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第13話

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 「取りあえず、俺の機体は見ての通り突撃銃装備の中~近距離使仕様だから、防壁の上か前線じゃないとあんまり仕事はできない感じだな」
 「こっちは武器だけ一通り揃えてるから何処でもいけなくはないけど、装甲面での強化は一切してないからまともに攻撃を貰ったらあっさり沈むからライフルでチクチク削ってた」

 マルメルがホロスコープの脇に置かれたライフルを一瞥。

 「へぇ、ライフルいい奴なんじゃないか?」
 「あぁ、それは拾い物。 大破した機体の装備も使えるから借りてる」
 「マジで!? だったら俺もいい武器落ちてたら拾おう」
 「それがいい。 狙撃に自信は?」
 「……あー、ちょっと難しいかも」

 もしも自信があるならその辺でライフルを拾って仲良く狙撃を行おうと思ったが、装備からあまり自信がない事は察していたので特に何とも思わない。
 ただ、狙撃ができないならあまり手を組むメリットが――いや、こうすればいいか。

 「だったら俺の護衛を頼みたい。 当然、その分活躍の機会が減るから俺の報酬からGを少し分けるよ」

 貰えるかは不明だが、流石にPはやれないので約束はできない。
 
 「マジで! やるやる! いや、正直、前線行って生き残れる自信ないから後方でヨシナリさんの護衛やって小遣い貰った方が全然楽そうだわ。 俺としては基地の防衛報酬が出るなら何でもいいから、それでいこう。 後で揉めるの嫌だから先に額だけ決めとこうぜ!」
 「俺の撃破報酬の二割でどうだ? これはマルメルがすぐに脱落しても支払う」
 「いいね。 だったらヨシナリさんが稼げば稼ぐほどに俺の小遣いも増えるって訳だ」
 「やる気出るだろ?」

 どちらにせよ後半になれば前線も何もなくなる展開になる事は読めているのでそれを込みでの二割と言う数字だった。 マルメルは表情のないアバターなので何を考えているか読み取れないが、声の調子から不満の類はなさそうだ。

 「出る出る。 よし、こっちの修理は終わったからいつでも出られるぜ」
 「こっちもそろそろ――終わったみたいだな。 では、よろしく頼む」

 仲間を得たヨシナリは再出撃。 戦場へと身を投じる事となった。
 
 
 タイマーを見ると開始から一時間三十分後が経過し、Fランクの参戦が始まっていた。
 入って来る機体を観察するとIランクである自分達とそこまでの差があるようには見えない。
 いや、差は確かにあるが機体の造形がほぼ変わっていないので、ソルジャータイプの外装を追加パーツで補強している機体が大半だった。 ただ、一部に明らかに形状が違う機体が混ざっている。

 似てはいるがゴーグルのような特徴的な頭部に両肩に巨大なブースター。
 ソルジャーⅡ型。 初期に配布されるⅠ型の発展型だ。
 フレームはそのままノーマルタイプを使用しているので大きな差はないが、頭部についている巨大なゴーグルは高感度のセンサーを内蔵しており、Ⅰ型よりも広く深く戦場を見る事が可能だ。

 この外装は完全に上位互換だが、欠点も存在する。
 それはⅠ型の追加パーツとの互換性がないので、併用ができないのだ。
 実際、GランクまでのプレイヤーはⅠ型を強化する事によって戦い抜いて来た。
 
 追加の装甲で守りを固め、スラスターで足を速くする。
 Ⅱ型へと乗り換える事はその全てを捨てる事と同義だ。 モザイクのように要所で組み合わせればいいのではないかと思うがそれはできない。 強化センサーとブースターを搭載する関係で一式丸ごと換えないと目玉であるその二つが機能しないのだ。 

 最初にそれを知った時にふざけるなと思ったが、文句を言っても仕方がないので我慢するしかない。
 Ⅱ型のパーツ一式揃えるのは結構な金額を要求されるので、買い換えたプレイヤーに対しては思い切ったなと言った感想が浮かぶ。

 「あ、Ⅱ型だ。 いいなー」

 マルメルのポツリと呟く声を聞きながら適当な場所へと陣取ってライフルで狙撃を始め、護衛役の相棒はその脇に付く。 どれぐらい頑張って仕事をしてくれるのかのお手並み拝見と思いながら作業に戻る。
 
 「あ、また当たった。 ってか全弾当たってるな。 すげぇ」
 「ライフルの性能もあるけど、地道に練習した結果だよ」
 「練習?」

 喋りながらでも集中はできているので周囲を警戒しているマルメルと会話しても問題はない。

 「チュートリアルで的当てだ」
 「あぁ、あれいちいち狙うの面倒臭くなって突っ込んで乱射したわ」
 「それやると評価低くなるんじゃないか?」
 「分かる? 命中率二割だって、俺どんだけクソエイムかましてんだよって感じ」

 マルメルは渇いた笑い声をあげる。
 別に笑うような話ではなかった。 実際、このゲームの的当ては非常に難易度が高いので、自由自在に当てられる者は非常に少ない。 だからマルメルが特別無能だとは思えなかったし、恥ずかしい事でもなかった。 

 ――ヨシナリはただ単にできないままでいる事が我慢できなかったので、できるようになるまで練習を重ねただけだ。

 これはただそれだけのシンプルな違いでしかなかった。

 「このゲームは的当てじゃないんだから得意な事で勝負すればいいと思うけど?」
 「はは、そう言ってくれるとありがたいね」
 
 Fランクの参戦で戦線はかなり押し上げられている。
 その為、街に入って来る敵も激減した。 今は獲物を取り合う余裕すらあるぐらいだ。
 ただ、このゲームがそんな手ぬるい状況をいつまでも許容するとも思えなかったので、そろそろ何かしらの変化があるだろうと思っていた。

 それに気が付いた者は皮肉にも最初の犠牲者だ。 プレイヤーネーム『ギチャッド』
 Fランクでも上位のプレイヤーである彼はⅡ型が飛行可能な事を活かし輸送機に直接取り付いて撃破するといった手段を取っていた。 今は戦況も優勢なので何かあれば援護も期待できる事もその行動を後押ししている。 撃破報酬は数だけでなく、質も含まれるので輸送機や爆撃機は彼にとって美味しい獲物だ。

 Ⅱ型に乗り換えた者の大半は高額な購入費用を支払って金欠なので、ここで可能な限り稼いでおきたい。 そんな気持ちでこのような無茶とも取れる戦い方を実行させていた。
 似たような事を考えているのは彼だけではなく、Ⅱ型を持っている者は次々と大型の敵を仕留めるべく我先にと獲物に群がる。

 「へ、こいつも頂き――」

 巨大蛾の頭部に至近距離から短機関銃の弾丸を叩き込み、次の獲物を物色しようとした彼の機体は音もなく飛来した何かに貫かれ、胴体に巨大な風穴が開いた。 
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