルによる支援が飛ぶが、焼け石に水でしかない。
特に低ランク帯が使うミサイルポッドは対トルーパー用なので、エネミーに対しては効果はあまり期待できないのだ。 特に重装甲の芋虫相手にはそれが顕著で直撃しても即死せず、外殻を剥がすだけで中身までダメージが通らない。 それでも耐久力を奪うと言う点では無駄ではないが、効果が薄い事も事実だった。
10
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
タイムワープ艦隊2024
山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。
この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~
アンジェロ岩井
SF
「えっ、クビですか?」
中企業アナハイニム社の事務課に勤める大津修也(おおつしゅうや)は会社の都合によってクビを切られてしまう。
ろくなスキルも身に付けていない修也にとって再転職は絶望的だと思われたが、大企業『メトロポリス』からの使者が現れた。
『メトロポリス』からの使者によれば自身の商品を宇宙の植民星に運ぶ際に宇宙生物に襲われるという事態が幾度も発生しており、そのための護衛役として会社の顧問役である人工頭脳『マリア』が護衛役を務める適任者として選び出したのだという。
宇宙生物との戦いに用いるロトワングというパワードスーツには適性があり、その適性が見出されたのが大津修也だ。
大津にとっては他に就職の選択肢がなかったので『メトロポリス』からの選択肢を受けざるを得なかった。
『メトロポリス』の宇宙船に乗り込み、宇宙生物との戦いに明け暮れる中で、彼は護衛アンドロイドであるシュウジとサヤカと共に過ごし、絆を育んでいくうちに地球上にてアンドロイドが使用人としての扱いしか受けていないことを思い出す。
修也は戦いの中でアンドロイドと人間が対等な関係を築き、共存を行うことができればいいと考えたが、『メトロポリス』では修也とは対照的に人類との共存ではなく支配という名目で動き出そうとしていた。




ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる