Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

文字の大きさ
上 下
11 / 476

第11話

しおりを挟む
 レーダーを確認すると白兵戦を挑んだプレイヤー達が敵の群れを押し留めているが、徐々に喰われ始めていた。 プレイヤーを示す青い層はエネミーの赤い波涛に呑まれつつある。
 結構な数が突っ込んだはずだが、戦い慣れていない事もあってかヨシナリの想像以上に脆かった。

 減って行く味方の表示に少し不味いなとは思ったが、そこまでの問題はない。
 何故ならそろそろ三十分が経過するからだ。 夢中で蛾を撃ち落とし続けていたらあっという間だった。
 タイマーがゼロになり――基地のあちこちにHランクのプレイヤー達が次々と現れる。

 「しゃぁ! 行くぞオラぁ!」
 「ぶっ殺す! ぶっ殺す!」
 
 口々に物騒なセリフを叫びながら血の気の多い連中がスラスターを全開にして防壁を飛び越え、敵へと突っ込んでいく。 流石に一つランクが上だけあって、機体の装備もIランクよりも充実している。
 取りあえずは戦力的に一息つけそうかとヨシナリは陣取っていたビルから降りた。

 理由は弾薬の補充だ。 抱える程の弾薬を持ち込んだのだが、三十分も撃ち続けたのでいい加減に弾切れだった。 それに何度も使った所為か、照準がブレて狙った場所に飛ばなくなってきていた事もある。
 ライフルを一瞥。 やはり安物は駄目か。

 これが終わったら新しいのを買おう。 そんな事を考えていると破壊されたトルーパーの残骸が目に入った。 機銃にやられたのか胴体から頭部にかけて無数の穴が開いている。
 ここまでで結構な数がやられているので残骸ぐらいは転がっていても不思議ではない。

 気になるのはそれではなく、残骸が握りしめている武器だ。
 マガジンを挿入して使うタイプのライフル。 今のヨシナリの経済状況ではちょっと手が出ない値段の高級品だ。 試しに拾って構えると、ライフルのステータスが表示される。

 ――使えるのか。

 これは良い事を知った。 
 所有権を奪う事は無理だろうが、このイベント中に使えるだけでもありがたい。 
 ヨシナリは傷んだ自らのライフルを捨てて、拾ったライフルを持って弾薬庫へ向かう。

 弾薬庫は内部にあるホログラムに触れて弾丸を指定すると勝手に現れる。
 武器の劣化などはリアルなのにこういう所だけはゲーム臭いなと思いながらライフルの弾を持てるだけ取り寄せた。 補給を済ませたヨシナリが元の場所に戻ると別の機体がライフルを構えて陣取っている。

 流石にどけとは言えなかったので他の機体の少ない場所へと移動する。
 背の高い建物は射線が通るので陣取っていたかったが、そろそろ潮時かとも思っていたのでそこまでの未練はない。 何故ならもう基地内に蜂が入り込んで機銃であちこちに銃弾の雨を降らせているからだ。

 背の高い建物は目を引くので狙われやすい。 スナイパーは身動きが取れないので狙われ難い位置に移動する事は賢い選択だからだ。 ヨシナリは基地の中心に近く、尚且つ他の機体の少ない背の低い建物の屋上を新しい狙撃位置として陣取る。

 ライフルを構えて発砲。 さっきまで使っていた安物と違って反動も小さく、何より狙った場所へ飛ぶのがいい。 そして連射ができる。
 
 「いいなこれ」

 思わずそう呟いて次々と敵機を撃ち落とす。 背の低い建物に移ったので基地の外を狙うのはもう無理なので的を蜂へと変更する。 蜂は動きが早く小回りも利くが、動きそのものは単調なので慣れれば当てるのはそこまで難しくない。 前のライフルだといちいち、排莢を行わなければならなかったので、相性はかなり悪かったが、今のライフルなら何の問題もない。

 報酬の額次第で購入を検討しようと真剣に考えながら次々と蜂を撃墜する。
 拾ったライフルの性能は素晴らしく、今まで使っていた武器の不自由さを意識するとちょっとした開放感すらあった。 あまりにも気分が良かったので夢中で撃ち続け、気が付けば更に三十分が経過。

 Gランクのプレイヤーが参戦する時間だ。 次々と新しい機体が基地のあちこちに出現する。
 流石大人気ゲーム。 プレイヤーの数が圧倒的だ。
 いくら夏休み期間で学生が入りやすい時期とはいえ、万単位のプレイヤーが続々と参戦する光景は凄まじい。 無数の火線が上空にいる敵の悉くを叩き落す。

 ――一先ずは基地の防衛は問題なさそうか?

 レーダーを確認すると前線もかなりの人数が突っ込んでいるので完全に押し留めていた。
 流石に押し返すまではいかないが、この戦いは制限時間まで基地を守る事が目的なので時間を稼げる状況は何かと都合が良いのだ。 ただ、前回の戦いでは基地が壊滅まで追い込まれた事を考えると楽観するのはまだ早い。 空が開いたのでヨシナリは機体のスラスターを全開にして大きくジャンプして基地の上空まで上がる。 

 「まぁ、そうなるよな」

 機体のカメラを最大望遠にして前線を確認すると陸上戦力はカブトムシやクワガタムシのような個体で、防衛線を敷いている者達と派手に殴り合っている。
 そしてその向こうから厄介そうな新顔が現れていた。 形状は爆撃機の役割を担っていた蛾と同じ。

 違いはサイズだ。 明らかに十倍近く大きい。
 何だあれは? 今度は核弾頭でも詰んでいるのか?
 用途を考えたが答え合わせはすぐだった。 前線の上空に来た所で巨大蛾が腹に抱えたコンテナが開き、中から巨大なカマキリののような個体が大量に現れたからだ。

 爆撃機ではなく輸送機か。
 結果、前線は大きく混乱する事となった。 真上から敵の増援が現れたのだ。
 正面に集中していた者達からすればたまったものではないだろう。

 次々とトルーパーが撃破されて行く。 
 カマキリの鎌は凄まじい切れ味で一撃で機体が両断されている。 

 「輸送機かよふざけやがって!」
 「皆殺しだクソが!」

 狙撃や遠距離武器持ちが輸送機に集中砲火を浴びせるが、対弾性能も大きさに見合った物らしく損傷は負うが中々、撃墜まで行かない。
 ヨシナリは落下しながら巨大な蛾を凝視していたが、途中に違和感を感じて思わず更に目を凝らす。

 ――あれ? おかしくないか?

 同じ疑問を抱いた者が居たようで思わずと言った様子で口にする。

 「なぁ、あのコンテナ。 どれだけ入ってるんだ?」

 カマキリのサイズとコンテナのサイズを考えればどう見てもいい所、十体前後が限界だろう。
 だが、空中の巨大蛾は十では利かない数のカマキリを透過し続けている。

 「残しておくと無限に吐き出すのかよ!」
 
 結論に達した誰かの悲鳴が響き渡った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「日本人」最後の花嫁 少女と富豪の二十二世紀

さんかく ひかる
SF
22世紀後半。人類は太陽系に散らばり、人口は90億人を超えた。 畜産は制限され、人々はもっぱら大豆ミートや昆虫からたんぱく質を摂取していた。 日本は前世紀からの課題だった少子化を克服し、人口1億3千万人を維持していた。 しかし日本語を話せる人間、つまり昔ながらの「日本人」は鈴木夫妻と娘のひみこ3人だけ。 鈴木一家以外の日本国民は外国からの移民。公用語は「国際共通語」。政府高官すら日本の文字は読めない。日本語が絶滅するのは時間の問題だった。 温暖化のため首都となった札幌へ、大富豪の息子アレックス・ダヤルが来日した。 彼の母は、この世界を造ったとされる天才技術者であり実業家、ラニカ・ダヤル。 一方、最後の「日本人」鈴木ひみこは、両親に捨てられてしまう。 アレックスは、捨てられた少女の保護者となった。二人は、温暖化のため首都となった札幌のホテルで暮らしはじめる。 ひみこは、自分を捨てた親を見返そうと決意した。 やがて彼女は、アレックスのサポートで国民のアイドルになっていく……。 両親はなぜ、娘を捨てたのか? 富豪と少女の関係は? これは、最後の「日本人」少女が、天才技術者の息子と過ごした五年間の物語。 完結しています。エブリスタ・小説家になろうにも掲載してます。

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~

海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。 再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた― これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。 史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。 不定期更新です。 SFとなっていますが、歴史物です。 小説家になろうでも掲載しています。

第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門
ファンタジー
宇宙の崩壊と共に、別宇宙の神々によって魂の選別(ドラフト)が行われた。 野球ゲームの育成モードで遊ぶことしか趣味がなかった底辺労働者の男は、野球によって世界の覇権が決定される宇宙へと記憶を保ったまま転生させられる。 その宇宙の神は、自分の趣味を優先して伝説的大リーガーの魂をかき集めた後で、国家間のバランスが完全崩壊する未来しかないことに気づいて焦っていた。野球狂いのその神は、世界の均衡を保つため、ステータスのマニュアル操作などの特典を主人公に与えて送り出したのだが……。 果たして運動不足の野球ゲーマーは、マニュアル育成の力で世界最強のベースボールチームに打ち勝つことができるのか!? ※小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様、ノベルバ様にも掲載しております。

メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井
SF
「えっ、クビですか?」 中企業アナハイニム社の事務課に勤める大津修也(おおつしゅうや)は会社の都合によってクビを切られてしまう。 ろくなスキルも身に付けていない修也にとって再転職は絶望的だと思われたが、大企業『メトロポリス』からの使者が現れた。 『メトロポリス』からの使者によれば自身の商品を宇宙の植民星に運ぶ際に宇宙生物に襲われるという事態が幾度も発生しており、そのための護衛役として会社の顧問役である人工頭脳『マリア』が護衛役を務める適任者として選び出したのだという。 宇宙生物との戦いに用いるロトワングというパワードスーツには適性があり、その適性が見出されたのが大津修也だ。 大津にとっては他に就職の選択肢がなかったので『メトロポリス』からの選択肢を受けざるを得なかった。 『メトロポリス』の宇宙船に乗り込み、宇宙生物との戦いに明け暮れる中で、彼は護衛アンドロイドであるシュウジとサヤカと共に過ごし、絆を育んでいくうちに地球上にてアンドロイドが使用人としての扱いしか受けていないことを思い出す。 修也は戦いの中でアンドロイドと人間が対等な関係を築き、共存を行うことができればいいと考えたが、『メトロポリス』では修也とは対照的に人類との共存ではなく支配という名目で動き出そうとしていた。

「メジャー・インフラトン」序章2/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節FIRE!FIRE!FIRE! No1. ) 

あおっち
SF
 敵の帝国、AXISがいよいよ日本へ攻めて来たのだ。その島嶼攻撃、すなわち敵の第1次目標は対馬だった。  この序章2/7は主人公、椎葉きよしの少年時代の物語です。女子高校の修学旅行中にAXIS兵士に襲われる女子高生達。かろうじて逃げ出した少女が1人。そこで出会った少年、椎葉きよしと布村愛子、そして少女達との出会い。  パンダ隊長と少女達に名付けられたきよしの活躍はいかに!少女達の運命は!  ジャンプ血清保持者(ゼロ・スターター)椎葉きよしを助ける人々。そして、初めての恋人ジェシカ。札幌、定山渓温泉に集まった対馬島嶼防衛戦で関係を持った家族との絆のストーリー。  彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。是非、ご覧あれ。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

底辺エンジニア、転生したら敵国側だった上に隠しボスのご令嬢にロックオンされる。~モブ×悪女のドール戦記~

阿澄飛鳥
SF
俺ことグレン・ハワードは転生者だ。 転生した先は俺がやっていたゲームの世界。 前世では機械エンジニアをやっていたので、こっちでも祝福の【情報解析】を駆使してゴーレムの技師をやっているモブである。 だがある日、工房に忍び込んできた女――セレスティアを問い詰めたところ、そいつはなんとゲームの隠しボスだった……! そんなとき、街が魔獣に襲撃される。 迫りくる魔獣、吹き飛ばされるゴーレム、絶体絶命のとき、俺は何とかセレスティアを助けようとする。 だが、俺はセレスティアに誘われ、少女の形をした魔導兵器、ドール【ペルラネラ】に乗ってしまった。 平民で魔法の才能がない俺が乗ったところでドールは動くはずがない。 だが、予想に反して【ペルラネラ】は起動する。 隠しボスとモブ――縁のないはずの男女二人は精神を一つにして【ペルラネラ】での戦いに挑む。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

処理中です...