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11周目③
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「――なるほど。 何というか大変だったな」
合計十回。 私の死亡経緯を聞いた座間の感想だった。
私の話に時折、質問を挟みながら小さく頷きながら考え込むような表情を見せている。
それだけ呟いて少しの間、黙ってたいけどややあって口を開いた。
「まずはお前をホテルとコンビニで殺った奴に関しては情報が少なすぎるから何ともいえない。 人型の怪物の逸話なんて腐るほどあるからな」
座間はただと付け足す。
「他に関しては多少なりとも見えて来るものがあるな。 ――順番に行こう。 まずはトンネル前に出たっていうのはデカい以外の情報がないから分からん。 南のハイキングコースに出たってのは個人的には鎌鼬じゃないか? 根拠は小型の獣に切断といった攻撃手段だ。 伝承とかだと浅い傷を作る程度のはずなんだが、首を刎ねてくるのはヤバいな」
「かまいたち……」
名前ぐらいは聞いた事はあるけど、本当にそんな生き物が実在――いや、最初の人型の何かの時点で普通の生き物じゃない。 本当に妖怪なのかもしれない。
「あぁ、さっきの火車といい特徴が一致する奴が多いからマジもんの妖怪かもしれないな」
「……認めたくないけどそうかもしれない」
「取りあえずその次は街中を走り回っている火車で、その次が東側のハイキングコースで出くわしたデカい玉みたいな奴はちょっと情報が少ないから分からんな。 次がコンビニ、その次が屋上だったか?」
「えぇ、何か棒みたいなのを投げられて串刺しにされたわ」
「その前にカラスの鳴き声みたいなのが聞こえたって話だったな。 ぱっと出てくるのは烏天狗か。 修験者みたいな格好して錫杖を持ってるらしいからお前をぶち抜いたのはそれかもな。で、その次はホテル地下で最後なんだが、こいつは分かり易いな以津真天だ」
「いつまで?」
首を傾げる私に座間は苦笑。
「いつまでんとか読む事もあるらしいが、そういう名前らしい。 要は以津真天って名前なんだよ。 俺も詳しくは知らないけど、死体が多いとどこからともなく現れていつまで放置するかって意味で『いつまで?いつまで?』ってしつこく訪ねて来るんだとさ。 伝承によると人の頭が付いた蛇みたいな鳥らしいな」
それを聞いて思わず表情を歪める。 いつまでかいつまでんかは知らないけど、アレに関してはもう二度と会いたくない。 あんな酷い頭痛は経験がなかったので、あの苦痛を味わう事には恐怖すら覚える。
「……随分と詳しいね」
座間は肩を竦めて見せる。
「さっきもいっただろうが。 連れがそういうのに詳しいんだよ。 色々聞かされたり、連れまわされたりしたからな。 ガチで詳しい訳じゃないけど、有名どころは多少は知ってるってだけの話だ」
「そう、なら弱点とか分かる?」
「いーや、調べりゃ出てくるかもしれないが、そこまでは知らねぇな」
名前を知っただけで特に何かが変わった訳じゃないけど、正体が明らかになった気がして少しだけ恐怖心が和らいだ気がする。 座間は妖怪に関しての考察を終えると次の話を始めた。
「でだ、差し当たっての問題はこの街から出るのが難しいって事か。 まず西は論外だな。 バスをなぎ倒すような化け物への対処は厳しい。 トンネルは行けそうだが、本当に外に繋がっているかも怪しいから不安があるな。 ――まぁ、それを言ったらどこでも同じか」
「出られると信じたいわ。 何かいいアイデアはある?」
「……まず、隠れるのはいい手じゃない。 例の人型は地下に隠れても嗅ぎつけて来るならどこに隠れても見つけられそうな不安がある。 一応ではあるけどハイキングコースに入ってから多少は進めたと」
これまでに何度も試しては失敗しているのだ。 そんな事は分かり切っている。
「ちなみに南と東、どっちが距離を稼げた?」
「……多分だけど東だと思う。 南は入って割とすぐに駄目だったような気がする」
「分かった。 なら東で行くか」
「まさかとは思うけど二人で行って狙いを散らそうとかって話?」
だったら私は容赦なく座間を囮にして逃げるけど。 座間は私の考えを悟ったのか違うと首を振る。
「歩きで距離を稼げるんなら足があれば振り切れるんじゃないかって思ってな」
「足?」
「下の駐輪場にバイクがあっただろ。 そいつで一気にぶっちぎればいいんじゃないか?」
「バイク? 座間って運転できるの?」
「一応、取り立てだが大型二輪は持ってる。 問題は首尾よく鍵を見つけられるかだな」
確かにバイクなら逃げ切れるかもしれない。 ハイキングコースも舗装されているので大型の物なら走る事も難しくない。 私は希望が見えたと少しだけ気持ちが上向きになった。 僅かでも勝算が見えた事で早く試してみたいと体が動き出す。
「分かった。 なら他の部屋も調べて鍵がないか見てみる」
「そうしてくれ。 お前は上、俺は下から見ていく」
その後は私は最上階の部屋を片端から開けて鍵らしき物を探す。
どれがバイクの鍵かよく分からないのでそれっぽいものを片端から持ち出して駐輪場へ向かう。
下へ降りると座間がバイクの一つに鍵を差し込んで試している最中だった。
声をかけようとしたタイミングでエンジンがかかる。
「お、降りて来たか。 悪いな。 スマホが使えれば見つかったって伝えられたんだが……」
私の苦労は一体と思ったけど結果が伴うならそれでいい。 私は使わなくなった鍵を投げ捨てて座間の方へと駆け寄ると座間はヘルメットを投げて寄こす。
「よし、燃料も問題ないな。 荷物を取ってきてくれ、その間に俺はこいつを道路まで動かしておく。 マンション前で合流だ」
「分かった」
私は急いで荷物を回収して背負う。 マンションから出ると座間が既に待機していたので後ろに乗ってその背にしがみ付く。
「おおう、そんなにがっちりしがみ付かなくても大丈夫だが――まぁ、いいか。 出発するぞ」
私が頷くと座間はバイクを動かす。
彼の運転する大型二輪は大きなエンジン音を響かせてこの霧の街を走り出した。
エンジンという動力装置を積んでいる文明の利器は人力などとは比べ物にならない速度を叩きだして目的地までの距離を消化していく。 今までの苦労は何だったのかという程の速さだ。
それでもこれで安心とはならない点がこの街の恐ろしい所だった。
――来た。
背後からガラガラと例の音が響く。 火車が立てる音だ。
後ろを振り返ると霧の向こうにぽつりと光る何かが見える。 座間に警戒しろと背を軽く叩くと頷きで返され、バイクが加速。 火車との距離を広げようとするけど――離れない。
向こうも加速している! あんなガラガラと遅そうな音を出してるのに何でバイクと同等のスピードが出ているんだと文句の一つも言いたくなる光景だった。
座間も焦っているのかチラチラと細かくミラーで背後を確認している。
それでも目的地は近い。 山道に入っても追って来るなら最悪、追いつかれる可能性が高いのでどうにかここで振り切りたかった。
そうこうしている内にハイキングコースの入り口を示す案内板が見え、バイクはその横を通り抜けて上り坂に入る。 それによりスピードが大きく落ちたけど、後ろにも変化があった。
火車が追って来なくなったのだ。 山道に入ったから諦めた?
理由は不明だけど来なくなるなら何でもいい。 このまま行けば山を越えるぐらいはどうにか――希望が見えて来たと座間に声をかけようとして私の思考が固まった。
何故ならいつの間にか座間の首から上がなくなっていたからだ。
「――え?」
次の瞬間、首を薙ぐように何かが通り抜けた感触がして視界がくるくると回転。
一度経験したので何をされたのか何となく察した。 地面に落下する直前、遠くで乗り手の制御を失ったバイクが転倒した音を聞きながら私の意識は霧に呑み込まれるように消えた。
合計十回。 私の死亡経緯を聞いた座間の感想だった。
私の話に時折、質問を挟みながら小さく頷きながら考え込むような表情を見せている。
それだけ呟いて少しの間、黙ってたいけどややあって口を開いた。
「まずはお前をホテルとコンビニで殺った奴に関しては情報が少なすぎるから何ともいえない。 人型の怪物の逸話なんて腐るほどあるからな」
座間はただと付け足す。
「他に関しては多少なりとも見えて来るものがあるな。 ――順番に行こう。 まずはトンネル前に出たっていうのはデカい以外の情報がないから分からん。 南のハイキングコースに出たってのは個人的には鎌鼬じゃないか? 根拠は小型の獣に切断といった攻撃手段だ。 伝承とかだと浅い傷を作る程度のはずなんだが、首を刎ねてくるのはヤバいな」
「かまいたち……」
名前ぐらいは聞いた事はあるけど、本当にそんな生き物が実在――いや、最初の人型の何かの時点で普通の生き物じゃない。 本当に妖怪なのかもしれない。
「あぁ、さっきの火車といい特徴が一致する奴が多いからマジもんの妖怪かもしれないな」
「……認めたくないけどそうかもしれない」
「取りあえずその次は街中を走り回っている火車で、その次が東側のハイキングコースで出くわしたデカい玉みたいな奴はちょっと情報が少ないから分からんな。 次がコンビニ、その次が屋上だったか?」
「えぇ、何か棒みたいなのを投げられて串刺しにされたわ」
「その前にカラスの鳴き声みたいなのが聞こえたって話だったな。 ぱっと出てくるのは烏天狗か。 修験者みたいな格好して錫杖を持ってるらしいからお前をぶち抜いたのはそれかもな。で、その次はホテル地下で最後なんだが、こいつは分かり易いな以津真天だ」
「いつまで?」
首を傾げる私に座間は苦笑。
「いつまでんとか読む事もあるらしいが、そういう名前らしい。 要は以津真天って名前なんだよ。 俺も詳しくは知らないけど、死体が多いとどこからともなく現れていつまで放置するかって意味で『いつまで?いつまで?』ってしつこく訪ねて来るんだとさ。 伝承によると人の頭が付いた蛇みたいな鳥らしいな」
それを聞いて思わず表情を歪める。 いつまでかいつまでんかは知らないけど、アレに関してはもう二度と会いたくない。 あんな酷い頭痛は経験がなかったので、あの苦痛を味わう事には恐怖すら覚える。
「……随分と詳しいね」
座間は肩を竦めて見せる。
「さっきもいっただろうが。 連れがそういうのに詳しいんだよ。 色々聞かされたり、連れまわされたりしたからな。 ガチで詳しい訳じゃないけど、有名どころは多少は知ってるってだけの話だ」
「そう、なら弱点とか分かる?」
「いーや、調べりゃ出てくるかもしれないが、そこまでは知らねぇな」
名前を知っただけで特に何かが変わった訳じゃないけど、正体が明らかになった気がして少しだけ恐怖心が和らいだ気がする。 座間は妖怪に関しての考察を終えると次の話を始めた。
「でだ、差し当たっての問題はこの街から出るのが難しいって事か。 まず西は論外だな。 バスをなぎ倒すような化け物への対処は厳しい。 トンネルは行けそうだが、本当に外に繋がっているかも怪しいから不安があるな。 ――まぁ、それを言ったらどこでも同じか」
「出られると信じたいわ。 何かいいアイデアはある?」
「……まず、隠れるのはいい手じゃない。 例の人型は地下に隠れても嗅ぎつけて来るならどこに隠れても見つけられそうな不安がある。 一応ではあるけどハイキングコースに入ってから多少は進めたと」
これまでに何度も試しては失敗しているのだ。 そんな事は分かり切っている。
「ちなみに南と東、どっちが距離を稼げた?」
「……多分だけど東だと思う。 南は入って割とすぐに駄目だったような気がする」
「分かった。 なら東で行くか」
「まさかとは思うけど二人で行って狙いを散らそうとかって話?」
だったら私は容赦なく座間を囮にして逃げるけど。 座間は私の考えを悟ったのか違うと首を振る。
「歩きで距離を稼げるんなら足があれば振り切れるんじゃないかって思ってな」
「足?」
「下の駐輪場にバイクがあっただろ。 そいつで一気にぶっちぎればいいんじゃないか?」
「バイク? 座間って運転できるの?」
「一応、取り立てだが大型二輪は持ってる。 問題は首尾よく鍵を見つけられるかだな」
確かにバイクなら逃げ切れるかもしれない。 ハイキングコースも舗装されているので大型の物なら走る事も難しくない。 私は希望が見えたと少しだけ気持ちが上向きになった。 僅かでも勝算が見えた事で早く試してみたいと体が動き出す。
「分かった。 なら他の部屋も調べて鍵がないか見てみる」
「そうしてくれ。 お前は上、俺は下から見ていく」
その後は私は最上階の部屋を片端から開けて鍵らしき物を探す。
どれがバイクの鍵かよく分からないのでそれっぽいものを片端から持ち出して駐輪場へ向かう。
下へ降りると座間がバイクの一つに鍵を差し込んで試している最中だった。
声をかけようとしたタイミングでエンジンがかかる。
「お、降りて来たか。 悪いな。 スマホが使えれば見つかったって伝えられたんだが……」
私の苦労は一体と思ったけど結果が伴うならそれでいい。 私は使わなくなった鍵を投げ捨てて座間の方へと駆け寄ると座間はヘルメットを投げて寄こす。
「よし、燃料も問題ないな。 荷物を取ってきてくれ、その間に俺はこいつを道路まで動かしておく。 マンション前で合流だ」
「分かった」
私は急いで荷物を回収して背負う。 マンションから出ると座間が既に待機していたので後ろに乗ってその背にしがみ付く。
「おおう、そんなにがっちりしがみ付かなくても大丈夫だが――まぁ、いいか。 出発するぞ」
私が頷くと座間はバイクを動かす。
彼の運転する大型二輪は大きなエンジン音を響かせてこの霧の街を走り出した。
エンジンという動力装置を積んでいる文明の利器は人力などとは比べ物にならない速度を叩きだして目的地までの距離を消化していく。 今までの苦労は何だったのかという程の速さだ。
それでもこれで安心とはならない点がこの街の恐ろしい所だった。
――来た。
背後からガラガラと例の音が響く。 火車が立てる音だ。
後ろを振り返ると霧の向こうにぽつりと光る何かが見える。 座間に警戒しろと背を軽く叩くと頷きで返され、バイクが加速。 火車との距離を広げようとするけど――離れない。
向こうも加速している! あんなガラガラと遅そうな音を出してるのに何でバイクと同等のスピードが出ているんだと文句の一つも言いたくなる光景だった。
座間も焦っているのかチラチラと細かくミラーで背後を確認している。
それでも目的地は近い。 山道に入っても追って来るなら最悪、追いつかれる可能性が高いのでどうにかここで振り切りたかった。
そうこうしている内にハイキングコースの入り口を示す案内板が見え、バイクはその横を通り抜けて上り坂に入る。 それによりスピードが大きく落ちたけど、後ろにも変化があった。
火車が追って来なくなったのだ。 山道に入ったから諦めた?
理由は不明だけど来なくなるなら何でもいい。 このまま行けば山を越えるぐらいはどうにか――希望が見えて来たと座間に声をかけようとして私の思考が固まった。
何故ならいつの間にか座間の首から上がなくなっていたからだ。
「――え?」
次の瞬間、首を薙ぐように何かが通り抜けた感触がして視界がくるくると回転。
一度経験したので何をされたのか何となく察した。 地面に落下する直前、遠くで乗り手の制御を失ったバイクが転倒した音を聞きながら私の意識は霧に呑み込まれるように消えた。
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