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第22話 「決裂」
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感情が荒れ狂うが免罪武装によって喰いつくされるので、ジェットコースターのようにテンションが乱高下を繰り返して気分が悪くなる。
津軽は槍を向け、巌本は背に差している長柄のハンマーに手を伸ばしかけたが思い留まり俺を制止するように手を突き出す。
「待て、誤解があるかもしれない。 我々は人族の王に依頼され侵略を行っている魔族から国を救ってほしいと言われたんだ!」
「その後は?」
「その後というのは?」
は? 何を言ってるんだこのおっさんは。これは現実であって絵本の中の物語じゃねぇんだよ。
邪悪な魔物を殺してめでたしめでたしで終わるのは人族だけで、生きている俺達の人生は死ぬまで続くんだぞ。 人族の王とか言う奴に生活の保証でもされたのか?
そう口にしかけたけどぐっと呑み込んで言葉を選ぶ。
「魔族を滅ぼしました。 勇者の仕事が終わったあんたらはどうするんだ? 今度は人族の犯罪者でも言われるがまま殺して回るんですか?」
自制しているつもりだったけどどうしても嫌な言い方になってしまう。
巌本は俺の言葉に少し動揺を見せたが、首を振って見せる。
「違う。 我々は魔族を討伐する為に呼び出された勇者だ。 終われば報酬として死んだ事をなかった事にして日本に戻される」
「は、日本に戻される? マジで言ってるんですか?」
反射的に鼻で笑ってしまった。
こいつらも精霊に会っているはずなのに帰る方法について尋ねなかったのか?
精霊、魔王。 この両者に帰る方法を尋ねたが、この世界から出るところまでだ。
日本に戻れる所までは保証できないと言っていた。
人族の王の言っている事だけが違う以上、胡散臭いのは誰か言うまでもない。
「舐めてんのか! 何が言いてぇんだよ!」
俺の態度が気に障ったのか津軽が吼える。
「馬鹿かお前等はって言ってるんだよ! あんたらもこっちに飛ばされる前に精霊とやらに会ったんじゃないのか? そいつから話を聞かなかったのか?」
「精霊? あの奇妙な光る球の事か?」
俺が頷いて見せるが巌本は首を振る。
「いや、詳しい事は召喚先で聞けと言われて特に会話はしていない」
「……人族の王が言っている帰す方法ってあんたらを召喚した魔法陣でいいんですよね?」
「そうだが……」
あぁ、駄目だと俺は内心でこいつ等の馬鹿さ加減を笑う。
なんておめでたい頭をしているんだろうと。 もう取り繕うのも面倒になっていたので侮蔑を隠しもせずに鼻で笑う。
「どうせ呼べたから送り返せるとでも言われたんだろ? 勘違いしているみたいだから言っておくが、あれはあくまでも条件に合致した奴を呼び出す物であって狙った場所と場所を繋ぐものじゃないんだよ」
「どういう事だ? 王は我々を騙しているというのか?」
「そうだよ。 召喚陣で保障されるのはこの世界から出て行くところまでで後はどこへ行くか分からない。 人族の王とやらは目障りな魔族を消したら用済みになったあんたらを帰すって名目でどこに飛んで行くか分からない魔法陣でこの世界から追い出すつもりなんだよ!」
「しかし……」
「冷静に考えろよ。 見ず知らずの人間を拉致って戦わせるような奴らが約束なんてまともに守る訳ないだろうが!」
巌本は反論しようとしたが、言葉が出てこないのか言いかけて黙る事しかできなかった。
不愉快ではあるけど気持ちは分からなくもない。 俺もチート貰って勇者様、勇者様とおだてられれば乗せられてその気になってしまうかもしれない。 でも、俺は貰えなかったし、死にそうな目にあったから勇者召喚には憎悪しかなかった。 どいつもこいつもくたばれ。
巌本は迷うような素振りを見せるが、それを隣の津軽が遮る。
「巌本サン。 こんな奴の言う事を真に受ける必要はないっすよ! 帰って家族に会いに行くんでしょ! 他の連中も帰してやらないとって言ってたじゃないっすか!」
「津軽君……。 うむ、そうだな。 ――霜原君、君の言う事にも一理あるとは思う。 だが、我々は帰る為にやるしかないのだ。 それに意思疎通も出来ない者達と共存は難しい。 どちらにせよ、我々は魔族と戦わなければならない。 そこをどいてくれ、帰る際には君も連れて帰る。 だからせめて手を出さないでくれないか?」
空手形を渡されてそれに縋るしかない奴は滑稽を通り越して憐れだ。
折角、俺がした説明を理解していない――いや、理解した上でまだやると言っているのだ。
帰る手段なんて存在しない。 もう諦めるしかないのに無様にしがみ付く。
馬鹿過ぎて救いようがない。
俺は免罪武装Ⅱ・身焦瞼縫を構える。
「そっちこそこれが最後だ。 勇者ごっこを止めて魔族から手を引け。 そうすればあんたらには何もしない」
こっちに来た人族は皆殺しにするけど。
「我々はここに来るまでにそれなりの苦労をしてきた。 命の危機を何度も潜り抜けて来た。 それをごっこ遊びというのか?」
「でもあんた等は一人じゃなかったんだろ? なら、俺よりマシじゃないか」
「……どういう事だ?」
俺は答えない。 そろそろ会話をするのも苦痛になってきたからだ。
巌本は小さく目を伏せると、覚悟を決めたのか背のハンマーを抜く。
「残念だ」
それはこっちのセリフだ。 巌本がハンマーを地面に叩きつけるとボコボコと尖った状態で隆起して俺の方へと向かって来る。 俺は免罪武装Ⅱ・身焦瞼縫を放ち、まとめて吹き飛ばす。 即座に矢をつがえて構えるが――そこには誰もいなかった。
……逃げた?
まさかこの状況で逃げるとは思わなかったので俺は思わず目を見開いた。
周囲にいた騎士も残らず消えていたので、完全に撤退したとみていい。
俺は小さく息を吐いて免罪武装を引っ込める。 一先ずはどうにかなったけど、勇者連中に見られた上に敵対が確定的となってしまった。
魔王には保護を求めろと言われたが、明らかに俺達日本人を体よく利用しようとしている連中に保護を求めた所で碌な未来が待っているとは思えない。
ここは魔族に味方してあいつ等を皆殺しにした方が楽だ。
……つくづく自分が嫌になる。
追い詰められないと行動に移せない。 もしかしたら決める為の口実を得る為にあいつ等が来るのを待っていたのだろうか? それとも――
ステータス画面を開き、免罪武装・地上楽園を確認するともう六千万を超えていた。 俺は意識して目を逸らすと街の人達を助ける為にその場を後にした。
津軽は槍を向け、巌本は背に差している長柄のハンマーに手を伸ばしかけたが思い留まり俺を制止するように手を突き出す。
「待て、誤解があるかもしれない。 我々は人族の王に依頼され侵略を行っている魔族から国を救ってほしいと言われたんだ!」
「その後は?」
「その後というのは?」
は? 何を言ってるんだこのおっさんは。これは現実であって絵本の中の物語じゃねぇんだよ。
邪悪な魔物を殺してめでたしめでたしで終わるのは人族だけで、生きている俺達の人生は死ぬまで続くんだぞ。 人族の王とか言う奴に生活の保証でもされたのか?
そう口にしかけたけどぐっと呑み込んで言葉を選ぶ。
「魔族を滅ぼしました。 勇者の仕事が終わったあんたらはどうするんだ? 今度は人族の犯罪者でも言われるがまま殺して回るんですか?」
自制しているつもりだったけどどうしても嫌な言い方になってしまう。
巌本は俺の言葉に少し動揺を見せたが、首を振って見せる。
「違う。 我々は魔族を討伐する為に呼び出された勇者だ。 終われば報酬として死んだ事をなかった事にして日本に戻される」
「は、日本に戻される? マジで言ってるんですか?」
反射的に鼻で笑ってしまった。
こいつらも精霊に会っているはずなのに帰る方法について尋ねなかったのか?
精霊、魔王。 この両者に帰る方法を尋ねたが、この世界から出るところまでだ。
日本に戻れる所までは保証できないと言っていた。
人族の王の言っている事だけが違う以上、胡散臭いのは誰か言うまでもない。
「舐めてんのか! 何が言いてぇんだよ!」
俺の態度が気に障ったのか津軽が吼える。
「馬鹿かお前等はって言ってるんだよ! あんたらもこっちに飛ばされる前に精霊とやらに会ったんじゃないのか? そいつから話を聞かなかったのか?」
「精霊? あの奇妙な光る球の事か?」
俺が頷いて見せるが巌本は首を振る。
「いや、詳しい事は召喚先で聞けと言われて特に会話はしていない」
「……人族の王が言っている帰す方法ってあんたらを召喚した魔法陣でいいんですよね?」
「そうだが……」
あぁ、駄目だと俺は内心でこいつ等の馬鹿さ加減を笑う。
なんておめでたい頭をしているんだろうと。 もう取り繕うのも面倒になっていたので侮蔑を隠しもせずに鼻で笑う。
「どうせ呼べたから送り返せるとでも言われたんだろ? 勘違いしているみたいだから言っておくが、あれはあくまでも条件に合致した奴を呼び出す物であって狙った場所と場所を繋ぐものじゃないんだよ」
「どういう事だ? 王は我々を騙しているというのか?」
「そうだよ。 召喚陣で保障されるのはこの世界から出て行くところまでで後はどこへ行くか分からない。 人族の王とやらは目障りな魔族を消したら用済みになったあんたらを帰すって名目でどこに飛んで行くか分からない魔法陣でこの世界から追い出すつもりなんだよ!」
「しかし……」
「冷静に考えろよ。 見ず知らずの人間を拉致って戦わせるような奴らが約束なんてまともに守る訳ないだろうが!」
巌本は反論しようとしたが、言葉が出てこないのか言いかけて黙る事しかできなかった。
不愉快ではあるけど気持ちは分からなくもない。 俺もチート貰って勇者様、勇者様とおだてられれば乗せられてその気になってしまうかもしれない。 でも、俺は貰えなかったし、死にそうな目にあったから勇者召喚には憎悪しかなかった。 どいつもこいつもくたばれ。
巌本は迷うような素振りを見せるが、それを隣の津軽が遮る。
「巌本サン。 こんな奴の言う事を真に受ける必要はないっすよ! 帰って家族に会いに行くんでしょ! 他の連中も帰してやらないとって言ってたじゃないっすか!」
「津軽君……。 うむ、そうだな。 ――霜原君、君の言う事にも一理あるとは思う。 だが、我々は帰る為にやるしかないのだ。 それに意思疎通も出来ない者達と共存は難しい。 どちらにせよ、我々は魔族と戦わなければならない。 そこをどいてくれ、帰る際には君も連れて帰る。 だからせめて手を出さないでくれないか?」
空手形を渡されてそれに縋るしかない奴は滑稽を通り越して憐れだ。
折角、俺がした説明を理解していない――いや、理解した上でまだやると言っているのだ。
帰る手段なんて存在しない。 もう諦めるしかないのに無様にしがみ付く。
馬鹿過ぎて救いようがない。
俺は免罪武装Ⅱ・身焦瞼縫を構える。
「そっちこそこれが最後だ。 勇者ごっこを止めて魔族から手を引け。 そうすればあんたらには何もしない」
こっちに来た人族は皆殺しにするけど。
「我々はここに来るまでにそれなりの苦労をしてきた。 命の危機を何度も潜り抜けて来た。 それをごっこ遊びというのか?」
「でもあんた等は一人じゃなかったんだろ? なら、俺よりマシじゃないか」
「……どういう事だ?」
俺は答えない。 そろそろ会話をするのも苦痛になってきたからだ。
巌本は小さく目を伏せると、覚悟を決めたのか背のハンマーを抜く。
「残念だ」
それはこっちのセリフだ。 巌本がハンマーを地面に叩きつけるとボコボコと尖った状態で隆起して俺の方へと向かって来る。 俺は免罪武装Ⅱ・身焦瞼縫を放ち、まとめて吹き飛ばす。 即座に矢をつがえて構えるが――そこには誰もいなかった。
……逃げた?
まさかこの状況で逃げるとは思わなかったので俺は思わず目を見開いた。
周囲にいた騎士も残らず消えていたので、完全に撤退したとみていい。
俺は小さく息を吐いて免罪武装を引っ込める。 一先ずはどうにかなったけど、勇者連中に見られた上に敵対が確定的となってしまった。
魔王には保護を求めろと言われたが、明らかに俺達日本人を体よく利用しようとしている連中に保護を求めた所で碌な未来が待っているとは思えない。
ここは魔族に味方してあいつ等を皆殺しにした方が楽だ。
……つくづく自分が嫌になる。
追い詰められないと行動に移せない。 もしかしたら決める為の口実を得る為にあいつ等が来るのを待っていたのだろうか? それとも――
ステータス画面を開き、免罪武装・地上楽園を確認するともう六千万を超えていた。 俺は意識して目を逸らすと街の人達を助ける為にその場を後にした。
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