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第18話 「諦観」
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「連中は勇者を前面に押し出し、徐々に戦線を押し上げている。 我が軍もどうにか持ち堪えているが、押し込まれるのも時間の問題だ」
「降伏する事は考えないんですか?」
俺がどうせ無理だろうなと思いながらも無責任な意見を口にする。
魔王は苦笑して首を振った。
「そうしたいのは山々だが、人族は我等魔族を随分と嫌っていてな。 降った所で死んだ方がマシな目に遭って最終的には絶滅させられるだろう」
そうだよなと納得した。
魔王の話では昔から人族は魔族を目の敵にしており、魔族は人族を見下すような傾向にあったらしい。
その為、種族間での差別や争いが多かったのだ。
「結果、足を引っ張り合い、最後には召喚陣を取り合って破壊するといった愚かな結末を迎えた。 我々魔族は人族に滅ぼされるのではない。 自らの愚かさによって滅ぶのだ」
皮肉な事に滅ぶ事になった段階で人々は悟ったのだ。 争う事の虚しさを。
お陰で今の魔族国は平和になった。 それを良しとしない血の気の多い連中は早々に戦場で死に、小狡く立ち回ろうとした者は擦り寄った先で人族に消されて居なくなったらしい。
「――我等が滅びるのは我等の行いの結果。 俺は最期の魔王として最後までここで戦い抜く事を決めている。 民もそれに同意してくれたよ。 だが、国民ではないお前にまでそれに付き合わせるつもりはない。 だから、侵攻が国内まで届いた段階で保護を求めると良い。 勇者だと言って力を見せればもろ手を挙げて歓迎されるだろう」
「その通りになると俺は世話になったあなた達に襲いかかる事になると思いますけど……」
「それも運命として受け入れるだけだ」
魔王の眼には諦めと覚悟が浮かんでいる。 少なくとも俺にはそう見えた。
あんまり好きな眼ではなかった。 比べるのも失礼な話だが、日本にいた頃の俺もこんな感じだったと思う。 毎日に嫌気が差し、諦めながらも何か変わる切っ掛け、変えてくれる誰かが現れるのを待ち続けるのだ。
俺と決定的に違う点は彼等は既に終わりを受け入れているという点だろう。
馬鹿な事だとは思う。 もうちょっと足掻けばいいのにとも思う。
こいつらは俺を利用する事をせずに逃げろというのだ。 短い期間だったけどこの国を旅した。
人々は誰も彼もが優しかった。 単純に喜ばれているからだと思っていけど、そうじゃなかったのだ。
皆、諦めてたのだ。 だから、彼等はこの国に訪れた最後の客を温かく迎え、送り出そうとしている。
なんて世界だ。 そしてなんて考えだ。 俺にはさっぱり理解できなかった。
死ぬと言われればみっともなく泣き叫び、喚き散らすだろう。
四半世紀も生きていない若造が何を言っているんだと思うかもしれない。
それでも俺にとって彼等の覚悟は眩しく、そして胸が苦しくなるほど悲しかった。
免罪武装が湧き上がった気持ちを喰らい、感情を強制的にフラットにする。
それでも残滓のような物が胸の奥で微かに木霊する。 こんな気持ち、知りたくなかった。
こんな世界に来たくなかった。 アルフレッド、イルバン、魔王。
この世界で出会った様々な人達の姿が脳裏を過ぎる。
俺は感情的にはなれない。 だから――
「分かりました。 それまでの間、のんびりさせて貰いますよ」
「あぁ、それがいい。 ゆっくりとして行け」
魔王はそういって笑って見せた。
その後、一通りの疑問をぶつけた俺は魔王の城を後にした。
念の為にと城の地下に存在する壊れた魔法陣も見せて貰ったが、見事に破片の山になっていて元がどんな形だったのかも分からない有様で鑑定をかけても石ころとしか認識できない。
……気になる事は聞いたので全く収穫がなかった訳じゃないのが救いか。
城に泊って行くかと尋ねられたけど、もうちょっと国を見て回りたいと言ったら金をくれた。
話を聞く前なら気前がいいなで済んだが、事情を聞いてしまうと何とも言えない気持ちになるな。
取りあえず北側を一通り見て回って砂漠まで足を伸ばそう。
身の振り方に関しては素直に魔王の言う通りにする事が一番正しいのかもしれない。
実際、死ぬ危険も少なく、上手くすれば取り入ってそこそこいい立ち位置に納まれるかもしれない。
……かもしれないばかりだな。
勇者とやらがどの程度の物なのかは知らないので判断が難しい。
少なくとも神晶帝よりも強いとは思えないが、もしかしたらグラニュールと同程度で動けるなら免罪武装があってもあっさりと殺されそうだ。
魔王に勇者の強さを聞いたけど鑑定技能を持った配下がいないので何とも言えないとの事。
魔王軍の水準で言うのならステータスは平均数万から十数万。
数十万もいるにはいるがかなり少ない実力者だ。 それだけ聞くとグラニュールがどれだけヤバいのかがよく分かるな。 それだけのステータスを持った連中が居ても押し込んで来るのが勇者。
そうなるとどれだけ強いのかが気になるな。
別に俺より強いか確かめてやるとか馬鹿みたいな事は考えていない。
ただ、到着先が魔法陣の上かそうでないかでどこまで違うかが気になるだけだ。
馬鹿みたいなステータスを得られるのだろうか?
それともぶっ飛んだチートを貰えるのだろうか?
一応、魔王に聞いては見たが、回答はよく分からないだ。
召喚陣がぶっ壊れた事件で記録の類が残らず吹っ飛んだので、よく分からなくなったらしい。
地下にある魔法陣があの有様になっているという事は城も消し飛んだのだ。
つまりあの城は事件の後に立て直されたものなので記録などが残りようもなかったとの事。
……取りあえずしばらくは大丈夫そうなのでこの辺りを回って考えるか。
取りあえず北に足を向ける事にした。
魔族国の中央部から北部にかけてはあちこちに山が存在しているが連なっている訳ではないので通行はそう難しくない。 前線が近いだけあって駐留している戦力も多く、魔獣に遭遇する機会も少なかった。
それでも戦力の需要が全くないわけではないので討伐隊を見かけたら、頼んで混ぜて貰い魔獣退治を手伝った。 負の感情は免罪武装に喰われて消えるので、人々に感謝されて胸が温かくなる感じはいい。
俺にとって長く感じる事ができる感情なので正直飢えているのかもしれない。
だから、誰かに感謝されたくて行動してしまうのだ。
それにこの国の者達は俺の事を真っ直ぐに見てくれるのでそういった意味でも嬉しかった。
よくないとは思ったが、俺はこの魔族の国がどんどん好きになって来ている。
「降伏する事は考えないんですか?」
俺がどうせ無理だろうなと思いながらも無責任な意見を口にする。
魔王は苦笑して首を振った。
「そうしたいのは山々だが、人族は我等魔族を随分と嫌っていてな。 降った所で死んだ方がマシな目に遭って最終的には絶滅させられるだろう」
そうだよなと納得した。
魔王の話では昔から人族は魔族を目の敵にしており、魔族は人族を見下すような傾向にあったらしい。
その為、種族間での差別や争いが多かったのだ。
「結果、足を引っ張り合い、最後には召喚陣を取り合って破壊するといった愚かな結末を迎えた。 我々魔族は人族に滅ぼされるのではない。 自らの愚かさによって滅ぶのだ」
皮肉な事に滅ぶ事になった段階で人々は悟ったのだ。 争う事の虚しさを。
お陰で今の魔族国は平和になった。 それを良しとしない血の気の多い連中は早々に戦場で死に、小狡く立ち回ろうとした者は擦り寄った先で人族に消されて居なくなったらしい。
「――我等が滅びるのは我等の行いの結果。 俺は最期の魔王として最後までここで戦い抜く事を決めている。 民もそれに同意してくれたよ。 だが、国民ではないお前にまでそれに付き合わせるつもりはない。 だから、侵攻が国内まで届いた段階で保護を求めると良い。 勇者だと言って力を見せればもろ手を挙げて歓迎されるだろう」
「その通りになると俺は世話になったあなた達に襲いかかる事になると思いますけど……」
「それも運命として受け入れるだけだ」
魔王の眼には諦めと覚悟が浮かんでいる。 少なくとも俺にはそう見えた。
あんまり好きな眼ではなかった。 比べるのも失礼な話だが、日本にいた頃の俺もこんな感じだったと思う。 毎日に嫌気が差し、諦めながらも何か変わる切っ掛け、変えてくれる誰かが現れるのを待ち続けるのだ。
俺と決定的に違う点は彼等は既に終わりを受け入れているという点だろう。
馬鹿な事だとは思う。 もうちょっと足掻けばいいのにとも思う。
こいつらは俺を利用する事をせずに逃げろというのだ。 短い期間だったけどこの国を旅した。
人々は誰も彼もが優しかった。 単純に喜ばれているからだと思っていけど、そうじゃなかったのだ。
皆、諦めてたのだ。 だから、彼等はこの国に訪れた最後の客を温かく迎え、送り出そうとしている。
なんて世界だ。 そしてなんて考えだ。 俺にはさっぱり理解できなかった。
死ぬと言われればみっともなく泣き叫び、喚き散らすだろう。
四半世紀も生きていない若造が何を言っているんだと思うかもしれない。
それでも俺にとって彼等の覚悟は眩しく、そして胸が苦しくなるほど悲しかった。
免罪武装が湧き上がった気持ちを喰らい、感情を強制的にフラットにする。
それでも残滓のような物が胸の奥で微かに木霊する。 こんな気持ち、知りたくなかった。
こんな世界に来たくなかった。 アルフレッド、イルバン、魔王。
この世界で出会った様々な人達の姿が脳裏を過ぎる。
俺は感情的にはなれない。 だから――
「分かりました。 それまでの間、のんびりさせて貰いますよ」
「あぁ、それがいい。 ゆっくりとして行け」
魔王はそういって笑って見せた。
その後、一通りの疑問をぶつけた俺は魔王の城を後にした。
念の為にと城の地下に存在する壊れた魔法陣も見せて貰ったが、見事に破片の山になっていて元がどんな形だったのかも分からない有様で鑑定をかけても石ころとしか認識できない。
……気になる事は聞いたので全く収穫がなかった訳じゃないのが救いか。
城に泊って行くかと尋ねられたけど、もうちょっと国を見て回りたいと言ったら金をくれた。
話を聞く前なら気前がいいなで済んだが、事情を聞いてしまうと何とも言えない気持ちになるな。
取りあえず北側を一通り見て回って砂漠まで足を伸ばそう。
身の振り方に関しては素直に魔王の言う通りにする事が一番正しいのかもしれない。
実際、死ぬ危険も少なく、上手くすれば取り入ってそこそこいい立ち位置に納まれるかもしれない。
……かもしれないばかりだな。
勇者とやらがどの程度の物なのかは知らないので判断が難しい。
少なくとも神晶帝よりも強いとは思えないが、もしかしたらグラニュールと同程度で動けるなら免罪武装があってもあっさりと殺されそうだ。
魔王に勇者の強さを聞いたけど鑑定技能を持った配下がいないので何とも言えないとの事。
魔王軍の水準で言うのならステータスは平均数万から十数万。
数十万もいるにはいるがかなり少ない実力者だ。 それだけ聞くとグラニュールがどれだけヤバいのかがよく分かるな。 それだけのステータスを持った連中が居ても押し込んで来るのが勇者。
そうなるとどれだけ強いのかが気になるな。
別に俺より強いか確かめてやるとか馬鹿みたいな事は考えていない。
ただ、到着先が魔法陣の上かそうでないかでどこまで違うかが気になるだけだ。
馬鹿みたいなステータスを得られるのだろうか?
それともぶっ飛んだチートを貰えるのだろうか?
一応、魔王に聞いては見たが、回答はよく分からないだ。
召喚陣がぶっ壊れた事件で記録の類が残らず吹っ飛んだので、よく分からなくなったらしい。
地下にある魔法陣があの有様になっているという事は城も消し飛んだのだ。
つまりあの城は事件の後に立て直されたものなので記録などが残りようもなかったとの事。
……取りあえずしばらくは大丈夫そうなのでこの辺りを回って考えるか。
取りあえず北に足を向ける事にした。
魔族国の中央部から北部にかけてはあちこちに山が存在しているが連なっている訳ではないので通行はそう難しくない。 前線が近いだけあって駐留している戦力も多く、魔獣に遭遇する機会も少なかった。
それでも戦力の需要が全くないわけではないので討伐隊を見かけたら、頼んで混ぜて貰い魔獣退治を手伝った。 負の感情は免罪武装に喰われて消えるので、人々に感謝されて胸が温かくなる感じはいい。
俺にとって長く感じる事ができる感情なので正直飢えているのかもしれない。
だから、誰かに感謝されたくて行動してしまうのだ。
それにこの国の者達は俺の事を真っ直ぐに見てくれるのでそういった意味でも嬉しかった。
よくないとは思ったが、俺はこの魔族の国がどんどん好きになって来ている。
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