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17周目③
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「ねぇ、止めましょう? 今ならなかった事にもできるから……」
か細い声で私達を説得しようとしているけど、そんな事で思い留まるなら最初からやっていない。
座間は本意ではないと言った表情で包丁を握りしめバスガイドの首筋に押し当てると彼女は小さく悲鳴を上げて黙った。 スマホの時刻表示を見るとそろそろ十九時になろうとしている。
そろそろここが襲われる時間だ。 急がないと不味い。
フロントの奥へとバスガイドを引っ張り込んでハンドマイクを握らせる。
「座間、説明して」
「……俺に丸投げかよ。 まぁ、いいけどさ。 取りあえず、これからマイクをオンにするから放送でここがヤバいから南のハイキングコースへ避難するように呼び掛けてくれませんか? 名目は熊や不審者が入り込んだでも連絡が奇跡的に回復して指示されたでも、火事になったでもなんでもいい。 とにかくクラスの連中をここからハイキングコースへ誘導さえできるならこっちとしては文句はない」
「ど、どういう事? あなた達、何がしたいの?」
「説明してもあなたは信じない。 だから言われた通りにして」
私の物言いが気に障ったのかバスガイドは小さく睨んでくる。
「聞いてみないと分からないじゃない! 私が誘導した事で、ここの子達になにかあったら私の責任になる!」
「そこは心配しなくていい。 あなたが何もしなくても問題は起こるから」
バスガイドは私の言っている意味が理解できずに口を噤む。
それを見て私は内心での苛立ちを抑え込んで話を続ける。
「これからこのホテルが訳の分からない連中に襲われる。 逃げても追いかけて来るからまず皆殺しにされる。 だからここから避難したいの。 でも、少人数だと逃げきれないし、私達が危険を訴えても誰も信じないからこんな手段を取った」
彼女の表情は完全に狂人を見るそれだった。 目に見えた結果だったので失望はしないけど無駄に時間を使わされている苛立ちは蓄積する。
「――ほら信じない」
私の言葉にバスガイドは反応に困るように視線を彷徨わせた。
「最後よ。 やらないなら首を掻き切っておしまい。 やるなら解放する」
バスガイドは強い困惑を浮かべたまま沈黙。 それを見て駄目かと肩を落とす。
「じゃあもういいです。 座間、もういいから殺し――」
「分かった。 やる、やるから!」
「そう、では早速お願いします」
彼女は何度か深呼吸した後、マイクを口元に持って行く。
同時に私が目立つボタンを押して電源を入れた。 ブツリと音がして全館のスピーカーと繋がる。
「ば、バスガイドの田中です。 皆さん落ち着いて聞いてください。 ホテルの敷地内に熊が入り込みました。 まだ屋内に入られては居ませんが危険なのでしおりの地図に記載されている南のハイキングコースへ避難してください。 繰り返します――」
その後も同じ内容を繰り返した後、マイクの電源を切った。
「こ、これでいいでしょう? 早く解放して!」
私と座間は小さく顔を見合わせると互いに頷き、バスガイドから離れた。
「すんませんでした。 後は好きにしてください。 一応、忠告しときますが、他と一緒に南のハイキングコースへ行く事をお勧めします。 ただ、ちょっと遅れて行くべきかも……」
バスガイドは私達を小さく睨むけど、困惑の方が強いのか特に何も言わず走り去っていった。
「さて、仕込みは済んだな。 取りあえず、近くで待機して他の連中が入るのを待って行くって形でいいのか?」
私は座間の言葉に頷く。 わざわざクラスメイトを誘導したのは囮とする為だ。
簡単に言うと彼らが襲われている間に突破を図る事が目的なので、私達が先に入ると意味がない。
「連中が襲われている間にすり抜ける、か。 ホラー映画とかだったら真っ先に死ぬ手合いの行動だな」
「それを避けた結果が今なんだから仕方がないでしょ」
「……そうだな。 取りあえず動くか」
もう行動した以上、取り返しは付かない。 後は成功するように行動するだけだ。
私と座間はホテルから出てハイキングコースへと向かう。
鎌鼬のテリトリーに入る手前ぐらいで隠れてクラスメイトをやり過ごし、少し離れて後ろから入るつもりだ。 襲われ始めたら後は突破できるように祈りながら走り抜ける。
今回は情報収集がメインで、死ぬ事も視野に入れていた。 今回、クラスメイトを動かした事でどうなるのか、それを次回に活かす事で突破を目指す。 つまり本命は次回だ。
だからといって死んでもいいとは思っていないので、やれる事はやる。
道を走りながらどこでやり過ごすのかを考えていると――目の前にそれは現れた。
正確にはそれらだ。 形は人型、大きさは二メートルから二メートル半。
手には武骨な鉄と思われる金属の塊。 筋骨隆々と形容するに相応しいがっしりとした体躯に反してその顔は骨と皮だけなのでないかといえるほどに肉がついておらず、頭蓋骨の形がはっきりと分かる程だ。
そして最大の特徴はその額から生えている角。 これ程、分かり易い特徴を備えているのだ。
座間に尋ねるまでもない。 鬼だ。 それが五体。
道を走っていると本当に唐突に現れた鬼に私も座間も頭が真っ白になるが、それも僅か。
座間は私の手を掴んで踵を返して駆け出す。
「冗談じゃねぇぞクソが!」
手を引かれた私が振り返るともうすぐ傍まで鬼が来ていた。
私達とは身体能力が違いすぎるようで、逃げるのは無理だと頭より先に感覚で悟ってしまったのだ。
グシャリ。 持っていた恐らく金棒で座間が殴られて頭どころか上半身が原形を留めない程に破壊される。 同時に私の腕を掴んでいた手から力が抜けた。
……あぁ、こいつらだ。
これからホテルを襲うつもりなのだろう。 そして最初に私を殺したのはこの鬼たちだ。
そう確信したけど、知った所で何の意味もなかった。 何故なら次の瞬間には横薙ぎにフルスイングされた金棒が私の顔面に炸裂し、その意識を跡形もなく吹き飛ばしたからだ。
か細い声で私達を説得しようとしているけど、そんな事で思い留まるなら最初からやっていない。
座間は本意ではないと言った表情で包丁を握りしめバスガイドの首筋に押し当てると彼女は小さく悲鳴を上げて黙った。 スマホの時刻表示を見るとそろそろ十九時になろうとしている。
そろそろここが襲われる時間だ。 急がないと不味い。
フロントの奥へとバスガイドを引っ張り込んでハンドマイクを握らせる。
「座間、説明して」
「……俺に丸投げかよ。 まぁ、いいけどさ。 取りあえず、これからマイクをオンにするから放送でここがヤバいから南のハイキングコースへ避難するように呼び掛けてくれませんか? 名目は熊や不審者が入り込んだでも連絡が奇跡的に回復して指示されたでも、火事になったでもなんでもいい。 とにかくクラスの連中をここからハイキングコースへ誘導さえできるならこっちとしては文句はない」
「ど、どういう事? あなた達、何がしたいの?」
「説明してもあなたは信じない。 だから言われた通りにして」
私の物言いが気に障ったのかバスガイドは小さく睨んでくる。
「聞いてみないと分からないじゃない! 私が誘導した事で、ここの子達になにかあったら私の責任になる!」
「そこは心配しなくていい。 あなたが何もしなくても問題は起こるから」
バスガイドは私の言っている意味が理解できずに口を噤む。
それを見て私は内心での苛立ちを抑え込んで話を続ける。
「これからこのホテルが訳の分からない連中に襲われる。 逃げても追いかけて来るからまず皆殺しにされる。 だからここから避難したいの。 でも、少人数だと逃げきれないし、私達が危険を訴えても誰も信じないからこんな手段を取った」
彼女の表情は完全に狂人を見るそれだった。 目に見えた結果だったので失望はしないけど無駄に時間を使わされている苛立ちは蓄積する。
「――ほら信じない」
私の言葉にバスガイドは反応に困るように視線を彷徨わせた。
「最後よ。 やらないなら首を掻き切っておしまい。 やるなら解放する」
バスガイドは強い困惑を浮かべたまま沈黙。 それを見て駄目かと肩を落とす。
「じゃあもういいです。 座間、もういいから殺し――」
「分かった。 やる、やるから!」
「そう、では早速お願いします」
彼女は何度か深呼吸した後、マイクを口元に持って行く。
同時に私が目立つボタンを押して電源を入れた。 ブツリと音がして全館のスピーカーと繋がる。
「ば、バスガイドの田中です。 皆さん落ち着いて聞いてください。 ホテルの敷地内に熊が入り込みました。 まだ屋内に入られては居ませんが危険なのでしおりの地図に記載されている南のハイキングコースへ避難してください。 繰り返します――」
その後も同じ内容を繰り返した後、マイクの電源を切った。
「こ、これでいいでしょう? 早く解放して!」
私と座間は小さく顔を見合わせると互いに頷き、バスガイドから離れた。
「すんませんでした。 後は好きにしてください。 一応、忠告しときますが、他と一緒に南のハイキングコースへ行く事をお勧めします。 ただ、ちょっと遅れて行くべきかも……」
バスガイドは私達を小さく睨むけど、困惑の方が強いのか特に何も言わず走り去っていった。
「さて、仕込みは済んだな。 取りあえず、近くで待機して他の連中が入るのを待って行くって形でいいのか?」
私は座間の言葉に頷く。 わざわざクラスメイトを誘導したのは囮とする為だ。
簡単に言うと彼らが襲われている間に突破を図る事が目的なので、私達が先に入ると意味がない。
「連中が襲われている間にすり抜ける、か。 ホラー映画とかだったら真っ先に死ぬ手合いの行動だな」
「それを避けた結果が今なんだから仕方がないでしょ」
「……そうだな。 取りあえず動くか」
もう行動した以上、取り返しは付かない。 後は成功するように行動するだけだ。
私と座間はホテルから出てハイキングコースへと向かう。
鎌鼬のテリトリーに入る手前ぐらいで隠れてクラスメイトをやり過ごし、少し離れて後ろから入るつもりだ。 襲われ始めたら後は突破できるように祈りながら走り抜ける。
今回は情報収集がメインで、死ぬ事も視野に入れていた。 今回、クラスメイトを動かした事でどうなるのか、それを次回に活かす事で突破を目指す。 つまり本命は次回だ。
だからといって死んでもいいとは思っていないので、やれる事はやる。
道を走りながらどこでやり過ごすのかを考えていると――目の前にそれは現れた。
正確にはそれらだ。 形は人型、大きさは二メートルから二メートル半。
手には武骨な鉄と思われる金属の塊。 筋骨隆々と形容するに相応しいがっしりとした体躯に反してその顔は骨と皮だけなのでないかといえるほどに肉がついておらず、頭蓋骨の形がはっきりと分かる程だ。
そして最大の特徴はその額から生えている角。 これ程、分かり易い特徴を備えているのだ。
座間に尋ねるまでもない。 鬼だ。 それが五体。
道を走っていると本当に唐突に現れた鬼に私も座間も頭が真っ白になるが、それも僅か。
座間は私の手を掴んで踵を返して駆け出す。
「冗談じゃねぇぞクソが!」
手を引かれた私が振り返るともうすぐ傍まで鬼が来ていた。
私達とは身体能力が違いすぎるようで、逃げるのは無理だと頭より先に感覚で悟ってしまったのだ。
グシャリ。 持っていた恐らく金棒で座間が殴られて頭どころか上半身が原形を留めない程に破壊される。 同時に私の腕を掴んでいた手から力が抜けた。
……あぁ、こいつらだ。
これからホテルを襲うつもりなのだろう。 そして最初に私を殺したのはこの鬼たちだ。
そう確信したけど、知った所で何の意味もなかった。 何故なら次の瞬間には横薙ぎにフルスイングされた金棒が私の顔面に炸裂し、その意識を跡形もなく吹き飛ばしたからだ。
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