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十八人目②
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泝突 兩の意識が覚醒したわ。
自室で目覚めて起き出すと妻が用意した朝食を無言で口にしてそのまま出社。
入社してそろそろ五年。 営業成績も好調で順調に出世していくだろうと自分も周囲も疑っていない。
私から見ても泝突 兩は要領のいい人間である事が分かる。
幼い頃から積極的にいいポジションを取りに行く傾向にあり、人気者とまでいかずとも一目置かれる位置に常に身を置いていた。 敵に回したくない面倒な相手は上手に受け流し、それにより溜まったストレスは攻撃しても問題なさそうな相手を虐げて発散。 とにかく立ち回りが上手く、勉学、運動共に好成績を残しているのでほどほどに周囲からの受けが良かった事も問題の露呈を妨げる要因だった。
泝突 兩は非常にプライドが高く、常に見下せる存在が居ないと落ち着かない気性ではあるけど、それを無意識のレベルでよく理解しているので必ず近くにサンドバッグを置く事を忘れない。
社会的、精神的に自分に依存させ、泝突 兩の言う事は正しく、何をされても自分が悪いと思い込ませる。
ぶっちゃけると洗脳してサンドバッグに作り替えている感じね。
何とも業の深い話ではあるけど、何だかんだと成功している辺りが凄いわ。
あ、ちなみに最高傑作は奥さんね。 何かあれば八つ当たりしてるわ。
当然ながら終わった後はちゃんとケアして周囲にも悟らせない程度に知恵も回る。
実際、傍から見れば仲の良い円満夫婦に見えてるみたいだし、順風満帆といったところかしら。
仕事に関しても目立った問題はないわ。 ただ、人間関係には爆弾を抱えてはいたけれど。
泝突 兩は奥さんに食事は外で済ませると連絡を入れる。 その隣には会社の後輩。
奥さんとは別系統の顔立ちをした娘ね。 電話しながらしっかりと腰を抱いており、これからホテルで一戦交えるつもりらしいわ。 堂々と浮気するなんて大した度胸だと思うけど、奥さんは自分に逆らわないと考えているので仮に発覚してもどうとでもなると思っているのは凄いわ。
――で、こいつの面白い所は気に入った女が居れば誰彼構わず食い散らかすので、今日の娘を合わせると交際している相手は十では利かない。
特に恋人や旦那が居る相手を積極的に狙う傾向にあるわ。
寝取る気は毛頭ないみたいだけど、自分に靡くイコール元の男より自分の方が雄として優れていると思えるから非常に気分が良くなるらしいわね。 クソみたいな人間だとは思うけどリスクヘッジに関しては余念がない。 連絡は証拠が残らないように徹底的に履歴を消去、避妊は必ず行う。
火遊びは大好きだけど自身の積み上げてきたキャリアに傷が付くのは耐えられないといった変に高いプライドがその行いを徹底させていた。 今日も年下の娘相手に盛大にぶっ放した泝突 兩は上機嫌で帰宅。 出迎えに現れた妻の沈んだ表情を見て内心で舌打ちする。
そろそろ機嫌を取らないと不味いと考えているみたい。
この辺は周りをよく見ているわねぇ。 ただ、そこに愛情の類は一切存在しないわ。
目の前の女を妻としたのは家庭を持っている体裁を整えたかった事と面倒がなく、扱い易い女だった事。 それだけの理由でプロポーズしたみたいね。
結婚は必要経費と思っている節すらあるわ。 嫌ならやらないきゃいいのに。
で、翌日は楽しい楽しい不倫を我慢して早めに帰宅し、食事を共にする。
妻は何か言いたげに泝突 兩へ視線を送る。 泝突 兩は不機嫌そうにさっさと言えよと促す。
――奥さんが何を言い出したのかというとそろそろ子供が欲しいらしいわね。
可能であればもっと早く作っておきたかったみたいだけど、泝突 兩が突っぱねていたからね。
聞けば実家から孫はまだかと言われているようで割と追いつめられていたみたい。
泝突 兩は子供なんてありえないと思っていたので断固として拒否。
まぁ、当然よね。
こいつは自分が大好きなだけの人間だから他者に愛情を注ぐなんて芸当できるわけないわ。
落ち込んでいる理由に当たりを付けた泝突 兩は面倒くさいと思いながらどうやり過ごすかを考えている辺り、奥さんがどう頑張っても子供は無理そうね。
泝突 兩がのらりくらりごまかそうと適当な事を言うと突然奥さんの様子がおかしくなった。
普段のおとなしい様子から一変。 まるで般若かなにかと言わんばかりの凄まじい形相に流石の泝突 兩も気圧されてしまったようで言葉が出ない。
その間に奥さんはあの女がそんなにいいのかと喚き散らす。
どうやら浮気相手の一人が直接家に来て彼と別れて欲しいと言いに来たらしい。
しっかりと名乗ったようで誰かはすぐに分かったわ。 会社の後輩ちゃんね。
私の方が相応しいだのなんだのと言って奥さんのメンタルを穿り回した後、彼の子供を妊娠しているなどと爆弾発言を投げつけて去っていったらしいわ。
泝突 兩はそんな馬鹿なと驚く。 そりゃそうよね。
できないように気を使っていたのだから驚くのも無理はないけど、状況を考えると別れさせる為の嘘ってところかしら。 状況的にも命中したとは考えにくい。
ただ、真偽の分からない以上は奥さんを疑心暗鬼にするには充分だったみたいで、あなたに尽くしてきたのに酷いと首を絞めようとしてきたので泝突 兩はその頬を張り飛ばした。
ま、奴隷か何かと思っていた相手が反抗してきたのでプライドの高さも相まって手が出たって感じね。
奥さんは赤くなった頬を押さえて呆然とした後、ふらふらと台所から包丁を持ってくるとそのまま自らの喉を突いて自殺した。 喉をざっくりと両断しているので助かりようがないわ。
怨嗟の視線を泝突 兩に向け、血溜まりに沈んだ。 あーあ、やっちゃったわね。
どれだけ社会的に成功していたとしても問題が起これば落ちる時は一瞬だった。
どうやら奥さんは自分が死んだ後、泝突 兩に自殺に追い込まれた詳細を記したメールを関係者に手当たり次第送りつけるようにしていたみたい。
ネットで実名付きで晒し上げられ、会社は依頼退職。 要は体よく追放された感じね。
複数いた不倫相手は手の平を返して全員消えたわ。
原因の後輩ちゃんも一緒に消えたのには思わず笑っちゃったじゃない。
まぁ、やってしまった事は仕方がないので泝突 兩は環境を変えるべく行動を開始しようとしていたけど、先に済ませなければならない事があったわ。
死なせた妻の両親への弁解ね。 行きたくはなかったけど来なかったらありとあらゆる手段を使ってお前を社会的に抹殺してやると脅されたので行かざるを得なかったわ。
車で数時間かけて元妻の実家へ向かい、到着したしたと同時に元妻の親戚一同に取り囲まれた。
全員、目が血走っており、身の危険を感じた泝突 兩は逃げようとしたけどそれは叶わずあっさりと捕まって生まれた事を後悔するような目に遭って死んだわ。 真っ先に下半身にぶら下がってたモノを切り落とされたところは面白ポイントだったわね。
傾向としてこの手の馬鹿に多いのは自分に問題があったより、自分は悪くないと考える傾向が強いので転生しても似たような失敗を繰り返すのだけど果たしてこいつはどっちかしら。
取り合えず、こんなところに来るんじゃなかったと後悔してから泝突 兩は嬲り殺しにされたわ。
さて、死亡した事により泝突 兩との接続が途切れたわ。
想起を引いてないから思い出すタイミングがいつかは分からない。
なるべく早いとありがたいんだけど――お、来たみたいね。
生まれ変わった泝突 兩はとある異世界で鍛冶師の息子として修業を積んでいたわ。
まぁ、ステータスを採用している世界なので、スキルといった形で技能を習得でき、一度手に入れてしまえば常に一定のクオリティが維持できるわ。
才能というよりは世界から貰えるギフトで人生が決まる世界ね。
この手の世界は未成熟である分、生息している人間に行き急ぐ事を求めるわ。
要はさっさと死んで養分になれって事ね。 スキルの存在はそれを大きく加速させる。
才能が可視化されており、簡単に自分に合った生き方が選べる世界。
ただ、才能がある事と向いているかどうかはまた別の話ね。
さて、そんな世界で前世の記憶を取り戻した泝突 兩はガチャで引いたスキルの恩恵を受けて順調に実力を伸ばしていくわ。 記憶が戻ったタイミングが十三歳の頃だったので、この世界での成人とみなされる十六まで修業を続け、一人前になったと認められた段階で自立を始める。
武具作成と銘打っているだけあって、泝突 兩の得意分野は多岐に渡ったわ。
剣などの武器だけではなく防具などスキルで製作できる範囲は完全にカバーでき、鑑定眼によって細かく確認する事によって品質を担保。 加えて武具の鑑定士としての仕事も行い、瞬く間に鍛冶師としてはちょっと名前が売れて行ったわ。
さてさて、果たして人間という生き物は生まれ変わった程度で本質は変わるのだろうか?
私の見てきた例で言うのなら「場合による」ね。 確かに過去の過ちを悔い、性根を入れ替える者は一定数存在するけど割合としてはかなり少ないと言わざるを得ないわね。
本当の性と書いて本性とはよく言ったもので、最初は殊勝にふるまっている者も余裕が出てくると徐々にメッキがはがれて地金が浮いてくる。 それは泝突 兩も例外ではなく、武器を割引してあげると餌をチラつかせて次々と女の子を食い散らかし始めたわ。
あっはっはっは。 こいつ全然懲りていないわね。
失敗原因は面倒な女を妻にした事だと思っているので独身を貫けば大丈夫といった発想には笑ってしまったわ。 元々、外面を取り繕って相手にとって聞こえの良い言葉を並べる事は得意分野だったけど、相手が深い部分で何を考えているかを理解しようとしないので底の浅い相手とは簡単に共感できるみたい。
ただ、一定以上の感情を向けてくる相手だとその浅さ故に温度差が生まれる。
奥さんの変化に気づかなかった原因でもあるわね。 結局、失敗に関しても表面的な部分しか見なかったので本質的な点は一切理解していない。 これは学習能力というよりはこいつの人格が形成される際にできた構造上の欠陥ね。 その証拠に転生しても全く同じ事をやっているんだから正直、この時点でオチが見えてきたわ。
手口としては簡単で武具を求めてくる好みの娘を見かけると明らかに予算をオーバーする商品を過剰に薦める。 当然ながら買えないと難色を示すが、君は可愛いから俺と食事してくれたら安くするよと餌を撒く。 食いついたのなら四割は成功したものらしく、後は約束通り食事をして行けそうならそのままお持ち帰り、ダメそうなら適当な理由をつけて次の約束を取り付ける。
その繰り返しだ。 とにかく相手の喜びそうな行動や言動で警戒心を削ぎ落してからお持ち帰りまで持ち込む。 それが泝突 兩の基本スタイルだ。 断る理由に恋人や旦那を持ち出す女は大好物らしく、そんな相手は特に力を入れて口説く。 生まれ変わっても他人を下に見たいといった欲望は変わらない。
他人の女を寝取るのはあくまで手段で、本質的には他の雄から雌を奪い、自分の方が優れていると証明して悦に浸る自己愛から来る行動ね。 まったく、本当にこいつは自分が大好きなのねぇ……。
商売も順調、趣味も順調と元々、そういった事に関する要領だけは良かったので社会的にはいい感じに成功しているわ。 ただ、成功すればするほどに注目が集まり、それを妬む人間がいるのは世の常ね。
人間、落ちる時は一瞬だと前世で目の当たりにしてきたのに本質的な原因に対する理解が浅いと同じ失敗を繰り返してしまう。 どうなったかというとまた同じ事が起こったわ。
こっちの世界では日本より避妊に関する技術は進んでいない。 そんな状態で種まきに精を出せばどうなるのか? 結果は畑からにょっきりと芽が出てしまった。 それも複数同時に。
ついでに他人の畑でそれをやっているものなのだから早々に吊るし上げられたわ。
一応、優秀な武具職人という事で行政機関が庇ってはくれたみたいだけど、そんな事をすれば火に油を注ぐようなもので泝突 兩はそれに気づかず、上機嫌に夜道を歩いていると背後から声をかけられたわ。
振り返るとその腹に剣が突き刺さる。 面白いポイントはその剣は泝突 兩自身が女を釣る餌に使った剣だった事ね。 次々と怒りと嫉妬に目を濁らせた男達が闇から滲み出るように現れる。
全員、泝突 兩の作った優れた武具を持っていたわ。
「ま、待ってくれ! 違うんだ! 誤解で――」
咄嗟に出た命乞いは通用する訳もなく、全方向から刃に滅多刺しにされ泝突 兩の意識は闇に飲み込まれた。
……うーん。 まぁ、こんなものかしら?
つまらなくはなかったけどそこまで面白くもなかったわ。
何というか真っすぐ落ちてそのまま潰れたって感じ? 手垢のついた展開だったので芸術点は上げられないわ。
対象が死亡した事により接続が切れ、静かになった空間で私は一人佇む。
そして待ち続けるのだ。 また波長が合う存在が現れるのを。
次はどんな見世物で私を楽しませてくれるのかしら。 そんな期待に胸を膨らませつつ。
私は次のガチャを引きに来る者を待ち続ける。
自室で目覚めて起き出すと妻が用意した朝食を無言で口にしてそのまま出社。
入社してそろそろ五年。 営業成績も好調で順調に出世していくだろうと自分も周囲も疑っていない。
私から見ても泝突 兩は要領のいい人間である事が分かる。
幼い頃から積極的にいいポジションを取りに行く傾向にあり、人気者とまでいかずとも一目置かれる位置に常に身を置いていた。 敵に回したくない面倒な相手は上手に受け流し、それにより溜まったストレスは攻撃しても問題なさそうな相手を虐げて発散。 とにかく立ち回りが上手く、勉学、運動共に好成績を残しているのでほどほどに周囲からの受けが良かった事も問題の露呈を妨げる要因だった。
泝突 兩は非常にプライドが高く、常に見下せる存在が居ないと落ち着かない気性ではあるけど、それを無意識のレベルでよく理解しているので必ず近くにサンドバッグを置く事を忘れない。
社会的、精神的に自分に依存させ、泝突 兩の言う事は正しく、何をされても自分が悪いと思い込ませる。
ぶっちゃけると洗脳してサンドバッグに作り替えている感じね。
何とも業の深い話ではあるけど、何だかんだと成功している辺りが凄いわ。
あ、ちなみに最高傑作は奥さんね。 何かあれば八つ当たりしてるわ。
当然ながら終わった後はちゃんとケアして周囲にも悟らせない程度に知恵も回る。
実際、傍から見れば仲の良い円満夫婦に見えてるみたいだし、順風満帆といったところかしら。
仕事に関しても目立った問題はないわ。 ただ、人間関係には爆弾を抱えてはいたけれど。
泝突 兩は奥さんに食事は外で済ませると連絡を入れる。 その隣には会社の後輩。
奥さんとは別系統の顔立ちをした娘ね。 電話しながらしっかりと腰を抱いており、これからホテルで一戦交えるつもりらしいわ。 堂々と浮気するなんて大した度胸だと思うけど、奥さんは自分に逆らわないと考えているので仮に発覚してもどうとでもなると思っているのは凄いわ。
――で、こいつの面白い所は気に入った女が居れば誰彼構わず食い散らかすので、今日の娘を合わせると交際している相手は十では利かない。
特に恋人や旦那が居る相手を積極的に狙う傾向にあるわ。
寝取る気は毛頭ないみたいだけど、自分に靡くイコール元の男より自分の方が雄として優れていると思えるから非常に気分が良くなるらしいわね。 クソみたいな人間だとは思うけどリスクヘッジに関しては余念がない。 連絡は証拠が残らないように徹底的に履歴を消去、避妊は必ず行う。
火遊びは大好きだけど自身の積み上げてきたキャリアに傷が付くのは耐えられないといった変に高いプライドがその行いを徹底させていた。 今日も年下の娘相手に盛大にぶっ放した泝突 兩は上機嫌で帰宅。 出迎えに現れた妻の沈んだ表情を見て内心で舌打ちする。
そろそろ機嫌を取らないと不味いと考えているみたい。
この辺は周りをよく見ているわねぇ。 ただ、そこに愛情の類は一切存在しないわ。
目の前の女を妻としたのは家庭を持っている体裁を整えたかった事と面倒がなく、扱い易い女だった事。 それだけの理由でプロポーズしたみたいね。
結婚は必要経費と思っている節すらあるわ。 嫌ならやらないきゃいいのに。
で、翌日は楽しい楽しい不倫を我慢して早めに帰宅し、食事を共にする。
妻は何か言いたげに泝突 兩へ視線を送る。 泝突 兩は不機嫌そうにさっさと言えよと促す。
――奥さんが何を言い出したのかというとそろそろ子供が欲しいらしいわね。
可能であればもっと早く作っておきたかったみたいだけど、泝突 兩が突っぱねていたからね。
聞けば実家から孫はまだかと言われているようで割と追いつめられていたみたい。
泝突 兩は子供なんてありえないと思っていたので断固として拒否。
まぁ、当然よね。
こいつは自分が大好きなだけの人間だから他者に愛情を注ぐなんて芸当できるわけないわ。
落ち込んでいる理由に当たりを付けた泝突 兩は面倒くさいと思いながらどうやり過ごすかを考えている辺り、奥さんがどう頑張っても子供は無理そうね。
泝突 兩がのらりくらりごまかそうと適当な事を言うと突然奥さんの様子がおかしくなった。
普段のおとなしい様子から一変。 まるで般若かなにかと言わんばかりの凄まじい形相に流石の泝突 兩も気圧されてしまったようで言葉が出ない。
その間に奥さんはあの女がそんなにいいのかと喚き散らす。
どうやら浮気相手の一人が直接家に来て彼と別れて欲しいと言いに来たらしい。
しっかりと名乗ったようで誰かはすぐに分かったわ。 会社の後輩ちゃんね。
私の方が相応しいだのなんだのと言って奥さんのメンタルを穿り回した後、彼の子供を妊娠しているなどと爆弾発言を投げつけて去っていったらしいわ。
泝突 兩はそんな馬鹿なと驚く。 そりゃそうよね。
できないように気を使っていたのだから驚くのも無理はないけど、状況を考えると別れさせる為の嘘ってところかしら。 状況的にも命中したとは考えにくい。
ただ、真偽の分からない以上は奥さんを疑心暗鬼にするには充分だったみたいで、あなたに尽くしてきたのに酷いと首を絞めようとしてきたので泝突 兩はその頬を張り飛ばした。
ま、奴隷か何かと思っていた相手が反抗してきたのでプライドの高さも相まって手が出たって感じね。
奥さんは赤くなった頬を押さえて呆然とした後、ふらふらと台所から包丁を持ってくるとそのまま自らの喉を突いて自殺した。 喉をざっくりと両断しているので助かりようがないわ。
怨嗟の視線を泝突 兩に向け、血溜まりに沈んだ。 あーあ、やっちゃったわね。
どれだけ社会的に成功していたとしても問題が起これば落ちる時は一瞬だった。
どうやら奥さんは自分が死んだ後、泝突 兩に自殺に追い込まれた詳細を記したメールを関係者に手当たり次第送りつけるようにしていたみたい。
ネットで実名付きで晒し上げられ、会社は依頼退職。 要は体よく追放された感じね。
複数いた不倫相手は手の平を返して全員消えたわ。
原因の後輩ちゃんも一緒に消えたのには思わず笑っちゃったじゃない。
まぁ、やってしまった事は仕方がないので泝突 兩は環境を変えるべく行動を開始しようとしていたけど、先に済ませなければならない事があったわ。
死なせた妻の両親への弁解ね。 行きたくはなかったけど来なかったらありとあらゆる手段を使ってお前を社会的に抹殺してやると脅されたので行かざるを得なかったわ。
車で数時間かけて元妻の実家へ向かい、到着したしたと同時に元妻の親戚一同に取り囲まれた。
全員、目が血走っており、身の危険を感じた泝突 兩は逃げようとしたけどそれは叶わずあっさりと捕まって生まれた事を後悔するような目に遭って死んだわ。 真っ先に下半身にぶら下がってたモノを切り落とされたところは面白ポイントだったわね。
傾向としてこの手の馬鹿に多いのは自分に問題があったより、自分は悪くないと考える傾向が強いので転生しても似たような失敗を繰り返すのだけど果たしてこいつはどっちかしら。
取り合えず、こんなところに来るんじゃなかったと後悔してから泝突 兩は嬲り殺しにされたわ。
さて、死亡した事により泝突 兩との接続が途切れたわ。
想起を引いてないから思い出すタイミングがいつかは分からない。
なるべく早いとありがたいんだけど――お、来たみたいね。
生まれ変わった泝突 兩はとある異世界で鍛冶師の息子として修業を積んでいたわ。
まぁ、ステータスを採用している世界なので、スキルといった形で技能を習得でき、一度手に入れてしまえば常に一定のクオリティが維持できるわ。
才能というよりは世界から貰えるギフトで人生が決まる世界ね。
この手の世界は未成熟である分、生息している人間に行き急ぐ事を求めるわ。
要はさっさと死んで養分になれって事ね。 スキルの存在はそれを大きく加速させる。
才能が可視化されており、簡単に自分に合った生き方が選べる世界。
ただ、才能がある事と向いているかどうかはまた別の話ね。
さて、そんな世界で前世の記憶を取り戻した泝突 兩はガチャで引いたスキルの恩恵を受けて順調に実力を伸ばしていくわ。 記憶が戻ったタイミングが十三歳の頃だったので、この世界での成人とみなされる十六まで修業を続け、一人前になったと認められた段階で自立を始める。
武具作成と銘打っているだけあって、泝突 兩の得意分野は多岐に渡ったわ。
剣などの武器だけではなく防具などスキルで製作できる範囲は完全にカバーでき、鑑定眼によって細かく確認する事によって品質を担保。 加えて武具の鑑定士としての仕事も行い、瞬く間に鍛冶師としてはちょっと名前が売れて行ったわ。
さてさて、果たして人間という生き物は生まれ変わった程度で本質は変わるのだろうか?
私の見てきた例で言うのなら「場合による」ね。 確かに過去の過ちを悔い、性根を入れ替える者は一定数存在するけど割合としてはかなり少ないと言わざるを得ないわね。
本当の性と書いて本性とはよく言ったもので、最初は殊勝にふるまっている者も余裕が出てくると徐々にメッキがはがれて地金が浮いてくる。 それは泝突 兩も例外ではなく、武器を割引してあげると餌をチラつかせて次々と女の子を食い散らかし始めたわ。
あっはっはっは。 こいつ全然懲りていないわね。
失敗原因は面倒な女を妻にした事だと思っているので独身を貫けば大丈夫といった発想には笑ってしまったわ。 元々、外面を取り繕って相手にとって聞こえの良い言葉を並べる事は得意分野だったけど、相手が深い部分で何を考えているかを理解しようとしないので底の浅い相手とは簡単に共感できるみたい。
ただ、一定以上の感情を向けてくる相手だとその浅さ故に温度差が生まれる。
奥さんの変化に気づかなかった原因でもあるわね。 結局、失敗に関しても表面的な部分しか見なかったので本質的な点は一切理解していない。 これは学習能力というよりはこいつの人格が形成される際にできた構造上の欠陥ね。 その証拠に転生しても全く同じ事をやっているんだから正直、この時点でオチが見えてきたわ。
手口としては簡単で武具を求めてくる好みの娘を見かけると明らかに予算をオーバーする商品を過剰に薦める。 当然ながら買えないと難色を示すが、君は可愛いから俺と食事してくれたら安くするよと餌を撒く。 食いついたのなら四割は成功したものらしく、後は約束通り食事をして行けそうならそのままお持ち帰り、ダメそうなら適当な理由をつけて次の約束を取り付ける。
その繰り返しだ。 とにかく相手の喜びそうな行動や言動で警戒心を削ぎ落してからお持ち帰りまで持ち込む。 それが泝突 兩の基本スタイルだ。 断る理由に恋人や旦那を持ち出す女は大好物らしく、そんな相手は特に力を入れて口説く。 生まれ変わっても他人を下に見たいといった欲望は変わらない。
他人の女を寝取るのはあくまで手段で、本質的には他の雄から雌を奪い、自分の方が優れていると証明して悦に浸る自己愛から来る行動ね。 まったく、本当にこいつは自分が大好きなのねぇ……。
商売も順調、趣味も順調と元々、そういった事に関する要領だけは良かったので社会的にはいい感じに成功しているわ。 ただ、成功すればするほどに注目が集まり、それを妬む人間がいるのは世の常ね。
人間、落ちる時は一瞬だと前世で目の当たりにしてきたのに本質的な原因に対する理解が浅いと同じ失敗を繰り返してしまう。 どうなったかというとまた同じ事が起こったわ。
こっちの世界では日本より避妊に関する技術は進んでいない。 そんな状態で種まきに精を出せばどうなるのか? 結果は畑からにょっきりと芽が出てしまった。 それも複数同時に。
ついでに他人の畑でそれをやっているものなのだから早々に吊るし上げられたわ。
一応、優秀な武具職人という事で行政機関が庇ってはくれたみたいだけど、そんな事をすれば火に油を注ぐようなもので泝突 兩はそれに気づかず、上機嫌に夜道を歩いていると背後から声をかけられたわ。
振り返るとその腹に剣が突き刺さる。 面白いポイントはその剣は泝突 兩自身が女を釣る餌に使った剣だった事ね。 次々と怒りと嫉妬に目を濁らせた男達が闇から滲み出るように現れる。
全員、泝突 兩の作った優れた武具を持っていたわ。
「ま、待ってくれ! 違うんだ! 誤解で――」
咄嗟に出た命乞いは通用する訳もなく、全方向から刃に滅多刺しにされ泝突 兩の意識は闇に飲み込まれた。
……うーん。 まぁ、こんなものかしら?
つまらなくはなかったけどそこまで面白くもなかったわ。
何というか真っすぐ落ちてそのまま潰れたって感じ? 手垢のついた展開だったので芸術点は上げられないわ。
対象が死亡した事により接続が切れ、静かになった空間で私は一人佇む。
そして待ち続けるのだ。 また波長が合う存在が現れるのを。
次はどんな見世物で私を楽しませてくれるのかしら。 そんな期待に胸を膨らませつつ。
私は次のガチャを引きに来る者を待ち続ける。
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