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30周目
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クラスメイトへの協力は望めない。
そんな結論を出せただけでも無駄死にではなかったと信じたい。
突破を図る方針に変わりはないけど、利用する形で動かすのは決定だ。
それを補う方法に関しては既に考えてあった。
時間的にかなり際どいけど、一人でアラーム設置とバスガイドの排除を両立させるのはこれしかない。
今の私に捻り出せる最も成功率の高い策だ。 これで駄目なら諦めるしかない。
それぐらいには期待値の高い手ではある。
私はどうか成功しますようにと祈りながら目的地への到着を待った。
音源となるキッチンタイマーをばら撒いた後、私は自転車をこいでホテルへと戻る。
息を切らし汗を流して到着した私はホテルのフロントを通って奥へ。
そこにはバスガイドの死体と血溜まり。 スマホで時間を確認した後、放送設備の電源を入れて、スマホで録音したバスガイド声を再生する。
そう、何も生きて喋らせる必要などなかったのだ。 事前に音声を録音して後で流せば放送のタイミングを操作できる。 我ながら名案だったと思いながら実行に移した。
懸念としては録音した音声なので音質が肉声に比べると悪い事だ。 その辺は放送設備の問題とでも思ってくれることを祈るしかない。
ともあれ死体は出来上がっているので放送が終わったと同時に少し離れた位置に立ちすくむ振りをする。 しばらくすると何人かの男子が下りて来たので、外から戻ったらこうなっていたと説明した。
後の流れは前と同じだったのでそのまま私が主導権を握る形でクラスを動かし移動を開始する。
今回は火車を遠ざける仕掛けも施した。 後はタイミングが合う事を祈るしかない。
クラスの半数を引き連れて霧の街を歩く、先頭は私で他が後に続く形となる。
男子連中が先導すると息巻いていたけど、殺人犯が潜んでいるかもといった話を私がした事もあって腰が引けている。 移動速度が落ちるが嫌なので私が先頭に立ってさっさと先を進めば勝手に付いて来た。
これでいい。 スマホの時刻表示を確認して囮が動き、火車が食いついてくれることを祈りながら足を速める。 私の祈りが通じたのか、火車に気付かれる前にどうにかハイキングコースの入り口まで辿り着いた。 それを見て私は心の底からほっと胸を撫で下ろす。
長かった。 この馬鹿な連中を無傷でここまで連れて来るまでに払った苦労を考えるとちょっとした達成感すら感じる。 だけど、問題はこの後だ。
これだけの囮を用意した。 そしてこれ以上は無理だ。
つまりこれが私に打てる最大の手なので、これで駄目だと私にはもう後がない。
果たして私はこの袋小路から出られるのか、それとも永遠に殺され続けるのか。
その全てがここにかかっている。 私は大きく呼吸をして気持ちを落ち着け、早足で一歩を踏み出した。
「なぁ、遥香さん。 ここまで来たけど本当に大丈夫かな?」
山道を進んでいると沈黙に耐え切れなくなったのか目次がそんな事を言い出した。
正直、相手をするのが面倒だったけど、無視するのも良くないので小さく首を振る。
「分からない。 私はただ、この訳の分からない状況から逃げ出したいだけだから。 難しい事は助かってから考えようと思ってる」
「そ、そうなんだ……。 どこまで行けば安全だと思う?」
「取りあえず、電波が入る所まで行ければこの状況を外部に伝えられるからそこまで行ければ安心してもいいかも」
……もっとも、もう数分もしない内に襲って来るであろう鎌鼬から逃げ切れればだけど。
「それと少し気になる事が――」
目次が何かを言いかけた瞬間だった。 兒玉が何や騒ぎ始めた。
「おい、今なんか聞こえなかったか?」
「何かって何だよ?」
「いや、わからねぇ。 何かガサガサって感じで――」
来たようだ。 私はわざとらしく不安そうな口調で警告を飛ばす。
「もしかしたら殺人犯かも。 だとしたら急いだ方がいい!」
私はそういって駆け出した。 ここからが本番だ。
前に入った時の傾向から集団の後ろから順番に襲うものと考えられる。
つまりは先頭にいれば狙われるのは最後になるはずだ。
何度も試していないから確実かは怪しいけど、もう正しいと思っていくしかない。
先頭を走ればそれだけ寿命が延びると信じて私は全力疾走する。 余計な荷物は放り捨て、最低限の持ち物だけを持って一気に加速する。 他もそれに引っ張られて走り出す。
背後から悲鳴が聞こえる。 襲われ始めたか。
「な、何だこいつら!?」
「あぁ!? 兒玉の首が!?」
「やばいやばいやばいやばい!! 逃げろ逃げろ逃げろ!」
クラスメイトの悲鳴やどさりと倒れ込む音。 もう既に何人かが死んでいる。
囮が全滅する前に突破しなければ。 私は必死に足を動かす。
以前に死んだ場所を通り抜け、過去最高到達点を塗り替えて私は人生で最大の力を発揮して走る。
悲鳴が聞こえる。 まだ囮は全滅していない。
私の番はまだ先だ。 悲鳴が聞こえる。 まだ私の番ではない。
悲鳴が聞こえる。 まだいける。 悲鳴が聞こえる。 他が死んでいる間、私は安全だ。
悲鳴が――聞こえなくなった。
あぁ、次は私の番か。 霧は――――未だに晴れない。
いや、まだだ! まだ間に合う。 もう少しで抜けられる。 これだけの犠牲を払ったのだ。
抜けられないなんてあり得ない。 これだけの労力が無駄だったなんて信じられない。 信じたくない。
私は助かるんだ。 この街から抜け出して死の危険のない日常へ戻るんだ。
その為に今まで頑張ってきたのだ。 あらゆる努力をしてきたのだ。
それができないのなら早くこの意識を終わらせて――
首の辺りを何かが通り過ぎる感覚。 もう慣れたそれは紛れもなく私の首が切断された証だ。
ゆっくりと落ちる視界。 そして落下し、どさりと体が遅れて倒れる。
――終わった。
私の心を巨大な絶望の闇が覆い――意識が消滅した。
そんな結論を出せただけでも無駄死にではなかったと信じたい。
突破を図る方針に変わりはないけど、利用する形で動かすのは決定だ。
それを補う方法に関しては既に考えてあった。
時間的にかなり際どいけど、一人でアラーム設置とバスガイドの排除を両立させるのはこれしかない。
今の私に捻り出せる最も成功率の高い策だ。 これで駄目なら諦めるしかない。
それぐらいには期待値の高い手ではある。
私はどうか成功しますようにと祈りながら目的地への到着を待った。
音源となるキッチンタイマーをばら撒いた後、私は自転車をこいでホテルへと戻る。
息を切らし汗を流して到着した私はホテルのフロントを通って奥へ。
そこにはバスガイドの死体と血溜まり。 スマホで時間を確認した後、放送設備の電源を入れて、スマホで録音したバスガイド声を再生する。
そう、何も生きて喋らせる必要などなかったのだ。 事前に音声を録音して後で流せば放送のタイミングを操作できる。 我ながら名案だったと思いながら実行に移した。
懸念としては録音した音声なので音質が肉声に比べると悪い事だ。 その辺は放送設備の問題とでも思ってくれることを祈るしかない。
ともあれ死体は出来上がっているので放送が終わったと同時に少し離れた位置に立ちすくむ振りをする。 しばらくすると何人かの男子が下りて来たので、外から戻ったらこうなっていたと説明した。
後の流れは前と同じだったのでそのまま私が主導権を握る形でクラスを動かし移動を開始する。
今回は火車を遠ざける仕掛けも施した。 後はタイミングが合う事を祈るしかない。
クラスの半数を引き連れて霧の街を歩く、先頭は私で他が後に続く形となる。
男子連中が先導すると息巻いていたけど、殺人犯が潜んでいるかもといった話を私がした事もあって腰が引けている。 移動速度が落ちるが嫌なので私が先頭に立ってさっさと先を進めば勝手に付いて来た。
これでいい。 スマホの時刻表示を確認して囮が動き、火車が食いついてくれることを祈りながら足を速める。 私の祈りが通じたのか、火車に気付かれる前にどうにかハイキングコースの入り口まで辿り着いた。 それを見て私は心の底からほっと胸を撫で下ろす。
長かった。 この馬鹿な連中を無傷でここまで連れて来るまでに払った苦労を考えるとちょっとした達成感すら感じる。 だけど、問題はこの後だ。
これだけの囮を用意した。 そしてこれ以上は無理だ。
つまりこれが私に打てる最大の手なので、これで駄目だと私にはもう後がない。
果たして私はこの袋小路から出られるのか、それとも永遠に殺され続けるのか。
その全てがここにかかっている。 私は大きく呼吸をして気持ちを落ち着け、早足で一歩を踏み出した。
「なぁ、遥香さん。 ここまで来たけど本当に大丈夫かな?」
山道を進んでいると沈黙に耐え切れなくなったのか目次がそんな事を言い出した。
正直、相手をするのが面倒だったけど、無視するのも良くないので小さく首を振る。
「分からない。 私はただ、この訳の分からない状況から逃げ出したいだけだから。 難しい事は助かってから考えようと思ってる」
「そ、そうなんだ……。 どこまで行けば安全だと思う?」
「取りあえず、電波が入る所まで行ければこの状況を外部に伝えられるからそこまで行ければ安心してもいいかも」
……もっとも、もう数分もしない内に襲って来るであろう鎌鼬から逃げ切れればだけど。
「それと少し気になる事が――」
目次が何かを言いかけた瞬間だった。 兒玉が何や騒ぎ始めた。
「おい、今なんか聞こえなかったか?」
「何かって何だよ?」
「いや、わからねぇ。 何かガサガサって感じで――」
来たようだ。 私はわざとらしく不安そうな口調で警告を飛ばす。
「もしかしたら殺人犯かも。 だとしたら急いだ方がいい!」
私はそういって駆け出した。 ここからが本番だ。
前に入った時の傾向から集団の後ろから順番に襲うものと考えられる。
つまりは先頭にいれば狙われるのは最後になるはずだ。
何度も試していないから確実かは怪しいけど、もう正しいと思っていくしかない。
先頭を走ればそれだけ寿命が延びると信じて私は全力疾走する。 余計な荷物は放り捨て、最低限の持ち物だけを持って一気に加速する。 他もそれに引っ張られて走り出す。
背後から悲鳴が聞こえる。 襲われ始めたか。
「な、何だこいつら!?」
「あぁ!? 兒玉の首が!?」
「やばいやばいやばいやばい!! 逃げろ逃げろ逃げろ!」
クラスメイトの悲鳴やどさりと倒れ込む音。 もう既に何人かが死んでいる。
囮が全滅する前に突破しなければ。 私は必死に足を動かす。
以前に死んだ場所を通り抜け、過去最高到達点を塗り替えて私は人生で最大の力を発揮して走る。
悲鳴が聞こえる。 まだ囮は全滅していない。
私の番はまだ先だ。 悲鳴が聞こえる。 まだ私の番ではない。
悲鳴が聞こえる。 まだいける。 悲鳴が聞こえる。 他が死んでいる間、私は安全だ。
悲鳴が――聞こえなくなった。
あぁ、次は私の番か。 霧は――――未だに晴れない。
いや、まだだ! まだ間に合う。 もう少しで抜けられる。 これだけの犠牲を払ったのだ。
抜けられないなんてあり得ない。 これだけの労力が無駄だったなんて信じられない。 信じたくない。
私は助かるんだ。 この街から抜け出して死の危険のない日常へ戻るんだ。
その為に今まで頑張ってきたのだ。 あらゆる努力をしてきたのだ。
それができないのなら早くこの意識を終わらせて――
首の辺りを何かが通り過ぎる感覚。 もう慣れたそれは紛れもなく私の首が切断された証だ。
ゆっくりと落ちる視界。 そして落下し、どさりと体が遅れて倒れる。
――終わった。
私の心を巨大な絶望の闇が覆い――意識が消滅した。
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