逢魔の霧

kawa.kei

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20周目①

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 バスに戻った私はぼんやりと窓に視線を移す。
 映り込むのはまるで知らない誰かのように鋭く昏い目ををした私。
 その後ろに見える座間の席は当然のように空。 バスガイドの声に苛立ちが募る。

 もうやる事は決まっているので考えることはない。
 精々、バスガイドを容赦なく始末出来るように殺意を溜めこむ事ぐらいだ。
 私は手を握ったり閉じたりしながら、脳裏でバスガイドを素早く殺す事ばかり考えていた。

 

 「ね、ねぇ、もういいでしょ! 解放して!」
 「そうですね」

 前回と全く同じ流れで協力させた私はバスガイドの喉を切り裂く。
 派手に血が噴出して私の全身に降りかかる。 バスガイドは驚愕に目を見開き、苦痛や理不尽な現実、私に対する憎悪をの混ざった視線を向け――崩れ落ちた。

 足元にゆっくりと血溜まりが広がる。 初めて人を殺した。
 人間として越えてはいけないラインを踏み越えた自覚はあったけど、後悔はない。
 何故なら、私はこんなにも辛い目に遭っているというのにこいつ等はループすると何事もなかったかのように存在しているのだ。 ゲームのキャラクターみたいにリポップしてるんじゃないかと疑いたくなる。

 そんな考えもあって、ちょっとぐらい痛い目に遭ってもいいじゃない。
 私なんてもう二十回目だよ? もう十九回も死んでいるのだ。
 それだけの苦痛と恐怖を味わったのだから少しは分かち合って欲しい。 
 
 ……だから殺しても別にいいよね?

 答えは聞かない。 聞くつもりもない。
 足元の死体に対しては放置、殺した事に関しては次があれば返り血に気を付けよう。
 それだけだ。 とりあえず、余計な事をする女は消した。

 後はこの放送をどれだけの人間が信じて移動するかだ。
 出来れば十数人は釣れると嬉しいけど……。 
 私は血に塗れた制服の上を脱ぎ捨てて隠し、トイレで血を落としてからホテルを後にした。

 
 さてと身支度を整えた私はホテルの外で待機。 
 理由は前回と同様にどれだけの人数が釣れるかの確認だ。 
 五分、十分と待っていたけど、誰も出てこない。 三十分経ったところで失敗を悟ってホテルへ戻る。

 中に入るとクラスメイト達が騒いでいた。 

 「あ、織枝! 探したのよ! どこに行ってたの!?」
 
 声をかけて来たのは多代だ。 私は何食わぬ顔で首を傾げて見せる。

 「ちょっとコンビニに。 何かあったの?」
 「何かあったじゃないのよ。 さっきね、バスガイドさんが熊が出たから南のハイキングコースへ避難しなさいって放送があって私達、慌てて降りて来たんだけどフロントに来てみたら男子が騒いでいたから何かしらって思って聞いたら奥でバスガイドさんが殺されてたって」
 
 どうやら余計な奴が余計な物を見つけたらしい。 次は死体を隠さないと。
 私は不自然に見えない程度に驚いて見せる。 座間にも表情や雰囲気を指摘されたので、意識して今までの自分に見えるようにしているけど上手くできているかは少し怪しい。

 多代は違和感こそ覚えているように見えるけど、この異常な状況の所為とでも解釈したのか追及するような事はなかった。
 
 「御簾納さんと座間は消えちゃうし、楢木は帰って来ない。 変な放送があったと思ったらこれでしょ? 正直、訳が分からないわ」
 「そうね。 私もそう思う。 ――ここに結構な人数が集まっているけど、何かするの?」
 「うん。 皆で話し合いになってね。 何人かで助けを呼ぼうって話になってるけど、熊の話もあるからどうしようかってなってる状況。 ほら、スマホも圏外でしょ? 固定電話も使えないみたいだし、誰かが電波の通じるところに行って助けを呼ぼ――あ、コンビニに行ったんだよね? 誰かいた?」
 
 手ぶらの状態を見せて首を振る。 

 「行ったけど店員がいなかった」
 「おい! その話、マジかよ!」
 
 大声で話に割り込んで来るのは兒玉だ。 
 コンビニに鬼を連れ込んだ事は忘れていないので、内心では苛立ちを覚えつつ。 頷いて見せる。
 
 「少なくともコンビニには人は居なかった。 他は知らない。 ただ、行って帰って来るまで誰とも会わなかった」
 
 兒玉の大きな声に反応して注目が集まる。 全員が私の話に耳を傾けているなら好都合だ。
 上手く誘導できないだろうかと内心で考えながら話を続ける。

 「熊が出たって話は本当?」
 「少なくとも死んだバスガイドは放送でそういってた。 ただ、おかしいってんで目次の奴が、フロントの奥を調べたら死体になってたってよ。 で? 熊は居たのか?」
 「私は見てない。 ――というか、見てたらもっと慌ててると思わない?」
 「そ、そうだな」
 「遥香さん。 俺からもいいかな?」

 声をかけて来たのは目次だ。 フロントの奥から出て来たのでさっきまでバスガイドの死体を見ていた所為か顔色は悪い。
 
 「何?」
 「コンビニに店員がいなかったのは本当?」
 「本当よ」
 「誰ともすれ違わなかったって話だけど、この街に他に誰かが居ると思う?」
 「……どういう意味?」
 
 下手な事を言うと逆効果なので言っている事の意味が分からないと首を傾げて見せる。
 
 「いや、自分でも訳が分からない事を言ってると思うんだけど、この街って俺達以外誰もいないんじゃないかって思って……」
 「分からない。 でも、それが本当ならバスガイドさんを殺したのは私達の誰かって事になるけど?」

 自分で殺しておいて馬鹿な事を言ってるな。

 「あ、いや、それだったら殺した奴がいるかもな。 ど、どうすればいいと思う?」

 状況に付いて行けずに混乱している事が分かる。 
 最初の頃は私もこんな感じだったのかなと思うけど、もう何も知らない頃には戻れないので嫌な気持ちにしかならなかった。
  
 目次だけじゃなく他もどうしたらいいかと判断に迷っている状態だ。
 ここでハイキングコースへ誘導する事は出来るだろうか? 少し考えるけど難しいと判断した。
 今でこそ戸惑いの方が強いけど、犯人捜しを始めようなどと言いだされたら面倒だ。

 ……時間もないので何かしらの行動を起こさないと……。
 
 「さっきまで助けを呼ぼうって話だったんならそれを実行するのはどう?」
 「あ、あぁ、遥香さんの言う通りだな。 まずは状況を整理しよう。 最初に座間と御簾納さんが消えて、楢木は連絡が着かないから一旦バスで戻った。 で、唐突にバスガイドさんが放送設備を使って熊が入り込んだから逃げろと言って来た」

 正直、分かり切った事なので時間の無駄としか思っていないけど、他のクラスメイトに現状を正しく認識させる意味でも必要なのかもしれない。

 「――俺達が指示に従って降りて来てみればバスガイドさんは死んでて、これからどうしようかってところで遥香さんが戻ってきた。 ここで重要なのはこれからどうするかだ」

 全員が驚く程、真面目に目次の話を聞いていた。 普段なら誰かしら仕切るなとかの文句の一つでも言いだすのかと思ったけど、見た感じ言いだしそうな奴等は全員黙っている。
 もしかしたら既に誰かがやってもう話が着いた後なのかもしれない。

 「別に命令するとか強要するとか言う気はないから興味がなかったら部屋に戻ってくれていい。 実際、バスガイドさんが死んでるんだ。 部屋に立て籠もって助けを待つのはありだと思う。 ただ、悪いんだけど、俺の話だけは最後まで聞いてくれ」

 そういって目次は本題に入った。
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